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「なんとなんとなんと~~~~~!!!!!!火属性優勝はぁぁぁ小鷹先輩チームぅぅぅぅ!!!!!!全属性制覇だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
火属性らしく、熱くて熱くて熱い試合を繰り広げた小鷹先輩とゆうた君は、ふたりのファインプレーによって優勝することができ、小鷹先輩にとっては念願の全属性を制覇することとなった。
会場からは今日一番の大歓声と、拍手、そして赤い花びらが舞い、吹奏楽部による演奏が小鷹先輩へ送られた。
小鷹先輩の努力が実ったことと、会場の一体感の感動で私の涙腺が刺激され、目がうるうるしてきてしまう。
でもうれしいはずなのに、胸の奥にチリつく痛みがあって何かと思ったら、先輩たちが卒業してしまうさみしさを今から感じてしまった痛みだった。
「小鷹先輩!!念願の全属性制覇おめでとうございます…!!歴史的瞬間に立ち会えさせてもらってありがとうございました!!!」
「あはは!こちらこそ応援ありがとうだよ」
「率直にいまのお気持ちをお願いします!」
小鷹先輩はマイクを受け取ると、吹奏楽部による演奏もやみ、全生徒が小鷹先輩の言葉に耳を傾けようと静かになった。
「いまは…尊敬する先輩ができなかったことを達成できて本当にうれしいです。俺のわがままにたくさんの仲間が付き合ってくれました。本当にありがとうございました」
会場から大きな拍手が起こると、小鷹先輩はニコッと笑った。
「でもこれで終わりじゃありません。明日も優勝するんで、全クラス本気でかかってきてください!!!以上です、ありがとうございました!!」
しんみりと感動を味わっていた会場が、小鷹先輩の言葉で一気に闘争心に火がついたようで、まるでライブハウスかのような歓声があがった。
「続いて火野君!!優勝おめでとうございます!!小鷹先輩とのチームプレイにみんな驚きの声があがる試合でしたが、2日間ふりかえっていかがでしたか?」
「そうですね…去年小鷹先輩に負けた悔しさが残っていたので、今年は小鷹先輩に勝ちたいって思ってましたが同じチームになって…。でも同じチームになってよかったです。明日小鷹先輩を倒すのは俺たちなので。小鷹先輩、ありがとうございました」
ゆうた君の煽りがきいたコメントに、主に白虎組からの歓声に小鷹先輩も「受けて立つよ」笑っていた。
私はゆうた君が全校生徒が見ている前で、強気な発言をしたのがちょっと意外だった。
不良生徒ばかりの白虎組をまとめる委員長ってイメージが強かったからなのかもしれないけど、ゆうた君にとって刺激になるようなことでもあったのかな。
全員へのインタビューが終わると、閉会式にうつった。
昨日と同じく木属性の列に向かうと、たかちゃんがまた手をふって迎え入れてくれた。
「たかちゃん!優勝おめでとう~!」
「ありがとう~!楓~治癒試験忙しそうだったね~全然いないんだもーん」
「あはは…いろいろあったからね~…」
たかちゃんと話しているとなんだか懐かしくなったのは、本当にいろいろあった2日間だったからだろう。
「洋介君にも優勝したってメールしたらすぐ返事くれたんだよ、ほら」
そう言って博貴は、ポケットから携帯を取り出し、洋介先輩からの返信をみせてくれた。
そしたら「おめでとう!でも小鷹と同じチームで優勝しても意味ないからな!ほんとの意味での優勝は来年に持ち越しだ!」と書かれていた。
「ひっどいよね~洋介君!もっとほめてくれてもいいと思わない~?!」
「ふふ、きっと期待してるんだよ、たかちゃんのこと」
「まっそうだよね~俺もそう思う!」
「でも来年はもっと怪我しないようにしてね!」
「楓~洋介君より厳し~」
博貴が私よりも小さくなるくらい落ち込むと、パッと元気になってまた携帯をみせてくれた。
「あと洋介君、夏休みの合同演習に顔だしてくれるみたい!」
「ほんと!?」
