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夏休み2日目の今日は、英語の試験が8月に行われるので、そのための受験票をとりに小学2年生から通い始めた英語塾にやってきた。
ちょうど家を出ようとしたら潤くんがいて「補習に行くついでだから乗ってくか?」と、潤くんママが運転する車に乗せてもらった。
さすがにこの炎天下の中、薄手とはいえ一枚羽織って出けるのは辛いなと思っていたのでありがたかった。
「みんなによろしくな」と言いながら去っていく潤くん。
潤くんママがおろしてくれたのは、自動車整備会社の前だった。
そして自宅兼、事務所になっている建物と工場を通り過ぎ、奥に進むと少し小さな一軒家がある。
そこが私が通っていた英語塾だ。
この英語塾は自動車整備会社社長の息子が趣味で開いており、本業の合間に私たちの面倒をみてくれていた。
「おー!!立華!久しぶりだなぁ!」
「太郎君!久しぶり~!」
チャイムを鳴らすと扉をあけてくれたのは、この英語塾の先生であり、アフロヘアーがお馴染みの桃内太郎君。
私よりも一回り年上なのだが、なぜかみんな「太郎君」と呼ぶので先生よりも太郎君呼びが定着してしまった。
「元気にやってるか~?」
「うん!太郎君のおかげでいつも英語の成績は90点以上だよ!」
「おっ、嬉しいこと言うじゃん~」
太郎君の塾はあまり公にしていないため、町内ではほとんど知る人がいない。
なので少人数制になっており、一人一人のペースにあわせて教えてくれる。
それに太郎君の親しみやすいお兄さん的性格もあってか、塾のみんな仲が良くて、それが私にはもうひとつの家みたいでとても大好きだった。
「栄一郎から受験票のこときいてるぞ~。おやつ準備してくから、先に上で待っててくれ」
「おやつ?じゃぁ手伝う~」
「いや、こっちは大丈夫だ。いまちょうど珍しいやつらがきててな。お前も喜ぶだろうから教室で待ってろ」
「珍しいやつ???」
太郎君にそう言われたので、私は珍しい人って誰だろうかと思いながら2階の教室へ向かった。
確かに年始に顔を出したときよりにぎやかだなと感じたのは、珍客がきているからだろう。
でもいったい誰なのか想像ができないまま、教室のドアをあけた。
教室はいたって普通の洋間に、ホワイトボードと机といすが並べられたシンプルなつくりで、なつかしいあたたかい香りがした。
そんな10畳ほどの教室には5人の姿があった。
「おっ、立華。やっときたか」
「栄一郎君!おはよ」
5人のうちの一人は栄一郎君で、教室に入ってすぐに私に気づいて声をかけてくれた。
「え…立華って…」
「もしかして…かーちゃん…??」
「え???」
すると栄一郎君に反応して、奥にいる2人が反応し、3人を押しのけて誰が来ているのか確認できないままパッと私の両手を握った。
「あぁ~~やっぱり!!やっぱりかーちゃんだ!!!!」
「懐かしいな!!覚えてるか?!かーちゃん!!」
テンション高く私を取り囲んだのは、ゆか先輩とはまた違う大人っぽい雰囲気をもつ女性と、ダイヤちゃんが見せてくれた仮面ランナーの相棒キャラにいそうな今時大学生っぽい男性だった。
「も、もしかして…光ちゃんと湊…!?!?」
「そうだよ~~~久しぶり~~~!!!」
突然で戸惑いながらも、なつかしい雰囲気からすぐに記憶が一致し、私が二人のことを思い出すと、光ちゃんは私を思いっきり抱きしめた。
あの頃と変わらず優しいお姉さんの香りがふわっとした。
「えっえっ???な、なんで二人がここに???だって南都に転校したはずじゃ…」
そう、光ちゃんこと鈴村光と、鈴村湊は私が4年生になってすぐに南都に引っ越した姉弟だ。
