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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
96/151

ー96ー

ー 強化合宿1日目 ー


「あ!!ダイヤちゃん!!」

「りさちん!楓!久しぶり」

「北都へようこそ、ダイヤちゃん♪」


陽が高くのぼったお昼すぎ。

正門から練習場近くに止められた高級そうな大型バスから、制服姿の東都生が続々と降りてきた。

私とりさちんは、まだかな、どのバスかな、とそわそわしながら待っていると、待ち望んでいたダイヤちゃんの姿をとらえたのだ。


修学旅行ぶりに会ったダイヤちゃんは、なんだか内側からキラキラしてるみたいで、初めて会ったときのような初心さを感じなかった。


「北都、とってもいいところね。風が気持ちよくて、空気が澄んでる」

「海が近いからね、海の風が入ってくるんだよ」

「それは素敵」


北都にくるのは初めてだというダイヤちゃん。

これまで海外の素敵なところや、東都の煌びやかなところをたくさん知っている友達に、大好きな北都をほめられて自分のことのように嬉しい。


「じゃ、さっそく合宿所に案内するね♪」


同学年の東都生を案内することになっており、人数の関係で1人につき2人の北都生が案内役としてついている。

模擬戦だけでなく、お互い交流を深めることで、大学進学後につなげることを目的としているそうだ。

そのため私たちはダイヤちゃんの案内役として買って出た。


「あれ?ダイヤちゃんの荷物、他の人たちより多いね?」

「あ、そうなの。実は合宿が終わった後に予定があって、2~3日北都に残ることにしたの」


なんと、ダイヤちゃんが大好きな仮面ランナーの映画撮影が北都の海で行われるそう。

しかもダイヤちゃんのお父さんの会社がスポンサーになっているため、エキストラとして参加させてもらえるのだと。

そのため合宿が終わった後は、海近くの旅館を予約していると教えてくれた。

嬉しさが隠しきれない顔で話すダイヤちゃんを見ていると、私たちまで顔がほころんでしまう。


「それで…よかったらなんだけど…もし予定がなにもなければ…ここまで案内してもらえないかな?撮影も見学して構わないってことだったから…ど、どうかな?」


顔を真っ赤にそめ、俯きながら甘えるダイヤちゃんの姿は、どんなお願いでも聞いてあげたくなるよう。


「もちろん!喜んで案内するよ~!!」

「ほんと?!ありがとう…!」


パッと顔をあげたダイヤちゃんの顔はキラキラしているのに、りさちんだけががっくりと肩を落としている。

どうやらりさちんはその日、ゆうた君と北都大のオープンキャンパスに参加するそうで一緒に案内できないことを残念がった。


「ごめんね、ダイヤちゃん…」

「ううん、気にしないで!私のことより、りさちんの進路の方が大事だもの。二人で楽しんできて?」

「ありがとう…!!あ、でもダイヤちゃんが東都に帰るときは絶対見送りいくからね?!」

「ふふ、ありがとう」


再会してからお喋りがとまらない私たちは、のんびりしすぎて合宿所に入るのが最後になってしまい、玄関でなぜか大笑いしてしまった。




「あとは~お風呂場かな。使い終わったタオルはさっき案内した共有スペースのボックスにいれてもらえれば大丈夫!」

「1階の大浴場にもボックスがあるから、大浴場行くときはそこに入れてね!」

「わかった。ありがとう、楓、りさちん」

「合宿所の案内はこのくらいかな?」


一通りの案内が終わると、午後の交流会までに時間があった私たちはダイヤちゃんの部屋で時間を潰すことにした。

ちょうどダイヤちゃんに聞きたいことがあった私たちにとっては願ったりかなったりの時間だ。


「それでダイヤちゃん…たかちゃんとは順調なの??」


