過去への決着
「このメンバーでの任務って思えば久しぶりじゃない?」
ルーシーの言葉に弓剣を構えながら「確かにね」とエイミーが笑う。
「あん時はヤバかったわ。 レビィの規格外の破壊力とそいつにツッコんでく無鉄砲さん」
「無鉄砲って私のこと? それ心外なんだけっどっ」
減らず口を言いつつも目の前の牙獣を打ち倒すための機会を3人でどうにか伺う。
「2人とも、策はあるのよね?」
「うん、私とエイミーで仕留めるからルーシーには時間を稼いでほしい」
「足止めの方法は私の好きにしていいってことね? それじゃ……ふりゃあぁぁぁっ!」
嬉々としながらハンマーを振り回すルーシーに私とエイミーはどことなく狂気を覚えた。
「ノエルさ、ルーシーのあれ八つ当たりよね」
「うん、間違いなく八つ当たりだね。 ゆっくり討伐しちゃいますか」
ルーシーのハンマーによる乱打の嵐に巨体のブルガスも首への猛攻はさすがに堪えたのか、ズシンと鈍い音と同時に膝から崩れ落ちた。
「で、あたしも来ないとあのデカブツ倒せないってのはいったい……」
「多分だけど、あの森の大蛇と同じタイプだと思う」
「ってことは心臓と核の同時打ちってやつね。 それならあたしに任せて、鷹の眼の実力久々に見せてあげるわ」
「それじゃ先に行くからタイミング見て合わせて。 行ってくる」
とは言ったものの、詠唱を破棄しての加速程度じゃあの大きさの皮膚を裂くには至らない。 もっと高度な風素の術を……。
私は蹴り上げた風圧を用いた剣技、『アクセラレーター』をブルガスの真横で一閃させる。
今度こそやったかと距離を取り間もなくエイミーとルーシーが私の立つとこへ集まってきた。
「ふぅ、どうにか倒せたね。 さてと」
「待ってノエルちゃん、無暗に近づいちゃ危な……」
「平気よルーシー、あたし達はコイツと同じ性質のと何度かやりあってるわ」
エイミーの言葉を背にブルガスの額へ近づき射抜かれた部分を確かめてみる。
うん、やっぱりそうだ。
「ルーシー見て」
「額に丸いの、これって……」
「変異の核とでもいうのかな。 フォレジアの森にいた大蛇や平原で出くわした魔物からこれが見つかったんだ。
ところでさ、このブルガスはルーシーが昔見たものとは違うの?」
「えぇ、グランドとは言ってもこの半分の大きさしかないわ」
天井より気持ち高いくらいか、だとするとルーシーが違うものと認識するのも無理はない。
いったいなんなのかと考える間もなく偉大を評する牙獣は冷たい空間の中で霧散した。
「詳しいことは街に戻ってから説明するよ」
「氷窟は冷えるから賢明な選択ね。 あの人達どうなったかしら」
ハンター達を少なからず気にかけるルーシーにエイミーがムットした様子で振り向く。
「さぁ、入り口までしか誘導してないけどアイツらのことだから一目散にトンズラしたんじゃない? さっさと行くわよ」
氷窟の入り口まで行くと私達は3人同時に面食らった。
あのハンター達がご丁寧に待っていたのだった。
エイミーはまるで汚らわしいものを見る様に視線を落としながら冷たく言い放つ。
「そんなとこでなにしてんのよ。 命は助けてやったんだからどこへでも行っちゃいなさい」
男達は怯むことなく私達に強い視線を向けた。
「こき下ろしてた俺達を助けるたぁどういうつもりいや、どうすりゃそんな域に達するんだ」
「ノエルやルーシーみたいにですって? なれるわけないでしょっ、この2人はねっ、どしたのよノエル」
私はともかくルーシーの域に簡単に到達しようという魂胆がたまらなく嫌で私はエイミーより前へ出た。
「ルーシーと同じ思いを10回経験すれば少しは理解できると思いますよ。
もっとも、あなた達にそれができるかはわかりませんが……」
その一言を投げたのを最後に私はハンター達に背を向けながら氷屈を後にした。
スタスタ歩く私の顔をエイミーが心配そうに覗いてくる。
「ノエル大丈夫? 顔色悪いわよ?」
「平気、慣れないことしただけだから」
そう言いながら歩く進める私になぜかルーシーがバツの悪そうな顔で私に頭を下げてきた。
「ごめんねノエルちゃん。 私のために嫌な思いさせて」
これはルーシーが悪いわけじゃない。 悪いのは人の心を食い物にする悪意とそれを正しく非難する心を貫き通せなかった私自身の弱さにある。
妹分としてこれ以上負担をかけちゃいけないと思いいつもの顔つきに戻しながらルーシーへ振り向く。
「ルーシーが謝ることないよ。 私は人として当然のこと言っただけだしそれに、もし私がそういう想いしたらルーシーも同じようにしてくれるもんね」
「甘いわねノエル、ルーシーだったら冷たいこと言うどころかあいつらを魔物ごと狭い空間へ転移させて地獄見せかねないわよ?」
「ちょっと私をいったいなんだと、まぁいいわ。
ありがとね、2人のおかげでこれで吹っ切ることができた」
「ううん、私は自分がしたいようにしただけ。
乗り越えたのはルーシー自身の強さだよ」
お世辞なんかじゃない。 死が目前に迫った過去とその原因を生み出した者に向き合うことは並大抵の精神でできることじゃない。
そこから逃げず、私と同じように命をすくいあげる選択ができたルーシーは誰よりも強い。
「次はノエルちゃんの番、早く呪いが解けるといいわね」
「私のは長い道のりかな、九つの希望とかも絡んでるし」
私が何気なしにこれからのことを述べるとエイミーは懐かしかむように視線を泳がせた。
「そういや初めて組織とぶつかる前もおでこと心臓まとめて攻撃しないと仕留められない魔物いたわね。 確か大蛇だったような」
「サイラの街付近でもあったよね。
あの時は2人して無茶したからヴェルクさんに怒られたっけ……ってルーシー?」
たった半年経つか経たないかの出来事を懐かしむ私とエイミーの横でルーシーは不穏なものを感じたかのような険しい顔つきになった。
「ノエルちゃん、その魔物についてもう少し詳しく聞かせて」
「なにかに気づいたってことだよね、いいよ」
私はフォレジアの森とサイラ襲撃の魔物の件を話すとルーシーの口から「妙ね」となにかを探る声が零れる。
「確かにあたしも妙だと思うわ。 だって死んだのと同時に消えるんだもの」
「いえ、そこじゃないわ」
「どういうことよ?」
「核を魔物が自然発生だとして行動パターンが一貫してないのはどうして……」
この長い歴史で魔物の方から人の住む場所を襲いに向かったケースは2000年前に瘴気が世界を覆った災厄の時くらいらしい。
なら平穏と言えるこの時代にサイラが魔物の襲撃に見舞われた理由は?
核を持つ魔物が現れた要因について考えを巡らすこと間もなく、仮説を立てるようにルーシーが呟いた。
「人為的に生み出されてる……かもしれないわね」




