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リベレーター・元生贄と絶望から咲いた希望たち  作者: モッフン


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拭えぬ涙

「セレスはロックバインド、フィオラはエンハンスを頼む」


「あいよっ」


「それじゃヴェルク、任せたわね」


 アイウォンを離れること2時間、私達は毒鳥の襲撃にあい対応に出ようとするもほぼヴェルクさん達で鎮静化に向かいつつあった。


 セレスさんとフィオラさんが指示通り拘束と強化の術を発動する。

 詠零術ではないにしてもさすが英霊術の基礎、ヴェルクさんの力が飛躍的に上昇してるのがわかる。 


「これで、終いだあぁっ!!」


 3人の連携の華麗さに圧倒されたアゼルさんが独り言のように呟く。


「すげぇ、あのポイゾニックズーを30秒で……」


「あの鳥を倒すの、そんなに大変なんですか?」


 なんとなく気になり聞いてみるとアゼルさんは深く頷きながらサバイバル知識の講義が始まった。


「大変もなにも遠距離から毒の玉を飛ばしてくるからな。 仕留めるには罠で毒袋の気道を締めてからじゃないとどうにもならない」


「それは、確かにすごいですね」


 改めてサイラの精鋭のすごさに感心しているとラウムさんとシェスカさんが私についての分析を始めた。


「ノエルさんもやろうと思えば可能じゃないのか? あの術の速さと威力は目を見張るものがある」


「右に同じね。 野盗の命を奪わずしての無力化なんて相当な実力がないとできないと思うわ」


「いえそんな、剣技や術の実力自体はあの3人の方が上ですよ」


 そう答える私にシェスカさんから「謙遜しないの」と言われるけどそうではない。

 実際にペンダントなしでは英霊術士2級じゃリュミアさんの試練にさえ辿り着けない。


 剣術においても術なしではヴェルクさんの手に持つ鉄塊に弾かれて私の剣は宙を舞うに違いない。

 けど不思議と悔しくはなくむしろ同じ便利屋として誇らしくさえ思えてくる。


「あのっ」


「確か、調査隊のアゼルだったか。 どうした?」


「どうすれば、俺達もあなた達のような実力をつけられますか?」


 真剣な顔つきで向き合うアゼルさんにヴェルクさんは戸惑いつつも言葉を選ぶ様子で答えた。


「俺のようになぁ、ならなきゃいけないってことはねぇよ」


「俺にはその力はない、そういうことか?」


 食い下がるアゼルさんにヴェルクさんは「んなんじゃねぇよ」と諭し、一呼吸置いてから話を続けた。


「オメーらは俺達と違って生きて報告しに帰るのが本分だろ? ケガなんてしたら本末転倒だ。

 オメーらにはオメーらしかできねぇことがある」


「俺達にしかできないこと……あ、ありがとうございますっ」


「いい眼してるじゃねぇか」


 やっぱり私のよく知るヴェルクさんだ。

 それにしてもヤサグレてた、かぁ……想像つかないな。


 そんな風に思いを馳せているとイタズラ感丸出しなセレスさんの声が聞こえてきた。


「へぇー、言うじゃん」


「なにがだよ?」


「兄貴分だもんねぇー」


「……うっせ、さっさと行くぞ」


 どれだけ進んだか、森を抜けると寂れた建物の景色が散見される。

 アスヴェインが亡国となったのが10年ということを風化したレンガが物語っている。


「帰ってきた。 俺達の故郷」


 呟くアゼルさんの言葉に答えるようにヴェルクさんが横で呟く。


「んで俺の故郷でもある。 だいぶ早く帰ってきちまったがな」


「どういうことですか?」


「いやな、世話んなった土地に貢献してから帰るつもりだったけど依頼に絡んでるヤツのせいで事情が変わったんだよ」


「ヤツ……もしかして」


「今にわかる」


 アゼルさんの問いにヴェルクさんはそれ以上答えることはなかった。

 昨日聞いたからわかる、ヴェルクさんがここまでしてアスヴェインの件に固執する理由が。


 セレスさんとフィオラさんもその理由を知っているからか無言のまま歩みを進めること数分、その時は来た。 アゼルさんはこれまでにないほどに警戒した様子で構える。


「ノエルさん、あの冷たさと憂いのある目、あの女が……」


「そうです。 数ヶ月前サイラを覆い、人々に混乱をもたらした因縁の相手」


 アゼルさんが今にも飛び出しそうな勢いで出ようとするも、それよりも強い勢いでヴェルクさんが前に出て早々、剣の柄に手を置く。


「よぉ、サイラではよくもやってくれたな」


 その声にリズィは意に介すことなく横目で返した。


「私達の楽園にようこそ。 けどそんな物騒な物をぶら下げるなんてあまりに無粋ね」


「楽園か、他人様の居場所奪ってのたまえるのは大した神経だなおいっ!」


 ヴェルクさんが怒りを露わにしたのと同時に私はリズィの前へ出て毅然と主張した。

 例え刃を交えても止めるという強い思いで私は前へ出る。


「ここはアゼルさん達が生まれ育った大切な地です。 それを奪う権利なんて誰にもない。 リズィ、あなたには去ってもらいます」


