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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
はじまり
9/151

ー9ー

季節はゴールデンウイークを過ぎた。

その頃からふうちゃんは学校を休みがちになった。

先生からは「体調不良」とだけ聞かせれ、1週間に1度登校すればいい方だった。

私は毎朝登校すると朝の挨拶の時間まで「今日は来るかな」と、ふうちゃんを待ちわびては落胆する毎日だった。

さすがに心配だったのでふうちゃんと同じ地区に住む同級生に聞いてみたが、家には祖母しかおらず、ふうちゃんは不在だったと聞き、私は嫌な胸騒ぎを抱えた。




梅雨を超え、夏休みが近づいてきた頃。

みんなが校庭で体育の授業を受けている間、私は頭痛がひどく保健室で休んでいた。

あまりにも頭痛がおさまらなかったので早退することに決め、ランドセルを取りに誰もいない教室へと向かった。


ドアをあけると電気が消えた教室に一人、誰かがぽつんと座っていた。


「ふうちゃん!」

私は久しぶりにふうちゃんに会えた喜びで頭痛がふっとんだ。

そして振り返ったふうちゃんと目が合った瞬間、ドキッとした。




教室が暗いからだろうか。

いつも友達に囲まれて賑やかで、先生に怒られるくらいなのに静かに座っているからだろうか。

ふうちゃんの寂しそうな、辛そうな目が私の脳裏に焼き付いた。




「久しぶり、えでか」


なんでだろう。ふうちゃんは笑っているのに泣きそうに見えて、素直に会えたことを喜べない。




「…どうしたの?ずっと心配してたんだよ」

「席替えしたんだね。せっかく隣になれたのに、隣になれたとたん来れなくなっちゃったもんね」

「うん…」

「そういえば、いま体育じゃないの?」

「あ、これから早退するところなの…」

「具合悪いの?」

「うん、頭痛くて…。でもやめた!せっかくふうちゃん来たんだから残る!」

「うーん…」


なぜか考えこみ始めたふうちゃんは、私の好きないたずらを思いついた笑顔で

「じゃぁ一緒に帰ろうぜ」

と言ってランドセルを背負いはじめた。




「え?え?だっていま学校きたんじゃ?」

呆然と立ち尽くす私とは対照的に、テキパキと私の荷物もランドセルにまとめてくれた。

「ほら、家まで送ってやるよ」

私のランドセルを当たり前のようにふうちゃんが持ったまま、私の手をひいて学校を後にした。




「ねぇふうちゃん、私の家、かなり遠いよ?ふうちゃん家と反対方向だよ?」

「心配すんな。かずま達と隣町まで走ったことあるし、余裕余裕」


さっきまで寂しそうに見えたふうちゃんは私の錯覚だったのだろうか。

手をつないで隣を歩くふうちゃんは、いつものふうちゃんだった。


「頭痛は平気?」

ふうちゃんに言われるまで割れるように続いていた痛みはいつの間にか消えていた。


「ふうちゃんとしゃべってたら治ったみたい」

「うん、俺も」

「え?ふうちゃんも頭痛かったの?」

「そんなとこ」


何か秘密を隠しているような言い方がひっかかった。


「ねぇふうちゃん…なんで学校休んでたの?どこか具合悪いの?」

「…」

ふうちゃんは黙ったまま、ゆっくり歩みをとめた。

俯いて表情がよく見えなくて、ふうちゃんの答えを聞くのが怖くなった。




「あ、そ、そういえばね!ふうちゃんが休んでる時、おもしろいことがね…!」

ってなんとか話をそらそうと、頭をフル回転させ気分を変えようとしたが

「兄ちゃんと旅行いってたんだ」

「旅行?お兄ちゃんと?」

意外な答えが返ってきて、具合が悪いわけじゃないことにほっとした。



「えでかも会ったことあるでしょ?俺の兄ちゃん」

「うん、いま中学生だよね。よくふうちゃんの忘れ物届けにきてくれてたもんね」

「そうそう。兄ちゃん、異能力が高くて東都にいるんだよ」

「え!すごい!」

「で、おもしろい遊び教わったから教えてあげる」

「なになに!?」


そう言って近くにあった公園にある変な動物のオブジェに隠れるように入った。

学校をさぼって遊んでるみたいで、ドキドキした。



「いまからやる遊びも二人だけの秘密ね」

「もちろん!」

「よし、じゃぁ手だして」


いつもの指文字遊びと同じく手のひらを上にして両手を差し出す。


「テレパシーごっこね」

「テレパシー?」

「そ。触らずに書くから当ててみて」


触らずに書くなんて出来るのだろうかと不思議に思いながら手のひらを眺めていると、ふうちゃんの指から青い光が出てきて、私の手のひらを照らすように動きはじめた。


私は驚いてふうちゃんの顔と、ふうちゃんの指を何度も往復した。

青い光は北都の優しい海を思い出させるような気持のいい冷たさで、思わずずっと触れていたいくらい。

