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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
86/152

ー86-

体育祭3日目。

目覚めは良好。昨日のストレッチ効果のおかげか疲れを残すことなく、体調もいい感じに元気。

朝からふうちゃんと魔法でお喋りもできたので、気持ちはもっと元気。


そして今日は異能期末試験とは関係のない、お祭り行事。

クラス対抗体育祭だ。

昨日までと違い、今日は2年朱雀組の列に並び、視界の良さを実感する。


りさちんとこそこそお喋りしていると、いつのまにか開会式が始まっていて、校長先生の挨拶となった。

生徒はざわついたのでお立ち台に目を向けると、齋藤先生が立っていた。


「校長先生は急遽体調不良のためお休みとなり、代理として挨拶させていただきます。みなさん、2日間の異能期末考査お疲れさまでした。いい結果を残せた人も、悔いが残った人もいるかもしれません。ですが今日は羽目を外しすぎない程度に、前期で学んだこと、頑張ったことを全て出し切りなさい。みなさんの雄姿を楽しみにしています」


齋藤先生が話だすと、こそこそ話していた生徒も静かになり、みなかしこまったようだ。


「ねね、齋藤先生ってなんか雰囲気変わったきがしない?もっと怖かったような気がするんだけど」


でもりさちんは気にしていない、というよりも、齋藤先生の雰囲気の変化のほうが気になったようで、引き続きこそっと話しかけてきた。

私も最初は厳しいイメージだったけど、属性課題で齋藤先生と話してから誤解だったことがわかり、みんなよりもちょっと先に齋藤先生の優しさに気づけてちょっと鼻が高い。




あっという間に開会式が終わり、治癒テントに向かうと


「ゆか先輩!」

「おはよう、楓さん」


顔色も良く、元気そうなゆか先輩が待っていた。


「もう体調は大丈夫ですか?」

「えぇおかげさまで。心配かけてごめんなさいね」

「いえ!でも今日は無理しないでくださいね!今日は私、いっぱい働きますから!」


そう言って腕をかかげてみせると、長袖を腕まくりしていることが気になったのか、ゆか先輩の眉尻が下がった。


「ありがとう…楓さん。でもきっと今日はそんなに忙しくならないはずよ。この2日間に比べたらね」


と、ゆか先輩がウインクをしながらおどけたように笑ってみせた。

ゆか先輩の表情が気になった私を気遣ってくれたのだろう。




「それでは~~いよいよはじまりますクラス対抗体育祭~~!!!みなさ~~~ん!!準備はいいですかぁぁぁぁ!?!?!?!?」


昨日一昨日よりもはりきった先輩の司会アナウンス。

会場からも「いえーーい!!!」とレスポンスが返ってきて、だいぶ会場が温まっているようだ。

私もつられてテントの中から「いえーーい!!!」と返しちゃうほどに。


「第一種目!!!!!お腹をすかせたみなさんのための!!!!パン食い競争~~~~~!!!!走者はスタート位置についてくださーーーーい!!!!」


6名の生徒が並ぶスタート位置の反対側に、あんぱんだけでなくメロンパン、クロワッサン、チョコパンなど色とりどりのパンが並んでおり、よくみると北都で一番人気の吉岡屋のパンだった。