二人は異能小学校に通っていてが、私と通学路が同じだった。
入学してすぐに通学中の私に声をかけてくれ、太郎君の塾を紹介してくれたのも二人だ。
しかも二人に誘われて小学生部門の北都大会に応援にいき、姉弟でアベック優勝する姿に惹かれ、私が初めて異能に憧れたきっかけでもある。
なので小学4年の時の私は、転校という子供にはどうすることもできない事情で仲の良かった友達3人と離れる悲しみを経験しているのだ。
「実は去年から北都大学に通っててさ、二人でこっちに戻ってきてたんだよ」
「湊が戻りたいって言いだしてね。ほんと編入制度があって助かったんだから~」
「そういう姉ちゃんだって、北都の話よくしてたし、北都大学の教授から結界術学びたいって言ってたじゃん!」
「はいはい、湊のおかげで戻ってこれました~~」
何年経っても二人の姉弟仲の良さと、掛け合いがおもしろくて、小学生に戻った気分になった。
「去年も顔出してたんだけど、かーちゃんとはすれ違いになったみたいで、悔しいから今年は毎日きてやるって太郎君に連絡してたの」
「そしたらすぐに会えるんだもん、ラッキーだったな!!」
「あはは!!私も二人にまた会えるなんてラッキーだよ~!!」
太郎君が言っていた珍客は、光ちゃんと湊のことだったのだろう。
思わぬサプライズに、光ちゃんと抱き合いながら飛び跳ねた。
「立華♪こっちもいるよ♪」
と、声をかけられたほうに目をむけると、栄一郎君の隣にこちらにも懐かしい2人が手招きしてた。
「わぁ!!瑠璃ちゃんに真紀ちゃん!!」
「やっと気づいてくれた~」
今日は再会が一気にやって来すぎではないだろうか。
栄一郎君の姉の瑠璃ちゃんと、彼女の真紀ちゃんに1年ぶりに会えたのだから。
「北都はどう?楽しい?栄一郎にいじめられてない?」
「うん、毎日楽しいし、いじめられてないから大丈夫だよ~」
「それに立華、この前の体育祭、〇✕クイズで優勝したくらい楽しんでたよ」
瑠璃ちゃんは北都一のイケメンと言われる栄一郎君のお姉さんだけあって、会うたびに美女っぷりに磨きがかかっている。
というか大学生になってから、より拍車がかかっているのではないだろうか。
でも栄一郎君と違って小柄なお人形体型なのだが、スポーツ神経が抜群で、北都東高校のスポーツ科出身なのだ。
今は北都東大学のスポーツ科で、教員免許を取るために毎日頑張っているそう。
「立華~、栄一郎に意地悪されたらすぐ連絡してね??」
「真紀、お前、立華に悪知恵とかやめろよ??」
そして栄一郎君の彼女、真紀ちゃん。
栄一郎君と同じ年で、小学1年生のころからの付き合いになるそう。
しかし真紀ちゃんに異能はなく、中学で離れ離れになってしまうことで交際がスタートした。
そのため北都で栄一郎君に彼女がいることはあまり知られていない。
隠しているわけではないが、狂気的なファンは信じてくれないため、栄一郎君はよくストーカー被害にあっているのが悩みだと、よく愚痴をこぼしている。
「真紀はそんなことしないわよ~」
「するとしたら栄一郎君のほうなのにね~」
と、瑠璃ちゃんと真紀ちゃんは同じ東高校のスポーツ科ということもあり、とても仲が良く、栄一郎君はいつもいじられている。
栄一郎君がこんな風に女子からいじられるなんて、北都ではめったに見られない光景だろうなと思う。
「わっ!!なに!?お前らドア塞ぐなよーーびっくりしたぁ!!」
そんな久しぶりの再会は、鈴村姉弟のお土産をたくさん持った太郎君によって、よりヒートアップしていくことになる。
「そういや立華、どうやって来たんだ??」
「潤くんママが乗せてきてくれたよ。潤くんも顔出したかったけど、これから補習なんだって」
