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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
94/151

ー94-

「あれ?立華?」

「え?小鷹先輩?」


暑くなる前に散歩についれていけという茶々丸の要望で、早起きした私。

寝違えた首をおさえながら、誰もいないのどかな田んぼ道を歩いていた。

すると脇道から小鷹先輩と波川先輩、音澤先輩、栄一郎君と鉢合わせたのだ。


「立華の家ってこの辺だったの?」

「うん、あのへんだよ」

「そういえば尚也先輩もあの辺だったな」

「音澤先輩、尚也君のこと知ってるんですか?隣の隣ですよ」

「まじで!?!?」


4人は私と尚也君の家が近いことに驚いていたけれど、私は4人が尚也君のことを知っていることに驚いた。

そもそも、小鷹先輩と波川先輩、音澤先輩は隣地区だとは知っていたけれど、こんな茶々丸の散歩中に出会うほどの近さだとは思っていなかったので、もっとびっくりしているけれど。


「え、みんな尚也君のこと知ってるんですか??」

「知ってるもなにも…この辺の男はみんな1回は必ず尚也先輩のお世話になってるよ…」

「そうだったんですね!尚也君、面倒見いいですもんね!」


と、私が返すと、みんななぜか気まずそうに視線を外していたので、首をかしげた。

すると辺りの匂いを嗅ぎ終わった茶々丸が、小鷹先輩の靴にのしかかるように寝そべった。


「あ!茶々丸!」

「あははっ!この猫、茶々丸っていうの?」

「はい…すみません、先輩」

「いいよ、俺、猫好きだし」


そう言って小鷹先輩はしゃがんで茶々丸に挨拶をすると、みんなでしゃがんで茶々丸を囲んだ。

茶々丸は日陰ができたことで満足そうに寝そべったままで、しばらく動いてくれそうにない。


「てか明日から寮か~短い休暇だったな~」

「湯田先生の件で今頃りく先生たちは査察中なんですかね?」

「ん~査察は昨日で終わってて、今は今後について会議中かもね。さすがにここまで問題になったら校長先生とかも責任とらなくちゃいけないだろうからね」

「うわぁ~りく先生、明日絶対ぼっさぼさになってるよ」

「海斗、絶対それ、明日いじるなよ」


まさか茶々丸とお散歩中に先輩たちに会えるなんて思ってなかったから、こうして外で話してることがちょっと不思議だ。

でもこうやって家で茶々丸とゆっくりする時間も大好きだけど、同じくらい学校でみんなと一緒に過ごす時間も大好きなんだ。

だから寮に戻るとなると、茶々丸と離れるさみしさもあれば、家に帰るとなると、みんなと離れるさみしさもあって、情緒は大変なのだ。

でもいまは、こうやって平穏な時間を過ごすたびに、はやくりく先生との特訓がしたいと気持ちが強まるよ。


「でも来週からの強化合宿、楽しみですね!」


私たちは明日には寮に戻り、来週から東都との強化合宿のための準備をしなければいけない。

合宿所の清掃や、部室の清掃など、やることがたくさん待っているのだ。


「だな~!最後の大会だし、全力で頑張るしかねぇよな」

「ふふ、私も全力で応援しますからね!!」

「ありがとう、立華」


それからもしばらく来週からの強化合宿の話をし続けていたけれど、人ひとりとして通らないので、だんだんここが道端なことを忘れてくる。


「そういえば先輩たちって進路決まってるんですか?」

「あぁ、俺ら3人は陰陽省の北都支部から声かかってて、小鷹は東都の本部から声かかってるよ」

「えぇ!!すごいですね!!」

「あとはいくつか実業団からも声かかってるけど、北都大行きたいし、陰陽省からのスカウトにのるつもり」

「海斗は受験勉強、楽したいだけだけどな」


音澤先輩が波川先輩に「大学入ってからの勉強が大変なんだ」とお説教しているのを、栄一郎君は笑ってみているけれど、小鷹先輩だけは浮かない顔をしていた。


「小鷹先輩?どうしたんですか?」

