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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
98/151

ー98-

「私、ちょっと行ってくるね!」


ゆうた君が治癒室へ向かうと、りさちんもゆうた君のもとへ向かっていった。

私には笑顔を見せてくれたけど、心境はやっぱり複雑なのかもしれない。


《ふうちゃん、ふうちゃんの予想通りだったよ》


ふうちゃんにゆうた君の結果を伝えると、想定していたよりもゆうた君は無茶をしたみたい。


《ゆうた、それはだいぶ無茶したね。そこまでするとは思わなかった》

《私もびっくり。それにりさちんも…いつも通り振舞ってたけど、ちょっと心配だな…》

《そっか…俺ゆうたに連絡してみようかな。俺も二人のことは気になるからね》

《うん、きっと喜ぶと思う。ありがとね、ふうちゃん》


ふうちゃんの携帯は櫻子お姉さんが代理で預かっているので、すぐに連絡がとれるわけではない。

だからそれでも連絡をしようとするふうちゃんは、昔と変わらず友達思いだなって私の心をほっこりさせてくれた。


《次は誰の戦闘?》

《次はね、波川先輩だよ》

《イケメン4人組の?》

《うん、波川先輩は水属性なんだよ》


そんな話をしていると、北都側からの大歓声の中、波川先輩が立ちあがるのは見えた。

波川先輩は歓声に応えるように見学席を振り返ると、ちょうど目が合い驚いたように目を丸くした。

すると見学席のそばまでやってきて、私を手招きした。


「よぉ立華。お前、てっきり治癒室にいるのかと思ったわ」

「実は波川先輩たちの治療したい先輩たちが代わってくれたんですよ」

「まじかよ…ぜってぇ怪我しないようにするわ…」


苦虫を嚙み潰したような顔をみせる波川先輩がおかしくて、つい笑ってしまって心の中で先輩たちに謝罪をした。


「はい!怪我しないように勝ってくださいね!」

「おー頑張るわー」


審判長に呼ばれた波川先輩は、全く緊張の色が見えない様子で大歓声の中コートに入っていった。

東都側は続けて火属性の先輩のようで、すでにチリチリと火柱がたっている。

属性相性でいえば波川先輩の有利ではあるが、なにがおこるか油断はできない。




「模擬戦4戦目、開始!!」


先行を仕掛けたのは波川先輩だった。

東都生の頭上に水でできた輪っかがあらわれたの思ったら、一瞬で東都生が水の柱に押しつぶされた。

勝負は一瞬かと思われたが、東都生は炎で分身をつくり、身代りにしていたようで柱の後ろに避けていた。

しかし間一髪だったのか、東都生は笑いながらも冷や汗がみえる。


《わー!波川先輩、おしかったよ!》

《東都はあの先輩か。あの先輩、雨属性には強いんだけど波川先輩の有利っぽいね》


確かに東都生も反撃や、カウンターを試みているが、形を変えて放たれる波川先輩の攻撃に苦戦しているようだ。

ふうちゃんの解説によると、雨のように弱く断続的な水には耐性がある炎なのだとか。

だから質量が大きく、変幻自在な波川先輩の攻撃は苦手みたい。


《でもその波川先輩、おもしろい先輩だね》

《うん、駆け引きが上手だからゲームみてるみたいなんだよね》


さっそくまた頭上に攻撃がくると思った東都生は、頭上の守りを固めたが、その一瞬脇に隙ができ、水でできた拳が飛んできた。


《ひゃ~…私もまた頭上攻撃くると思ったのに…》

《ふふ、えでか素直だからね》

《それって駆け引き下手ってこと?》

《えでか、駆け引きできるの?》


ふうちゃんがからかっているのがわかる。

つい頬を膨らませて、ふうちゃんに駆け引きする自分を想像してみたが


《…できない》

《素直でよろしい》

《だってふうちゃんの前だと素直になっちゃうんだもん》


魔法があるから、とか、生存記録でわかるから、とかそういうことではない。

ふうちゃんが私を素直でいさせてくれるのだろう。

だから私には駆け引きなんてできないや。


《でも鬼神戦で駆け引きはできたほうがいいよね。じゃぁ波川先輩からいっぱい学ばせてもらわなくちゃ!》

《えで…》

《ふうちゃんも!》

《ん?》

《ふうちゃんも、またいっぱい異能のことも戦闘のことも教えてね?》

《うん、えでかのためならいつでも、俺にできることはなんでも教える》


ならばと、波川先輩の戦闘メモに力が入る。

東都生も波川先輩のスタイルを掴んだのか、防戦一方だったのが徐々に対応してきたようで、東都生のカウンター技が波川先輩の足元をかすった。


一瞬ヒヤッとするも、その後も無傷のまま攻防は続き、残り数十秒にせまってきた。

波川先輩は東都生の懐にもぐりこみ、のけぞった東都生の頭上に水の輪っかがあらわれた。

また最初の技がくると思い、東都生は雷結界を展開するが、波川先輩はにやりと笑った。


「こっちだよ」


東都生のしまった、という顔がみえた瞬間、足元からねじりあげるような水柱があがった。

頭上にむけて雷結界を展開していた東都生は、下からあがった水柱がはじかれ、また押しつぶされたところで戦闘時間が終了した。



「勝者!北都高校!!波川海斗選手!!!」


ようやく北都側に2勝目があがったことで、歓声にも勢いがでてきた。

選手席に戻る前に波川先輩は「ギリギリだったわ!」と笑いながら声をかけてくれて

「でも怪我がなくてよかったです!おめでとうございます!」

と、波川先輩に拍手をおくった。



続く5戦目が終わると15分間の休憩時間になり、りさちんもちょうど戻ってきた。


「おかえり、りさちん。ゆうた君、大丈夫だった…?」

「うん、楓ちゃんの先輩たちのおかげで傷も浅くしてもらったよ」

「りさちんは平気?大丈夫?」

「あはは!ありがとう、楓ちゃん♪ゆうた君に一発お見舞いしてきたから大丈夫♪」


りさちんの目が笑っていない…。

一発お見舞いをした、なんて…いったいなにをしたのだろうと想像したけれど、会場に戻ってきたゆうた君の元気そうな姿をみて、ある意味強い信頼関係で結ばれてるって証拠なのかなって思った。


