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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
80/151

ー80-

ー 第一会場 ー


楓のもとにりくと波多野が到着したころ、第一会場では決勝トーナメントがはじまる直前だった。

司会のアナウンスにより属性代表が同じテントに集まり、スクリーンに小鷹たちの姿が映し出させる。

決勝トーナメントの属性順をくじで決めるためだ。


「…波多野、どこにいったんだろう」

「ゆうた君!波多野君、まだ見つからないんだ?」

「うん、お昼休憩の時、いきなり飛び出していったっきり」

「どうしたんだろう…」


火属性と土属性のテントが隣だったので、りさとゆうたは盛り上がるテントから外れてあたりを遠くまで見渡した。

それでも波多野らしい人影は見当たらない。


「小鷹先輩と音澤先輩はなんて?」

「決勝まで間に合えばいいよって言ってたけど…」

「あ、ちょうどくじ終わったみたい」


スクリーンに映し出させれた順番は、水属性、鉱石属性、樹属性、氷属性、土属性、雷属性、火属性になっている。

なぜ切島先輩が雷代表としてくじをひいているのかはわからないけれど、りさとゆうたは最後のほうでひとまず安心した。


「私も時間あるし、一緒に波多野君探すよ!」

「ありがとう、りさ。でも試合時間になったら早めに向かっていいからね。俺も応援するから」

「うん!ありがとう、ゆうた君!」


波多野が姿を消し、仲良しの博貴も心配して「俺も探す!」と騒いでいたが、思ったよりはやめに試合順がまわってきそうなので頼ることはできないと二人は判断した。


「たかちゃん、洋介先輩のためにも頑張るって言ってたもんね」

「あぁ、でも俺たちなら見つけられるよ」


りさはゆうたの「二人なら大丈夫」と思わせてくれる力強さが好きだ。

さっそく二人はエリア分担をしていると、楓がいた治癒テントに目が向いた。

そこでりさは違和感に気づく。


「あれ…楓ちゃんがいない…」

「楓さん?草花テントは?」

「…いない。樹属性テントにもいないみたい…」


りさは胸騒ぎがした。

もしかして博貴たちと一緒にいるかもと期待したのに、樹属性テントにも博貴の姿はあれど楓の姿はないからだ。


そして同時に背中から感じた気配に、りさと波多野は同時に振り返り、見晴台がある山の上を見上げた。


「…ゆうた君…もしかして…」

「うん、間違いない。鬼の気配だ…」


周りの生徒たちは気が付いていない。

なぜならいくら異能力を高めるために訓練したり、勉強していても、実際に鬼と遭遇する高校生は滅多にいない。

修学旅行の練習山で遭遇したゆうたとりさを除いては。


「まさか楓ちゃんと波多野君…あそこにいるんじゃ…」

「…まだわからない。ただ気配があるだけかもしれない…」

「そ、そうだね…」


体育祭どころではない心中だが、ここで騒いでしまったら全校生徒を混乱させてしまう。


「…いったん波多野と楓さんを探そう。エリア分けしたけれど何があるかわからない。だから一緒にいこう」

「…うん!」

「もしかしたらどこか別の場所にいるかもしれないし」


りさは願う。

どうかひょっこりいつもの笑顔で「あれ?りさちん、どうしたの?」って顔を見せてほしいと。


「もし見つからなかったら、小鷹先輩の指示を仰ごう。昨日から先生たちの姿が少ないのも気がかりだったんだ」


ゆうたに言われるまで、りさは気が付かなかった。

たしかに担任であるはずのりく先生の姿を昨日からほとんど見かけていない。

朝ちらっと見かけただけで、偶然かなと思っていたが、他の先生たちの姿も少ないことと照らし合わせると何か起こっていることの信憑性が高まる。


「りさ、手」

「う、うん?」


人前で抱き着いたことのある自分とは違い、人前で手をつなぐのを恥ずかしがるゆうた君が、手を差し出した。

不思議に思いつついると、つないだ手から全身を包むようにぶわっと熱風が通った。


「蜃気楼に隠れる術、改良したんだ。これなら一目につかないからじっくり探せる」


それでも周りから自分たちが映らなくなっただけで、人がいるのは変わらないので、ゆうたの耳が赤くそまっているのをりさは見逃さなかった。


「うん!ありがとう、ゆうた君♪」


そのかわいらしさが嬉しくて、りさはゆうたの手を握りかえした。


「あれ…?」

「どうした?りさ」


りさがもう一度見晴台の山を見上げていたとき、湯田先生が土巨人を呼び出したところだった。

会場からはいつも通りの山で、なにも変わらないけれど、りさは山から目が離せなくなった。


(なんだろう…鬼の気配とは別のなにか…でも怖くはない…)