太郎君はやっとそれぞれ空いてる机に座った私たちに、お菓子とお茶を配ってくれた。
「って、真紀は補習ねぇのかよ??」
「私は特進クラスじゃなくて、スポーツ科だからね~」
「太郎君の塾、特進クラスよりもスポーツ科が多いからおもしろいよね」
「瑠璃はいいよ、お前は勉強もできたから。問題は弟だよ!!」
たしかに瑠璃ちゃんに言う通り、太郎君の塾には栄一郎君や鈴村姉弟のような異能力者や、瑠璃ちゃんや光ちゃんのようなスポーツ科生が多い。
文武両道できている人もいれば、栄一郎君のように能力にふりきった人もいて、個性的な人が多く集まっている。
「いいよなー俺も北都に通いたかったー」
「でも私、南都の話、聞きたい!」
「相変わらずかわいいわ~かーちゃん。夏休み中、また家に遊びにおいで??」
「いいの?!行きたい~!!」
どうやら鈴村姉弟は、以前住んでいた家にまた戻ってきているのだと。
といってもほとんど寮生活のため、こういった長期休みにしか帰れないそうだけど。
でも私の家とは隣地区で歩いて20分くらいなので、明日さっそくお邪魔できることになり、明日がもっと楽しみになった。
「栄一郎も来月は全国異能大会か~」
「そうだよ、俺も湊君と遊びたいけど来週から東都と合宿なんだよね~」
「じゃぁかーちゃんも合宿?」
「うん、私はほとんどマネージャーだけどね」
「ま、ほとんど3年がメインだもんな」
鈴村姉弟も南都大会でも連続優勝を果たし、全国大会に出場した経歴をもつ。
ただ二人とも東都生に負け、団体では最下位の4位だったと苦笑いした。
しかし団体結果をばねに、個人戦ではベスト4にしがみついたと今度は豪快に笑った。
「大会、見に行けないけど、いい報告楽しみにしてるからな」
「え~だったら模擬戦してよ~湊君~」
と、栄一郎君は湊に甘えるように模擬戦を頼んできた。
昔から強くてかっこいい姉弟の二人がいても、団体では最下位だったなんて、全国異能大会はなにがあるかわからないのだろうと身に染みた。
でも個人でベスト4入賞したすごい先輩になっていたなんて、私が憧れた姉弟はやっぱりすごいなと嬉しくなった。
「瑠璃ちゃんと真紀も、夏休みは忙しいんじゃない?」
「うん、私は来週から東都大で合宿。来月学生選手権があるからね」
「私も合宿と大会ばっかりで、栄一郎君ともゆっくりできるの今日くらいだよ」
「じゃぁ太郎塾がデート場所?!」
「そうなる~」
ムードなっ!と湊が口にすると、太郎君に「ムードない塾で悪かったな」と猫みたいに首根っこをつかまれていた。
でも湊の雰囲気のせいだろうか、猫よりもおさるさんみたいで長いしっぽの幻覚がみえた。
「太郎君は北都生のとき全国でた?」
「俺?俺、優勝したけど?」
・
・・
・・・
「「えぇぇぇぇl!?!?!?」」
さらっと答えた太郎君の発言に、全員息をするのを忘れ、一斉に驚きの声をあげた。
だって小学生の間、ずっと通い続けてきたけど、太郎君が全国制覇していたなんて聞いたことないもの。
その後「だって聞かれなかったし。それに昔のことよ~??」と言う太郎君は、英語のことよりも模擬戦のことや、全国を制覇する秘訣などを、太郎君の本業の時間になるギリギリまで質問責めにあっていた。
帰り際、私は太郎君から忘れずに受験票を受け取ると、免許とりたての湊の運転で寄り道しながら自宅まで送ってもらうことになった。
「そういえばかーちゃん」
「なぁに??」
「かーちゃん、高校生になってもっとかわいくなったけど彼氏はいるの?」
つい今まで懐かしい北都話に花が咲いていたのに、光ちゃんから急な質問にびっくりして顔が熱い。