聞きたいことはもちろん、たかちゃんとの関係についてだ。


「一緒にテスト勉強したり、一緒に放送みてるってきいてるよ♪」

「じ、実はね…順調なのかはわからないけど…博貴君もエキストラ参加するの…」

「「えぇぇぇ!?!?!?」」

「エキストラ参加すること話たら…博貴君は抽選で当選してたみたいで…そ、それで一緒に…」

「「えぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」


私とりさちんの驚いた声が何度も重なった。

だって聞いていた話より状況が進展しすぎていて、それにたかちゃんもエキストラ参加するなんて、私には運命的に感じた。


「二人、そんなに仲良くなってたんだね!!」

「仮面ランナーの話ができる人…他にいないからだと思うけど…」


さすがダイヤちゃん。

どんな時でも仮面ランナーグッズは忘れないのだろう。

不安な心をうめるように、仮面ランナーDのクッションを抱きしめた。


「そんなことないよ。たかちゃん、ダイヤちゃんに会うのずっと楽しみにしてたみたいだよ?」

「…ほんと?」

「うん、体育祭の時なんてダイヤちゃんに送るー!って写真撮らされたり、合宿準備中もダイヤちゃん来たら教えて~って頼まれたんだから♪」

「ふふ、私も。ゆうた君も呆れるくらいダイヤちゃんの話すると止まらなくなるんだよ~」

「そうそう!今日も朝会ったら、ダイヤちゃんもう北都着いたかな?!って言ってて」

「あっちはまだ東都出発したころじゃない?って言ったのに、30分ごとに来たかな?!来たかな?!って騒いでたよね」


私とりさちんは、いかにたかちゃんが今日という日を楽しみにしていたか思い出せる限りの事実を伝えた。


「…か、楓…りさちん…」

「ん??」

「も、もう…わかったから…」


恥ずかしさと、嬉しさと、ドキドキでルビーみたいにキラキラしてるダイヤちゃん。

そんなダイヤちゃんがおもしろくて、私とりさちんは聞こえてないふりをして、午後の交流戦に向かうまで話続けた。




ー 練習場 ー


練習場には東都の白と北都の黒に綺麗にわかれていて、いつもの練習場が別の顔をしているようだ。

強化合宿1日目のスタートは、いまの実力と、課題個所を見つけるため交流戦から行われる。

すでに基礎練習が終わった両校が、コートの端に集まっていて、とくに緊張している様子は見られない。


《ふうちゃん、もうすぐ交流戦はじまるみたいだよ》

《そうなんだ。えでかは治癒隊かな?》

《ううん、今日は有志参加の3年生がたくさんいるから見学させてもらってるよ》


そう、本来であれば模擬戦に参加しない3年生は見学自由なのだが、小鷹先輩たちイケメン4人組を治療できる機会は最後かもしれないと治癒室に殺到したのだ。

仕事が減ったのは残念だけど、ゆっくり模擬戦を見学できるは、ふうちゃんの目としてありがたい。


《だからいっぱい記録、するからね》

《ふふ、ありがとう、えでか》


すぐ隣でふうちゃんが笑ったみたいに耳がくすぐったい。


「楓っち、すごいニコニコしてる!そりゃこんな貴重な交流戦、なかなか見れないもんね!」

「う、うん!」


危ない…ふうちゃんと魔法でお喋りしていると顔に出ちゃうの忘れていた…。

油断していると一人でニコニコしている人になってしまうのを、クラスメイト数人に見られてしまった。

でも交流戦が楽しみなのも嘘じゃない。

ゆうた君とたかちゃん、波多野も2年生ながらも模擬戦に参加できることになり、見どころがとても多い交流戦なのだ。

さすがに1コートだけでは足りず、女子と合わせて3コートになってしまい、私のこれまでの模擬戦観察の力が試される。


《ねぇふうちゃん、どんな模擬戦みたいとかある?》

《気にしないでえでかが見たい模擬戦みてくれても構わないよ…と言いたいところだけど》