吉岡屋のパンは早朝から列をつくり、お昼前には売り切れてしまい閉店するほど大人気で、そのパンがなぜ、パン食い競争の景品として並んでいるのか私は目を疑った。


「よーーーい…スタート!!!!」


原田先生の掛け声とピストンの音とともに一斉に吉岡屋のパンにめがけて走り出す。

やはり雷属性の生徒が有利なのか、2年青龍組の男子生徒は脚力の速度をあげ一番にたまねぎマヨネーズパンにたどり着いた。

きっとあの中で一番かじりつきやすく、食べやすいことで選んだのだろうが、そんな理由で吉岡屋のパンにありつけるなんてずるすぎる。


最後にパンに到着したのは土属性の2年青龍組の生徒で、一番人気のふっくらメロンパンだった。

たまねぎマヨネーズパンに比べると食べずらいかもしれないが「いただきます」と手を合わせると、吸い込まれるようにメロンパンが一瞬で口の中に消えていった。

そしてたまねぎが気管に入ってむせている雷属性や、あんぱんを焦がしすぎてしまい、熱くて食べるのに苦戦している火属性の1年生を追い越し、復路にむかった。


「くぅ~~~~~あの吉岡屋さんのパンを味わうことなく食べるなんて…!!!」

「うふふ、楓さん、よっぽど食べたかったのね」

「だって大人気なんですよ~~吉岡屋さんのパン!!」


私が悔しくて地団太をふんでいると、1年生に吉岡屋さんの娘さんがいるとのことで、今回特別に協力してもらったのだと同じ青龍組の生徒に教えてもらった。


そして水属性生徒による後ろからの攻撃や、雷撃、樹属性により足止めなども地面をうまく操作し1着でゴールした。

でももし私が走っていたら、どのパンにしようか悩んで、味わって食べていただろうから、私が走らなくて正解だと思う。


その後もパン食い競争が進み、博貴が焼きそばパンを食べ1着でゴールしたり、栄一郎君は技も術も使わず己の脚力のみで1着ゴールしたり名シーンがたくさん繰り広げられた。




「治療お願いしまーす!」


吉岡屋さんのパンの悔しさを感じつつ、次々とやってきはじめた怪我人を治療していく私。

すると治療していた1年生からの情報で、お昼に吉岡屋さんのパンが並ぶとのことで、私の中でパン食い競争の準備が始まるのだった。




「続いての競技は~~~二人三脚ーーーーーー!!!!!」

「この競技はどの属性とペアを組むかで勝敗は大きく変わってきますからね~~。とっても楽しみです」


3年生を抑え、2年玄武組が優勢でスタートした体育祭は、二人三脚へと進んだ。

二人三脚には、りさちんとゆうた君ペアも参加するので私はテントから身を乗り出し、二人の姿を探した。

どうやら3番目の出場のようで、最後尾には小鷹先輩と波川先輩ペアも並んでいるようだ。


「おっ、立華~元気~?」

「あ、栄一郎君!どうしたの?」

「暇だったから遊びにきた」


そう言って誰も座っていない治療台の椅子でくつろいだ栄一郎君。

さっきの脚力も、くつろぐスピードも尋常じゃない速さで、なにか技を使っているのかと錯覚するくらいだ。


「あはは!暇って!…ところで栄一郎君…チョコクリームパンおいしかった?」

「なに?お前、食べたかったの?」

「そりゃそうだよー!」


と、私はどれだけ吉岡屋さんのパンが食べたかったか、お昼ご飯の争奪戦に向けていち早く飛び出していけるように準備していることを熱弁していると、大声でケラケラと笑っていた。