「ん?あー…ちょっと考えごと!」


小鷹先輩は「大丈夫大丈夫!」と気丈にふるまっていたけれど、なんだか無理しているようでちょっと心配になった。

すると私の心配が茶々丸に伝わったのか、茶々丸をなでていた小鷹先輩の手をペロペロとなめはじめて、私のかわりに元気づけているようだった。


「ふふ、ありがと、茶々丸」


それに気づいたのか、小鷹先輩に元気がもどったようで、いつものように優しく笑ってくれた。




「お前ら、そこでなにしてんだ?」


そろそろ帰ろうと茶々丸に声をかけていると、最近よくきくバイクの音が近づいてきて、近くに止まったと思ったら尚也君が声をかけてきた。


「尚也君!」

「なんだ、かーもいたのか」

「うん、茶々丸とお散歩してたら先輩たちに会ったの」

「ふ~~ん…まぁいいけど。あおが一緒にお昼食べるって探してたからそろそろ戻ってやれ」

「ほんと?ありがと!そうする!」


と、尚也君が教えてくれるとヘルメットをかぶりなおしたので、私たちは尚也君が通れるようにはしっこに寄った。

そして先輩たちに「お前らも、もうすぐ大会だろ?頑張れよ」と声をかけると、さっそうと走り去っていった。


「あぁ~緊張した…」

「尚也先輩、立華の前だといつもあんななの?」

「え?うん、そうだけど?昔からよく遊んでもらってたよ」


あおちゃんと一緒に秘密基地造りにいったり、自転車競走したり、かくれんぼや鬼ごっこなど、遊んでもらっていた。


「でも一番記憶にあるのは、カエルを捕まえてきて、あおちゃん家の庭にある水道で洗ったことかな~。石鹸で泡だてて「こうすると目しみるんだよ」って教えてもらったの」


でも私はカエルが大の苦手なので、涙目になりながらその光景を見つめていた。

あおちゃんはきゃっきゃ笑っていたけれど。


「あと鬼ごっこのときはね、尚也君が絶対に鬼役なの!だから私、小学校で鬼ごっこやったとき、タッチされたら交代するってルールしらなくて…」

「立華、もう、わかったから…」

「???」


先輩たちは尚也君にお世話になったって言っていたけれど、仲が良いわけではないのだろうか。

と、結局わからないまま、先輩たちはこれから音澤先輩の家でバンド練習とのことで、私と茶々丸も家にむかった。




そしてお昼はあおちゃん家にお邪魔して、冷やし中華をご馳走になった。

昔はこのまま一緒にお昼寝したりしていたので、つい横になりかけたけれど、鈴村姉弟のお家に遊びにいくためいったん家に戻ることにした。




「かーちゃん!いらっしゃ~い!!」

「おじゃまします!」


鈴村姉弟の家にお邪魔すると、ふわっと奥の部屋から甘い香りが私の鼻が味見した。

光ちゃんがクッキーを焼いてくれていたようで、湊が飲み物と準備してくれていた。

私は母に持たされた桃を渡すと、二人とも喜んでくれてクッキーと一緒にむいて私までご馳走になってしまった。


「かーちゃん、クッキー、おいしい?」

「うん!光ちゃん、どうしてこんなに上手なの??昔、ケーキもつくってくれたよね??」

「ふふ、嬉しいわ~。かーちゃんみたいに美味しい顔が見れたら、もっと作りたくなっちゃうのよ」

「そうそう。だから姉ちゃん、いつも男できても食べさせすぎて太らすんだよ。で、振られるの。笑うよな」

「湊~~~~??」


湊は光ちゃんの突き刺すような視線から逃げるように、まだ半分も残っていたのに「追加してくるわ」と言って、麦茶のポットを持って隣のキッチンへ消えていった。


「まったくもう!」

「でもそれで光ちゃんを振るなんてひどいよ!食べすぎちゃったなら動けばいいのに!」


と、私はこんなにおいしいお菓子をたくさん食べれる恩恵を受けておきながら、自分が太ったからといって光ちゃんを悪者にして振るなんて身勝手すぎると口を膨らませた。


「ありがとう、かーちゃん。でもきっと理由はそれだけじゃないのよ」

「そうなの??」

「えぇ、たぶん…私が…」

「姉ちゃんが強すぎたんだよ」