「それで、戦況結果はどんな感じなの?」

「いまはね3勝4敗3引き分けで、東都に追いついてきた感じだよ。女子も頑張って2勝2敗1引き分けだよ」

「じゃぁ後半戦、盛り上がること間違いなしだね!」


賑やかな休憩時間を過ごしていると、だんだん静かになってきて、休憩時間が終わったのがわかった。

後半戦は東都側から選手の呼び出しがはじまった。


「第一コート!東都高校3年、茨木正樹!!」


東都側から審判長の声が聞こえないくらい黄色い声が響いた。

どうやら茨木先輩は東都では女子人気が高いようで、金色の髪をなびかせながら手をふっていた。


《ふうちゃん、東都は茨木先輩の番だよ。人気のある先輩なんだね?》

《あの人、外面はいいからね。北都側は誰がでるの?》

《えっとね…》


見学席の手すりから待機スペースをのぞき込むと、意外な人物と目が合った。


「…んだよ」

「え!えっとなんでもないけど…が、頑張ってね?」


茨木先輩の対戦相手は波多野だったからだ。

合宿準備中、あまり話す機会がなかったので急な登場で応援が疑問形になってしまった。


「なんだそれ」

「だ、だって波多野だと思わなかったんだもん…」

「あ?てめぇ、あとでデコピンすっからな」

「な!?!?」


と、波多野は言い残し、コートに足を踏み入れた。


《ふうちゃん、茨木先輩の対戦相手、波多野だったよ》

《そうなんだ。なんだか波多野君ってついてないね》


俺といい、デイダラボッチといい、茨木先輩でしょ?とおもしろがるようにふうちゃんは魔法を返した。


《ふうちゃん、波多野には厳しいね》

《そりゃそうだよ。ま、えでかを傷つけたバチが当たってると思って頑張ってもらうしかないね》


なんだか楽しそうなふうちゃん。

私はもう、波多野とのことは気にしていないのだけど、楽しそうなふうちゃんが伝わる嬉しさでつい負けてしまう。

ごめんね、波多野…。




「勝者!北都高等学校!波多野明!」


北都側からは歓喜の声が、東都側からは悲鳴の声が練習場をうめつくす。


「波多野君、すごいね!!3年生に勝っちゃったよ!!」


隣にいるりさちんも衝撃展開に大興奮している模様。

しかし誰もが笑顔で喜んでいる北都勢の中で当の本人である波多野だけ、どこか納得がいかないような、浮かない表情だった。

かく言う私も、りさちんのように喜べず、なにかひっかかる戦闘だった。


戦闘自体はとても見ごたえはあった。

波多野も新技を磨いていたらしく、雷結界と速さをいかした技はうまくいっていた。

土巨人戦を乗り越えたかたか、大胆で豪快な技よりも機転をきかせた戦法もみえた。

それに対し茨木先輩も属性不利な木属性ながらも、波多野に攻め行くスタイルで、まるで木属性のお手本のようだった。

でも戦闘の中になにかすっきりしない、なにか違和感がよどんでいるようで、素直に波多野の勝利を喜べない。


《ふうちゃん、波多野が勝ったんだけど…なんかモヤモヤする…》

《あぁやっぱり…茨木先輩ってそうなんだよ》

《そうって?》

《あの人はね、東都が勝てばいいとか、そんなこと一切思ってないんだ》

《え?》


でも東都側の先輩席にみえる茨木先輩は、他のメンバーと仲良さそうで、アドバイスをもらったりと慕っているメンバーも多いよう。

傍からみたら東都の勝利に貢献しているようにみえるのに。


《それはね、そのほうが都合がいいから、なんだよ。あの人は他人が嫌がること、他人が困っている姿が大好きなんだ》

《えっと…そうすると、波多野は勝って困ってるってこと?》

《うん、だって波多野君いやでしょ?戦闘で全力出されずに、勝たせてもらえた、なんて》

