狩ること、弔うこと、食らうこと
「着いたわよ。 あなた達調査隊にとっても私にとっても関わりのある地、ノーザンレイス」
「え? アタシ達今ピオスにいたはずよね?」
「もう着いたって、マジかよ……」
事務所で集まることほぼ数秒で私達は北の大陸へと到着した。
座標転移、アゼルさん達は知識として知ってはいたんだろうけど改めて体験すると百聞は一見にとでもいうのか、やはり驚いてる様子だった。
知識欲が人一倍強いラウムさんがその仕組みに興味を示す。
「ルーシーさんだったか、ロストアーツというものは俺達でも扱うことはできそうか?」
「難しい、というより不可能ね。 これは血統で引き継がれる能力だから」
「ノエルさんでも無理ということか、やはり英霊術や詠零術とは違うのだな」
ルーシーがこの力を得た経緯は恐らく店長以外知らない。
どうやって転移を扱えるようになったのか私も興味がない訳じゃない。
けどそれを探るのはフィオラさんが言っていたように『心の箱』をこじ開けるみたいであまりに無粋だからルーシーから話してくれる時まで待とうと決めた。
ノーザンレイスの雪道を歩くことしばらく、エイミーが思い出したように疑問の声を上げる。
「そういやルーシー、スノーガリアの位置はわかるのよね?」
「故郷に近い首都だから当然覚えてるわ」
「でも徒歩なんだ……」
「あのねエイミーちゃん、6人よ? 団体よ? ピオスからあんなとこノエルちゃんから霊素分けてもらったってお姉さん無理よっ」
「ごめんってば。 謝るから落ち着いて、ね?」
あー、久しぶりにルーシーのゴネタイム始まっちゃった。 このお姉さんキャパオーバーすると若干の退行するんだよなぁ。
私とエイミーは慣れてるからいいとしてやはりといったところか、アゼルさん達が困惑してる。
「えっと、ルーシーさん?」
「急にどうしたの?」
「一応聞くが以前ノエルさんと手合わせしたのと同一人物、で間違いないよな?」
「ええっとっ、このお姉さん経理も兼任してるから糖分不足でこうなっちゃうんです。 見なかったことにしてあげて?」
オタオタする私を見て察してくれたのか、アゼルさん達は特になにを見たわけでもないといった様子で踵を返した。
歩くこと数時間、この地の特性か魔物にはほとんど遭遇していない。
僅かでも交戦すればいくらか違うのだけど、こうも歩くだけだと寒さに堪える。
「それにしても、北の大陸って名だけあって寒いわね」
エイミーの言葉にシェスカさんはシレっと返した。
「そう? 今日はこれでも暖かい方よ」
「はあぁぁぁっ!? ウソ、絶対ウソよ。 だってこの寒さピオスの真冬並みだもの」
「エイミーちゃん、残念だけど彼女の言う通りよ。 私もノーザンレイスでの生まれだからよくわかるわ」
「マズくない? こんな寒いとこで野宿とかマズくない? 凍死待ったなしよっ」
確かにこの寒さの中夜を迎えるのは避けたい。 魔物がいない反面この気候の低さじゃ徐々に体力を奪われるに違いない。
とはいえ、私とエイミー除いた全員がこの地に関りがあるから無策ということはまずないはず。
「暖の当て、なくはないんですよね?」
私の問いにアゼルさんが珍しく得意な様子で答える。
「当然だ。 じゃなきゃこんな状況で落ち着いてるわけねぇよ」
「ですね、頼りにしてます」
それからもしばし歩いて間もなくアゼルさんの足が止まり周囲を見渡し始めるとそれを見つけるのに時間はかからなかった。
「確かこの辺りに……お、ここだここ」
「あれは、洞窟……ですよね」
「ああ、ピオスへ行く途中もここを寝床にしてな、まぁ寒風しのげるだけ御の字……こりゃツイてるな」
「どうしました?」
