ヴェルクの過去その2
「事務所に戻るとさ、いかつい目つきの若僧うなだれるように座ってたんだよ。 聞くに西の大陸から来たみたいでさ」
「それがヴェルクさんなんですね」
セレスさんの話では当時のヴェルクさんはなにかに失望したような、それでいてなにかを取り戻そうとしてるような複雑な顔つきをしていたみたい。
「んで帰るなりあいつってばどうしたと思う?」
「どうって言いますと、便利屋に入りたいっ、とかじゃなくてですか?」
「ノエルンみたいに真っ直ぐな人ならね。
あいつ、木の棒をウィルに渡すなりこう聞いてきたのよ。 「ここで一番強いのはアンタか」てね」
「そして、どうなったんですか?」
固唾を呑むのも忘れて尋ねるとセレスさんはその頃を懐かしむように顔を上げる。
「そりゃあヴェルクのボロ負けだよ。 相手は元とはいえ騎士団長だからね。
けどあいつってば何度ウィルにふっ飛ばされても起き上がって、棒切れがボロボロになるまで向かってったのよね」
「反骨心というものですか?」
「それもあるんだろうけどどうやらあいつ、すご腕のハンターになりたかったみたい」
ハンターはルーシーも便利屋に来る前にやってたって話だったな。
主に魔物の討伐や賞金首を兵に突き出す仕事だったっけ。
「確かに実入りはいいけどそれにしたってリスクが高すぎます」
「そうね。 あたしら便利屋のような街との繋がりがなければ仕事も能動的に探さないと収穫はゼロ。
なにより完全なフリーの仕事だから仲間がいなくてもどうにかして稼がないといけない……総合的に見ると割に合わないわね」
「ならどうしてそこまで……」
「故郷再建のため、らしいよ」
「同じですっ。 調査隊の方達と」
反射的に出た私の言葉にセレスさんは「だろうね」と笑みを浮かべながら話を続けることを。
「できるだけ早くお金を貯めてアスヴェインの再建をさせたかったんだって。
すご腕ハンターの基準値としてウィルに挑むことにしたみたい」
「それでボロ負け、けど意外でした。
ヴェルクさん私が知る限りとても思慮深い人だったので」
「ウィルに色々鍛えられたからね、10年という歳月はデカ……とごめんノエルン、あたしゃここらで退散するね」
「りょーかいです。 また明日」
さて、私も帰ろう。 そう思い踵を返して歩こうとしたのと同時だった。
「まったく、セレスったら」
背後から柔らかいトーンの声の女性から声がかかり思わず振り向いてしまった。
「フィ、フィオラさんっ?」
目の前には怒ってるわけでもなく「やれやれ」とセレスさんが去った方角を見つめるフィオラさんがいた。
視線を私に戻すやいなや私の額を人差し指でツーンと軽く突いた。
「ヴェルクが止めてたのに余計なこと話しちゃって」
「ですね」
「エルちゃんもエルちゃんもよ? 話さない秘密は本当は心の箱に厳重にしまってあるものなんだから、悪い子ちゃんねぇ」
「す、すみませぇん」
優しい口調だからこそフィオラさんの厳しい言葉はダメージが大きい。
シュンと反省する中「それはそれとして」と話を続けた。
「ヴェルクが心配だったのよね。 不必要な発言で傷つけないか、配慮してくれたんだなってことは分かるわ」
「フィオラさん……」
「ということで差し引きいい子ってことにしておくわね。
あ、そうそう、さっきセレスから聞いた話は墓場まで持って行ってね?」
「ぜ、善処します」
てことはエイミーにも話しちゃいけないってことか。
口の硬さは自信あるけど、結構しんどい。
ポロッと言っちゃわないよう気をつけよう。
「それじゃ、明日も早いからお互い戻りましょ」
「ですね。 おやすみなさいです」
フィオラさんとも別れ、宿に戻るとまん丸なエイミーは既にいつものスリムな姿に戻っていた。
あれだけの質量の料理どこ行ったんだろ。
「あ、ノエルおかえりー。 散歩長かったね?」
「た、食べ過ぎちゃったからね」
「……ふーん?」
「な、なに?」
おずおずとうろたえる私にエイミーはいつものイタズラっ子のような笑みを浮かべた。
「そういうことにしといてあげる」
「そ、そういうことってどういうこと?」
「んー? 教えてあげなーい」
「教えてってばぁー」
エイミーの言葉の真意がわからないままモヤモヤの中眠りについた。
そして明くる日、私達はリズィとの対峙がただ刃を交えるだけに留まらないほど難解だということを身を持って知ることとなる。




