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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
84/156

ー84-

「えー…続いて切島先輩にも聞いてみたいと思います」


小鷹先輩チームとは明らかに態度が変わって、嫌悪感を隠しきれない様子で切島先輩へマイクを向けた。

盛り上がっていた会場もスクリーンに切島先輩が映し出させれると、しーんと静まり返った。

それすら切島先輩には見えていないようで、自信満々の顔でマイクを奪った。


「いいかお前ら!!!これからはこいつらの時代じゃない!!!!俺の時代だ!!!!わかったか!?!?!?!?そして俺が勝った暁にはさえ…」

「はーい、以上、皆さんの意気込みでした~」

「おいっ!!!」


高々と切島先輩は宣言していると、ブーイングの声のほうが大きかった。

そして切島先輩はまだ話の途中だって騒いでいたけれど、マイクを奪い返し、他のメンバーにはふらずに実況テントへ戻っていった。


でも他のメンバーにふらなくて正解だと思う。

だって切島先輩チームのメンバー、みんな怯えていて真っ青な顔をしているから。




「それでは両チーム、持ち場についてください~!!」


審判の合図で一列になっていたみんながばらけはじめた。

その時、小鷹先輩と目があってひらひらと手をふってくれた。


「小鷹先輩ー!!頑張ってくださーい!!」


大歓声の中、私の声は届かないかもしれないけど、音澤先輩も気づいて大きく手をふってくれた。


「音澤先輩も頑張ってくださいね~!!」


いよいよ始まる決勝戦に私までドキドキしてきてしまう。




すると


「おっここ特等席じゃん」

「立華、ちょっとかくまって」


と、波川先輩と栄一郎君が治癒テントにやってきて、一瞬でくつろいだ。


「あ、立華。俺と榎土、優勝したぞ」

「え!!ほんと!!おめでとう~!あとでりさちんにもお祝いしなくちゃ!!」

「立華!俺も優勝したんだけど!」

「あはは!知ってますよ!決勝はサッカーでしたもんね、ごぼう抜きからのシュートすごかったです!おめでとうございます!」

「あとで博貴にも声かけてやれ。優勝報告したいって立華のこと探してたから」

「うん!」


ちょうど私がいない間におこった出来事をおもしろおかしく教えてくれて、賑やかになってしまったけれど、ゆか先輩はなにも言わず波多野だけを見つめていた。

でもちょっと残念だったな。

栄一郎君や、りさちんやたかちゃんが活躍する姿を見れなかったのは。

だからその分、残りの試合はいっぱい応援しようって気合が入った。



「あ!!楓ちゃん!!」

「あ、りさちんにゆうた君!どうしたの~?」


波川先輩と栄一郎君に続いて、りさちんとゆうた君も顔をのぞかせた。


「も~~~!!!どうしたのじゃないよ~~!!楓ちゃんも波多野君も先輩もいないから心配したんだから!!!」

「わっ!!り、りさちん…」


りさちんは泣きながら私の首に抱き着いて、わんわんと泣き始めた。

つられて私まで泣きそうになったけれど、りさちんを支える背中がずきんと痛んで涙が引っ込んだ。


「りさ、落ち着いて」

「立華もびっくりしてるだろ。ただりく先生とお使いにいってただけなのに」

「…おつかい?」


りさちんやゆうた君たちが口々に話したことをまとめると、どうやら私とゆか先輩と波多野は煙草が切れてイライラしているりく先生に捕まり、結界の外に連れ出されてしまった、と。

そして町に出向き、愛用の煙草をしらみつぶしに探させ、間違った煙草を見つけた波多野が殴られ、そのはずみで車にひかれた…そうだ。

なんとも強引なこじつけだが、きっとりく先生が自分を悪者にして、むやみに心配かけないようにしているのかなと思う。

でも、有り得なさすぎて、泣いてるりさちんには悪いけど笑いがこみあげてきてしまう。



「それでは準備が整ったということで、いよいよはじまります!雷属性決勝戦!!避雷針倒し~~~!!!!開始で~~~す!!!!」


泣き止んだりさちんも、テント内に余っていた椅子に着席し、コートに全員が注目した。

雷属性の競技種目の避雷針倒しは、相手チームの避雷針を倒したほうが勝ちのなる。

ただ、自分たちの避雷針には簡単に倒されないよう術をかけているので、攻撃すれば倒せるというわけではない。

また避雷針の半径1メートル以内に守護者として必ず一人立っていなければならず、一歩たりとも出てはいけない決まりもある。

この競技は相手チームの避雷針にかけられた術を破るためなら、他はルール無用といった荒っぽい種目だ。


「小鷹先輩チームの守護者はやっぱりこの人!小鷹先輩ですね~。いやぁ~安心感があります」

「えぇ、避雷針結界から全体を把握し、ベストタイミングでメンバーに指示を送っていますね」

「それに応える2年生、1年生も素晴らしいです!」


実況アナウンスのその通りで、土属性のパフォーマンス部門と結界術試験中の共同作成のコートは北都の町並みが再現されており、見通しが悪いはずなのに小鷹先輩にはまるで空から見えてるみたいで、次々と相手チームの生徒を捕捉し奇襲を成功させている。