「きゃっ!!湊!!ちゃんと安全運転してよ!!」
「姉ちゃんがいきなり変な質問するからだろ!!」
「かーちゃん、大丈夫だった??」
「な、なんとか…」
湊もびっくりしたのか、緩めることを忘れて一気にブレーキを踏んでしまったよう。
その反動で光ちゃんが座っている助手席におでこをぶつけてしまった。
「で、かーちゃん、どうなの??」
まだちょっと恥ずかしくて、顔が熱いまま、ニコニコしている光ちゃんに私はふうちゃんのことを告白した。
「うん…いるよ。昔、二人に話したことがあるふうちゃんって覚えてる?二人が転校しちゃったあとに、ふうちゃんも東都に転校しちゃったんだけど、このまえの修学旅行で再会したんだ…」
なんだか心がさわさわする。
大好きな二人に、恋人ができたことを打ち明けることが恥ずかしいのか、緊張するのかわからないけれど。
きっとふうちゃんと恋人になれた奇跡を、こうやって実感しているんだろう。
「あ、あれ?光ちゃん??湊??」
ふと車内が静かになって、カーブミラー越しに光ちゃんの顔を覗くと、ニコニコしていた目が開き
「そう…じゃぁお姉さんとしてどんな男か確かめないとね??湊??」
と、湊に圧をかけながら同意を求めると
「そうだな。かーちゃんをちゃんと守れる男じゃなきゃ認められねーからな」
湊も湊でさすが全国ベスト4の実力者だけあって、すれ違う運転手がびっくりするほどの圧を感じた。
でもそれも、いまだに私のことを可愛がってくれているからだと思うと、私には圧なんて感じなくて声をあげて笑った。
「あはは!じゃぁ来年の夏、ふうちゃんに会ってくれる??」
「えぇもちろん。ちゃんと見定めてあげるわ…うふふふふ」
来年の夏。
ふうちゃんに光ちゃんと湊を紹介するころは、鬼神を倒した後だろう。
そして来年の夏には、ふうちゃんに北都をいっぱい案内して、太郎君たちにも紹介したい。
私の大好きなふうちゃんだよって。
だから絶対に鬼神を倒して、みんなのことを守れるよう、強くなるんだー。
「ありがとう、二人とも!送ってくれて!」
家につくころにはもうお昼をすぎていて、私のお腹も限界だった。
リビングの窓際に茶々丸が待っていて、二人からたっぷり「かわいい」をもらった茶々丸は満足そうに奥にのそのそ引っ込んでいった。
「じゃあそろそろ行きましょ。今日は会えてうれしかったわ、かーちゃん」
「あ、あとお前、腕の怪我、あんま無理すんなよ」
「え!?な、なんでわかったの…?」
私は驚いて声をあげると、二人はきょとんとした顔でこう続けた。
「いや、なんとなく、そうかなって」
「この真夏に薄手とはいえカーディガン羽織ってたら、具合が悪いか怪我隠すかくらいかなって」
「えぇ…ちゃんと隠せたと思ってたのに…」
瑠璃ちゃんと真紀ちゃんに「暑くない?」と聞かれたときは「エアコンで冷えちゃうから」って誤魔化せたと思っていたけれど、二人の洞察力は侮れないということか。
「まぁたぶん太郎君も気づいてたと思うけどな」
「そうね~、栄一郎君も気づいてたと思う」
「そ、そうだったんだ…」
栄一郎君まで気づいていたとなると、いったいいつからどろうと考えはじめたけれど、でも何も事情を聞かずにいてくれたのは優しさなのだろうと思った。
「ふふ、かーちゃん、すぐ顔にでるからね」
「でもスポーツ組は気づいてないと思うけど、はやく治るといいな!!」
そう言って湊が励ましてくれて、あまりみんなに心配をかけたくない私としては心が少し軽くなった。
ー 夜 ー
りく先生に教えてもらった丹田トレーニングと、ストレッチをこなし、ベッドに横になる私。
今日は懐かしい友達にいっぱい会えて、午後は茶々丸とお散歩して、また潤くんやあおちゃんたちと遭遇して立ち話したりと、夏休みらしい1日だった。
