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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
81/151

ー81-

ー 第一会場 ー


りさとゆうたは校内を隅々まで探し回ったが、楓と波多野、そしてゆか先輩までも見つからないことを小鷹たちに報告していた。


「…そうか…火野も榎土もありがとうね。あとは先生に報告しておくね」

「よろしくお願いします…あと…」

「ん?他にもなにかあった?」

「…俺たちの勘違いじゃなければ見晴台あたりから鬼の気配がするんです」


幸い樹属性の3位決定戦中で司会進行が盛り上げてくれているおかげで、周りには聞こえていないようだ。


「あ、お前ら修学旅行で遭遇したんだっけ」

「はい…あの時の気配と似たものが見晴台から感じるんです。楓ちゃんたちの姿もないし…もしかして巻き込まれているんじゃないかって…」


波川先輩が思い出したかのように口にしたが、内密になっている情報だったので畑中先輩と音澤先輩に口を塞がれた。

楓たちの姿がどこを探せど見つからず、りさの不安が強くなっていた。

ゆうたは少しでもりさの不安が小さくなるよう、蜃気楼の術は解いてもつないだ手は離さなかった。


「わかった。立華たちの件とあわせて報告しておくね。探してくれてありがとう」

「お前らは試合に集中しとけ!変わりに優勝した俺が探してやるから!」


そう言って波川先輩はゆうたとりさを励ますように、背中を叩いた。


「俺たちもギリギリまで探してみるから、榎土も休んでおけ」

「はい…畑中先輩ありがとうございます…!」

「それに波多野は決勝までには戻ってくるさ。あいつが決勝サボるわけないだろ?」

「音澤先輩…そうですね。波多野、優勝するんだって息巻いてましたから」

「だから大丈夫だよ、二人の友達なんだから信じて待っていよう?」

「…はい!」


先輩たちのおかげでこわばっていた表情が和らぎ、小鷹たちのもとを後にしたゆうたとりさ。

こちらの声が届かなくなる距離まで見送ると、にこやかだった表情から目つきがするどくなる。


「…やっぱり仕掛けてきたね」

「あぁ、きっとまだ仕掛けてくるだろうな」

「仕掛けるとしたら…」

「雷属性決勝戦だろうね」


同時に頷く4人。

まるで周りに結界がはられているかのように、目の前を他の生徒が通っても見向きもしない。

北都イケメン4人組がそろっているのに。


「俺、切島のこと見張っとく」

「お願い、海斗。念のため、切島以外にも様子がおかしい生徒がいないか目を配っておいて」

「りょうかい~!」

「俺と啓は決勝で勝つふりをして、切島を拘束しよう」

「みんなにバレないように、ね」


にやりと笑いあう小鷹と音澤。

俺は?俺は?と畑中は楽し気に小鷹からの指示を待つ。


「栄一郎は拘束後、逃げないようにみんなで見張っててよ」

「ちぇ~もっと目立つことしたかった~」

「ふふ、あとは榎土のケアもしてあげて。立華のこと心配して試合にならないのはかわいそうだから」

「それもそうだな。りょーかい」


それぞれが役割を確認し終わると、小鷹は携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。


「…あ、留守番だ。…こちらは予定通りです。あと火野と榎土が気配に気づいていますが、トーナメントに戻るよう促しました。なので早く終わらせて無事に立華たちと戻ってきてくださいね…りくさん」


電話を切ると畑中とじゃれあっていた波川が「なに~?留守番だったの~?」と、小鷹に声をかけた。


「うん。だからあっちは大丈夫そうだね」

「あとは俺と小鷹が決勝まで無事に勝ち進むことだな」

「それなら余裕でしょ」

「うん、絶対に勝ってここは守るよ、みんな」


小鷹の言葉に合わせて全員で意志を確かめ合うと、波川と畑中はふっと小鷹の目の前から姿を消した。

そして小鷹と音澤を見つけたファンが声をかけはじめ、あっという間に囲みができた。


「…無事でいてくれよ…立華」




ー 見晴台 ー


大量の土埃と靄の煙が衝撃波と共にこちらにも向かってきて、りく先生の結界の中とはいえ、波多野の状況が見えず全身の汗がとまらない。



お願いお願いお願いーー無事でいて…波多野!!!