「りさ?」

「あ!ごめん!さ、いこう!」


結論は出ないまま、考えても仕方ないと、優先すべきは楓と波多野を見つけることだと切り替え、りさとゆうたは探し出した。




ー 見晴台 ー


会場とは打って変わり、こちらは土巨人の攻撃を躱すことで精いっぱいな波多野の姿があった。


「あっはははは!!!!大口叩いたわりにこのダイダラの前では逃げることしかできませんか!!!!」

「…ッチ!!」


土巨人が振り下ろす打撃による土埃で波多野の様子がなかなか目で追えない。

波多野は土巨人による打撃をギリギリ躱しながら攻撃を模索しているのだろう。

でも土埃の中にいる波多野にとって、全貌が見えず苦戦しているに違いない。


「もっと…!!もっとです…!!!!もっともっと打ち込みなさい…!!!!相手が潰れるまで続けるのですっ!!!!!」

「・・・ァ・・・ァ」


湯田先生はダイダラと呼ぶ土巨人に命令するたびに、悲痛な声が聞こえて心臓を掴まれているみたい。




「先生、あの巨人はいったいなんですか…?」


私とゆか先輩はりく先生の結界の中にいる。

時折湯田先生が不意打ちで黒い靄の矢を飛ばしてくるが、りく先生はなぜそれを持ってきたのかわからない青い2位の旗で振り払ってくれている。


「あれはおそらくこの山の精霊、ダイダラボッチだろう。それを湯田先生が洗脳して操っているんだ」

「…先生…あの巨人も助けてあげれないですか…?」


私は夢に『彼』が助けを呼んでいた話をした。

そしていま『彼』は泣いているはずだ、とも。


「…ちぃと難しいな」

「どうしてですか?」

「精霊を操るのは、人間を操るとは違う。人間を操るには神経に術を仕込めばいいが、精霊に神経はない。だから精霊の核に術を仕込んでいるはずだ」

「精霊の核…」

「そのすべを波多野は知らん」


…たしかに。

私だって生命力が異能力につながっているなんて話、りく先生たちから初めてきいたくらいなんだから。

そもそも精霊がいるなんてことも、授業ではやらない。


じゃぁ『彼』を助けることはできないのかと絶望しかけたとき、りく先生はにかっと笑った。


「波多野は、知らない」

「…は?」

「あぁ、でも俺は知ってる」

「~~!!!」


りく先生の頼りになる笑顔に、キラキラと希望が見えた。

そしてりく先生は湯田先生が飛ばす矢を見ずに振り払い、「ここまで頑張った弟子の頼みだからな」と私の頭をご褒美をくれるように撫でまわした。


「ひとまずあの巨人を弱らすことが先決だ。大元を叩けば一瞬だが、核に傷がついたら精霊でなくなってしまう可能性がある。だからそれまで波多野に頑張ってもらう」

「…正直、波多野までくると思わなかったです」

「あぁ、俺もだ。戻れって言ったんだが、必死だったから稽古ついでに連れてきちまった」

「稽古?」


にやりと笑うりく先生に、首をかしげていると


「おい、りく先!!!こっからどうやって攻撃すりゃいいんだよ!!!」


と、土埃の中から波多野の声が届いた。


「ばかやろー。なんのために勉強してたんだ、頭使え頭~」

「くそ…!!使う余裕がねぇんだよ!!!」

「余裕はつくるもんだぞ~」

「あぁ!!??」


波多野のギリギリの状況とは裏腹に、楽しそうに波多野を追い込んでいるりく先生。

どうやら波多野に戦闘アドバイスしてあげるついでに連れてくることにしたそうだ。


「アドバイスしてくれるんじゃなかったのかよ!?!?!?」

「避けてばっかりじゃなんのアドバイスもねぇだろ~」


でも土巨人から休む暇もなく振り下ろされる拳と、それによる衝撃から逃げるだけ精いっぱいなのもわかる。


「~~~~くそが!!!」


避けながらなんとか溜め、大きくした雷撃を波多野の何倍もある拳にあてる。


「あたった!」


思わず声に出すも、波多野が打った雷撃は吸い込まれるように巨人の中に消えていった。


「ッチ!!」


波多野の舌打ちのほうが、雷撃の音よりも大きいくらい、静かに吸収されてしまった。


「なんで…あっ!」

「気づいたか?」

「…はい…雷属性にとったら土属性は天敵…」

「あぁ、土は雷に対してアースしてしまうし、山の精霊なだけあって絶縁性のある岩も使って形づくられているんだろう。だから頭を使えって言ってるんだよ」

「そっか…」


きっとそれを波多野は気づいている。

むしろ気づいていないほうがおかしいほどに。

模擬戦では土属性相手にも勝利することはあるけれど、模擬戦とは状況も相手が人間ではない。

だから余裕をつくることも難しいのだろう、徐々に傷が増えているようだ。




その後も波多野は何度も技を変え、場所を変え、タイミングを変え、攻撃を仕掛けてはいるが同じ結果で波多野の顔に疲労があらわれた。


《ふうちゃん、どうやったら波多野勝てるのかな》

《土属性は雷が効かないわけじゃないんだ。雷を逃がしているだけだから》

《うん、だから結界で閉じ込めてしまえばいいんだよ》

《結界で…》


ふうちゃんの話で、ふっとあることを思い出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「あとは土属性の結界を重ねかけするのもありだな」