なにか気配を感じ取ったのかアゼルさんは腰から短剣を抜き、いかにも「ラッキー」と言いたげな笑みを浮かべる。
「寝床ついでに飯があったぜ。 6人いても余りそうだ」
その言葉から魔物が洞窟を巣にしてることがすぐにわかり、熱素で周囲を照らすと中には大きいクマ、フロスト・グリズの親子が爪を剥き出して構えていた。
「でかいな。 アゼル、どうする?」
「さて、どうしたもんか……」
狭い洞窟の中で数人での大立ち振る舞いなんて、こりゃ危ない。
サクッと狩ってみんなを安心させなきゃ。
「エイミー、目狙ってっ」
「オーケー、っりゃあぁっ」
「みんな離れてっ」
剣の溝から雷素をグリズに当て続けること数十秒、2頭のクマは断末魔と共に倒れ込み絶命した。
再び起き上がらないことを確認するとアゼルさんが準備万端とばかりにナイフを出す。
「ノエルさんエイミーさん助かった。 さて、早速飯に」
「待って、その前にこの子達を弔わせてください」
「なんで、俺達はコイツを殺生だけでなくましてや今から……」
「妙な行動と思われるのも、もしかしたら私が許されたいだけの身勝手なエゴかもしれないことは理解してます。 それでも……そうしたいんです」
私の訴えにアゼルさんはなにかを考え込むとナイフをバックにしまい、片腕からグリズを降ろして寝かした。
「そうだな……それがいい」
アゼルさんが同意を示すとルーシーが先頭に立ち両手を合わせる
「それじゃあ祈りましょう。 この子達が安らかに、そしてもし次があるのなら穏やかな生を得られるように……ノエルちゃん、それでいいわね?」
「うん、ありがとうルーシー」
生きてく上でなにかを犠牲にしなきゃいけないのは事実であり避けられないこと。
この命は、私たちがこの地で生きるための、避けられない代償だった。
だからこそ、私はこの親子のことを生涯忘れない。
奪った命を食料という言葉で片付けないこととその重さを背負い続けること、それが彼らの犠牲を私の使命を果たす力に変える唯一の道だから。
「街での暮らしに慣れたせいか、狩りたての匂いって結構キツいのね」
独特の臭気にエイミーがむせ返すとラウムさんが携帯用の鞄から小瓶のような物を差し出してきた。
「それならこれを使うといい。 スノーガリア名産のハーブで火を通した後も臭み消しとして使える」
「おー、助かるー。 ラウムさん結構準備いいのね」
「なんの知識もないまま初の調査に向かった時はこの臭さに参ってな、それ以来常備するようにしてる」
確かに普通なら臭み消しを使うけど、今はこのままでいい。
奪った命に向き合うためにも今は味なんていらない。
私は強い匂いを放つ肉に躊躇せず食らいついた。
「え、ノエルさんそのままいくの?」
「そういう好みもあったとはなんつーか、勇ましいな」
私の様子に驚くシェスカさんとアゼルさんをエイミーはその横で得意な笑みで見つめた。
「ふふーん浅い浅い、ノエルがそのまま肉を食らってる理由はそんなんじゃないわよ」
その一言の直後、なぜかラウムさんがハッとするような顔つきに変わった。
「まさか、そのまま食すことでなお弔いを続けているのかっ?」
「市場だと麻痺しがちだからこういう時はそのままいただくことがこの子達への手向けになる気がしたんです……綺麗事ですけどね」
意味のないことと知りつつもラウムさんの問いに答えるとルーシーから現実的な意見と感情による肯定の言葉が返ってきた。
「そうね、確かに綺麗事ではあるけど、私はそういうの好きよ。
そういうのがあったからあの時の貧しい子も救えた……違うかしら?」
「ルーシー……」
「さ、この後も長いから一休みしましょう。
見張りの班決めないとね」
「それらならさルーシーっ」
「ん?」
「私ルーシーと見張りをやりたいっ」




