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北都側から大きな黄色い歓声がわきあがる。
第一コートで行われた7戦目は、栄一郎君が勝利をおさめたからだ。
「はぁ~…やっぱり畑中先輩のスタイルは真似できないや~」
同じ土属性であるりさちんでさえ真似できない栄一郎君のスタイルは、ほとんど異能を使わないからだ。
戦闘開始すると栄一郎君はコート上に大きな岩場をつくり、東都生の視界を悪くさせた。
そんな中でも金属性の先輩は果敢に挑んではいたが、栄一郎君は己と脚力と体幹、そして拳で反撃していた。
もちろん踏み込む瞬間や、撃つ瞬間に術や技をかけてはいるのだけど、誰にも真似できないスタイルに誰もが意識を奪われる。
栄一郎君が言うには、小さいときから瑠璃ちゃんや真紀ちゃんの競技をずっとそばでみてきたし、一緒にやっていたから、このスタイルに落ち着いたのだそう。
「立華!撮れた?」
「うん!ちゃんと撮れたよ!おめでとう、栄一郎君!」
栄一郎君から預かっていた携帯を返すと、笑顔で選手席に戻っていった。
そして交代するように待機スペースにあらわれたのは、目をキラキラ輝かせたたかちゃんだった。
修学旅行でできた東都の博貴ファンの悲鳴が、北都の歓声と混ざって聞こえてきた。
《ふうちゃん!次、たかちゃんの番だよ!》
《ほんと?相手は誰だろ?》
《えっとね~…》
と、東都側の選手待機スペースにいる生徒を見ようとすると、手すりから「楓!りさ!」と、ぴょんぴょん飛び跳ねがら私たちを呼ぶたかちゃんと目があった。
「たかちゃん、どうしたの?」
「ねねねね!!ダイヤちゃん、俺の戦闘、見てくれるかな!?!?」
「ふふ、大丈夫だよ。ダイヤちゃんもたかちゃんの戦闘、応援してくれてたよ?」
東都女子の選手席をみるとダイヤちゃんと目が合ったので、ちゃんとたかちゃんの模擬戦は応援できそうだ。
「ほんと!?ほんと!?」
「うん、だからダイヤちゃんにかっこいいところ見せてあげてよ♪」
「ありがと!!よ~し、がんばるぞぉ!!」
と、やる気でメラメラ燃えてきたところ、小鷹先輩に呼ばれたたかちゃんは元気いっぱい待機スペースに戻っていった。
「ふふふ、ダイヤちゃん、そわそわしてるね」
「ふふふ、頑張ってポーカーフェイスしてるけどね」
なんてダイヤちゃん観察を楽しんでいたらたかちゃんの対戦相手をふうちゃんに伝えるのが遅くなってしまい、理由も伝えたらふうちゃんも笑っていた。
《あ~その先輩か、博貴にはちょっと相性が悪いかもね》
《どうして?水属性ならたかちゃん有利じゃないの?》
コートに入った東都生は、たかちゃんにとっては相性のいい水属性のはず。
《普通だったらね。その先輩は水属性の属性を変えられるんだ》
《属性?アルカリ性とか酸性とかのと?》
《ふふ、おしい。水って変幻自在でしょ?先輩は水に火属性や雷属性の術をかけて、属性を付与することができるんだよ》
《そ、そんなことできるの!?》
それはなんだかふうちゃんみたいに擬似的に全ての属性をもつことに近いのかな?と思った。
でもふうちゃんが言うには、付与できる術には限界があるし、それなりのリスクはあるのだそう。
その弱点をつければ一気にたかちゃんが有利になるが、簡単に見つかるわけではないので、ダイヤちゃんもそわそわしていたのだろう。
《でもきっと大丈夫だよ、たかちゃん、あぁ見えて人のことよく見てるからね!》
《うん、俺もそう思う》
とは言っても、どこか抜けているところがあるたかちゃん。
これまでのどの模擬戦よりも応援よりも心配が勝る8戦目が開始された。
すると意外にもたかちゃんは、東都生から距離をとりつつ足場をせめる遠距離攻撃を仕掛けていた。
いつもなら相手の属性も考えずに飛び込んでいくことが多いのに、たかちゃんのスタイルを熟知している私たちは少し面を食らった。
東都生は逆にたかちゃんに近づこうと距離を詰めているが、たかちゃん有利の足場なゆえにすぐに離れられてしまい、間合いを崩せないでいるようだ。
《ねぇふうちゃん、もしかして先輩のリスクって距離のこと?》
《さすが、えでか。よくわかったね。そうなんだ、一定の水量に術をかけるには、操作しやすい距離じゃないと難しいんだ》
遠くに攻撃をしようと思うと水量が散らばってしまって術も散らばってしまう。
固まったままの量を操作できるのならいいけれど、それには細かいコントロール力がかなり必要になる上、術の発動も同時に行わなければならない。