 私がそう宣言するのを待っていたかのようにアゼルさん達は次々とリズィの行動への糾弾を始めた。


「俺達の故郷をいいように……ふざけんじゃねぇぞっ」


「奪えば奪い返す者が現れる。 どういうことか理解できるわよね?」


「俺達で取り返す。 必ずだ……」


 そしてヴェルクさんがリズィにじり寄る。


「つーわけだ。 悪いがアンタを立ち退かせるついでにここでサイラでの雪辱戦とさせてもらうぜ」


「いい提案じゃない。 ただ、それが私だけを相手にするならね」


「んだとっ?」


 6対1の状況に臆してない? いったいなんの狙いが……と思うもその刹那、十数人の信徒らしき人々がリズィを庇うように私達の前に立ち塞がった。


「リズィ様に酷いことするなっ」


「彼女は私達の光」


「あぁそうだ、居場所のない俺達に救いの手を差し伸べてくれた。 ここは通さないぞ」


 彼等は九つの希望の信徒? このままじゃとてもリズィの前へ出れない、だったら……。


「申し訳ないけどみなさん、眠ってもらいます」


 詠零術、誘眠なら彼等を傷つけずに済む。 発動を試みようとするも、リズィの言葉でそれは阻まれてしまった。


「意思に反し強制的に眠らせるのはある種の暴力、違うかしら?」


「それはただの詭弁です」


 リズィの言葉に私は構わず術の発動準備にかかるもフィオラさんとセレスさんから制止を承ける。


「エルちゃんストップっ。 ここで強行すれば彼女の思うツボよ」


「フィオラさん……」


「ノエルン、ここはフィオラに……」


「信徒のみなさん、己の楽園のために他者の居場所を奪う、あなた達のしてることは矛盾に満ちています。

 略奪はそれを取り返そうとするものが現れ、終わりなき争うが生まれます」


「そんなのわかってるわよ。 けど、他に方法が……」


 彼女の瞳にはすぐにでも安息につきたいと言わんばかりの切実な思いが宿っていた。

 そして私はフィオラさんより更に一歩前へ出る。


「南の大陸の聖都に、そこにいる知人の為政者ならあなた達を受け入れてくれます」


「まだ耐えろと、そう言うのですか?」


「え……?」


 私の言葉に信徒は安堵することなくむしろ不安を募らせた顔を浮かべていた。


「あなたの申し出は正しいしありがたい。 けど、北の故郷で絶望する中私達は彼女の差し出してくれた手によりようやくここへ辿り着けました」


 信徒が切実に漏らすがヴェルクさんは納得することなく拳を握りながら前へ出る。

 まるであの時の怒りを堪えるかのように。


「そんな御大層な考えならリズィ、テメェがサイラで引き起こした混乱、ありゃなんだ? あんなことしといて救世主気取りか、大したもんだなぁっ!」


「あの街にも貧困に喘いでる人はいた。 それに気付かなかったあなたじゃないでしょう?」


「そこにはその貧困の者もいた、だがそいつらも巻き込みやがったろうがっ。

 テメェに都合のいい解釈すんじゃねぇっ」


 ヴェルクさんの言う通りだ。 あらゆる人を巻き込んで自身の計画の免罪符にする。  

 そんなやり方は歪み過ぎてる。


「信徒のみなさん、彼の怒りを見てもそれでも、彼女を支持しますか?」


 サイラでの行いを訴えてもそれでも彼等、彼女達はリズィの側から離れようとせず結束していた。


「ここには病人だけでなく教育が行き届かなかった人もいます。

 聖都へ行っても私達はまともに働けるかわかりません。 それに……届くか保証のない希望を背負って歩くことにもう疲れました」


「渇きを覚えた人私達にとっては遠くのバケツいっぱいの水よりすぐにでも目の前の器1杯の水を望が欲しい、わかってはもらえませんか?」


「リズィ様は絶望する私達に今も寄り添ってくれてる。

 私達には明日の遠くの光より今目の前の光なんです。 それじゃ……ダメですか……?」


 ……っ! もう立ち上がれない、そんな思いのまま歩かされることはあまりにも残酷すぎる。

 頬を涙が伝う信徒を見て私はこれ以上なにも言うことができなかった。


「アゼルさん、ヴェルクさん……」


 取り戻すんだ。 彼等にだってここは大切な居場所だから、そう思いながら信徒の元へ近寄ろうとするも、その歩みはヴェルクさんに手を掴まれ敵わなかった。


「もういいノエル。 悔しいが、ここは撤退だ」


 調査という名の任務そのものは成功だがアゼルさん達やヴェルクさんの本懐を遂げられなくて煮え切らないものを感じた私はせめてもの抵抗としてリズィにある問いを投げた。


「悩める信徒の方にここまですることができるのならどうして、セリガムさんも助けてあげなかったの……仲間だったんでしょっ?」


「彼は裁かれることを救いとしていた。

 ならそれを阻止する権利なんて誰にもないわ。 私にも、盟主様にもね」 

 

 リズィの真剣な眼差しを前に私達は背を向けることしかできなかった。


 調査そのものは達成されたけど絶望する信徒達への説得は叶わず、私達は撤退を余儀なくされた。

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