でも私の目は、会えない間に少し大人っぽくなったふうちゃんの横顔から離せなくなった。

光が反射してぼんやりと浮かぶふうちゃんが、綺麗だったんだ。




「…わかった?」

「あ…」

ふうちゃんに見とれてて集中してなかった、とは恥ずかしくて口が裂けても言えなかった。


「ごめん、びっくりしてた…もっかいやって!」

「ふっ…もっかいやらなくてもわかるよ」

「えーわかんないよ!」

「頭に浮かんでこない?」

「あたまぁ~?」

「うん、手見ながら今のこと思い出したり、俺のこと考えてみて」


ふうちゃんのことならいつも考えてるよ、と思いながら言われた通りに手のひらを見つめてみた。


「あ…」

すると不思議なことに、今は光らせていないなのにふうちゃんの青い光が手のひらの上に見えた。

そして頭に浮かんでくるというよりも、心に浮かんでくるような「もう知っていた」かのように、もうこの言葉しか考えられない。


「…会えて…うれしい…?」

「正解!さすがえでか!」

ふうちゃんはそう言って私の頭を思いっきりなでた。


「わー!ぼさぼさ!」

「あはは!」

私の頭をぐしゃぐしゃにするふうちゃんの手が、大人っぽくなったのは顔だけじゃなかったことを教えてくれた。

私と身長同じくらいのはずだったのにな。




「それ、私にもできるの?」

「えでかには出来ないよ」

「え~残念…」


当時の私は北都以外では流行ってるんだろうな、くらいにしか考えていなかったが、どう考えてもこれは『異能』だ。

稀に小学生でも発症する人もいるが珍しく、中には能力の大きさがまだ小さい体に合わずに暴走してしまうケースがあると聞いたことがある。

でも私は、暴走していないし、ふうちゃんは例外なんだろうと甘く考えていた。




「でもこれなら離れてても俺からえでかにメッセージ送れるよ」

「本当!?」

「俺とえでかの間に“魔法”をかけると出来る」

「やったぁ!どうやってかけるの?」

「…じゃぁちょっと、目、つぶってて」


目をつぶると、つぶっててもわかるくらい目の前が青く光った。

(やっぱり海みたいで気持ちいい…)

さっきは手だけ海に触れているような感覚だったけれど、今は全身で海に潜ってるみたいで冷たいのに暖かい。



「?」

一瞬、口元に柔らかい水が優しく触れた気がした。




「…はい!出来た!」

青い光が消え、目を開けると顔を真っ赤にしたふうちゃんがいた。


「どうしたの?疲れた?」

「だ、大丈夫!!」

様子がおかしいふうちゃんは、さっきまでの大人っぽさがどこかへ行ったかのようで、懐かしいふうちゃんだった。


「さ、もっかい遊ぼうぜ!」

「うん!」


そして何度も何度もふうちゃんが書いては私が当てる、を繰り返し、家に着くころにはいつもと変わらない時間になっていた。




「結局最後の問題だけわかんなかったね」

「も~~答え教えてよ!」

「だめ~~~」

「だってなんか、ぐにゃぐにゃしててわかんないんだもん!なんか絵描いたでしょ!」

「違います~~~」


最後の問題だけ当てることが出来ないまま家に到着してしまい、もやもやとスッキリしないでいた。


「じゃぁ明日教えてね!」

「…いつかな!」

そう言ってふうちゃんは笑った。



「ねぇ、このまま歩いて帰ったら遅くなるし、お母さんに頼んで車で送ってもらうよ?」

初夏とはいえ、もう辺りは夕方で、ふうちゃんが家に着くころには真っ暗になってしまうような時間だった。


「あー…大丈夫!もう近くまで迎えきてるから!」

「そうなの!?それならいいけど…」

私が気づかない間にお迎え呼んでたのかな?と不思議に思った。


「えでか、さっきのやり方わかったね?」

「うん!ふうちゃんのこと念じればいいんでしょ?」


ふうちゃんがいう“魔法”をつないだことで、どんなに離れていてもふうちゃんから手のひらにメッセージがくる。

メッセージが送れない私は、ふうちゃんのことに「おしゃべりしよう」「あそぼう」、などと念じるように強く思うとふうちゃんに届くらしい。

どういう仕組みかわからないけれど、何度か練習してみたが、確かに念じるとふうちゃんは気づいてくれた。




「…明日も学校くる?」

離れていても“魔法”で繋がっているとはいえ、繋いだ手を離すのはさみしい。

毎日学校で会いたいもの。


「…うん」

「よかった!じゃぁ明日ふうちゃんのプリント渡すね!」

「うん、よろしく。早く家、入りなよ」

「うん!また明日ね!」


繋いでいた手で大きく手を振った。

ふうちゃんは繋いでた手を小さく振った。


「ばいばい、えでか」




次の日、ふうちゃんは学校にこなかった。





続く

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