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リベレーター・元生贄と絶望から咲いた希望たち  作者: モッフン


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対開祖、命がけの試練

「難しいことは言わん、ほんの僅かでも私に一撃を加えられればお前の勝ちだ。それで術の継承権を与えよう」


 その言葉は、まるで揺るぎない自信に満ちた絶対者の宣告のようだった。


「そういうことなら、全力でやります!」


 私の返事に、リュミアさんは「見ものだ」と言いながら口角をニヤリと上げる。

 その表情は、私を完全に格下と見ている証拠だ。


 まあ、実際ひよっこだけど。けれど、この状況をどう打開するか、彼女の行動パターンが全く読めない以上下手に動けばすぐにでも捕捉されるだろう。


「どうした、来ないのか?」


 仕掛けてこない。 明らかに誘いをかけてきている。 このまま膠着状態を続けるのは得策ではない。彼女の挑発に乗ってみるか。


「風素、加速!」


 私が全力でリュミアさんを目掛けて前傾姿勢を取ったのと同時、予想通り彼女は間髪入れず右手をこちらにかざしてきた。まるで獲物を捉えるかのような素早さだ。


「見えておるわ!」


「うあっ!」


 今、彼女が出してきたのは霊素の塊?  直前に跳躍したから当たらずに済んだけど、今のは英霊術だろうか? にしては、なんだか違和感がある。 リズィと交戦した時のような違和感が……。


(かわ)したか。なら、これは避けられまい」


 次に、空気を切り裂くような音と共に放たれたのは水の刃、もしこんなものが直撃したら切断は免れない。


「熱素、炎波!」


 咄嗟に放った炎による蒸発でなんとか食らわずに済んだ。

 間違いない、リュミアさんは、さっきから術を放つ際に一切の詠唱を挟んでいない。 ノータイムで発動できる英霊術なんて聞いたこともなく、常識じゃありえない現象が、目の前で起こっている。


「あり得ないと言いたげな顔じゃの。じゃが、常識なんてものはこれまでの経験の枠組みの中で培われた産物に過ぎん。経験してしまえば、それは当然の事象に成り下がる」


 そう得意げな笑みを浮かべながら、リュミアさんが手をかざすと今度は四角く面積の広いものがこちら目掛けて迫ってきた。 例えるなら、巨大な氷柱。


「まずっ!」


 あんなものまともに受けたら潰れる。どうにか打ち消したい、けど並の爆破じゃ到底……。


「これで勝負あり、じゃ……なに?」


 勝ち誇る言葉の直後、私もリュミアさんも巻き込むほどの大爆発が断続的に起こり、風素に依る噴射でどうにか躱しきった。


「英霊術の開祖に偽りなしですね、決着つく気がしません」


「ハハ、私もじゃ。 お前さんの霊素はそこが知れん、何者なんじゃ?」


「ただの便利屋ですっ」


 先に仕掛ける。 リュミアさんが無詠唱である以上剣と体術で挑まなければジリ貧は必死、かといってあまり距離を詰め過ぎても近距離で術を撃たれかねない。


「剣を逆手にしての斬り上げか、私相手でなら最適解な選択だ。 だがそれだけに、読みやすいっ」


「ですよね、だからそうしたんです」


「なっ」


 リュミアさんは周囲を沼と化す術を発動させるもその場から私は距離を取り、そこに1人残された彼女の足は見事ハマった。 いくら詠零術に長けているとはいえ悪条件の場所での動きはどうしようもない。


「詠唱が必要で不利なら詠唱できる状況を作っちゃえばいいんです」


「く、間に合わん」


 私はリュミアさんの背後に回り、その両手を凍素、フリジアで凍り付かせた。

 手をかざせない以上術は撃てない。


「私の、勝ちですっ」


 勝利を確信し、リュミアさんの背に拳を当てようとするも直後、あり得ない状況に困惑した。


「私への一打は、そう安くはないぞ?」


「これは、手……うわっ」


 状況を飲み込んだ時は既に私の身体は中を舞っていた。

 なぜなら、それは普通なら起こり得ない状況が目の前に広がっていたからだ。


「驚いたか? 泥の拳の硬質化じゃ」


「こんなことが、どうやって……?」


 物質の形を自在に変化させることは理論的には可能だ、けどそれは炎や水、風に雷といったように単一の属性に限られる。


 普通の泥でさえ水と土を掛け合わせたものなのに、まして硬質化させた泥なんていったら火と風も加わって、ウソ……?


「理解したか。 そうじゃ、この泥は4つの霊素が循環している。 

 どれだけ炎で溶かそうと、砕こうと不足した分の属性霊素を足せば永久に再生できるのだ」


「……厄介な力ですね」


「さて、私も少しばかり本気を出すかのぅ」


「こ、氷が……?」


 リュミアさんの身体を泥の手がかざしたのと同時、両の腕を覆う氷が瞬く間に溶けだした。


 ウソでしょ……? この人は周囲のものすら自身の身体の一部として操れるというの?


「周囲の霊素全てを使い倒す……それができてこそ、本物の術士だっ」


「っ! 炎幕っ」


 滴る水滴をなぞった直後、その言葉と共にリュミアさんの指先から矢のようなものが無数に放たれた。


 咄嗟に炎を横にスライドしてやり過ごそう。  

 弓矢みたいに極めて細い線の水なら蒸発だって狙えるはず。


「炎のカーテンか、面白いことをするではないか。 これでほとんどの水矢は消されるか」


 ほとんどの水矢? まさか……っ!


「ぐぁっ……!」


 どうして? 消失させるだけの熱量の幕は張ったはずなのにリュミアさんの放った水矢は私の両腕と両肩をかすめた。

 この人の放つ矢は炎が蒸発させるよりも速いというの?


 私の知る限りの常識を遥かに超える出来事に彼女は当然かのごとく不敵な笑みを浮かべた。


「潜在的な力さえ上回っていれば相性の有利不利など大したことではない」


「そう……なっちゃいますよね」


 どの属性を駆使しても打ち破られる。 残る手立ては1つしかない。 けどどうしよう、アレを打つのはリスクが大きい。


 奥の手は自身のみ根源に依存する一手、ペンダントの霊素は含まれない……外せばそれで終わり。


「万策尽きたといったところか」


「はい、もう打つ手は尽きちゃいました。 ですので、これでお終いにしますっ」


 狙うは手と化した泥、込めるは私が有する全霊素。 先のことなんて知らない、一心不乱に当てるのみっ


「術を撃つでもなく身一つで血迷ったか。 ではこの一打でお主の心を折ってやろう」


「やれるものなら……りゃあぁぁぁっ!」


 振りかぶって撃ちこむも、私の放った奥の手はリュミアさんの泥の手に軽く受け止められる。 徐々に勢いが落ちて……このままじゃ。


「残念じゃったの、じゃが私を相手にここまで渡り合えたのは褒め……な、これはっ」


 この感覚、霊根が増幅されてる? ペンダントは根源には寄与しないのにどうして……いや、そんなことはどうでもいい。 この一瞬に、持てる全てを賭けるっ。


「もぉらっっっったあぁぁぁっ!」


「んうわぁっ!!」


 この一打の後、私はリュミアさんごと前方の壁へと派手に吹き飛んだ。

 残存霊根は吐息ほどの風を起こせる程度。 さて、この試練の結末はどうなることやら。

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