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痩せた村と衰弱した人々

「ごめん、近道のつもりが遠回りになっちゃったわね」


「エイミーのせいじゃないよっ」


村の皆が衰弱してると聞いたら少しでも早く解決へ向かいたい、その可能性があるのなら私だって同じ選択をしたに違いない。


「そう? 慰めでもありがと。 ところでさ、あの畑なんだけど、あれってやっぱり……」


「あれはロンドさんの畑だね。 聞いてはいたけど本当に作物採れてないんだね。 それに……」


 確証を得るため苗に触れてみたけどやっぱりだ。 全くと言っていいほど栄養も霊素も通っていない。 


「この様子だと畑が痩せてから2週間近くってとこね。 ただの偶然だといいんだけど」


「畑のこともそうだけど、村の外に誰もいないのが気になるよね。 やっぱり集会所かな?」


「十中八九そうだと思うわ、行きましょ」


 村の中では事件や災害があった時はちりじりにならないようにすると相場は決まってる。

 私はエイミーと共に集会所に向かうと予想通り明かりが煌々と灯っていた。

 こういう時はノックをするのが最低限の礼儀だけど状況が状況だけにそんな悠長なことはしてられない。 私は躊躇することなく扉を押し開けた。


「こんにちは、ハートユナイティスのノエルとエイミーです」


 挨拶をしてから数十秒は経っただろうか、村長さんがおぼつかない足取りでこちらへと歩み寄ってきた。 どう見ても無理してる、支えてあげなきゃ。


「エイミー」


「わかってる」


 2人で肩を支えて座らせると落ち着いたのか、村長は途切れ途切れな口調で言葉を紡ぎ始めた。


「ノエルさんにエイミーさん……来てくれて……ありがとう」


「村長さん、お顔真っ青じゃないですか。 一体なにが」


 謎の倦怠感で衰弱した身体のままどうにか村長さんが説明しようとした時、村の中で聞き慣れた男性の声が聞こえ、私とエイミーは反射的に振り向く。


「俺が……説明する」


「ロ、ロンドさんっ、身体大丈夫なんですか?」


 筋骨隆々の中高年の彼は村長さんと同じく今にも倒れそうな状態でやっとといった様子でこちらへゆっくりと歩み寄ってきた。


「これが大丈夫に見えるか? まぁでも大事な話だから聞いてくれ。 事件発生当時俺はいつものように農作業に精を出していたんだが遠くから『聖堂に近づけなくなった』って声が聞こえてな、その後すぐだ、全身に異様なダルさが来たのはよ」


 近づけない、それは聖堂の中か、それとも敷地内かどっち? けどどっちにしても原因は聖堂にあるってことか、これはちょっと見に行く必要があるかな。


「それでしたらこの後私達の方で調べてみます」


「助かるよ。 あぁ、あのあんちゃんが通りがかってくれてよかった。 女神の思し召しってやつかもしんねぇな」


「あの、ロンドさん。 『あんちゃん』ってもしかして」


 事務所で交わした店長との会話が頭をよぎって聞くとロンドさんは深く頷く。


「先週なんだがよ、その日も皆してダウンしてたら集会所に綺麗な黒髪のあんちゃんが来てなにがあったのか聞いてきたんだ。 んで経緯を説明したら『最寄りの便利屋にお願いしておきます』って颯爽と去ってったんだ。 ありゃかっこよかったな」


 お節介さんなのかな? でも良い人なのは間違いなさそう……っとそんなこと考えてる場合じゃなかった。 急がないと。


「それじゃ早速行ってみようか」


「そうね、さっさと原因突き止めちゃわないとね」


 村の奥の一本道、聖堂へと通い慣れた道だけど『近寄れない』ってどういうことなんだろ? 迷いの森みたいにはなってないし建物は確実に見えてきてる……なんて考えてる間に入り口付近まで来てしまった。 これは村人の衰弱故の思い過ごし?