《ふうちゃん、もう寝るところだよ》
《今日もお疲れ、えでか》
《明日ね、光ちゃんと湊のお家に遊びにいってくるの》
《光ちゃんと湊?》
《うん、異能小に通ってた姉弟で友達なの。二人の小4のときに南都に引っ越しちゃったんだけど、今日再会したんだよ》
ベッドに横になったばかりなのに、ドアがカリカリを音をたてた。
猫用の小窓があるのに茶々丸は人間と同じようにドアから出入りしたいようで、私は立ち上がって茶々丸を向かい入れた。
《そっか。記録になかったから魔法かける前の友達なんだね》
ふうちゃんの話によると、生存記録で記録されているのは魔法をかけた瞬間からのようで、かける前の出来事は記録されていないそう。
なのでふうちゃんはぽろっと「もっとはやくかけたかった」ともらしていた。
《ふうちゃんの話したらね、二人も会いたがってたの。だから来年、紹介させてね》
《わかった。えでかの大好きな友達だからね、会えるの楽しみにしてる》
ふうちゃんに二人を紹介している姿を想像して、ふふっと笑みがもれると
「あ」
《あ》
茶々丸に枕を占領されたことに、声を魔法を同時に送っていた。
《どうしたの、えでか》
《茶々丸に枕とられた》
《ふふ、茶々丸は頭いいね》
《も~。でもかわいいから許しちゃう》
ベットにあがり、枕の下に横になると、茶々丸の鼻息が髪にかかってくすぐったい。
《ねぇ、えでか》
《ん?なぁにふうちゃん》
《その姉弟も小4のときに転校したんでしょ?いつ頃だったの?》
《ん~たしか冬休みのときだったかな?》
《そっか》
《どうして?》
なんだかふうちゃんの元気がなくなったように感じる。
《冬休みあけ、気づいてあげられなかったなと思って》
魔法が返ってきたと思ったら、鈴村姉弟が転校して落ち込んだことに気づいてあげれなかったことで、元気がないように感じたのだった。
《ふふ、ありがとう、ふうちゃん。もちろん引っ越した時はさみしかったけど、冬休みあけたらふうちゃんに会えると思ってたから、そんなにさみしくなかったの》
《でもそのあと俺も引っ越したでしょ。だからあの頃のえでかによけいにさみしい思いさせたよね。ほんとにごめん》
咄嗟に身体が動いて飛び起きた。
茶々丸から「なぁん!」と抗議されて慌てて謝ったけれど、ふうちゃんを弱気にさせてしまった。
《謝らないで、ふうちゃん》
《でも》
《もちろんさ、ふうちゃんが転校したって聞いたときは泣きじゃっちゃうほど悲しかったよ》
いくらふうちゃんを元気づけるためとはいえ、ふうちゃんが転校したこと、死んだと思ったことで悲しい思いをした事実は変わらない。
悲しくなかったと、嘘をつくこともできない。
だってふうちゃんに記録されてしまっているし、なにより私は嘘をつくのが下手みたいだから。
《でもね、いまこうしてふうちゃんが生きてるだけでいいの。だから、魔法送ったらこうやって返してくれたらいいし、一緒にお勉強してくれたらいいし、来年光ちゃんたちに紹介されたらいいし、あとね、東都も案内してほしいし、あとね~》
《えでか》
《ん?》
《欲張り》
《ふふ、だから一緒に長生きしようね》
《うん、そうだね。ありがとう、えでか》
ほんとだよ、ふうちゃん。
あの時は悲しくて悲しくて、思い出さないようにすることでしか、涙をとめる方法がなかったけれど。
いまはね、こうしてふうちゃんが生きてくれてるだけで幸せなの。
来月東都にいったとき、もう謝るなんてしなくてもいいように、たっぷり伝えるから待っててね。
そして目が覚めた私は、茶々丸に枕を貸したまま眠りについたので寝違えていた。
続く