「ありがとう、立華。そうだ!異能抜きするときも土属性結界を体内でもつくるようにして抜いていくと楽だから!」

ーーーーーーーーーーーーーーーー


それは小鷹先輩と音澤先輩との会話だ。

小鷹先輩からアドバイスをもらった後、すぐに土属性の結界を相手の体内につくり、神経に流れている電流を周りに傷つけず、結界の枠内におさめることができた。


《結界の重ねがけ…》

《うん、もちろんどんな結界を重ねるかが重要だけどね》

《ねぇ、ふうちゃん。体内にも結界をつくって異能抜きできるなら、絶縁性を抜くこともできる?》

《さすがえでか。もちろんできるよ。俺だったらまずそうする》


まさかあの時の会話がこんなところでつながるとは思わず、ふうちゃんにもほめられて喜んじゃいけない状況なのに口角があがってしまった。


《でもそれをどう伝えれば…》

《えでかは手助けしちゃだめだよ》

《うっ…わかってるよ…》


伝えるのが難しくなったら体が動いて結界をつくりにいってしまうかもしれないと、私の行動を先読みして防ぐふうちゃん。

でもふうちゃんの言う通り、手助けをしたくても、あの戦況の中に入って結界をつくる前にお荷物になってしまうのが目に見えている。


せめて…

せめて波多野が気づいてくれれば…




「くそが!!いい加減にしろよ!!!」

「あはははは!!!!実に愉快ですねぇ!!!!どうです!?!?異能が効かない屈辱を味わうのは!!!!」

「波多野~口車にのってんじゃねーよ~。感情を抑えろ~」

「~~~~っ!!!!」


波多野の顔も腕も、血と土埃で真っ黒になってきている。

北都ジャージも黒いはずなのに、灰色に染まり、戦闘の長さを感じさせる。


「いま、一番の問題はなんだ~?!」

「あぁ!?攻撃がきかねーことだよ!!」

「なんで攻撃がきかない!?」

「逃がされてるからに決まってんだろ!!」

「じゃぁどうすれば逃げない!?雷がきかないこと前提で考えてたら出る答えも出ねーぞ!」


苦しそうに波多野は顔を歪める。

そしてこの状況がおもしろくない様子で苛立ちをあらわにする湯田先生。


「…いちいちうるさいですね、橋本先生。教師として最期の仕事ですか?」


湯田先生は土巨人に「このまま攻撃し続けなさい」と命令し、こちらに矛先を変え、歩きはじめた。


「っち。めんどくせぇな」


りく先生が言うには、このまま湯田先生の中の鬼を倒して、拘束することは簡単なのだが、土巨人を助けるとなると、土巨人を弱らせるまで耐久戦になるのだと。


「…お前らに攻撃しないとも限らない。だから気引き締めておけよ」

「…はい!」

「最悪、あの種使って結界の外にでろ」

「…はい」


どうやらこの騒ぎが学校に伝わっていないのは、湯田先生による特殊な結界がはられているからだそう。

ここまで来るまで、低級の鬼や蟲がたくさん集まっており、時間がかかったと教えてくれた。

ある程度は片付けてきたので、学校まで逃げるだけなら問題ないが、二人分、ましてや意識のないゆか先輩も運ぶとなると根性も必要になってくる。

そう言われたらごくりと唾と一緒に不安も飲み込んだ。