「着いちゃったよ?」


「ね、なんだか拍子抜けしちゃうわ」


 そう言いながら聖堂の扉に手をかけようとした直後、苦悶の声と共にエイミーの顔が引きつった。


「痛っ!」


「どうしたの?」


「この扉、触れない。 なんていうか、触ったら電流が走ったみたいにビリビリする」


 やっぱり中になにか秘密が、意を決して私も扉に手をかけようと手を伸ばす。

 電流が駆け抜けるのを覚悟しながら目の前の取っ手に手をかけたらそれは思いのほかあっけないものだった。


「あれ? 触れる……っていうか開いちゃった」


「は、はぁっ? どういうこと? 村のみんなやあたしは触れることも叶わないってのに、ノエルなんかした?」


「私はなにも……っていうかなんで触れたのか自分でもわからないよ。 それにしてもどうして……」


 私が皆と違う点、呪い? それとも生贄に出されたという過去? まぁどちらにしても他人と比較すると普通ではない経歴だけどなぜ私だけが扉に触れられたのか明確な理由がわからないんじゃどうにもスッキリしない。


「ねぇ、試しにだけどあたしに成人女性3人分の霊素分けて」


「いいけど、なんで?」


「いいからっ、ちょっと試してみたい」


 言われるがまま霊素を分けるとエイミーはさっきとは打って変わって聖堂の扉にいとも容易く触れてみせた。


「え、なになに? これどういうこと?」


「早い話、常人程度の霊素の保持量じゃ内部に入れないよう細工がされてるってとこかしら」


「だとしたら罠があるかもしれない、中を照らしてみるね」


 外から光素を投げて聖堂が一瞬光った直後、なにかが連続して飛び交う音がした。

 音の様子からして弓矢? なんにしても確かめてみる必要がある。


「今ので罠は終わりみたいね。 よし、ちゃっちゃと中を調べるわよ」


「待ってっ、鋼素……シルト・エンチャント」


「防御膜ね、準備いいじゃない。 んじゃ行こっか」


 中に入って改めて光素で照らす。 罠はさっきので終わりみたい、霊素で入室できないようにして仮に入れても排除するための罠を発動か、きっと犯人はかなり狡猾に違いない。 もし出くわしたら速攻で片づける。


 周囲を見渡すとやっぱりというか、2-30本の弓矢が床に散乱してた。 中に入って明かりを灯したら最後、私とエイミーは確実に矢の餌食になってたに違いない。

 それよりも、村に影響を及ぼしてる細工があるはず、足元から天井の隅まで意識を集中して周囲を見渡すとある違和感に気付いた。


「ねぇ、ここってこんなものあったっけ?」


 ガラスに装飾された……水晶? 綺麗といえば綺麗だけど、純粋な輝きじゃない。 暗い青というよりは黒に近い紫、およそ神聖な聖堂に似つかわしくない。


「最近できたんじゃないかしら? にしても聖堂なのに暗い色ね……ってどうしたのよ」


「エイミー、あの水晶撃って」


「えっ? 大丈夫なの? あれってここのじゃっ」


「ううん、あれが村を脅かしてる元凶だよ。 あれを壊せば村の人もきっと元に戻るはず」


 確証はあった、あの水晶に近づくにつれペンダントが不気味な光を放っている。 まるで『これを壊せ』と言わんばかりに……さっきの森での件もだけどこれは私に力を貸してくれる、そんな気がしてならない。

 そんな思いが通じたのか、エイミーは弓を構えて狙いを定めた。


「ノエルがそこまで言うんなら……信じるっ。 さっさとあの妙な飾りぶっ壊してみんなの元気取り戻すわよ」


 そして、引き絞られた矢は正確に水晶へ続く軌道に乗った……はずだった。 矢を放つ瞬間に明らかに村人ではない声が入り口から聞こえ、エイミーの狙いは大きく外れてしまった。


「おうおう、扉が開いてると思ったら侵入者かよ。 せっかくの計画がパーじゃねぇか、どうしてくれるんだ?」


 計画? それってこの村の事件に関連してる……そんなことよりこのつり上がった目つきと雰囲気、この男、まさか……。

 私は彼に悟られないように剣を後ろ手に構えて努めて冷静に振り返った。

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