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リベレーター・元生贄と絶望から咲いた希望たち  作者: モッフン


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裁くべきは悪意、救うべくは命

 一夜明け、宿の会計所兼フリースペースで待つ私とエイミーの前にルーシーは昨日のできごとがウソのように明るい声色で現れた。


「ヤッホッ、2人ともよく休めた? 私はもうぐっすりでこの通りもう元気よっ」


 不自然なくらいに元気、なんかあからさまに空元気なように見えて心配で仕方がない。


「ル、ルーシー……」


「どしたの? そんな神妙な顔して」


「いやあたしもノエルも神妙なるって。

 だってその、なんて言えばいいか……」  


「……ていっ!」


 かける言葉が見つからず言い淀んでいる中ルーシーはなにを思ったのか私とエイミーは背中をベンっと叩かれ「でっ」と2人して間の抜けた声を発してしまった。


「ル、ルーシーっ?」


「そんな湿っぽい顔しないの」


「でも辛かったんじゃ、無理しなくったって……」


 私の言葉にルーシーはどこか吹っ切れた様子でいた。


「やせ我慢だと思ってるの? そんなんじゃないわ。

 ここへ来たのはそうね……弱い自分にケリをつけるためってところかしら」


「その決着、もうついた?」


「母さんに元気な顔姿を見せてないからまだね。 この後顔出すつもり」


「ルーシーのお母さん? あたし見てみたいっ。 よぉーし、それじゃ早速……」


 エイミーが先導してルーシーの実家への訪問を提案しようとしたその時、宿の外からひときわ大きい声で救助を要請する声が聞こえてきた。


「誰か、誰かヅァルト氷窟へ救助に行けるものはいないかっ。 倒壊して3名が閉じ込められた。

 なお、内部にはグランド・ブルガスが徘徊してるとのことだ」


「閉鎖空間にブルガス……2人とも付き合ってっ。 これは放っておけない案件よっ」


 崩れた雪の洞窟に閉じ込められるのはまさに極限状態。 

 ルーシーはまるで当時の自分と重ね合わせるように迷わず駆け出し、私達もそれに続いた。


「氷窟の場所、わかりそう?」


「わかるもなにもあそこは私にとって因縁の場所、だからこそ放ってなんておけないわ」


 取り残された人はきっと転移のような離れ技は使えない。

 手遅れにならないよう私たちは氷窟へと急ぎルーシーはブルガス、エイミーは逃げ遅れた人を探すことにしてもらい私はその両方を気にかけ回れる範囲の全てを探すことにした。


「あーっ!!」


 奥の方から耳をつんざくような声が聞こえ、なにがあったのか向かってみるとそこには昨日ルーシーを嘲笑した男達とそれをゲンナリとした視線で注視するエイミーの姿があった。


