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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
87/151

ー87-

私が参加している〇✕クイズ。

ふうちゃんと一緒に参加しているのだけど…


「なーーーんと!!!!!7問目のひっかけ問題で大勢が脱落し、残り3名となりましたぁぁぁぁぁ!!!!」

「もう残っている3名は北都マスターと言っていいでしょう。果たして最後まで残り北都キング、クイーンになるのは誰でしょうね~~」


北都から排出された花火アーティストで、一番多い年はいつか、という年代問題で、不正解の年はダンサーが多い年だったというひっかけがあり、残り3名のうち1名になってしまったのだ。

昨年は10人ほど最後まで残ったので、残ったクラスに同じ点数が与えられたのに、なぜ今年にかぎってこんな目立つ形になってしまったのか…。

全校生徒に見られている緊張感と、スクリーンにたびたび映る自分の姿が恥ずかしくて、いますぐ不正解を選んで逃げ出したい。


《ふうちゃん…残り3人になっちゃった》

《あともうちょっとだね。えでか、恥ずかしい?》

《恥ずかしいぃ…》

《ふふ、恥ずかしがるえでか、かわいい。記録みるの楽しみだな》

《もーふうちゃんのいじわる~》


はやくテントに戻りたい気持ちをおさえ、ふうちゃんが応援してくれるならと自分を奮い立たせる。


「それでは第8問!!!異能史からの問題です!!今日も使っている生徒が多かった結界術ですが、いまは属性関係なく使われていますね。ですが!!結界が異能技としてはじめて確率されたのは961年である!!〇か✕か!!???」


私を含め3人は〇と✕のちょうど境界線にいる。

そしてこの問題は試験前にふうちゃんと一緒に勉強したところだ。


《ふうちゃん、この問題…》

《✕、だね。961年は水属性が確立された年だから、結界は962年だね》

《うん、一緒に勉強しててよかった!》

《他の2人は移動してる?》


私の前に立っている2人はチラチラとお互いの様子を伺っているようで、いまだ動いていないようだ。


《よし、じゃぁこのまま✕にいよう》

《うん!》


私が動かないことに気づいたのか、1人は✕に待機し、もう一人は賭けにでて〇に移動した。


「3…2…1…時間でーーす!!!!!それでは正解発表~~~~!!!!!正解は~~・・・」


実況アナウンスに合わせて吹奏楽部によるドラムロールが流れる。

正解していると思っていても、もしや?と思ってしまう。



「んんん~ばぁぁぁぁつぅぅでぇぇぇぇぇぇぇす!!!!!1年生の範囲でもある問題でしたが、1年生には難しかったですかね??しかし多くの先輩たちの屍を超えて見事3位に勝ち残りました!!!」


賭けにでたのは1年生だったようで、会場中から拍手で見送られて嬉しそうだ。

でも本当に難しい問題もあったのに、1年生でここまで残れたのはすごいと思う。


「吉岡さん!!!!!おめでとう~~~!!!!」


え!?吉岡さん!?!?!?

1年の吉岡さん!?!?!?!?

ってもしかして…あの吉岡屋さんのパンの娘さん!?!?!?

あぁ…せっかくなら声をかけておきたかった…と、テントに戻る吉岡さんを名残惜しく見送った。


その時、呆れた顔でこちらを見ているりく先生と目があった。

あの表情は「お前ら…やってるな…?」と言わんばかりの顔。


《ふうちゃん、りく先生と目があったんだけどね、やっぱり気づかれてるよ》

《やっぱり?でも勝てばいいからね》

《ね♪あ、次の問題きたよ》


「第9問~~~!!!!!秋に毎年行われる秋桜市に関する問題です!!かれこれ長い歴史を持つ秋桜市にはたくさんの出店が軒を連ねます~~。そこで問題です!!!!昨年出店して飲食店の数は何店舗でしたでしょう!?!?!?!?285店舗だと思ったら〇!!!299店舗だと思ったら✕へお進みくださ~~い!!!」