すると膝がもぞっと動く感触がしたと思うと


「・・・あ・・きら・くん・・・?」

「ゆか先輩…!?」


ゆか先輩がゆっくりと目をさまし、起き上がろうとしていた。

あんなに青白かったゆか先輩の顔も、波多野の上着のおかげかだいぶ顔色が戻っているようだ。


「・・・なに・・・なにが・・おきてるの・・・?」

「ゆか先輩、いきなり動いちゃだめです!」


私にも覚えがある。

鬼にふれた邪気の影響で、急に起き上がってそのまま倒れ込んだのを。


…あれ?でもどうして今は平気なんだろう?


「か…えで、さん…?どうして・・・?」

「…ゆか先輩、鬼に捕まっちゃたんです。それでいま、波多野とりく先生が戦っています」

「あきら…くん、が…?」


ゆか先輩がゆっくり、ゆっくり顔を煙の中心へ向けて傾ける。


「ふふふ…この状況じゃ、彼の形は残っていないでしょうね~。異能だけいただいておけばよかったでしょうが…まぁ彼くらいの異能なら捨てるほどいますから」


(異能をいただく…?)


湯田先生の言葉にひっかかる。

ゆか先輩の占いの才能を求めたり、異能をいただくって…言葉の使い方にわずかな違和感を覚えた。

ふうちゃんに魔法で聞いてみようかと思っていると、風が煙をかきわけはじめた。


「…あいつは大丈夫だよ。この程度でやられるようなら、そもそも連れてこねぇよ」


りく先生は波多野のことを信じていたのだろう。

だから慌てる私とは対照的に一歩もその場を動かず、煙草をふかしていた。





「・・・なっ!!!!なぜ…なぜ立っていられるのです…!!!!」


はじめて湯田先生に同感した。

だって、土巨人の拳を右腕ひとつで受け止めているのだから。


「矢は…!?!?!?矢はどうしたのです…!?!?!?!」

「…はぁ…はぁ…あぁ!?矢とか知らねぇよ!!!こっちは結界のことでそんなこと考えてる余裕なんてねぇよ!!!!」

「ふっ、まぁまぁよくやった」


どうやら波多野には矢は見えていなかったようだ。

というか、その前にりく先生が矢を払っていたみたい。

全然見えなかった…と、安堵して腰が抜けそうになる私。


「…ん?結界?」


波多野が無事だったことに気をとられていたが、波多野の結界という言葉を思い出し、煙が晴れていく中よく見てみると、拳と拳の間に四方を囲むように土属性の結界がはられていた。