「誰が危機にあってるのかと心配してきてみたら……帰るわよ、あたし達の心配返してほしいわ」


「おい待てよ、命の危険に瀕してる者を置いてくってのか? ちっと待てよこの薄情モンめっ」


「どーの口が言ってんのよっ、いい? アンタらはルーシーを囮にしてそれをヘラヘラ笑ってた。 因果応報ってやつよっ」


 過去にルーシーを怖い思いさせた上での嘲笑……あんなことをしておいて今更助けを請うなんて、虫がよすぎてイライラする

 。


 どうしようかと考え込んでいたところで反対方向から足音が聞こえ、気づいた時には2本の牙らしきものが壁を突き破っていた。


「なにあれ、デカっ!」


「牙? まさかあれが……」


 次の瞬間壁は崩壊し、大人3人分はあろう牙獣が私達を見下ろしていた。 あれが、グランド・ブルガス。


「ノエルちゃん、エイミーちゃん……遅かった」


 狭い氷窟で密集した人間と一匹の巨獣、隙をついて逃げれば私達だけならどうにかなる。 私達だけなら……。


「コイツら助けるつもり? 昨日ルーシーをあれだけひどくこき下ろしたのよっ?」


 エイミーの言う通りだ。 彼等は望んで悪意を抱いた結果、その命運は私達に握られている。

 ルーシーの悔しさを想うのならこのまま捨て置きたい気持ちがないわけじゃない。 

 けど、それでも……。


「ひ、ひぃーっ、こっちに向きやがった。 俺なんか食っても美味くねえぞ。 食うんならそのディルに」


「おいふざけんなモリスっ! テメェ見損なったぞっ!」  


「やれやれ。 自分らがピンチになったら今度は隣の仲間を売るなんて、ほんっと救いようがないわ。

 ノエル、ルーシー、こんなヤツら置いて帰りま……ノエル?」


 気がついた時には私は剣を地面に突き刺し、氷を媒介とした縄でブルガスを拘束していた。


「ごめんねルーシー、こんな最低な人でもそれでも、見捨てるなんてできないよっ」


 仲間への人情より悪意の人命の救助を急いだことが申し訳なく目を閉じたが次の瞬間、ルーシーの優しい言葉が私の耳に届いた。


「よく言ったわノエルちゃん。 それでこそ、私の自慢の妹ちゃんよっ」


 その言葉と同時にルーシーは一瞬でブルガスの頭上へ移ると躊躇なくハンマーを振り下ろし、一対の片側の牙にヒビを入れた。


「あの一打を受けてまだっ? ルーシー、あの魔物ってグランドがつくだけあってこんなに硬いの?」


 私の問いにルーシーは半ば独り言のように「いや、違う……」と呟いた。


「2人とも手を貸してっ。 訳は後で話すわっ」


「結局こーなるんじゃないのぉっ。 まぁあたし達らしいっちゃらしいわね、んでコイツどーすんのっ?」


「ノエルちゃん、術でブルガスの顔固定できる? エイミーちゃんは視界を奪いつつ彼等を入り口まで」


「あーはいはい、アンタらノエルとルーシーに感謝することねっ」


 ルーシーの指示で私とエイミーは連携を取る。

 氷の柱でアゴを突き上げ、1本の矢が両目を貫いたのと同時に上空から強い衝撃が走った。


 鈍い声を発しよろけたところを風と氷で刃を振動させ、心臓めがけて高速で斬り裂く。

 やったかと思い見上げるも痛みで興奮しだした巨獣は前足を何度かバタつかせ、私のいる方角へ迫ってきた。


 どうにか避けようとするも加速が間に合わない、水操の術でも使って上に飛ぼうかと策を練るも、いつのまにか私は視界は下を向いていた。


「あれ、ここって背中? じゃあ下にいるのって……」


 覗きこんでみると私がいたはずの地上でルーシーがハンマーを下からブルガスのアゴ目掛けて思い切り振り上げていた。

 一打を食らったブルガスは思い切り身体を反らせ、私は振り落とされないようしがみつく。


「ノエルちゃん、頼んだわよ」


「任しといてっ」


 刃砕剣の溝に風を纏わせブルガスの背に剣先をあてがうと無数の風が刃となって踊りだす。

 さすがにこの風刃を相手ならこの巨体もどうにかと思うも私は過去に経験した違和感に気付く。


「どうしたのノエルちゃん」


「ブルガスの傷、再生してるっ!」


「やはりね。 あれは私の知ってるグランド・ブルガスじゃないわ」


 さっきルーシーが違うと言った理由がわかった。 フォレジアの森とかで対峙した体内に核のある魔物だ。 なんで南の大陸にいたのと同じ変異魔獣が?


「ルーシー私、似た特徴の魔物倒したことあるよ」


「そうなの? それなら話が速いわ」


「でも倒し方が特殊で、エイミーもいないと倒せるかどうか……」


 2つの弱点を同時に打たなければ討伐はできない、どうにか時間を稼ごうと構えるが後方から聞こえた声に私とルーシーは同時に振り向く。


「あたしがなんだってぇー?」


「エ、エイミーっ」


「ふふ、真打ち登場……なんてね。 さて、あたしも来たからにはこのデカブツさっさと片付けてメシにするわよっ」



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