ふうちゃんに伝えながら私は、さすがに無理だよ!!わかんない!!と頭をひねらせた。

一緒に残っているのは3年玄武組の先輩のようで、先輩の悩んでいるようだ。


《ふうちゃん、飲食店の数なんてわかんないよー》

《大丈夫、ちょっと待ってて》

《ふうちゃん、わかるの?》


もう勘に頼るしかないのかと思いつつも、ふうちゃんに何やら策があるようだ。

去年りさちんと遊びにいった記憶を遡ってみても、どんな食べ物があったかは思い出せても店舗数までは思い出せない。


「残り10秒~~~!!!!10…9…8…」


ふうちゃんからの返信を待っていると、移動時間のタイムリミットが迫ってきてしまった。

スクリーンに焦ってる顔が映しだされても気づかないくらいに、ふうちゃんがいないと駄目な子みたいに焦っている。


《えでか!〇!!1秒になったら〇に移動して!》


やっと返事がきた瞬間、ふうちゃんが指定した1秒になったので、急いで中心線を超える。

すると先輩もついてきたようで、ギリギリ間に合ってしまったようだ。


《先輩も〇にきちゃったけど、ふうちゃんどうしてわかったの?》

《兄ちゃんに聞いてきた。水樹家、秋桜市の役員だから》


「両者〇に移動したようですが、果たして正解は~~~~~・・・まるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!すごい!!!!両者一歩も譲らず、最終問題へ突入だぁぁぁぁぁ!!!!!!」


会場は最終問題に突入したことで盛り上がっているが、私はふうちゃんが当てたことがすごくて二人で《すごい!すごい!》と盛り上がった。


《ふうちゃん!最後の問題まできちゃったよ!》

《俺たち二人にかかれば楽勝だね》

《うん!!》

《えでか、きっと最後はなにか仕掛けてくるはずだから先輩から目を離さないでね》

《わかったよ、ふうちゃん!》


これまでも異能技を仕掛けて脱落者を増やす生徒も多かったが、私は角のほうでひっそり気配を消して参加していたので、巻き添えになることはなかった。

まぁこれ以上怪我を増やしたり、傷口が開いてしまうこともさけたいからね。

でもこの最終問題、なにも仕掛けてこないわけはないと、薄々感じてはいたので、怪我をせずに優勝するために気を引き締める。


「それではラストクエスチョ~~~ン!!!!最後の問題は、北都高校の伝説にまつわる問題です!!!」


北都の伝説??

七不思議のことなら自信があるのだけど、伝説の話はこれまであまり聞いたことがない。


《ふうちゃん、北都の伝説の問題だって》

《伝説?えでか聞いたことある?》

《私が聞いたことあるのは1つくらいかな》


そのひとつがピンポイントで出たらいいなと両手を握った。


「北都には伝説のヤンキーと呼ばれるOBがいますね~~男子校時代、隣の女子高に出現した鬼を一人で退治したり、侵入者を捕縛したり…数々の英雄談を残しています」


私は少し希望がみえた。

なぜなら私が聞いたことがある伝説のひとつがピンポイントで出てくれたからだ。

それにしても伝説のヤンキーという肩書のわりに、語り継がれているのはかっこいい話ばかりで、あまりヤンキーっぽさを感じない。


「そんな彼が愛用し、乗り回していたバイクはどこのメーカーでしたでしょう!?!?!?!?!?ノンダと思ったら〇!!!!!スズカワだと思ったら✕へどうぞーーーー!!!!!!」


えぇぇぇぇ知らない知らない知らない!!!!!