「私、あなたのこと赴任してきたときから大嫌いだったんですよ…!!術しか使えないくせに担任まで持って…私は副担任しか任せてもらえず、その副担任ですらあなたがきたらおろされた!!!」

「それはてめぇの実力不足だろ」

「だったらわからせてあげますよ…私の実力を!!」

「私の実力って…ほとんど鬼の力のくせに大口叩いてんのはどっちだが」


湯田先生の血管が切れる音が聞こえた。

そして空が見えなくなるほど黒い靄が見晴台を包み込んだ。


「この私を馬鹿にしたこと、後悔させてあげます!!!!!」

「おい波多野。いつまでもその調子じゃ、俺が代わってやるからな」

「はぁ!?うっせ!!!もうすぐなんか掴めそうだったのに邪魔すんな!!!」

「~~~私を無視するなぁぁぁぁ!!!!!!!!」


湯田先生の叫びとともに、上空から今までとは比にならない数の靄の矢が雨のなって降り注ぐ。

あまりの数に一瞬でりく先生の姿が見えなくなってしまい、私は咄嗟にりく先生の名を呼ぶ。


《ふうちゃん…!りく先生は消えちゃった…!》

《大丈夫だよ、えでか。よく見てみて》


りく先生は強いと信頼していても、姿が消えたら落ち着いていられない。

それでももっと状況が見えないはずのふうちゃんが落ち着いてくれているので、ふうちゃんの言う通りにりく先生がいたであろう場所を見つめていると、ふわっとりく先生の煙草の香りがした。


「~~~~!!…なぜだ!!なぜ無傷で立っている…!!!」

「あ?これに火つけてたからよく聞いてなかった」


りく先生は顔色ひとつ変えず、攻撃されていたとは思えない余裕っぷりで、脇に順位旗を挟み煙草に火をつけていた。


「ならばこれなら…!!!」


焦った表情をしているのは湯田先生の方で、私でも何の戦法もないのだろうとわかるくらい、無駄に矢を打ち込んできた。

私にまっすぐ向かって飛んでくる矢も、りく先生の結界がはじいてくれる。


「くっそぉ…!!」

「おたくとは結界のつくりが違うんでね。そんなことも見抜けないから副担任なんだよ」

「…まさか結界師…!!」

「そういうこった。そもそもステージが違ったんだよ」


りく先生が結界師だと気づいた湯田先生は、衝撃をうけて壊れたかのように肩を震わせて笑った。


「…ふ、ふ、ふ…私はね…今年結界師試験を受ける予定だったんですよ…それすら剥奪されてしまいましたがね…」

「それは自業自得だろ」


私の心の中の言葉を、そのままりく先生が口にしたので、一瞬私が口にしたのかと思ってびっくりした。


「はは、ははは…どんどんあなたを殺す理由が増えていきますねぇ…!!!」

「理由だけ増えても実力があがるわけじゃねけだろ」

「ならばこれならどうです…!!」


そう言って湯田先生は靄の矢を、波多野の方向へ向け矢を一斉に放った。


「波多野…!!!」


思わず波多野の名前を叫ぶと、状況を察した波多野。

でも一歩遅かったのか、大量の矢と土巨人の拳を同時に受け、波多野の姿を見失ってしまった。




続く

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