でも私が治療で使った土属性の結界とは少し色が黒っぽく見えた。


「…なんか変な感じがしてたんだよ…土属性相手に模擬戦やるときと違って、打ちこむ度に何かが当たる感覚がさ」

「…なにを言っているのです…土属性に雷撃が当たるはずないでしょう…!?」

「はぁ…はぁ…はぁ…でもよぉ…雷撃があたらない前提をやめたら見つかったんだよ…」

「な、なにを…」


波多野の息が荒い。

きっともう波多野の体力も限界に近いのだろう。

でも嬉しそうに笑っている。

それをみて、りく先生の口角もふっと上がった。


「…鉄だよ。土だけだったら雷撃もスムーズに流れるんだぜ…?でもわずかに鉄が混じってるよな?だから当たる前提に変えたら気づいたんだよ…」

「…くっ!!」


土巨人の動きが止まっている。

波多野の話から察するに、おそらく土巨人の全身を形成している成分に鉄が混ざっており、そこだけに狙いをさだめ雷撃をあてているのだろう。

そして雷撃が逃げないよう、あれは土属性の結界ではなく、鉄を含んだ結界なのだ。


「つまり…これで終わりだってことだよ…!!!!」


そう言って波多野はありったけの異能をこめ、土巨人に特大の雷撃を打ち込んだ。


「わっ…!!」


土巨人が全身に雷を浴び、真っ白に光ながら火花を散らしている。

今まで聞いたことのないほどの雷撃音と、眩しさで目を背けてしまった。

でもゆか先輩いっさい背けることなく、ただじっと波多野の背中を見守っていた。


「…っく…そっ!!」


さすがの異能力と、土巨人の拳の重さに限界がきたのか、波多野の片膝が崩れた。

打ち込んだ拳を左手で支えてはいるけれど、なかなか土巨人は倒れてくれない。

その姿をみて、湯田先生は安心したようで靄の矢をまた飛ばしたが、りく先生に一瞬で払われてしまう。

それでも湯田先生はあきらめずに矢を打ち続ける。


《ふうちゃん、波多野になにかできないかな!?》


きっとあともう少し。

あともう少しで土巨人は倒れそうだし、助けてあがられそうなのに、このままでは波多野の体力が尽きてしまう。

それにこのまま体力が尽きて波多野が倒れたら、土巨人の拳を一身で受けることになる。


《…えでか…》

《このままじゃ波多野が死んじゃうよ…!》


このまま何もできずにただ見ているだけなのは辛いよ。

手助けできることがあるなら助けたい。

波多野も土巨人もどっちも助けたい。

ふうちゃん、私、どうしたらいいの…!?



