継承の儀式は痛みと共に
私の中に棲む謎の根源の気配に一通りの憶測を巡らすもとうとうその答えが出るには至らなかった。
5000年もの経験や知識を有するリュミアさんでさえ知り得ないなんて……。
「やっぱり、思い当たるとこはないですか?」
「うむ、そのペンダントはともかくとして1人に2つも根源があるなんてことはこれほど長く生きていて初めてのことじゃ」
「リュミアさんでさえ知り得ないこと、なにかの予兆でしょうか?」
「なにか……なにか大きなうねりが世界に起ころうとしてるのかもしれんな」
リーベという人が私の存在をリュミアさんに匂わせた、もしかして私の過去と彼の望むことは繋がっていて組織もただの犯罪集団ではなく後ろにもっと大きな存在がいる?
それこそリュミアさんのように遥かな時を生きているような……。
「リュミアさんが一緒に行動してくれるのなら心強いのに」
可能性の低さにお世辞にも希望的観測にもならないことを呟くとリュミアさんは申し訳なさそうに目を伏せた。
「すまんがそれはできん」
「この世の理として、ですか?」
リュミアさんは大きく溜息を吐きながら「……フィオラめ」と呟いた。
「あぁそうじゃ。 5000年前、詠零術を生み出したのと同時に私を中心として霊素の均衡が保たれるようになった」
「ということは、リュミアさんが下手に動くと……」
「世界中の霊素の流れ、濃度が乱れるじゃろうな……天候は荒れ、地軸はねじ曲がり、作物は育たなくなる」
理……それは人々がこの世を生きていく上での道理として不可欠なもの、その全てを担っているのが霊素。 それが正しく機能しなくなるということがどういうことかなんて私でさえ理解できる。
「それってつまり……」
言わんとしてる全てを理解して呟くとリュミアさんは「そうじゃ」と深く頷いた。
「この世界が終わる」
「そんなっ、そんなのって……」
ただ水汲みの労力を減らしたいって純粋な思いで生み出した力なのに、外へ出れない不便を強いられる。
あまりにも皮肉な理不尽にいたたまれなく思うも、経験の浅い私の思うことなど容易にリュミアさんに見透かされてしまった。
「あんまりだとは言ってくれるなよ? これは自ら望んで引き起こしたことじゃ。
それに、私の生み出した術で多くの者が手間の軽減を享受できてるのならこれ以上嬉しいことはない」
「本当に、それでいいんですか?」
「二度も言わすな。 私自身が望んだ、その結果なら私はそれを受け入れよう」
気がついた時には私はリュミアさんの手をギュッと優しく、だけど強い思いを込めて握りしめていた。
「約束します、あなたが遺してくれたこの力、正しきことのために使うということを……」
真剣な思いを込めて伝えると突如、飄々としたあのリュミアさんが目を見開き頰を赤らめた。
「な、なにを改まってまじまじ言っておるのじゃ。 なんか調子狂うのぅ」
「あの、もしかして照れてます?」
「なわけあるかっ!」
「す、すみませぇんっ」
うん……どう見てもあからさまに照れてる。 けど、普通の人を超越した刻を生きていてもこんなに人間らしい仕草を見せるリュミアさんがどことなく可愛らしい。
「まぁあれじゃ、与太話はこのくらいにして詠零術の継承に移るぞ。 できればこれはあまりやりたくはない方法じゃがな」
「あまりということは、普通の方法ではないってことですよね?」
私の言葉にリュミアさんは「察しがいいな」と眉をしかめる。
「ノエルよ、さっきの手合わせからして、お主の英霊術は2級クラスじゃな?」
「はい、詠零術の習得段階に達してないことは自分でもわかってます。 それでも……」
「案ずるな、普通なら特級の力を得て改めて来てもらう……『普通なら』な?」
自身の力不足への理解と諦めたくない想いを口にする私にリュミアさんはまるで諭すような言葉で語りかけながら私のペンダントに手をかざした
「今からなにを?」
「私の経験の記憶をいくらか明け渡す」
「そんなことができるんですか?」
「まぁな。 お主の素質なら、私の3年分換算で十分じゃろう」
高みにいる人と普通の人じゃ同じ3年でもその密度は大きく違う。
これから彼女から送られる膨大とも言える情報量を私は受け止めきれるだろうか。
「リュミアさんの3年……きっととてつもなく重いのでしょうね」
「多少痛みが伴うが、それでもやるか?」
「まさか、この程度で怖気づくようじゃ詠零術の習得なんてできませんよ」
「いい返事だ。 では、やるぞ」
会話が途切れ、リュミアさんが私の首元に手をかざすと極彩色の光が流れ込む……というよりどちらかというとペンダントが吸収してる?
私も英霊術士の端くれ、それなりのことは学んできたけどこんな色見たことがない。
これも霊素の光だというの?
見たことない現象に戸惑うも、なにが起こるかなど不安を感じる暇もなくその瞬間は突如やってきた。
「う、く……ぐあぁぁぁぁっ」
頭が割れる様に痛い、それこそレビィに殴られたのなんて比じゃないくらいに。
あまりの痛さに倒れ込み、リュミアさんの裾を握り締める。
「私も経験したからようわかる。 じゃが耐えよ、その痛みを超えた時、お主の中の詠零術は目を覚ます」
リュミアさんの言葉を最後に私の意識は現実とも夢ともつかない感覚を覚え始めていた。