「じゃ、取れそうだったら俺も取っといてやるよ」

「ほんと!わー!ありがとう!頼りにしてるね!!」


期待が高まり小躍りしたくなるのをおさえつつ、喜んでいると栄一郎君はおもしろい話題を教えてくれた。


「そういや立華知ってる?借り物競争の噂」

「借り物競争の噂?なにそれ?」

「実はな、実行委員会が毎年お題のカードを準備するんだ。もちろん参加者分用意して、1レース終わるごとに新しいお題を指定の場所に置きにいくだろ?」

「う、うん…」

「でもな…最後のレース分を置いたはずなのに、1枚余ってるんだよ…始まる前まではピッタリあるはずだったのに…」

「こ、怖い話!?や、やめてよ~!」


栄一郎君の演技がかった口調に背中がぞくりと冷え、怖い話が苦手な私は弱弱しく抗議した。

すると治療を終えたゆか先輩が溜息をつきながら、栄一郎君に向かって苦言を呈した。


「もう、ここは遊びにくる場所じゃないのに。それにその噂、怪談じゃないでしょう?」

「バレたか。立華の反応おもしろくってさ~」

「え?怖い話じゃないの??」


どうやら怖い話と見せかけたのは栄一郎君の冗談だったらしく、ゆか先輩に再び怒られていた。


「でも1枚多いのはほんとなんだぜ?なのに競技が終わって数え直すと最初の数と合ってるの。おもしろいだろ?」

「え~~まだ怖いよ~」

「それがだな、その増えた1枚のカードをとった人にお題をきくと、準備されてないお題が書かれてたって話なんだよ」

「うぅ~…」


いつもの栄一郎君の口調に戻ったはずなのに、やっぱり怪談に聞こえるのは内容が内容だからだろう。

私は思わず耳をふさいで、また栄一郎君にからかわれる。


「で、そのお題っていうのが…好きな人、だったんだって」

「え!?好きな人!?」


両手で塞いでいた両耳をパッとはずし、怪談じゃなかったことと、本当におもしろい話だったことに安心して早く続きを聞きたくなった。


「その話は去年、白紙のカードがくっついていたって話だったじゃない」

「なんだよ佐伯~意外とリアリストなんだな」

「そうですよ~ゆか先輩♪もしかしたらもしかするかもしれないじゃないですか♪」


恋バナ好きの朱雀の血が騒ぎ、ゆか先輩も巻き込もうとする私。


「もう~楓さんまで~」

「にひひ」

「お、次、火野と榎土の番だぞ」

「ほんとだ!」


栄一郎君に言われてテントからまた身を乗り出すと、スタート位置に足首を結び準備を整えたりさちんとゆうた君がスタンバっていた。


「りさちーーーーーん!!ゆうたくーーーん!!!頑張れ~~~~~!!!!」


私が精いっぱい叫ぶと、二人も気づいてくれて手をふってくれた。

りさちんとゆうた君と一緒に並んでいるのは、雷属性ペアや、樹属性と火属性ペア、火属性と水属性ペアなど、お互いの良さを引き出し合うペアばかりだった。

でもりさちんとゆうた君のペアも負けてない。

お互いの苦手な部分を補いあえる関係だからこそ、きっと勝てると私は信じる。


原田先生のピストルとともに一斉に走り出す。

すぐに足首のヒモを狙って火の球が飛んできたり、視界を奪うために雷光攻撃がさっそく仕掛けられた。

だがその全ての攻撃をりさちんが地面にかけた身代わりの術で全て受けきった。

しかもゆうた君がサポートし、小鷹先輩に教わったばかりの鏡の術を応用し跳ね返した。


「すごい!ゆうた君!」

「火野、やるな~」


そして先頭を走る3年玄武組の樹属性と火属性ペアにむけ、地面の中から一直線に火花が走っていった。

火花に気づいた火属性の先輩は相殺しようと地面に向け火を放ったが、大量の水が柱のように吹き出し、先輩たちの勢いを完全に殺してしまった。


「えぇ!?ど、どうなってるの!?」


想定外の出来事に私の異能観察がついていけないでいると、栄一郎君が解説してくれた。


「小鷹の鏡の術を応用したな」

「そうなの?」

「あぁ、相殺するために火攻撃がくると想定してたんだな。だから相手の火攻撃に鏡の術をかけて、逆の水攻撃が跳ね返るように仕込んでたんだよ」

「な、なるほど…」

「よく昨日今日で応用に気づいたな~、あれは小鷹も悔しいだろうな!」


ケラケラと栄一郎君が笑っていると、りさちんとゆうた君は圧倒的な差をつけて1着でゴールした。


「なーんとーーー!!!!並み居る強敵ペアを打倒したのは~~~~~2年白虎組朱雀組の合同クラスの火野、榎本カップルだぁぁぁぁぁ!!!!」


ハイタッチしあう二人の姿はスクリーンに映し出され、いよいよ全生徒に認知されるカップルとなったりさちんとゆうた君。

ふたりに「おめでとー!」と声を送ると、二人して笑顔で手を振ってくれた。


「次は小鷹と海斗か。火野と榎土の記録、超えられたら俺らのクラスが一歩リードだな」

「うぅ~負けたくないけど、先輩たちも応援したい~~」


2年玄武組優勢でスタートした二人三脚だが、いつの間にか私たちの合同クラスが追い越していて、2位が小鷹先輩たちのいる3年玄武組で追い上げをみせていた。

このまま逃げ切って勝ち進んでほしい気持ちもあるけれど、尊敬する先輩たちにも頑張ってほしいと気持ちが行ったり来たりする。


そしてスタートの合図とともに一斉に走り出したかと思えば、止まったままの小鷹先輩と波川先輩。

すると小鷹先輩が自分たちのレーンに向けフッと息をふきかけ、同時に波川先輩が「よっしゃいくぜ!」と銃のように指をかまえると一瞬で水がわきだし、先輩たちのレーンだけプールのようになった。


「すごい!はやい!」


先輩たちがつくったプールの中の波が、まるで二人を運ぶように先に走り出したペアをどんどん追い抜いていく。

小鷹先輩は結界をはっていたようで、他のペアが攻撃をしかけても全てはじかれてしまい、どんどん自滅していった。


「ま、ルールには走らなくちゃいけないって書いてないからな」


と、まるで共犯者かのようにニヤニヤ笑っている栄一郎君。

そうやってルールの裏をかくのか…と私が感心していると、りさちんゆうた君ペアよりも2秒はやくゴールし、3年玄武組が1位に躍り出た。




その後、なんでもありの玉入れや綱引き、ここでも栄一郎君が大活躍した障害物競走などが続いた。

次々にやってくる怪我人を治療しながら、白熱する競技に目がはなせなかった。



「続いては〇✕クイズで~~~す!!!!!参加者の皆さんはコート中央に集まってくださ~~~い!!!」

「あら、楓さんの番じゃない?」

「そうでした!ちょっと行ってきますー!!」

「頑張ってね」


ちょうど治療も終わったところだったので、私は片付けを1年生に任せ、急いでコートに走ってむかった。

コートは〇と✕、ちょうど半分にわけられており、コートがいっぱいになるくらい参加者が集まっていた。


《ふうちゃん、〇✕クイズはじまったよ》

《了解、一緒にがんばろ、えでか》

《ふふ、うん!》


昨日の夜、私とふうちゃんはある約束をしていた。

それは私が参加する〇✕クイズを、一緒にクリアしよう、と。

いいのかなと最初は悩んでいたけれど、異能禁止なわけではないし、むしろみんなライバルを蹴落とそうとどんどん異能技を使ってくる。

であれば、私たちも協力していいだろうと。

栄一郎君じゃないけれど、魔法を使っちゃいけないってルールには書いてないからね。


《りく先生にはバレちゃうだろうね》

《でもりくさんだって、自分のクラスが勝ったら嬉しいでしょ》

《そうだよね、りく先生のためにもがんばろうね!ふうちゃん!》


方法は簡単。

昨日の予行練習と一緒。

私が問題をふうちゃんにつたえて、一緒に解くの。

なんだかほんとに一緒に体育祭に参加しているみたいで楽しい。




「それではみなさん、いきますよーー!!!!第一問!!!結界術担当の斎藤先生の属性はな~~んだ!!」



さ、一緒に頑張ろう、ふうちゃん。

これも予行練習の続きだもんね。




続く

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