試練の果て、過去の継承者と謎の根源
「いてて……」
反撃が来ないか注意を払いながらリュミアさんから距離を取ると前方にはおよそ人がぶつかったとは思えないくらいに壁が崩壊していた。
やりすぎちゃったかな? 大丈夫か様子を見ようと思ったけどこの人のことだ、不意打ちもあり得ると思い様子を見ること数十秒……「んしょっ」と言いながらその身体はゆっくりと起き上がった。
「まったく、たかが試練でこんな威力出さんでもいいじゃろうに、私じゃなかったら怪我じゃ済まんぞ?」
「えっと、やっぱりやりすぎでしたよね?」
「まったくじゃ。 フィオラとセレス2人がかりでも痒い程度だったわい」
私より格上のベテラン2人から食らって痛くないって、どれだけ硬いんですか。
「その、試練の結果は……」
息を呑んで問うとリュミアさんは「ふぅ」と深い溜息を吐いた。 もしかして、ダメだった? そんな予感がよぎるも、すぐに彼女はにんまりと見たことのない笑顔を見せた。
「認めるとしよう、お主の勝ちじゃ」
「っ! や、やったっ……」
喜ぶのも束の間、リュミアさんは「浮かれるのはまだ早い」と釘を打ってきた。
「お主にはこれから最後の試練を受ける権利を与えよう」
「ま、待ってください。 試練は終わったんじゃ……」
「1度で終わりとは一言も言っとらん」
「そういうことは最初に言って下さい」
むくれる私にリュミアさんは「そういきり立つな」と言いながらある問いをぶつけてきた。
「試練と言ってもただの質問じゃ」
「それに答えるだけでいいんですか?」
「そうじゃ。 私は人々にこの力を伝える際に詠唱という手間を加えて英霊術という形に変えた。 それがなぜだかわかるか?」
詠零術は既に完成されてる。 単に威力を増大させるなら武具や外套に陣を刻むとか直接的なやりかたがあるはず。
元々詠唱なんてやってたら発動までに時間がかかって仕方がない。
なにか理由があるはず、手間を加えさせざるを得ない『理由』が。
副作用の防止、違う。 力の暴走の可能性……これも違う。
本当にそんな危険があるならリュミアさんなら詠零術そのものを歴史から抹消するはず。
「悪用の、阻止……」
私の言葉にリュミアさんは「フッ」とこれまでになく満足気な様子で口角を上げてみせた。
「詠零術はノータイムで英霊術以上の威力を出せてしまう。 そんなものを誰も彼もが行使できたらこの世は地獄じゃ」
それを防ぐために、詠唱を……。
「私、詠零術と酷似した力を使う者と交戦したことがあります」
「わかっておる。 お主の一打が私に当たった一瞬、断片的にだがその光景が見えた」
「それなら話が早いです。 実は……」
ここに至るまでの出来事を話すとリュミアさんは「ふむ……」と顎に手を添えながらまるで小動物を見守るような眼差しを向けてきた。
「組織と交戦しながら手がかりを探し、今は冤罪の払拭か……難儀なことに見舞われとるのぅ」
「それで、どう思います?」
「お前さんを通して見えた光景からして詠零術であることは間違いないじゃろう。
じゃがどういうことじゃ? これまで私が詠零術を継承したのはヤツくらいじゃ」
ヤツ? 私の他にも誰かに継承したということがリュミアさんの言葉から見て取れる。 でもおかしいな、今の彼女の口ぶりからするとその人の次が私みたいだけど……。
「あの、フィオラさん達には継承しなかったんですか?」
「あぁ、詠零術は霊素の消耗量が常人にとっては異常だからな、あれを継承できる人間はヤツとお前さんくらいじゃ」
「あの、さっきから言ってる『ヤツ』とは誰なんですか?」
私の問いにリュミアさんは独り言のように「時期が来たということか」と呟いた。
「リーベ・エヴァ―ハート、どうしても詠零術を会得したいと、まだ2000年ほど前に私の元へ訪れたのじゃ」
話によると、当時そのリーベさんは武具は刃こぼれした短剣にボロボロのローブという試練を挑む者とは言えない状態でやって来たらしい。
補助系の術の身の教えを請われたことで彼に余程の事情があることを悟ったらしく、試練と称して数か月に渡る術の講義をしてあげたんだとか。
「そうだったんですね。 ところで、時期ってなんですか? リーベさんから私のことを聞いてたようにも思いますし、それに彼がなんのために動いていたか全部知ってるんですよね?」
まくし立てるように問いかけるとリュミアさんは「待て、待つのじゃ」とたじろぐ様子を見せた。
「これは言えん、ヤツとの硬い約束じゃ。 それと私だって未来が見えるわけではないからの、「あなたにとって遠くない内に1人の女性がここへ尋ねてきます」と言ってたことしか知らん。 じゃが今日手合わせして理解した……お前さんじゃったと」
「どうして、そう思えるんですか?」
「お主の『奥の手』じゃったか、あれを受けた時にお前さん以外の根源の干渉を感じ、ヤツが言ってた者に違いないと感じたんじゃ」
どういうこと? あの秘策は自身の『中に有してる霊根』にしか依存しない、ペンダントの反応だって術の威力の増大にしかできなかったはず。
頭の中の疑問を整理したかったが、そんな暇もなくリュミアさんは困惑の視線のまま私を見つめた。
「いったいお前さんの中に誰が居るんじゃ……?」