《ふふ、いいよ。ふうちゃんが気になるものなら、私も気になるもん》

《ゆうたと博貴はもちろんだけど、えでかの先輩のイケメン4人組は気になるかな》

《了解!任せて!》

《ついでに波多野君も見てあげようかな》

《もーふうちゃんたら、ついでって》

《ふふ》


相変わらず波多野に対する当たりは厳しいふうちゃん。

でも無視しないのは、やっぱり波多野の戦闘も気になってるからなんだと思う。


《東都はどんな先輩いるの?》

《そうだな…おもしろいのは渋谷先輩かな。雷属性で鏡の術がうまいんだ》

《それは気になる!どんな人?》

《東都の中で一番白が似合ってない人だよ》


白が似合ってない?そんな特徴があるのだろうかと東都側を右から順に眺めていくと、ある人に目がとまった。


《もしかして…一人だけ黒いマスクしてる人…?》

《そうそう、その人だよ。なんでも白が嫌いで本当は北都に入りたかったんだって》

《か…変わった先輩なんだね…》


風邪が流行っているわけでもないが、渋谷先輩はいつも黒いマスクをしているのだそう。

たしかにふうちゃんの言う通り白が似合ってないと言える。

それに環境的には東都のほうが優れているところは多いのに、白が嫌いという理由だけで北都に入りたかったなんて不思議だった。

でもふうちゃんが言うには、実力は東都の中でもトップクラスで東都大の陰陽師クラスを受験するそうだ。


《それに渋谷先輩のおもしろいところは他にもあるんだ》

と、ふうちゃんは渋谷先輩の出番になったら解説してくれると約束してくれた。

どうやら人を寄せ付け雰囲気を持ってはいるが、ふうちゃんとはよく話をしているみたい。


続けて東都生たちを眺めていると、パッと目につく人があらわれた。


《わ、東都には金髪の人もいるんだね。すごく目立ってる》

《あぁ、それは茨木先輩だね》

《ん?ふうちゃんとはあんまり仲良くないの?》


私たち北都生からはとても珍しい金髪の茨木先輩は、練習場にはいるなり北都生たちの視線を一気に集めた。

でもこんなに目立つのに基礎練習中は気がつかなかったな、と思っていると、ふうちゃんの反応が渋谷先輩と変わって歯切れが悪い。


《一言でいうと、北都の切島みたいな人だから、えでかは近づいちゃだめ。いいね?》

《なるほど…ありがとう、気を付けるね》


なんてわかりやすい例えだろうと、ふうちゃんの頭の回転のはやさに脱帽しつつ、ふうちゃんに心配かけないよう茨木先輩には会わないようにしたいと思った。


「楓ちゃん、お待たせ~!わっ、いい場所とれたね!」

「うふふ、治癒隊特権、かな?」


交流会の調理準備が終わったりさちんが、ちょっと甘い香りをつれてやってきた。

私が座っている見学席は、3コートすべて見渡せる場所で人気の席なのだが、イケメン4人組の治療を代わるお礼にと先輩たちが確保していてくれたのだ。


「ここならゆうた君にも声、かけれるね?」

「ありがとう楓ちゃん!今度は抱き着かないようにしなくちゃ…!」


もし走り出したらとめてね、というりさちんは、修学旅行の模擬戦の時と比べると冗談を言って笑えるくらい余裕がみえた。

あの時は進路にも影響が少なからずある時だったし、東都との模擬戦は初めてだったらりさちんも緊張していたんだろう。

だからいまのりさちんからは、ゆうた君への信頼の強さを感じて、微笑ましくなった。


すると下から私を呼ぶ声が聞こえて、1階のコートをのぞくと、ひょこっとたかちゃんが待っていた。


「たかちゃん、どうしたの??」

「ねね、ダイヤちゃんって何戦目~??」

「ダイヤちゃん?ダイヤちゃんは女子の部の最後だから…10戦目かな」

「ほんと?よかった~そしたら俺、応援いけるや!」

「ふふ、ダイヤちゃんも喜ぶと思うよ!」

「だよね!?あ!!順番きたら声かけてね~~!!」


交流会の開会式がはじまるようで、先輩に呼ばれてあわてて戻っていったたかちゃん。

