母との再会、愛する地のために
「人為的に、そんなことできるの?」
戸惑う私にルーシーはきっぱりと「できるはず」と可用性の1つを示す。
「ノエルちゃんが第三者に霊素を与えるという不可思議があるように、魔物を生み出すあるいは変質させるってことができる者がいてもおかしくはないわ」
「それができる人なんて……まさかっ」
一瞬浮かんで口にした予感を断定するかのようにエイミーがやれやれと言いたげな顔を見せる。
「まさかもなにもどう考えても組織の誰かでしょ」
「けどなんのために?」
九つの希望は非道なことこそはしても直接的なことはもちろんなど間接的にでさえ人々の命を脅かさないことを矜持としている。
変異した魔物を生み出してるのが組織だというのが事実だとしたらいったいどういう目的で?
皆目見当のつかないことに思考を巡らせるが、これ以上追求しても仕方がないという形での結論に落ち着いた。
「この件はピオスに持ち帰るってことで」
「それもそうね。 んじゃ行くわよ、ルーシーん家に」
「あれ、そこエイミーが仕切るんだ」
やんわりと指摘する私の言葉に「細かいことは気にしなーい」といつものエイミー節を炸裂させる。
なんかいつにも増してあっけらかんとしてるなぁと思いつつも視線を変えるとルーシーが珍しく気を張ったような顔つきをしていた。
「ルーシー、大丈夫?」
「緊張しちゃってるように見えたかしら?
まったく、らしくないわね」
望まぬ形で発現した転移により故郷から離れてからの帰宅がどれほど複雑な気持ちか、形は違えど似たような経緯を持つ私にはそれが用意に想像できた。
この時のルーシーの背は仲間を率いるリーダーというより家族の元へ足を進める1人の娘のような、そんな風に写った。
「着いたわ」
「ここがルーシーの……」
スノウガリアの街入り口に程近い場所に立つ民家、そこにルーシーの実家たる民家はあった。
赤茶の壁には雪に同化しないための工夫なのかほんのりと暖かい熱素が施されていた。
「ルーシーのお母さんかぁ、どんな人なんだろっ」
「エイミー、人んちなんだからはしゃがないの」
扉を軽く2、3回叩くこと数秒、「はーい」と姿を現わした女性はハッと驚きの表情を見せた。
「母さんただいま。 その私、10年も……っ!」
便利屋をやってる時のような饒舌さはなくどうにか言葉を探す最中、彼女は最後までルーシーの言葉を待たないまましがみつくように抱きついてきた。
「おかえりなさいルーシー。 よく、よく無事に帰ってきてくれたわ」
その一言が心の糸に触れたのか、ルーシーはまるで幼い少女が母親に甘えるかのように涙を流し始めた。
「ごめん、ごめんね母さん私……囮にされた後転移が起きてそれて、いつでも帰ることは……でき……たのに」
その光景に見てる私まで目頭が熱くなった。
気を遣ったのがルーシーなのか私なのか定かじゃないままエイミーが私の袖を引っ張る。
「向こう、行ってようかしらね」
ルーシーと育てのお母さんが再会中席を外すことにした私とエイミーはすぐ近くの酒場に居座り紅茶で暖まっていた。
ふと気になり問いを投げてみる。
「前々から思ってたんだけど、エイミーってここぞというタイミングでの気遣い上手いよね」
「ふふーん、あたしの才覚ってやつ?」
「……どこまで本当?」
冗談めかした疑いの視線を送るとエイミーは秒で肩をシュンとすくめた。
うん、お察しの通りというかお約束というか。
「すみません全部ウソです」
「やっぱりね。 でもその気遣い自体は裏付けとかあるんだよね?」
「まぁね。 ほら、あたしが狩人の一族の生まれって話いつしかしたじゃない、匂いというか、雰囲気? そういうのがわかるのよね」
「英霊術とはまた違った意味ですごい。
ところでさ、エイミーの家族は元気?
大事な故郷なんだからたまに帰れるといいね」
ルーシーと私の境遇が共通してることも相まって生まれの地に想いを馳せながらそんなことを言うもの、エイミーの一言に耳を疑った。
「いや、帰らないわよ?」
「えっ、いーのそれでっ?」
家族や昔の友人とかが待つ帰るべき場所なのにウンザリしながら言い放つエイミーに私は反射的に前のめりになった。
「だってあたしんとこの部族さ、15になったら男女共に強制的に結婚させられるのよっ?
いい? 好きでもない人と結婚よっ? あたしは無理っ、そもそも結婚自体したいと思ったことないわ。
あたしにはあたしの人生があるんだから何人たりとも好きにさせるもんですかっ……てね」
「それでピオスの便利屋になったんだね」
「明日への逃走ってやつよ……ってどしたのよそんなポカーンとして」
「いや、エイミーの明るさの源がわかったというかなんというか、アハハ」
私にルーシー、モニカとロウさんときてハート・ユナイティスの人員はみな重い過去を持ってるとそう思っていたけどエイミーはまさかの脱走劇だったとは……自由人すぎる。
「てなことであたし自身の課題は里を出た時点で解決済みなのよね……ってわけで今後もノエルの探し物、協力させてもらうわ」
「心強いよ。 そろそろルーシー迎えに行こうか」
「様子見ながら行きましょ、まだ話してるかも……なにか聞こえない?」
ルーシーの家に向かうため席を立ったのと同時、店の外から衛兵らしき男性の声が店内にうっすらと聞こえ、気になって外に出て見るとその男性は街の外を指で指し示していた。
「魔物だ、魔物の大群がこちらへ押し寄せてるっ。
待機中の騎士と兵は急ぎ出陣を、1頭たりとも侵入を許すなっ」
「エイミー、これってサイラの……」
「えぇ、このままじゃまずいわね」
あの魔物の軍勢1頭ずつ全てが核を持つとしたら、並の騎士や兵士じゃ手も足も出ない。
このままじゃ街に被害が、建造物はもちろん住民にまで。
「行こうエイミー」
「え、ルーシーは?」
「親子の時間を邪魔したくない。 だから私達で」
「苦戦しそう。 けど、賛成ね」
手遅れにならないよう私達は店を飛び出し、雪原へ向かうため街の入り口方面へ向かうとまるで私達がここへ来ることを見越してたかのように門の前でルーシーが立っていた。
「ヤッホ、待ってたわよ2人とも」
「ルーシーっ? いいの? お義母さんとの再会は」
「そうよっ、せっかく10年ぶりだっていうのに」
私とエイミーの言葉にルーシーは「だからこそよ」と返す。
「私の大切な、大好きな母さんの住むこの街だからこそ転移を使いこなせるようになった今、必ず止めてみせる。 だから力を貸して、2人ともっ」
それは指示でも導くでもなく「共に街を守って」と初めての対等なお願いで、ルーシーの眼は過去に苛まれてるハンターのものではなくなんとしても母を守るという娘の強い眼差しだった。
「もちろんっ。 故郷を思う気持ちは私も一緒、だからっ」
「あたしは自分の故郷はウンザリだけど愛着はあるから手ぇ貸すわっ」
街と魔群の距離は500レージ、交戦時間を考慮すると余裕は全くない。
けど私の詠零術とエイミーの弓術、ルーシーの座標転移があれば食い止めるのは不可能じゃない。
ルーシーの愛する故郷は必ず守りきってみせる。
そう強い想いを込めるとそれに呼応するようにペンダントの光は一層強みを増した。