感情が高ぶって涙がボロボロ落ちる。




そのとき、すっと細くて白い、ゆか先輩の手が波多野のほうへのびた。



「…ゆか先輩?」

「…あきらくんを…たすけ…なきゃ」


雷撃音の中、かすかにそうつぶやくゆか先輩の声が聞こえた。

そしてゆか先輩の指先から細い光の束が、光の速さで波多野の拳とつながった。


りく先生も突然のことで驚いてゆか先輩を振り返った。

湯田先生は敗北を察したのだろうか、あんなに強気だったくせに汗をだらだら流し、波多野の拳をみてあわあわと震え崩れた。


《ふうちゃん…ゆか先輩が波多野に力を送ってるみたい…》

《わかった…そしたらえでかができること、ひとつだけあるよ》

《なに!?》

《波多野君を応援してあげることだよ》

《応援?応援でいいの?》


私は意外なことで呆気にとられてしまった。


《うん、だって応援にも予行練習必要でしょ?》


…そうだ。そうだった。

これは予行練習。私とふうちゃんの秘密兵器の予行練習。

運動会の予行練習みたいに、練習してるんだった。


《そうだね…いっぱい応援してあげなくちゃ!》

《うん、頑張れ、えでか》


「波多野ー!!頑張れーーーー!!!!!」


ふうちゃんが頑張れって言ってくれたから、私は息を大きく吸い込んで、お腹から叫んだ。

そしたら。フッて波多野が笑ったような声が聞こえた。


「…ばかじゃねの…?!?!そんなに叫ばなくたってわかってるっつうの…!!!!赤でこ!!!!!」


波多野の足が持ち上がった。

ゆか先輩の力も集まっているからか、さっきよりも波多野の拳に集まる光が土巨人を覆いつくほど大きく、明るいのに眩しくない。


「よし、もういいだろう。あとは思いっきり打ちこめ」


りく先生が波多野に合図を伝えると、波多野は大きく振りかぶり、土巨人の拳を打ち上げた。




「…ァ・・・ァ・・・・・・」


土巨人は焦げたかのように黒い煙をたちのぼられながら、膝をガクンと落とした。

その衝撃で波多野の態勢が崩れ、力尽きてしまったのか後ろに倒れ込んだ。

でも意識のない土巨人が波多野に覆いかぶさるように倒れ込んできてしまった。


「波多野…!!」


土巨人が波多野に落ちる瞬間、一瞬で飛び出したりく先生が土巨人の胸元にたっていた。

りく先生は土巨人の胸元に手を突っ込んでおり、よく見ると黒い水晶玉のようなものを掴んでいた。


「…ヤ、ヤメロ…オ、俺ノ…仲間ヲ…」


湯田先生の中に隠れていた鬼が、小さなただの毛玉に手足が生えたかのような姿で口から出てきた。

小さな手を一生懸命に伸ばしているようだけど、塵となりはじめている。


「仲間?洗脳の間違いだろ」

「ヤメロヤメロヤメ………」


りく先生が黒い水晶玉から靄を抜き出すと、キラキラと綺麗なオレンジ色に輝く水晶玉へ変化した。

そして抜き出した靄と一緒に毛玉となった鬼は塵となって消えていった。




「よっと」


軽く土巨人の胸元から飛び降り、波多野を抱えて私とゆか先輩の目の前に戻ってきてくれたりく先生。

土巨人は大きい衝撃音を立てて地面に倒れ込んだ。

しばらくすると体育祭のアナウンスとBGMが聞こえてきて、戦いが終わったことを実感した。


抱えていた波多野と、いつの間にかまた気を失ったゆか先輩をベンチに寝かせた私とりく先生。

波多野も倒れる直後、異能の限界を超えた反動で気を失っていたようだ。


「ほら、大雅さんに報告してやれよ」

「あ、そうでした!」


ゆか先輩の安心そうな寝顔に私まで安心していると、りく先生に報告するよう言われて急いでふうちゃんに魔法を送った。


《ふうちゃん、無事に終わったよ。ゆか先輩も波多野も無事だよ》


原因である湯田先生も憑き物が落ちたかのように気を失って、見晴台のフェンスにりく先生の蔦で縛られている。

これならなにがあっても逃げることはできないだろう。


《よかった…えでかは怪我してない?》

《うっ…ちょ、ちょっと…腕怪我しちゃったかな…?》


すでに血はとまっているようだが、見る限りだいぶ深いようだ。

これは縫わないといけないかもしれないなぁ。

背中もほっとしたらじんじんと痛みがぶり返してきて、アドレナリンで痛みを忘れていただけのようだ。


《ごめんね、えでか。俺がもっとうまく伝えられたらよかった》

《ふうちゃんのせいじゃないよ!私が鬼の誘導にのっちゃったせいだから!》

《でも…》

「立華の怪我は俺が遅れたからだ。大雅さんのせいじゃない」


どこかに電話していたのか、携帯をしまいながらりく先生が私とふうちゃんの魔法に入ってきた。

というかどうして何の話をしていたのかわかったんだろう。


「お前の顔みてたら察しつくわ。だからこれ以上どっちが悪かったかなんて話するのはやめとけ」

「・・・はい」


りく先生のせいでもないのに…と言いかけたけれど、頭をぐしゃぐしゃに撫でまわされて結局言えなかった。


《…いま、りくさん、えでかの頭なでたでしょ》

《すごいね、ふうちゃん!なんでわかったの!?》

《なんとなく、そんな気がした》


ふうちゃんの直感の鋭さに私はお腹を抱えて笑った。

りく先生は苦い顔をしていたけれど。




「ァ…」


すると後ろから土巨人の声がして、反射的にりく先生は私たちをかばうように前へ出た。

でも土巨人の身体小さく縮んでおり、まるで人形のようだった。


「…アリ、ガトウ…タスケテ、クレテ」


お人形のような土巨人は、黒くそまった泣いているような瞳から、ビー玉のように透き通った瞳になっていた。

まったく敵意を感じないことから、私は土巨人に話しかけた。


「私の夢にあらわれたのは、あなた…ですよね?」

「アァ…ソナタ、ダッタノカ…誰カノ意識ガアルノハ知ッテイタ…声ヲ、カケテクレテイタコトモ」


私の目がしらがじわっと熱くなった。

だって私の声が届いていたのだから。


「会いたい人には会えましたか?」

「イヤ、マダダ…」

「あの、私に手伝えることがあればー」

「デモ、見ツカッタ」

「え?」


そう言って土巨人は、小さな手で私を指さした。


「ソコニ、スグ近クニ、イタノダナ」

「…え?私?」


しかし、詳しく聞こうとしたが土巨人は溶けるようにさらに小さくなってしまった。


「しばらく休んだほうがいい。かなりエネルギーを奪われただろうから」

「アァ…ソウシヨウ…マタ、会オウ…恩人タチヨ…」


そして土巨人は眠るかのように地面に消えていった。




続く


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