新しいコップに3人分のミルクティーを持ってきた湊は、光ちゃんの言葉をかぶせるように言い切った。

そして続けて「ま、俺よりも弱かったけど」と、鼻の穴を膨らませるので、湊の顔がおかしくてつい笑ってしまった。


これには光ちゃんも湊と目力で押すこともなく湊に賛同した。


「そうなのよね~それにせめて湊より強くないと、湊がうるさいじゃない?」

「ま、いるかわかんないけどね~姉ちゃんみたいなゴリ…うっ!!!!」

「湊??なにか言った??」

「い、いいえ…」


宙を飛んだ湊は私の後ろの壁に激突し、起き上がるとき

「姉ちゃんより強くないと、彼氏のほうがすぐ死にそうだから、俺は元彼たちの救世主」

と、こそっと教えてくれたので、私はなんとか笑いをこらえた。


「そんなこと言って、湊だって彼女できても長続きしないくせに」

「へ~そうなんだ!どうして??」

「うっ…知らないよ、突然降られるんだから!」

「湊がまだガキくさいからふられるのよ♪」

「あはは!!なんとなくわかる~!!」

「かーちゃんまで…ったくもー」



その後、二人の歴代の彼氏彼女の話を聞いたり、南都高校での話、北都大学での話、私とふうちゃんの話でクッキーをたくさんおかわりした。

すると変な踊りをしながら湊がなにかを抱えてやってきた。


「かーちゃん!南都のアルバム見ようぜ!」

「わ!!見たい見たい!!」


湊のダンスに気をとられていたが、両腕に何冊もアルバムを抱えてきており、それだけで二人の姉弟仲の良さがわかる。


「わ!!二人とも懐かしい!!」


私がよく知ってる姿から、南都の色とりどりで華やかな自然にかこまれて、今目の前にいる二人の姿への成長を見ているようだ。


「…これがさっき話した俺のクラスメイト」

「あ、湊の元カノのことが好きだった人!」

「なんでその覚え方なんだよ!」

「ねぇ!湊の元カノはうつってないの??」

「ぜっっったい教えない!」

「え!!なんで!?!?」

「ぜ~~~~ったい教えない~~~!!」

「お~し~え~て~よ~!!」


私と湊の不毛な争いを、光ちゃんはニコニコしながら見守っていると「あ、懐かしい写真」と声をあげた。


「あ、これか。確かに懐かしいな」

「どれ~??」


光ちゃんと湊が優しい顔で眺めているページを私ものぞかせてもらうと、思わず声をもらした。


「わっ…すごい…綺麗…」


二人が見つめていたページは、一面澄んだ青一色で、光ちゃんと湊、そして鈴村家族の笑顔を包んでいた。

その優しい青に、私はふうちゃんの光が重なり、釘付けになった。


「私が高校2年生、湊が1年生の時ね。南都大会でアベック優勝したお祝いで旅行にいったの」

「近くに陰陽省管轄の異能植物公園があってさ、ちょうど七色祭が開催していたんだ。そしたら母さんが行きたいって言うからみんなで行ってさ」

「私たちの試合を見てた管理人の人が一般開放してないここを案内してくれたの」


二人の話によると、七色祭とは、夏休み期間中に1週間開催される。

様々な異能花をお祭り期間に向けて1年かけて手入れをし、虹色の七色に合わせて咲かせるそうだ。

地平線まで続く七色の異能花は、写真だけでもとても現実とは思えないくらい綺麗だった。

そんな中、水色用としていくつか異能花を管理していたのだが、1種類だけ祭りに間に合わず、別エリアに閉じていたがその日奇跡的に一斉に開花した。

一般開放するか迷ったが、祭り終了まで持ちそうにないとのことで非公開にしたところ、鈴村家が通りがったそうだ。


「とても管理が難しいお花なんですって。もう何年も祭りに合わせて開花させることができなかったみたい」

「だからどうしても誰かに見せたいと思ってたら俺らが通りかかって、お祝いですって入れてくれたんだ」

「すごいね…青空の中にいるみたい…」

「瑠璃空花っていうんだって。瑠璃色の空のように丘を染めるから、そう呼ばれているんですって」


ますますふうちゃんの光みたい。