高校生ではなかなかの飛距離ではあるが、それでも相手を自分の間合いに引き込めるかがカギになるそうだ。
《そっか…でもたかちゃん、よく一目でわかったね…》
《北都にいいアドバイザーがいたのかもね》
そういえば開始前に小鷹先輩に呼ばれたと言っていたので、もしかしたら小鷹先輩がたかちゃんにアドバイスをしたのかもしれない。
しかし模擬戦はなかなか進展がなく、お互い苦戦しているように見える。
「たかちゃん、遠距離攻撃狙ってるみたいだね」
「うん…でもさっきから全然撃ててないね…」
おそらくたかちゃんの手持ちの技に遠距離攻撃のパターンが少ないからだろう。
近距離で戦うほうがおもしろい!がたかちゃんのスタイルなので、きっといま距離をとりながら考案しているのかもしれない。
そして先輩もそれに気づいているから、考える時間をあたえないよう、動きまわって意識をそらしているようだ。
戦闘時間も残り1分をきった。
このまま引き分けかと思われたが、なにか閃いた顔をしたたかちゃん。
口角がぐっとあがり、目に力がはいる。
「あ!!あれ…」
たかちゃんは細い枝を絡ませ、まるでダイヤちゃんの鞭のような枝をつくりだした。
「俺、やっぱりこっちのほうがいいや!」
と見学席にも聞こえる声で、いっきに先輩との距離をつめていった。
先輩は好機ととらえ、指さす水球にキラキラと鋭い刃をつめたかのように術を仕込むと、向かってくるたかちゃんに撃ち込んだ。
「あっ!!!」
北都生の悲鳴に似た声が一斉に聞こえた。
しかし先輩の水球はたかちゃんにあたることなく、小さい水滴になって壁を濡らした。
たかちゃんは高い身長を限界まで下げ、先輩の足元に攻め込んでいた。
「ニカッ」と笑ったたかちゃんは、攻め込んでいるときにいつの間にか手元にまとめた鞭を振るい、顎にクリーンヒットした先輩は天井高く飛び上がった。
「勝者!北都高校!!佐藤博貴選手!!!」
床に激突した先輩はコートの外で、気を失ったためたかちゃんの勝利で8戦目が終了した。
黄色い声援にこたえるようにあちこちに手をふるたかちゃん。
一部の方向だけ熱心に、両手でブンブンと音がきこえるくらい手をふっていた。
「…ダイヤちゃん、顔真っ赤だね」
「…このあとの交流会で話聞かなくっちゃね」
恥ずかしさの限界を超えたのか、ダイヤちゃんは廊下に逃げていったようで、私とりさちんはあまりにもかわいくてニヤニヤがとまらなかった。
《博貴勝ったんだね》
《うん、でも最後はヒヤッとしちゃったよ》
《でもいいタイミングだったと思うよ》
《そうなの?ずっと遠距離から攻めるのかと思ったけど》
《そう油断させたんだろうね。火属性より鉱石属性の術のほうが発動しやすいから、術もしぼらせたんだろうし…これは俺も油断できないね》
遠距離での攻撃が我慢できなくなって攻め込んだように見えたたかちゃんの戦闘は、実はそこまで考えたれた作戦だったかもと思うと、私はまだまだ見えない異能戦の見方が甘いなと思った。
《でも勝つんでしょ?ふうちゃん》
《もちろんだよ、博貴だろうとゆうただろうと負けないよ。負けるのは兄ちゃんだけで十分…》
思わず声をあげて笑いそうになった私は、ノートを顔に限界まで近づけた。
りさちんがお手洗いに行っていてよかった…。
今日の任務が終わったふうちゃんとお兄さんは、ちょうどいま特訓をはじめたところで、さっそく負けてしまったそう。
「トイレすっごく混んでたよ~」
「おかえり、りさちん♪」
お手洗いからりさちんが戻ってくると、ちょうどダイヤちゃんとはちあったそうで、さっきなにがあったのか聞かせてもらう約束をしてきてくれたみたい。
「そうだ、ちょうど畑中先輩と波川先輩とすれ違ってね、飲み物が足りなくなっちゃったんだって」
「え、そうなの?!余分に用意してたんだけどなぁ…」
「それがね、たかちゃんが全部飲んじゃったみたい…だからまだ予備があれば持ってきてほしいって言ってたよ」
「わかった!伝言ありがとう、りさちん!」
念のため飲み物数本と、救急セットを見学席に用意しておいたので役に立ちそうだ。
いざ飲み物を持って会場に向かおうとしたとき《ひとりになっちゃだめだよ》と、ふうちゃんの約束を思い出した。
なのでりさちんについてきてもらおうと声をかけようとしたら、調理部隊のメンバーから交流会の準備のために急遽駆り出されてしまった。
「…どうせなら一緒に下に降りたかったな…」と思いつつ、ちらっと茨木先輩の様子をうかがうと、チームメイトたちと仲良く談笑しているようだった。
