森に棲む毒蛇・近道は遠回り?
「エイミー、ロカムまであとどれくらいで着きそう?」
「厄介な魔物と出くわさなければ街道より40分早く着くわ。 」
フォレジア森林、もう何回か来てるけど相変わらず夜みたいに暗いな、任務で来たことはあるけどほとんどが入口周辺での迷子のペット探しや魔物討伐といったくらいで奥まで行ったことはなかったっけ。
噂ではやれ毒蛇が出るだのやれ大蛇が出るだのおとぎ話のような曰くつきで「非常時以外立ち入り危険」と言われてるけど、今まさに非常時だからいいよね。
「この森って来たことあるんだよね?」
「まぁね、けど警告にあるような魔物なんて見たことなかったわ。 それこそ大蛇なんて……」
大蛇は10メートルという噂もあれば20メートルという噂まで幅が広い。
けど街の人はともかくエイミーやルーシーからも実際の目撃談は聞いたことがない。
なにごともなければいいけど……。
「もう2時間は出てないから大丈夫じゃないかな」
村人全員が同時に期間の長い倦怠感にかかるなんて普通じゃない。 この事件間違いなく何者かの手が加わってる。
「それにしてもこの一件、まさか九つの希望とか絡んでないでしょうね?」
「それってここ近年世間を騒がせてるあの?」
「えぇ、人殺しこそはしなくてもよくわからない騒ぎを起こしてるっていうもっぱらの噂が立つくらいだから用心に越したことはないわよ」
「そうだね、急ご……えっ?」
茂みになにかが、影の形状からして毒蛇。 このままじゃまずい。
「どしたのよノエル」
「危ないっ」
3メートル幅の蛇、大きいっ、このままじゃエイミーが噛まれる。
「ごめん、なんとなく危険な気配がしたから……」
「平気、むしろ助かったわ。っていうかなんでヴェノムヴァイパーがこんなとこにいんのよっ?」
「『こんなとこ』だからいるんじゃないかな? この森の生物って元々街道が森だった頃から棲みついてたらしいし」
思わぬ場所で思わぬ魔物に出くわしちゃったけど、武器構えた盗賊とかに比べたらこの程度は問題じゃないかな。
「面倒だけどしょうがないわね。今から引き返すにも時間もないし、サクッと片付けるわよ」
「連携だね……ってわわっ、ちょっとなにしてんのっ? 危ないんだけどっ」
剣を構えるもあろうことかエイミーは毒蛇が私の方向へ誘導するように矢を撃ちこみまくってきた。
顔が私の方を向くと同時にとぐろを巻きながら飛びかってきた。
「ごめんって、そいつ炎で真っ二つにしないと死なないからあたしじゃ誘導くらいしかできないんのよ」
それなら仕方ないか。 背後に回って熱素を付随した刃を一気に叩き込めば……けどこれあまり使いたくないんだよなぁ。
「熱素……熱っ」
よし、綺麗に真っ二つに斬れた。 単に胴体から頭落としただけだとこの手のものは頭だけで噛み付いてくるからね。 やっぱ毒イズ、デンジャラス。
「おぉ、これはかなり派手に焼き斬ったね。さすが霊剣士ノエル」
「エイミー、おだててもなんも出ないからね……あ、ゲンコは出るか」
「だからごめんってば。 いくらあたしの弓術が性格でもあの厚さの蛇じゃ心臓まで到達しないしあれを仕留められるのはノエルだけだったから頼りにしてたんだってばぁ」
まぁ、そういうことなら仕方ないか。 それにしても……。
「誰もここを通らない理由、改めてわかった気がするよ」
「えぇ、たとえ時間がかかってもロカムのみんなが街道を選ぶ理由がこれよ」
あちこちに街や村ができると元々獣道の場所を巣としていた魔物達は住処を失い、当然手付かずの森林に集まって棲みつく。
その場所には大きな生態系ができあがる、そこに私達人間が踏み入る余地はない。
「だからみんなここを避けるんだ。
急ごう、暗くなったらもっと魔物が増える」
「そうね、まだ魔物の気配はそこまで多くないから今の内に森を抜けましょ」
だいぶ走り続けたけどまだ着かないのかな?
もうそろそろ……あの見慣れた果物の樹、もしかしてっ。
「あれは、ロカムの? 近いよっ」
この距離なら15分くらいあれば到着する。
もう村までは目と鼻の先、長かったぁ……なんだろ、村は近いのに変な感覚が……。
嫌な予感がして立ち止まると背後に異様な生暖かさを感じる。
「あのさエイミー、一応効くけど、後ろになんかいるよね?」
「はは、奇遇ね。あたしもそれ言おうとしてたとこ」
振り返った先には大きい蛇、10メートルは優に超えてそう。
もう、ロカムまで近いってのに、なんでこうなるの? 私、日頃の行いいいはずなんだけどなぁ。