ルーシーの過去
見張りを始めること数十分、疲れがきていたのかエイミー達は間もなく寝息を立て、起こすことのない程度の大きさの声でルーシーに話しかける。
「ごめんね、いきなり一緒に見張りやりたいなんて言い出して」
「構わないわ。 なにか聞きたいことがあるんでしょ?」
「やっぱバレたか。 実はね……」
西の大陸でリズィと信徒を前になにもできなかった自身の不甲斐なさを零しながらいつもより赤く燃える薪の火を見つめる。
強行してでもアスヴェインを奪還するべきだったかを問うとルーシーはなぜか笑みを浮かべた。
「確かに、信徒を術で眠らせてリズィのみを捕縛に向かえばアゼル君達やヴェルクの故郷を取り戻せたわね」
「そうだよね。 なら次対峙した時は……」
心を鬼にしよう。 そう決めるもルーシーはすぐ話を続ける。
「けど、もしそうしてたら私はノエルちゃんを見損なっていたわ」
「ど、どういうこと? 言ってることがよく……」
「確かにリズィという者を捕縛すればアゼル君達の故郷は奪還できた。
けど信徒の方々が光を失った絶望を思えば……それがわからないあなたじゃないでしょ?」
ルーシーの言葉が腑に落ちすぎて困る。
リズィを守るように前に出て涙を流す彼女達の自由意志を奪って眠らせるなんてこと、私にはできなかった。
「それでも、信徒さんの心を守るためにアゼルさん達の居場所を取り戻せなかった。
私はどうすれば……」
「そうねぇ……悩みなさい」
「え、教えてくれないのっ?」
「いっぱい悩んで模索して、ノエルちゃんにとっての最善を見つけなさい。
フェイス君とシェイナちゃんを救ったようにね、あなたならそれができる」
そうはいっても、あの兄妹を救えたのは今は亡きセリガムさんが捕縛を制止してくれたのとイリスさんが良き為政者だったからで私1人の力では、思わず苦笑してしまう。
「買いかぶり過ぎ。 目の前の人を全員救いたいっていうただの理想論、それだけだよ」
「理想論、いいじゃない。 いつかそれが誰かのためになるわ」
「ありがとう。 ルーシーが言うとなんにでも無駄はないって思えてくるよ」
信徒さん達の心を傷つけずどうすればアスヴェインを奪還できるか、私なりの答えを探し続けよう。
そんな想いに浸っていると唐突にルーシーが「実はね……」と呟く。
「用があるって事務所で言ってたじゃない? 実は私、この地での生まれなのよね」
「やっぱりね」
「気づいてたのっ?」
私の呟きにいつもの冷静さはどこへ行ったのか、あらヤダといった様子でルーシーは口に手を当てていた。
「だってお金に目がないルーシーが休暇申請して同行するんだもん、故郷だからか因縁の地だからかなって2択に絞られるよね?」
「確かにね、っていうかノエルちゃん最初の一言は要る? ねぇ要るっ?」
さっきまで頼れる姉御として諭したと思いきや、年頃の女の子みたいに肩をつかんでユッサユッサと揺らしてきたり忙しいお姉さんだなぁ……。
「まぁそれはそれとして」
「ノエルちゃん最近流すの上手くなったわね」
「色々あったからね。 それで、なにか思うことがあってついてきたんだよね。
妹分でよければ今度は私に相談に乗らせてよ」
今だけは聞かれることを望んでるような、そんな風に見えて距離を縮めるとルーシーは一呼吸置いてからハート・ユナイティスへ来るまでのことを話し始めた。
「私ね、ピオスへは跳んできたのよ」
「それって、転移?」
「えぇ、当時はスノウガリアでハンターとして稼いでたんだけど、巨大な魔物を前に死への絶望と生への渇望が入り混じる中、突如座標転移が発動したわ」
「そんなに難易度の高い任務だったの?」
妙だ、頭がキレて合理性のあるルーシーが手に負えない魔物、実力に合わない任務は絶対に受けないはず。
変異種ならともかくそれだって注意勧告あれば遭遇しない対策もするものなのに、どういうことかと勘繰っているとルーシーは自己批判めいた顔で切りだした。
「囮にされちゃったのよね、私」
「ちょっと、囮ってどういうこと?」
「そのままの意味よ。 4人でAランクのグランド・ブルガスを討伐しに行った時なんだけど気がついたら私の退路全部塞がれててね、あとはよろしくーとかいうふざけたほくそ笑みの声が最後に聞こえたわ」
もしそこに置かれたらどんな想いか、自身のことに置き換えて考えると途端に怒りが湧いてきて思わず「ひどいっ!」と叫んでしまった。
「シーっ、みんな起きちゃうでしょ?」
「ご、ごめん」
「いいのよ。 今回は復讐のために行くわけじゃないから」
「ならどうして?」
「呪いを解くため、かしら」
ルーシーの一言が難しくて理解が追いつかない。 もちろんなんらかの比喩ではあるんだろうけど、これ以上は深掘りしちゃいけない気がした。
「その呪い、今回の任務で解けるといいね」
「ありがと、良き妹ちゃんに恵まれたものね。 さて、交代の時間だしエイミーちゃん達を起こしましょうか」
眠気眼をこすりつつ私とルーシーはエイミーとアゼルさん達を起こし、ルーシーの過去に蹴りがつくのを願いながら眠りにつくも、その時が来るのに時間はそうかからなかった。