私はあとでダイヤちゃんがびっくりしないように、たかちゃんが応援にくることを教えてあげないとと思った。

じゃないと、ダイヤちゃん、模擬戦に集中できなくなりそうだもの…。




開会式はお互いの高校の先生を紹介したり、合宿期間の説明をしたりと簡単なものだった。

みんなはやく模擬戦をしたくて仕方がないのだろう、東都の先生たちの顔を覚える前に模擬戦の準備が進められていく。

壇上から齋藤先生が結界をはる姿がみえる。

結界師でもある齋藤先生の結界は、厳かで、徹底的に不純物がないような気持ちよさを感じた。


「あ、立華先輩!すみません…東都側の治癒室なんですけど、足りないものがあるんですが私たちじゃわからなくて…」

「そうなの?どれどれ…」


声をかけてきた1年生は体育祭で同じテントで同じ草花属性の後輩だ。

彼女がもってるリストをみると、校舎内の治癒室に行かないといけないものがあった。


「これはうちの治癒室にあるから、ゆか先輩にお願いしてみて!こっちは私、とりにいってくるから」

「ありがとうございます~!!」

「じゃぁよろしくね!」


するとりさちんが「楓ちゃん、お出かけ?」と声をかけてきた。


「うん、ついでにダイヤちゃんにも声かけてくるよ」

「了解♪まだ強度確認中みたいだけど、遅くなりそうだったらカメラまわしておくね」

「助かるよ~りさちん!」


頼もしい親友にカメラを託し、夏休み期間の誰もいない静かな校舎の中、足早に治癒室に向かった。




ー 治癒室 ー


「失礼しま~す…あ!」

「あら、立華さん!」

「げっ!!」


治癒室の扉をあけると2年玄武組の担任で、学年主任で、治癒隊の顧問でもあるさゆり先生と、りく先生が正反対の反応で私を出迎えた。

私と視線を合わせないようにするりく先生と、わざと目を合わせようとしながら私はさゆり先生に不足してる器具や治癒品を伝えた。

そんな私とりく先生のやりとりをくすくす笑いながら、さゆり先生は治癒室の奥の棚へ向かった。


「…なんだよ、立華」

「なんでもないですけど、手伝わなくていいんですか?」

「う、うるさいなお前…言われなくても手伝うところだよ!」


と、顔を赤く染めながらりく先生はさゆり先生のもとへ行き、さゆり先生がくしゃっと笑った。

二人並ぶと身長差があって、見た目も性格も正反対な二人だけど、化学反応みたいにお似合いなんだよね。


《ふふ、ふうちゃん。私、いま、いいもの見ちゃった》

《ん?どうしたの、えでか。いいものって?》

《来月会ったら記録で見てみて?》

《えー気になるけど、楽しみにしてるよ》

《うん!!》


来月ふうちゃんに会ったら、話たいことが多すぎて時間が足りないんじゃないかと思っていると


「立華さん、これでいいかな?」

「あ、は、はい!大丈夫です!ありがとうございます!!」


くりっとした大きな瞳に覗きこまれて、私までドキッとしてしまった。


「もう交流戦はじまったのよね?もう少ししたら私も見学に逝くから、またあとでね立華さん♪」

「じゃぁ俺ももう行きます、あの件よろしくお願いいたします」

「はいは~い♪任せて、りく先生♪」


りく先生は私の変わりにさゆり先生から荷物を受け取ると、余計なことを言わないように私を押し出すように治癒室から出された。

私はちょっと不満げに口を尖らせると


「…お前、だんだん櫻子に似てきたな」

「えへへ、ありがとうございます」


いまの私にとって最高の誉め言葉と受け取った。


「でも大雅さんたちにチクるなよ?」

「ごめんなさい、もう遅いです♪」

「…特訓、覚えてろよ」


私の足取りは軽い。

珍しい光景を見れたし、来月の楽しみが増えたから。




続く

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