ヴェルクの過去その1
「いやまぁ、正直賭けだったがどうにか合流できて万々歳だ」
ヴェルクさんが上機嫌に酒の器を傾ける横でエイミーが納得いかないと言わんばかりにジトーっと視線を向けている。
「それよりもどういうことかきっかり説明してくれるんでしょうね?
なんであたしらんとこに来た依頼書を嗅ぎつけてんのよ」
エイミーが目くじらを立てて抗議するも、既にヴェルクさんは仕上がっていてそれどこじゃないっぽい。
お酒をあおるヴェルクさんにフィオラさんは話の前振りのようにやれやれと首を振る。
「私が代わりに話すわね。 あなた達が経った直後にウチの店長が仕事の相談をしてね、その時に西の大陸に絡む依頼をギルバートさんから聞いたの」
「でも、依頼の被りや便乗はご法度でしょ?
どういうことなの?」
エイミーが首を傾げるとセレスさんが文字通りお手上げの素振りをしながら答えた。
「ヴェルクのやつが聞かなかったんだよ。
西の案件なら俺が行くとか言ってさ」
「どうしてそこまで、非公式なら恐らく報酬も……」
「んと、実はさ……」
セレスさんが口を開こうとした時、叩くように器を置く音が響いた。
「セレスッ、時期が来たら話すことだ。 今は黙っていてくれ」
一瞬流れた重い空気、どうしようかと思ったらさすがエイミー、今度はシェスカさんやラウムさんまで巻き込んで空気を変え始めた。
「まぁあれね、細かい話は後にしてまず腹ごしらえしないと。 アゼルさんと普段酒場はあまり行かない? こういう場所では名産を活かしたもの頼むのが重要で……ほぉら、ノエル達もそんなボーッとしてないで」
「今行く。 セレスさん、後で」
「……りょーかい、んじゃまあとで」
セレスさんに背を向けて着席してしばらく、できあがった料理が一皿また一皿届く、それはそれでいいとして一言言いたい。
「エイミー、6人でとはいえ大皿多くない?
こんなに食べれるんですかね?」
「え? イケんじゃない? あたし狩人出身で腹持ち悪いし、アゼルさん達もそうでしょ?」
ドヤるエイミーに3人が一言ずつどんよりした様子でコメントする。
「俺は人並みだ、ラウムの方が食うぞ」
「だとしても多少食える程度だ」
「あたしは一番少食なんだけど、知らないわよ赤毛さん」
このヴェルクさんのお怒りとは違う意味で冷たい空気にエイミーの顔を徐々に曇り今度は私とロウさんに泣きついてきた。
「ね、ねぇロウさん武人だから大食漢よね?」
「むしろ武人は節制するのだが、知らないのか?」
「ノ、ノエルぅー。 これ経費で落ちない?」
さすがの私もこれには呆れて溜息が出てしまった。
「申請してみたら? 間違いなくルーシーから大目玉だろうけど」
「ん、ん、んにゃあーーっ」
その後どうにか食べきるも、エイミーのお腹はパンパンになりました。
それに比例してサイフはもちろんスッカラカンです。
***
「あー、ぐるじい」
「調子に乗ってあんなに頼むからだよ、というより絵本で出るようなあんな大皿ほんとにあったことにびっくり」
「しょうがないじゃない。 あの空気をどうにかって気持ち任せだったんだもの……あとメニューに書いてある料理名が美味しそうだったし」
後者が本音ということですねはい。
それにしても、このまん丸具合はいつかのモニカみたい、ということはエイミーとモニカの中身は同い年? まぁそれはそれとして……。
「ヴェルクさんの件だけど、どう思う?」
「あたしが見るにリズィへのリベンジに燃えてると見えたわね。
だってあの話の遮り方、男の子が恥ずかしいのを隠そうとするそれだったじゃない?」
「そんな単純なことかな? いくら手足出なかったといっても……っ?」
「どしたの急に黙っちゃって?」
「ちょっと散歩行ってくる」
私は強い霊波を感じ、一言だけ言い残して部屋を出た。
宿と酒場の間の広場で待つことしばらく、エイミーに似たノリの女性が手を降って駆け寄ってきた。
「お、来たねノエルン」
「呼びつけるような感じになっちゃってすみません」
「いいのいいの、積もる話もあるだろうし……ヴェルクのことよね?」
私がなにを言うでもなくセレスさんはすぐ本題へ誘導してくれた。
元よりそのつもりな私は早速酒場でのことについて触れる。
「ヴェルクさんって、アスヴェイン育ちですか?」
私の問いにセレスさんは息を深く吸ってから身体を向け、真剣な面持ちで口を開いた。
「そうだよ。 ヴェルクアスヴェイン鉱国の一般市民で国の圧政の被害者の1人だよ」
「やっぱり、そうだったんですね」
「それとこれも秘密の話なんだけどね、ミッスンとユーユを除いた古株ん中じゃヴェルクが一番の新人なんだ」
「それは、かなり意外ですね」
ウィルさんがトップなのは間違いないんだろうけど、まさかセレスさんとフィオラさんがヴェルクさんのの先輩だとは。
「まぁ意外に思うのも無理ないかな。
今でこそ頼れる兄貴分な雰囲気出してるけどあたしんとこ来た時はほんとヤサグレていてね……それを変えたのが、ウィルなんだよ」
「聞いてもいいですか?」
興味がないわけではない。 けどそれ以上にヴェルクさんに関係してる地でもあるのなら余計な言動しないための配慮するに足る情報が欲しかった。
「みんなのまえでは内緒だぞ? そうだねぇ、あれはあたしとウィルで任務に出かけたその帰りだったかな……」
そしてセレスさんは指を上に掲げてクルクルと遊ばせながら語りだした。
ウェステリアから流れ着き、自暴自棄になっていた青年の話を……。