一瞬見えた希望は幻だったのか、一瞬で右も左もわからない絶望の淵に立たされた気分だ。

しかもこれが最終問題というプレッシャーも相まって、実況アナウンスのカウントダウンすら聞こえない。


と思っていると、足元がぐらつくほどの突風が右側からふいて、とっさに飛ばされそうな鉢巻と花飾りをおさえた。


「ごめんな後輩、ここは勝ちを譲ってくれ」


突風の発信源は先輩の手元だった。

どうやら先輩はノンダが正解だと確信しているようで、私を✕のスズカワへ移動させたいらしい。

だからといってふうちゃんとまだ相談してないのに移動するわけにはいかないと、私は下半身に力を入れ中心線で踏ん張っている。


《ふうちゃん、先輩仕掛けてきたよ。私をスズカワに移動させたいみたい》

《その先輩、見誤ったね。正解はスズカワなのに》

《そうなの!?》

《うん、だからギリギリまで粘って負けたふりしてスズカワに移動しよう》

《うん、わかった!》


きっと嬉しそうな顔をしたかもしれないけれど、先輩がおこす風で髪の毛が暴れまくっており、ちょうど隠れた気がしてほっとした。

でもさすがに残り時間がまだ15秒あるので、踏ん張っている背中と風の衝撃が当たって腕が痛む。


《えでか、丹田に力いれてみて》


ふうちゃんに言われて丹田に力を入れると、変に力が入っていた前ももの筋肉や、曲がった腰がくっと内に入って立っているのが楽になり背中の痛みがおさえられた。


《ありがとう、ふうちゃん。背中痛くなくなったよ》

《よかった。残り1秒になったら丹田の力抜いてスズカワにいこう》

《うん!》


勝ちを確信したままの先輩は残り時間が3秒になっても移動する気配がなかったので、ふうちゃんの作戦通り、1秒になった瞬間私は丹田の力を抜き、ふらついたふりをしてスズカワに移動した。

ふうちゃんとの作戦が成功して魔法の中でハイタッチをした。


「な~~~んと~~~~!!!!!両者、わかれました~~~~~!!!!!!!」


会場はかなり盛り上がっており、りさちんの「楓ちゃーーん!!がんばーー!!」の声も届いた。

りさちん…頑張れと言われても、もう頑張れることないんだよと一人で笑ってしまった。


「それではさっそく正解を発表します!!!!!!伝説のヤンキーが愛用したバイクのメーカーは・・・・・・」


吹奏楽部のドラムロールが私の手のひらに汗をかかせる。





「ス~~ズ~~カ~~ワ~~~~だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!勝者は2年朱雀組!!!!!立華だ~~~~~!!!!!!!!!!」


勝利の音楽とともに、クラッカーがあちこちから鳴らされた。

そして朱雀女子たちの黄色い悲鳴と、白虎男子たちの立華コールが響き渡る。

先輩は相当ショックだったのか、地面に手をついて見るからに落ち込んでいる。


《すごい!!ふうちゃん!!勝ったよ!!》

《えでかの演技が上手かったからだね、おめでとう》

《ふうちゃんの作戦勝ちだよ、ふうちゃんもおめでとう》


スクリーンにはりさちんたちに手をふる私の姿が映されているけれど、きっと誰もふうちゃんとお祝いしあって楽しんでる顔だなんて思わないだろうなって、ちょっとドキドキした。

そしてテントに戻るとき、りく先生の姿を探したら「ふっ」と小さく笑いながら親指をたててくれたので、ふうちゃんも一緒だったんですよって伝るかのように大きく手を振り返した。