「うん♪ほら!」
「…ほんとだ!わぁ~洋介先輩に会えるの楽しみだね!」
博貴と話していると教頭先生の話なんてちっとも耳に入らないうちに終わってしまい、各属性の総合加点ポイントが発表されることになった。
「あ、そういえば夏休みの合同演習って…」
「そ!ダイヤちゃんもくるって!今度こそダイヤちゃんの技直接みれると思うと楽しみだよ~!」
ニコニコな博貴につられて、私もダイヤちゃんに会えると思うと楽しみで笑顔になった。
「もちろん大雅もー」
「第2位はなんと!!!!水属性をおさえた木属性だぁぁぁ~~~~!!!!」
「え!?すごい!!たかちゃん!!2位だって!!!!」
「え!!ほんと!?!?!?」
博貴はきっと「もちろん大雅もくるでしょ?」って言いたかったんだと思う。
けど木属性が加点ポイントで2位になったことと、一番得点を稼いだファインプレー賞に博貴が選ばれたことですっかり忘れてしまったようだ。
名前を呼ばれてお立ち台に向かうと、校長先生の代理として齋藤先生からエメラルド色に輝くトロフィーを受け取り「かずちゃん先生、ありがとう!」と口にして怒られていた。
そして属性優勝の証として深紅に染まった優勝旗を受け取ったのは、火属性代表の小鷹先輩だ。
するとキラキラと光が編まれ、「2年玄武組 檜原小鷹」に重なるように「3年玄武組 檜原小鷹先輩」のペナントがつけられた。
閉会式後、1年生たちと治癒テントの片付けをしていると今日のヒーロー、波多野がやってきた。
「おい」
「あ、ヒーロー!優勝おめでとう!」
「てめぇ…からかってんじゃねぇよ」
「ごめんごめん。どうしたの?」
つい、みんながヒーローヒーロー言うもんだからつい言ってみたくなってしまった。
案の定怒られてしまったが。
でも影でこそこそ「ヒーローだ…!」って目をキラキラさせながらつぶやいてる1年生は怒らないの、ちょっとずるいと思う。
「…あいつは?」
「ゆか先輩ならヒ…波多野の試合が終わったら治癒師の人の治療うけるって寮に戻ったよ」
また口がすべりそうになって睨まれたが「あいつ」だけでゆか先輩のことだって理解できた私はえらいと思う。
「…なにヘラヘラしてんだよ」
「…え??」
ゆか先輩と波多野の関係が進展したのだろうと、ゆか先輩の気持ちを考えたら顔に出てしまったようだ。
「おめー、まだ説教は残ってっからな」
「え!!そんな!!」
「うるせぇ。あとで覚えとけよ」
と、また怒られながら、波多野はテントを後にし、入れ替わりでりさちん、ゆうた君、小鷹先輩たちがやってきて、テント内が一気ににぎやかになった。
「小鷹先輩、ゆうた君、優勝おめでとうございます!小鷹先輩は全属性制覇もおめでとうございます!」
「ありがとう、楓さん」
「ありがとう、立華」
小鷹先輩は真っ赤な大きな花束を抱えていて、ほとんど顔が隠れていた。
先輩たちはどうやら各テントの片付け状況を見回りにきたそうだが、先輩たちがくると手がとまってしまうのでなかなか片付けがみんな進まないと愚痴をこぼしていた。
「でも立華が無事でよかったよ。榎土が泣きながら必死で探してたからさ」
「そりゃ心配しますよ!でもほんとに何事もなくてよかった…」
「りさちん…」
ゆうた君が「大丈夫だから」と言っていたように、さっきに比べたらだいぶ気持ちが落ち着いたように見えて、私もほっとした。
するとふと、私の目に小鷹先輩が抱えるのしおれた花が目に入った。
それは1本だけでなく、じっくり見ないと目立たないが数本紛れ込んでいた。
せっかく小鷹先輩のお祝いのお花なのに、湯田先生のせいで残念は花束を受け取ることになってしまったなんて悔しい。
「小鷹先輩、ちょっとお花、触りますね」
「ん?お花?」
私はそっとしおれたお花に手を添えた。
ふれるとやはりみずみずしさが失われ、本来ならもっと輝かるポテンシャルを秘めていたことが伝わった。
どうにかそのポテンシャルを復活できないかと元気になる異能を流し続けていると、視界のすみに夜花が一瞬咲いているのが見えた。
(え?夜花?)