《あ・・・》


モヤモヤしていた理由、違和感の正体がわかった。

そうか、茨木先輩は全力じゃなかったんだ。

一見すると全力で波多野と戦っていたように見えたけど、車で例えるとガソリンはまだ十分にあまっていたんだ。

たしかに、波多野からしたら馬鹿にされていると感じて一番癪にさわる行為だろう。

でも決して手を抜いているようには見えないし、誰もそうは見えないから、行き場のない気持ち悪さだけが残るはずだ。


《だから都合がいい、なんだね…》

《さすが、えでか。そういうこと。それに戦況的にもいまここで自分が負けたほうが最終的におもしろくなる、とか考えてると思う》

《そ、そんなことも?!》

《うん、きっと最終日の交流戦まで本気ださないと思うよ》


なんだろう。

なんだか・・・とても・・・


《茨木先輩っていやな先輩だね…!》


ふうちゃんが切島先輩みたいな人、といった理由がわかった。

常に他人を見下して、自分の都合のいいように周りを変えようとする。

切島先輩は茨木先輩ほど要領がよくなかったのだろう、茨木先輩は都合のいい味方をつくるのが上手みたいだから。


《うん、俺もあの人のことは嫌いだし、あの人も俺のことは嫌いなんだ》


珍しい。ふうちゃんがハッキリ誰かのことを嫌いと言うなんて。

小学生の時だって、誰とでも仲良くなることができたのに。

と、少し驚いたが、そんなふうちゃんが嫌いということは、よっぽどなのだろう。


《だから俺への嫌がらせのために、えでかに接触してくるかもしれないんだ》

《え!?私に!?》

《うん、だから絶対にひとりになっちゃだめだよ》


と、ふうちゃんは改めて私に念をおした。


《わかったよ、ふうちゃん。なるべくりさちんと一緒に行動するね》

《ありがとう、えでか。もしなにかあったらすぐに魔法おくってね》

《うん!…ふふっ》

《どうしたの、えでか?》

《ふうちゃんにこうやって心配されるの、嬉しいなって》


離れていても私のことを考えてくれてるんだってわかるし、ふうちゃんの優しさもたくさん感じることができるから。

だから全然さみしいって思う暇がないくらい。


《えでか…急にかわいいこと言わないでよ…》


どうやらふうちゃんは今、お兄さんや陰陽省の人たちと会議中だったそう。

急に顔が赤くなったようで、お兄さんに気づかれて足を蹴られたらしい。

さみしいとは思わないけど、見たかったな、そのふうちゃん。




「おーい、立華~」

「??」


ふうちゃんの照れてる姿を想像するのに夢中になっていると、下から名前を呼ばれ気が付いた。

すると栄一郎君がこちらを見上げていた。


「栄一郎君、どうしたの?」

「ちょうどいいところに座ってたからさ、これで戦闘録画しておいてくんね?」


と言って栄一郎君から渡されたのは、栄一郎君の携帯だった。


「携帯で?あ、瑠璃ちゃんに真紀ちゃん送るの?」

「もだし、太郎君と湊君にも送るんだ。全国制覇者とベスト4がアドバイスくれるっていうからさ。瑠璃と真紀はついで」

「ふふ、瑠璃ちゃんも真紀ちゃんいいアドバイスくれそうだけど、もちろん任せて!頑張ってね!」

「さんきゅー」


栄一郎君からうけとった携帯をひらくと、学生選手権の優勝トロフィーを蚊が得ている笑顔の真紀ちゃんの写真がうつった。

栄一郎君にとっての生命力は真紀ちゃんなのかなって思ったら、そんな大事な携帯を預けてもらえてうれしかった。




続く


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