だってふうちゃんのことを想う度に、ふうちゃんの青くて綺麗な光が私の心を染めるから。


「…私も、いつか見てみたいな…」


瑠璃空花は絶滅異能花となっているそうで、野生で咲いていることは滅多にないそうだ。

そのためこうやって陰陽省管轄の下で保護されているのだと。

だから植物園にいっても、開花を目撃するかは運次第。

でもきっと、私が諦めなければふうちゃんと一緒に瑠璃空花を見ることはできるから。

またひとつ、ふうちゃんとの未来が増えたよ。



「かーちゃんなら見れるわ」

「そん時は俺らが南都、案内してあげるさ。彼氏もな」

「ふふふ…うん!!」



ふうちゃん、私嬉しい。

大好きな人がいて、大好きな人と未来を約束できることが。

生きるってこんなに幸せなんだね、ふうちゃん。




それから夕方になるまで話は尽きず、まだ話したりなさを残しながら湊の運転で自宅まで送ってもらった。


「来週から合宿だろ?怪我しないように頑張れよ~」

「長期休みの時は連絡するから、また遊びにきてね。一緒にお菓子作りしましょうね」

「うん!!二人ともありがとう!!私も連絡するね!!」


私の手には二人から光ちゃんのクッキーを持たせてもらい、今夜にでも食べちゃいたいくらいだけど、せっかくなので明日りさちんと食べようと包んでもらった。

まだ家に入るのもちょっとさみしい気がしていると、窓から私を見つけた茶々丸が「なぁぁん!なぁぁぁん!!」と大声で鳴くので、二人にからかわれながら私は家に帰った。




ー 夜 ー


明日から寮に戻るのか、と思うとちょっとさみしいさもありつつ、でもみんなに会えるのは楽しみで。

複雑さを紛らわすために枕を占領している茶々丸のお腹に顔をうずめる。


《ふうちゃん、私はもう寝るところだよ》

《明日は寮に戻るんだよね。怪我はどう?》

《櫻子お姉さんの薬のおかげでもうほとんどふさがってるよ!明日から特訓再開できそうかな》

《それならよかった》

《すごいね、あっという間に治っちゃった》

《ふふ、でもえでか。油断は禁物なんだからね》

《うっ。はぁ~い》


ふうちゃんにはどこまでもお見通しなんだなぁ。

傷口はふさがってはいるけれど、触れるとまだ少し痛みはあるので完治とはいえないことを。


《そういえばふうちゃん、瑠璃空花って知ってる?》

《うん、名前だけは聞いたことあるよ》

《今日ね、光ちゃんと湊に瑠璃空花の写真見せてもらったの。そしたらね、すっごく綺麗で。私、ふうちゃんと一緒にみたいって思ったの》

《いいよ、一緒に見に行こう。えでかが綺麗と思った花、俺もみたい》

《うん!ありがとう、ふうちゃん!》


今日も嬉しいことがいっぱいだ。

ふうちゃんがいるだけで、毎日がこんなにも楽しくて、毎日がこんなにも幸せ。

この気持ちが届くように、手のひらに光るふうちゃんの青に言葉を乗せる。

すると茶々丸もふうちゃんになにか伝えたくなったのか、私の手をペロペロなめはじめて「ふふ」っと幸せが広がった。


《ふうちゃん、茶々丸もふうちゃんに会いたがってるみたい》

《俺、茶々丸にもちゃんと挨拶しなくちゃね》


ふうちゃんが茶々丸に挨拶をしている光景を想像したらおかしくて、でも茶々丸の貫禄が似合っていて、このまま夢に見そうなくらいおかしかった。


「茶々丸、ふうちゃんのこと紹介するの、楽しみに待っててね」


と、お腹から顔を離して茶々丸と向き合うと、私の鼻をペロンとひとなめして、本当に言葉が通じていいるかのようで、嬉しくてお返しに茶々丸の鼻にちゅーをした。


《ふうちゃん、会えるの楽しみだね》

《うん、俺も楽しみだよ。待ちきれない》

《いっぱいお喋りしようね》

《もちろん。いっぱい聞かせて、えでかの話》


そして聞いてほしい。

私がどれだけ幸せか。いっぱい聞いてね、大好きなふうちゃん。




続く

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