「やっぱり小鷹先輩、すごいな…あとでまた教えてもらわなきゃ…」

「ゆうた君、昨日からずっと小鷹先輩小鷹先輩って~。でも音澤先輩もすごいね、みんなのことフォローしながら戦えるなんて!」


たしかに一見無鉄砲につっこんでいるように見える1年生たちを、音澤先輩がさりげなくフォローをしながら活躍させてあげたり、仕掛けて失敗しそうになっても機転をきかせて追撃したり、誰かが攻撃をうけたらすぐに回復にまわったり…。

どうしてそんなに咄嗟の行動ができるのか、私だったら一つ一つに悩んでしまいそうだ。

でも小鷹先輩と音澤先輩のチームは、みんなそれぞれ自由に行動しているようだけど、仲間を信頼し合っているのがすごく伝わるチームにみえた。


それに対し切島先輩のチームはというと


「おらぁ!!お前らなに負けてんだよ!!!せっかく俺様がどんくさいお前らのために操作してやってんだから!!!ちゃんと動けこらぁ!!!!負けたら全員殺すからなぁ!?!?!?!?」


と、完全に切島先輩のワンマンプレイで、チームメイトはみんな青ざめた顔をしていた。


「ありゃ完全にトラウマもんだな」

「な。あれ全身感電してるようなもんだからすげぇ痛えだろうな」

「…ひどい…」


どうして?せっかくの体育祭なのに。

3年生にとっては最後の体育祭なのに。

同じチームメイトの中にはきっと言葉を交わしたりしたことがあるかもしれないのに。

それを物みたいに、人形みたいに扱う切島先輩がとても残酷にみえた。

だって操られているチームメイトは、音澤先輩の雷撃をうけたら安堵したように泣き出しているから。




「さ~~~て!!!小鷹先輩チームの圧巻な猛攻により、な~~んと!!切島先輩チームは切島先輩のみになりましたぁぁぁぁ!!!!!!」


この状況に会場も大盛り上がりだ。

割れるような歓声に、切島先輩の顔に冷や汗が流れているのがスクリーンに映された。

するとどこかから女子の声で「小鷹君をうつせ!」「啓先輩にしてぇ!!」とブーイングが起こって男子たちの顔が引きつっていた。


「さ、どうする?降参する?」


笑っているけど目が笑っていない小鷹先輩に問いかけられて、切島先輩の歯ぎしりが激しくなる。

避雷針結界から一歩も動いていないのに、雷属性のアイテム課による特殊マイクでコート内の会話が会場に届けてくれる。


「~~~~~だまれだまれだまれだまれぇぇぇぇ!!!!!!俺の本当の実力はぁ!!!こんなもんじゃない!!!!!!」

「じゃぁ最初から出せよ」

「だまれ音澤ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!1」


さすがアイテム課の特徴マイク。

音割れしそうな切島先輩の耳障りな声をしっかりおさえてくれるので、耳が痛くならない。


「…はは、はははは…ちょうどいい。これでちょうどいいんだ…俺の本当の実力をみせつけるにはこれがちょうどいいんだ!!!!!!!」


切島先輩はそう叫び、黒い光が混ざった雷撃を空中にむけてはなった。


「こいっっ!!!!!!ダイダラボッチ…!!!!!!!!」


会場を包む結界に黒い亀裂が入り、悲鳴があがる。


「…ダイダラボッチ?」

「りさ!危ない!」


なにか気になることがあったのか、りさちんがどこか遠くを見つめていると、黒い雷撃の衝撃波がテント上空に向かって飛んできて、ゆうた君が間一髪りさちんと地面に伏せた。


どうしよう…切島先輩にこんな力があったなんて…。

見晴台の鬼も、土巨人のことも、切島先輩が一枚噛んでいたってふうちゃんが言ってたけど、これは切島先輩だけの力じゃなくて、鬼の力が混ざっている。

黒い光の中に、わずかに鬼特有の黒い靄が見えたから。


小鷹先輩も音澤先輩もチームメイトを守ることで動けないみたいだし、誰か…切島先輩を止めてくれる人はーーー





「あの出化物ならこねぇよ」

「!?!?!?!?!?」



私の目がとらえたのは、切島先輩の懐で雷撃の準備を整えた波多野だった。

試合中、目まぐるしい活躍がなく、怪我が痛いのかなと気にしていたが、そんな様子はみじんも感じない。

むしろこの瞬間を待っていたかのように、にやりと笑った。


「なぜだ!?!?!?なぜこない!?!?!?!?!?」

「あぁ?知らね」


そして波多野の雷撃は切島先輩の顎にクリーンヒットし、天井の結界を壊すほど打ち上げた。

地面に打ち付けられた切島先輩は白目をむいて気を失っており、全身感電してぴくぴく打ち上げられた魚みたいになっている。


「波多野!避雷針、避雷針!!」

「あ、そうだった」


小鷹先輩に言われるまで避雷針を倒す競技だって忘れていたようで、切島先輩の顔横を踏みつけて右手で押し倒した。




「…雷属性…優勝チームは・・・我らが小鷹先輩チームだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「じつにいい試合でした!!!!!いやぁスカッとした!!!!!波多野君、ありがとう!!ありがとう!!!!!!」