ふうちゃんに事情を送ったら、念のためりく先生に連絡してくれるそうで、私は安心して会場にむかった。
《ふうちゃん、東都生とは誰ともすれ違わずにこれたよ》
練習場の造り的に、正面玄関とトイレ以外で東都生と会うことはないのが、ふうちゃんとの約束を破るわけにはいかないで、無事にたどり着けて一安心した。
《よかった、でも戻るまで気を付けよう》
《うん!》
第一コート近くの扉をあけると、まだ9戦目の準備中だったようで一番近くにいた小鷹先輩が声をかけてくれた。
「ありがとう、立華。こいつ俺と啓の分、全部飲み切るんだもん」
「えへへ~慣れないことしたから喉かわいちゃって」
「でも助かったよ。ありがとうな」
9戦目に控えている音澤先輩も飲み物を受け取ると、空のペットボトルを数本もったたかちゃんを小突いていた。
「でもびっくりしたよ。遠距離なんてたかちゃんには珍しい戦い方だったね?」
「それなら小鷹先輩に言われたんだよ~ギリギリまで粘れって」
「だって博貴には我慢が足りないからね」
「ま、まだまだ練習不足だったけどな」
「啓せんぱいもきびしーよー!」
と、和やかに談笑していると東都生の選手の名が呼ばれはじめた。
「あ、じゃぁ私そろそろ戻りますね!ビデオ回してるので!」
「ありがとな、立華」
「いえ!音澤先輩も小鷹先輩も応援してるので頑張ってくださいね!」
「あ、立華!待って」
「???」
待機スペースにむかう音澤先輩と反対に廊下に出ようとすると、小鷹先輩に引き止められてしまった。
ビデオは録画のままやってきたので急いで戻る必要はないが、茨木先輩が動かないうちに戻りたいなと思っていると
「栄一郎、海斗。立華のこと送ってあげて」
「おっ、いいぜ」
「え!そ、そんな悪いですよ!」
本当はありがたいし心強いなと心はわかりつつも、たった1分程度の距離に先輩たちに手間をかけさせるのは申し訳なさすぎる。
「どうせ俺も荷物とりにいきたいし」
「俺も後輩に用あるからついでだよ」
「そ、それなら…」
であれば断る必要がないか…と思っていると
「俺が行きます」
と、波多野が急に間にはいってきた。
これには近くにいたゆうた君も先輩たちも驚いて、目を丸くした。
「畑中先輩の荷物ってなんすか?どこですか?」
「え…専用ルームにあるタオルだけど…」
「波川先輩は?誰になんの伝言すか?」
「いや…そんな大した用じゃないわ…」
「じゃ俺、こいつに話あるんで連れていきます」
「お、おう…」
波多野のみたことない圧にとまどっていると、持っていた空のペットボトルを抜き取られ
「行くぞ、赤でこ」
と、波多野に送られる羽目になってしまった。
「あの…送ってくれてありがと?」
見学席までやってきたが、波多野は一番上の立見席に肘を乗せ、帰ろうとしない。
そういえば「あとでデコピンすっからな」と言われていたので、もしやデコピン待ちなのかと身構えていると、やっと波多野が口をひらいた。
「…あいつ、くそ腹立つんだけど」
「あいつ?」
コートに視線を見下ろしたまま呟いた波多野。
その視線を追うと、音澤先輩と戦闘中の東都生を微笑みながら見つめる茨木先輩につながった。
「あいつって茨木先輩?」
「他に誰がいんだよ」
って言われても、言われなくちゃわからないよ…と心の中でつっこんだ。
「で、でもどうして?勝てたのすごいじゃん」
「ほんとにそう思ってんの?」
と、波多野とやっと目があった。
きっと波多野も気づいているのだろう。
茨木先輩との戦闘に違和感を感じたこと、波多野と同じく浮かない顔だったことを。
「・・・なんか変だな、とは思ったよ」
「だよなー・・・あいつ絶対本気じゃなかったんだよ。あーイライラするわ」
デコピンされるために送ってもらったのかと思ったが、もしかして、いま私は波多野の愚痴をきかされているってことなのだろか。
なんだかそれって、仲良しみたいでイライラしてる波多野とは対照的にちょっと嬉しくて口角があがった。
「じゃぁ最終日の交流戦で本気出させて勝てばいいんじゃない?」
「あ?・・・言われなくてもそうするわ」
「うん、頑張ってね!」
「おめぇも腹立つ顔してんな・・・でこ出せ」
「なんで!!いつもの顔です!!」
やっぱりデコピン時間だ!!と思い額を両手で死守すると、一瞬なにかを考えた波多野はデコピンの腕をおろした。
「まぁいいや。最終日もあいつと当たるかはわかんねーし」
「えぇ…」
と言い残しながら波多野は私を追い払うかのように手をふり、会場のほうへ戻っていった。
続く




