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リベレーター・元生贄と絶望から咲いた希望たち  作者: モッフン


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忘却の中の真実

「アルカニス・ヴィラザ・フェレクュ」


 術書を購入後、最速の習得のため中央区のベンチで詠唱をマスターしようにも慣れない古代語の発音に舌が躓く。


「ノエル、1時間半経つけど、習得までまだかかりそう?」


「急かさないでよ、うっぷっ。 そもそも、英霊術の習得はどんなに早くても丸3日、高次元の術だと1ヶ月はザラにかかるんだから」


 アイザックさんのお陰でどうにかピュリファの書を手にするも、事態が事態だけに早急な術の会得を迫られていた。

 ただ、こんな事例はこれまであるはずもなく、つたない詠唱と頭に流れ込む情報に霊素酔いの兆しが顔を覗かせていた。


「わ、悪かったわ。 水汲んでくるからちょっと待ってて」


 うー、気持ち悪いし頭も痛い。 でも街のみんなのために早くしないと……あれ? ペンダントが一瞬蒼く……そんなわけないか。 きっと疲れてるからそう見えたに違いない。


 術の習得中も混乱は大きくなっていき、「俺だよっ、わかんないのかっ?」と忘れられた人の声と「あなた誰なの? 私あなたなんて知らないわよっ」と忘れた人の声が街中にこだましていた。


「はい水、少し休んで」


「休んでなんてらんないよ、早くしないとみんなが……」


「ノエルは解呪の適性が低いし、そうでなくても異常な速さで習得なんて無茶してるんだからっ」


 再度術書を読もうとするも術書を取り上げられる。


 身体の拒否反応のため、聖属性の術は避けてきていた。 もちろんいつかは向き合うことだとわかってはいたけど、よりによってこんな時にこんな形で会得する羽目になるなんて。


「ありがと、もう大丈夫。 さて続き続……え?」


 術書を再度開こうと顔を上げると目のまえには信じられないものが私達の前を遮るように立っていた。


 反射的に私とエイミーは臨戦態勢に入る。


「これって、影ッ、まだ夕暮れじゃないのにどういうことよっ?」


「わからない、けどやるしかっ」


 まだ日中だというのになぜ? けどなにもしてこないってことだけは変わってないみたい。


 攻撃が通らないってヴェルクさん言ってたけど、試してみるか。


「エイミー、影の足元撃って」


「すり抜けるって聞いてるのに正気なの?」


「ダメで元々、私が続いて斬りかかるからっ」


 直後エイミーが矢を放ち、それに続くように影本体に剣先を当てる。


「くっ、話に聞いてた通りすり抜けちゃうか。 現れた時間も時間だしなんなのよコイツ」


「けど何もしてこないのは本当みたい……あれ?」


 気を抜いた直後私とエイミーはお互いが見えない程の黒い霧に包まれる。


 いったいなにが、言いようのないざわめきが襲ってくるもそれが長く続くことはなかった。


「こ、これってっ」


 淡い緑を掻き消すように真っ白い光がペンダントから放たれ、黒霧は一瞬にして消え去った。


 隣にはさっきと変わらずエイミーがいるがお互いどうしたものか、恐る恐る声をかけた。


「あ、あのさエイミー……」


「ノエルッ、大丈夫だった? なんか霧がバァーっと出たかと思ったらすぐ晴れて、これっていったい……」


 影を攻撃、又は触れた瞬間の影、ペンダントがなかったらどうなってたかの過程から私の中で1つの仮説が弾き出される。


「思うんだけどあの影、霊素や序列が高い人が触れると下の者を忘れ、低いものが触れると忘れられる。 根拠はなにとは言えないけど……」


「それが反応した以上あの霧がロクでもないものは確かね」


 どうにか影を打ち消したいけど下手に触れるとまた黒霧が、ペンダントに頼ろうにももし発動しなかったら、今度は私達がどっちかに転がってしまう、万策尽きたか。


「手詰まりだね。 どうする?」


「なにもしなくても悪化するんだから足掻いてみましょ。 その方があたし達らしいじゃない」


「それもそうだね。 それじゃ、やってやりますかっ」


 破れかぶれで剣を抜こうとしたその時だった。


「おーい、ノエル、エイミーっ」


 駆け寄ってくるユーゼ君とミスティに気付き剣を納めるとなにがあったかエイミーが事情を聞く。


「どうしたの2人共。 アイザックさんに事情を話してたんじゃないの?」


 少し前の2人の様子はなりを潜め、なにかに駆り立てられて急いできた様子が見受けられた。


 いったいなにが、影が事務所の中にまで侵入してきた? それともアイザックさんになにかあった。 どちらも可能性としては充分だけに強い焦燥を感じる中、ミスティから語られた内容は私の想定を容易に上回るほど深刻なものだった。


「それが、事務所に助けを求める声がかかったの。 街の人が急に倒れて昏睡状態になってるって」


「な、なによそれ。 いったいどういうこと?」


 怪訝な顔でエイミーが戸惑うとユーゼ君の口から意外な事実が判明する。


「気になって街の中と外を調べてみたらヴェルクさんが魔物と倒れた街の人達、数と発生時間が一致してるんだ。


 きっと今頃防戦一方になってる、ノエル達にはヴェルクさんと合流してほしい」


「2人はどうするの?」


 なにげなく尋ねるも、ユーゼ君は「ふぅ」と呼吸を1つ整えると携えてる杖を構え強い語気で宣言した。


「僕とミスティは影を叩く」


 なるほど、影を叩くか。 ん、影?


「え、ええぇぇぇぇーーっ?」


 それってセレスさんの術もすり抜けたのをなんとかするってことだよね? 私はまぁペンダントで運よくどうにかなったけど、少なくとも高次元の術でどうにもならない存在を更に低い次元の術でどうにかするなんてっ。


「早まんないで2人共。 ペンダントがなければ私もエイミーも危ないとこだったんだよ?」


 必死に止めようとするも、ミスティに肩を掴まれて落ち着くように諭される。

 あれ、私努めて冷静にしてたと思うけどな。 そうだよね?


「よく聞いて、さっきノエル達のとこに向かう途中で例の影が出てきてヤケクソで術を撃ったらその影消滅したの」


 ミスティの言葉にエイミーはなにかに気付いたのか影への対処法を語り始めた。

 そのほとんどが憶測混じりではあるが納得できるだけの内容がその言葉に込められていた。


「多分だけど、あの影は忘れられた人の攻撃なら効果がある。 強い人や偉い人の攻撃が通っちゃ簡単に解決されるからこんなに事態がややこしくなってるんだわ」


 街の人の忘却に魔物討伐に連動した人々の昏睡、こんな短い時間で複数の事件を起こせる犯人なんて交戦した身としてはあの存在を他に置いて他に知らない。


「エイミー、これってもしかしなくても……」


「間違いなく組織の仕業ね、ほんっと余計なことばかりしてくれるんだからっ」


 問題が1つわかった以上街は2人に任せて大丈夫そう。


「そういうことなら影はお願いするね」


 急いでヴェルクさんの元へ向かいサクッと魔物も片付けちゃおう……なんて簡単に考えていたんだけど、この後本当の意味での厄介事が降りかかってくることになる。

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