優勝アナウンスが流れると、吹奏楽部によるファンファーレとともに黄色の花びらが会場を染めていった。

まるで宿敵を打倒したかのような、長くライバル関係の相手を打ち破ったかのような、祝福の歓声が奏でられた。



「すごい!すごいすごいすごーーい!!!!栄一郎君!!波川先輩!!!小鷹先輩と音澤先輩…ってあれ?」


さっきまで後ろで切島先輩のことをあーだこーだ言っていたのに、振り返るといつのまにか姿を消してしまっていて、なぜかコートから切島先輩の姿もなかった。

お祝いしたかったけれど、また会えたときに伝えようと拳をおろすと、ゆか先輩の花のようにあたたかい笑顔が波多野にむけられているのが目にはいった。

そして歓声は波多野コールへと変わり、照れ隠しなのか「う、うるせ!!殴りたかったから殴っただけだ!!!」と言って、さっさとテントへ戻っていった。


「小鷹先輩!優勝おめでとうございます!属性制覇へのリーチもかかりましたが、いまのお気持ちをお願いします!」

「みんな応援ありがとう。ヒーローが帰っていっちゃったのが残念だけど、この業界は決して良い面ばかりじゃない…でも最後はヒーローのおかげでスカッとしたね!このメンバーと優勝できてよかったよ」


そう言って小鷹先輩はチームメイトひとりひとりの顔をみながら名前を呼び「みんな、ありがとね」と伝えると、小鷹先輩のインタビューに泣き出す女子が続出し、歓声の中に嗚咽声が混じる。


「音澤先輩も優勝、そして3連覇おめでとうございます!音澤先輩の見事な立ち回りでした!雷属性の3連覇は調べたところ5年ぶりの3度目だそうです!!いまのお気持ちはいかがですか?」

「せっかくなら今日のヒーローにもインタビューしてもらいたかったけど、でもひとつ歴史をつくれたのは嬉しいですし、小鷹の言う通り、このメンバーでつくれたことが一番うれしいです。ヒーローにもぜひ、3連覇を目指してほしいですね」


すると白虎組から雄たけびのような歓声があがり、ヒーローこと波多野へ来年のバトンが引き継がれた。

スクリーンに隠れている波多野が映し出させれたけれど「映すな!」と言っているようで、会場からは笑いが巻き起こった。


そして他のメンバーや1年生たちからは「小鷹先輩には自由に動いていいよって言ってもらえてうれしかった!」「自分は1年生なので音澤先輩のように3連覇目指します!」と小鷹先輩と音澤先輩の尊敬の念がたっぷりとこめられたインタビューで大いに盛り上がった。




「それではいよいよ最後の決勝トーナメント!!!火属性の準決勝に移りたいところですが…いったん会場整備の時間を挟みます!準決勝開始は30分後の15時です!!」


司会のアナウンスが入ると、齋藤先生指導の下、結界術試験中の生徒や、原田先生と実行委員会のスタッフがコートに集結し、切島先輩の衝撃波で壊れたテントの修復や、結界の修復が行われていった。


「ゆうた君、いよいよだね…!!」

「うん。先に待機場所に向かおうかな…1年生たちに声かけておきたいし」

「ゆうた君!私も応援してるね!」

「楓さんもありがとう」


ゆうた君とりさちんの話によると、準決勝1試合目がゆうた君と小鷹先輩チームなのだそう。


「ね、りさ。待機場所で応援しててくれない?」

「え?いいの?」

「うん、その方が頑張れそうだから」


突然のゆうた君の甘えに顔がポンっと赤くなったりさちん。

うれしさと恥ずかしさで「もう!もう!もう!」しか話せなくなって、私とゆか先輩は微笑ましい顔で見守った。


「りさ、行こう」

「もう!ゆうた君ったら!」

「あ、そうだ…」


りさちんが先にテントから出ると、ゆうた君が振り返って私に向かってこう口にした。


「楓さん、りさのことは大丈夫だから。応援よろしくね」

「あ…」


にっこりと笑いながらりさちんを追ってテントを出ていったゆうた君。

あの顔を私は知っている…。

あの顔はふうちゃんと模擬戦に夢中になっていた時の顔だ…。

きっとゆうた君はりく先生のお使いが嘘だったことに気づいているのだろう…。

だから「大丈夫だから」とは、りさちんには言わないでおくし、バレないようにしておくから、詳しいこと教えてねって意味が含まれていたのだ…。



続く



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