驚いて花束から目をそらすと夜花の姿は消えていたので幻想だったことに気づくが、その瞬間小鷹先輩の花束からぶわっと甘い香りが広がり、ふれていたお花だけでなく、すべてのお花がキラキラと顔を輝かせた。
「すごい!いい香り…」
「これ…小鷹の花の匂い?」
「甘くていい香りです…」
テント内に花束の香りが広がり、みんなの心を癒しているようだ。
しおれていた花も他のお花も、今が一番きれい、私が一番美しいと自信をもって咲いているようで、お祝いにふさわしい花束になった。
「はい!小鷹先輩!これでもっと長持ちしますよ!」
「…すごい、さっきと別物の花束みたいだ…ありがとう、立華。大事に飾るね」
うん。
やっぱりお祝いの花束はこうでなくっちゃ。
だってお花たちも小鷹先輩をお祝いしているように、小鷹先輩の頬を染めているから。
ー 夜 練習場 ー
「はぁ!?!?おつかい!?!?!?!」
明日のクラス対抗体育祭のため、今日も練習場は結界だらけで異能トレーニングもできない状況だった。
そのため櫻子お姉さんが今日のために疲労回復ストレッチメニューを作ってくれたので、無傷の下半身を中心にストレッチしていた。
そしてりく先生にりさちんたちから聞いた話を伝えると、驚いて煙草を落としそうになった。
「あいつら…」と空になった煙草の箱を握りつぶしていたけれど、大ぶりの葉っぱたちが見ちゃいけない、聞いちゃいけないとでもいうように私の目と耳を隠した。
「まぁいいか…で、お前、背中の痛みは?」
「うーん…まだ時々痛みます。力入れたりするととくに」
「ヒビが入ってるわけじゃないから打撲だな。夏休み入ったら3日間出入り禁止になったから、それまで安静期間だな」
ということは、約1週間は特訓はお預けかと思うとちょっとさみしい。
でも通信販売にありそうな言い方で「寝ながらでも丹田を鍛える方法を教えてやる」とりく先生は言ってくれたので、帰省中でも何もできないわけじゃないのでうれしい。
「腕のほうはもう少し時間かかるかもな」
「そうですか…」
「帰省中、無理して傷口広げるようなことはすんなよ~」
「うっ!変なフラグたてないでくださいよ!」
ケラケラと笑うりく先生に本気で抗議し、3日間何事もなく平穏に過ごしてやる!と心に誓うのだった。
「そういえば先生、ゆか先輩は大丈夫ですか?」
「あぁ、治癒師から今日ゆっくりすれば明日には元気になるだろうってさ」
「よかった~…」
ゆか先輩にとって最後の文化祭。参加できないってことにならずに済んでほっとした。
「あ、先生!聞き忘れちゃったこと、聞いてもいいですか?」
「だめって言ってもどうせ聞くだろ?」
「へへ、まぁそうなんですけど」
それにだめってりく先生は言わないっていうのも知っているので、りく先生の冗談にへらっと笑ってしまった。
「私、鬼に触れたのに修学旅行のときみたいに倒れなかったんですけど、丹田が関係してたりします?」
あれからずっと不思議に思いながら、試合に夢中になりながらも頭の角で考えていたこと。
修学旅行の合同演習で鬼につかまった際、鬼の邪気に触れたことで午前中はふうちゃんの膝の上で休んでいた。
起きるまで立ち上がることも難しくて、お昼まで深い眠りにつくほどに。
でも今回は鬼にふれたのに、一度も倒れることなく今に至る。
ゆか先輩も気を失って倒れてしまったし、波多野の試合が終わったら安心してふらついてしまい、治癒師の人に運ばれていった。
