囮、過去との対峙
「ここがスノウガリア……」
「聖都はわかりやすいまでの首都だったけどここはどっちかというと要塞みたいね」
門というよりは城壁のような仰々しさにポカンと口を開けたまま見上げる私とエイミーにルーシーが若干呆れ気味になる。
「お上りさんに見えちゃうわよ? 行きましょ」
さすが北の大陸の最北端の首都、そこかしこが白んでいるのもそうだけど身体の冷えがはっきりとしていてこのまま外にいちゃ風邪をひきそう。
私は震える声でアゼルさんに問いかける。
「この後どうされるんですか?」
「とりあえず本部に戻って一連の報告を済ます。 ノエルさん、いろいろありがとう」
アゼルさんに続きシェスカさんがいつになく神妙に頭を下げる。
「アタシの方からもありがと。 それと最初の頃のこと、ごめんなさい」
「そんな、気にしないでください」
「アホ2人が迷惑かけたな。 また縁があった時はよろしく頼む」
ラウムさんが淡々と挨拶をするとエイミーが前へ出る。
「いつでも歓迎よ。 あなた達の依頼なら良き仲間として永久的に出血大サービスの価格で請け負うわ」
「そう言ってくれると助かるわ。 ありがとう赤毛さんいや、エイミーさん」
挨拶を交わし調査隊のみんなを見送ると緊張が解けたのか私は急に素に戻りルーシーに向き直る。
「さ、寒-っ。 ねぇ、とりあえず暖取ろうよ」
「そうね、いつまでもここにいたら体力の低下を招きかねないわ」
「よぉーし、そしたら酒場に行こうよ。 ルーシーは酒、あたしは肉ーっ」
安直な提案ではあるけどエイミーの提案に賛成。 冷えた身体を暖めるにはなんにしてもエネルギー補給が先決と言うことで酒場の扉を開けどの席に座ろうか……と周囲を見渡すと妙な違和感に気付く。
「とりあえずこの席にしましょ」
「ちょっとルーシーどうしたってのよ、そんなそわそわして……」
「うん、ちょっとね」
ルーシーの様子の異変の理由に私はすぐわかった。 前方の男達がこちらを見てニヤニヤしてる。
どういうつもりかと様子を見ていたら男達はケタケタ大声で笑い出した。
「おーおー、誰かと思えば囮のルーシーじゃねぇかよ。 グランド・ブルガスを前に生きて帰るたぁ、やっぱ持つべきものは囮だな、なぁオメェら」
「いやぁホントだぜ。 おめぇが囮になってくれたおかげで俺達今ハンターランクA 級だぜ? んでどうだ、新しい現場でも囮やってんのか? 嬢ちゃんら、成り上がるコツは上手くコイツを扱うってことだぜ」
この時、私の中で怒りとかそんなものでは片付けられない思いが湧き上がるのが嫌でも実感できた。
それを理解するのとほぼ同時にエイミーが男達の前へ出る。
「アンタら、黙って聞いてりゃなによさっきからルーシーに……ここが店だろうが関係ない、ぶん殴ってやるわっ」
「やめなさいエイミーちゃんっ、そんな奴ら殴る価値も……」
気がついた時には2人より前へ出ていて、男の1人はあからさまな様子で私を威圧してきた。
「あ? なんだこの小娘」
「あなた達の言ってるランク、ルーシーなら楽々Sランク行けますよ? それも1人で」
こんな言い方したくなかったけど、この時の私には彼らが人の姿をしたなにかにしか見えなかった。
仲間を見殺し同然にして利益を得るなんて獣ですらない。
私が煽り立てると人の形をした者の1人が逆上して席を立つ。
「っだと、このクソ生意気な小娘があぁぁぁっ!」
動きがわかりやすい、詠零術を使うまでもなくただ風素をぶつければ簡単に吹き飛ばせる。
だが私の手から鋭利な突風が放たれることはなく、眼前の男の腕はルーシーに掴まれていた。
「私のことはなに言ってもいい。 けど大切な妹ちゃんになにかしようものなら……わ か っ て る わ よ ね?」
「っ! なんだよこの怪力、テメェホントに囮の……白けちまったぜ。 オメェら、アジトで飲み直しだっ」
男達がバツ悪い様子で店から出るとさっきの顔の強張りがなかったかのようにルーシーは私とエイミーへ振り返った。
「さ、気を取り直して腹ごしらえにしましょうか」
なにごともなかったかの様に席へ向かおうとするも、私はルーシーの手を掴んで制止した。
「保存食でいいから宿に行こう。 ここでは食べたくない……」
「ノエルに賛成、あたしも今だけはここにはいたくないわ」
「2人とも……そうね、そうしましょ」
この後私達は宿のフリーのスペースでグリズの干し肉を食べてすぐ部屋の手続きをルーシーが代表で手続きしたのだけど、なぜかルーシーが1人、私とエイミー2人での相部屋で割り振られていた。
やはり心配なのか、ベッドの上でエイミーは釈然としない様子で眉をしかめてる。
「わざわざ1人を選ぶの、わかってはいても心配よね。 顔出しくらいでも行こうよ」
「ううん、そっとしてあげよう」
私の言葉にエイミーは納得いかない様子で様子で声を上げた。
「どうして? なんか放っておくのノエルらしくないよ」
「放ってる……とは違うかな。 今ルーシーの想いは心の箱に厳重に保管してあるようなものだから無闇に突いちゃいけないと思った……それだけ」
「難しく聞こえるけどつまり、ルーシーは今自分と向き合いたいってことよね? そういうことなら尊重するわ」
きっとここに来てこうなることを見越してついてくる意思を示したに違いない。
それなら今回はルーシーに深く介入はしないでおこう、きっとそれがいい。
「私達もそろそろ真ん中にならないとね」
「なにそれ?」
「ルーシーは店長を支えて私達を引っ張ってくれた。 これからは私とエイミーでルーシーを支えてモニカを引っ張って……ってね」
「つまり、責任重大になってかなきゃってことよね」
「もぉ、まとめ方がざっくりしすぎだよ」
あっけらかんとしたいいように思わず肩の力が抜けてしまい呆れ気味に言うとエイミーは「へへっ」と笑い返した。
「わかりやすくていいでしょ? 上を支えて下を引っ張るってのは負担大きいんだから考え方くらいは楽にいかなきゃ」
「そうだね、明日は私達でルーシーのケアしなきゃね」
そんな風に思ってないけどこの時の私はまだ知らなかった。
ルーシーかただ裏切りに傷ついた悲しい女性じゃなく強い思いを秘めたプロだということを。
「ところでロウさんは引っ張ってあげないの?」
「……あの人は別枠だってば」