《りく先生、笑ってたよ》

《りくさんも負けず嫌いだからね》

《ふふ、たしかに》


テントに戻るとゆか先輩たちが「おめでとう~」とお祝いしながら迎えてくれて、ちょっと照れ臭かった。

現在の順位はというと、私たちの合同クラスは1位の3年玄武組に僅差まで追いつくことができていた。

2位の先輩が玄武組だったこともあり、残念ながら追い抜くことはできなかったが、だいぶ背中は近づいてきただろう。

そう思うとスクリーンに映されたり、大勢から注目されて恥ずかしかったけれど、ふうちゃんと一緒に頑張れてよかったと思う。




「続いての競技は借り物競争でーーす。参加者のみなさんは待機スペースに集まってくださ~~~い!!!」

「ゆか先輩!!いよいよ借り物競争ですよ!!」

「もう楓さんったら。あれはただの噂よ~??」


はしゃぐ私とは対照的に、ゆか先輩は眉尻をさげながら微笑ましいような笑みでくすくすと笑っていた。


《ふうちゃん、次は借り物競争だよ》

《いいね、楽しそう》

《しかもね、さっき初めて聞いたんだけど好きな人ってカードが紛れてるんだって》

《紛れてる?》


私は栄一郎君に聞いた話と、ゆか先輩の話をふうちゃんに伝えると、ふうちゃんも楽しそうに聞いてくれていた。

好きな人のカードのドキドキ感と、毎年なぜか紛れている深まる謎が掛け算のように私たちをワクワクさせた。


待機スペースにはすでにたくさんの参加者が集まり、準備スペースのテントには借り物競争担当の生徒がカードを確認しているようだった。


《でもどうして紛れてるのかな?ちゃんと確認してるはずなのに》

《なにか術がかかってるのかもしれないね》

《術…》


ふうちゃんの言う通り術がかけられているのだとしたら、いったいいつかけられて、どんな目的で、なんのためにこんなことをしたのだろう。

そしてこれまで何年も気づかれず、解かれることなく噂として語る継がれることに私は


《なんだかロマンチックだね》


怖いとか、迷惑だなんて気持ちはいっさいなかった。

だってその噂の中に、誰かが生きていて、誰かの想いがあったことを感じるから。


《えでかならそう言うと思ったよ》

《へへ、さすがふうちゃん》


私はにやけ顔を隠せずにいる間、すでに借り物競争はスタートしていた。

すると遠くからりさりんっぽい髪型の生徒が走ってくるのが見えた。


「楓ちゃーん!!お願い!!来て~~!!」


走ってきていたのはやはりりさちんだったようで、カードを見せながら大声で私を呼んだ。

近づいてくるとだんだんとカードに書かれた文字が目に入り、そこには「仲の良い友達」と書かれていて、考える間もなくゆか先輩に声をかけてテントを飛び出した。


「ありがとう!楓ちゃん!私にしっかり捕まっててね!」

「え!?う、うん…って…ひゃあぁぁぁぁ!!!」


りさちんに合流すると説明を聞く暇もなく、ぎゅっと手を握られ、私とりさちんの足元がジェットコースターのようにゴールへ猛スピードで動き出した。

あまりにも突然すぎて周りを観察できなかったけれど、他の競争相手から妨害攻撃を受けていたようで、りさちんはそれを避けてくれていたみたい。

でもりさちんごめんね、ジェットコースターが苦手な私には叫ぶことしかできなかったよ。




叫びすぎてげっそりしていると、1位の旗をもったりさちんが声をかけてきた。


「楓ちゃん、ありがとう~…でも大丈夫??」

「だ、大丈夫…もう~びっくりしたよ~」

「あはは!ごめんごめん!でもおかげで1位とれたよ!」


そう言って1位の旗を笑顔で持つりさちんの顔をみたら、心臓のバクバクもおさまってやっと一緒に喜べた。


「…りさちん、遠かったのに私のこと選んでくれてありがとね」

「ふふ、だって楓ちゃんの顔しか浮かばなかったんだもん」


りさちんがひいたお題は「仲の良い友達」だったのだから、ゴールから近い場所にいる友達に声をかけてもよかったはずなのだ。

それでも私に声をかけてくれたことが嬉しくて、2位の波川先輩に「立華の叫び声、めちゃくちゃおもしろかったな」とからかわれてもへっちゃらだった。




テントに戻り、1レース終わるたびにやってくる怪我人の治療を行っていると、最終レースになったようだ。

ちょうど治療も終わったので、テントから身を乗り出してスタート地点でスタンバっている生徒を確認すると小鷹先輩と波多野が並んでいた。

順位もここで波多野が小鷹先輩より先にゴールすると、ちょうど追い抜けるようだ。


会場からの応援も午前中一番ってくらい大盛り上がりで、こんなプレッシャーの中にいる自分を想像したら震えあがりそうだ。

でも小鷹先輩も波多野も表情ひとつ変えず、和やかに談笑しているようだ。


するとゆか先輩もそっと私の隣にやってきて、顔が少し恥ずかしそうにみえた。



「ゆか先輩…誰応援するんですか?」

「…もう、いじわるなところ真似しなくてもいいのに」


ゆか先輩をからかいたくなる波多野の気持ちがちょっとわかる気がした。

いつも大人っぽくて、お姉さん的存在として私たちを癒してくれるゆか先輩だけど、私たちを変わらない女子高生らしい顔がみたいと思ってしまうから。




続く

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