なのでこの違いはなにかずっと引っかかっていて、あの時と今と違うこととすれば、りく先生と特訓をはじめたことにたどり着いたのだ。
「おぉよく気づいたな。その通りだよ」
りく先生は「感心、感心」と私の頭をぽんぽんと叩くようになでた。
「それに最初のときは異能も使ったあとでカラッカラだったからな。だいぶ気力も落ちてたんだろ」
「じゃぁもし今日、異能を使ってたら動けなくなってたかもしれないです?」
「最初ほどではないだろうが、その可能性はあったかもな」
だから丹田を鍛えること、生命力を強く感じられるようになることがいかに重要か教えてくれ、「普通の異能力者なら必要ないが、俺たちは異能力者を相手にしてるわけじゃないからな」と、りく先生は言葉を続けた。
「だから帰省中、ちゃんとトレーニングしとけよ?」
「はい!頑張ります!」
そして明日のクラス対抗体育祭でも治癒隊としての活動があるため、はやめに特訓を切り上げ部屋に戻ってきた私。
シャワーを浴びるため浴室に向かうと、鏡に自分の背中がうつり、打撲によるあざで真っ青になっていてびっくりした。
《ふうちゃん、寮戻ってきたよ》
《お疲れ、えでか。怪我は大丈夫?》
《さっき鏡で背中みたらあざだらけでびっくりしたけど元気だよ》
今日もいっぱいふうちゃんと魔法でお喋りできたけれど、自分の部屋でお喋りしていると、部屋には私しかいないから二人きりでゆっくりお喋りしているみたい。
《でも痛むでしょ?》
《ううん、りく先生から櫻子お姉さんのクリームもらったの。そしたら怪我したの忘れそうなくらい痛くないの。あ、でも横向きでは寝れないかも》
《そっか、ならちょっと安心だけど無理はだめだからね》
なんだか釘を刺されているみたいだけど、もう無茶はしないよ。
ふうちゃんに心配かけたくないからね。
《ねぇふうちゃん》
《なぁに?えでか》
《今日は本当にありがとね。いっぱい助けてくれて》
湯田先生に遭遇したときも、捕まって見晴台につれていかれている時も、湯田先生と鬼とのやりとりも。
私ひとりだったら恐怖で足がすくんだり、混乱して突っ込んでいったり、何もできずに殺されていただろう。
《でもね、ふうちゃんが落ち着かせてくれたり、予行練習って言ってくれてうれしかったの。私が生きてるのはふうちゃんのおかげだよ。ありがとう、ふうちゃん》
《うん、そう言ってもらえて俺も救われる。ありがとう、えでか。俺が生きてるのも、えでかのおかげだよ》
この魔法の術をかけられた者が死んだら、術者も死ぬ。
つまり私が死ねば、ふうちゃんも死ぬ。
それがこの魔法の呪い。
ふうちゃんは自分が死ななくてよかった、という自分勝手な意味で言ったわけではない。
文字通り、私が生きてることがふうちゃんの支えになっている、そういう意味なのだ。
私と同じで。
あぁ、どうしよう。
今すぐふうちゃんに会いたい。
ふうちゃんの胸にとびこみたい。
ふうちゃんへの愛しさが日に日に限界を常に超えていく。
《そうだふうちゃん!りく先生がね、夏休み東都に連れていってくれるの!》
《ほんと?全国大会のとき?》
《うん!そのあとも東都に残らせてくれるって!》
《あと1カ月ちょっとか…俺、楽しみで寝れないかも》
《ふふ、私も!》
まだお兄さんから詳細を聞いてなかったみたいで、ふうちゃんを驚かせることができて嬉しい。
そしてそのまま私が寝落ちするまで東都滞在中はなにしようかって話で盛り上がったのだった。
続く




