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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
はじまり
8/151

ー8ー

あれは入学したての小学1年生のころ。

隣の席の男の子と仲良くなった。


名前は水樹大雅。

黙っていればかわいい顔なのに、いつも変顔で私を笑わせてくれて、顔を限界まで膨らませる風船の変顔が私は大好きだった。

なので私はいつも「風船のふうちゃん」と呼んでいた。




ある日、名前を逆から読む遊びが流行った。

それがきっかけでふうちゃんは私を「でえか」をもじった「えでか」と呼ぶようになった。


私たちが「ふうちゃん」「えでか」と呼び合っていると、他の人も呼び始めた。



すると帰りの会で「今日ありがとうって思ったことは?」とみんなが発表している中、ふうちゃんはいきなり手をあげ

「えでかと呼んでいいのか俺だけで、ふうちゃんと呼んでいいのはえでかだけなので、他の人は呼ばないでください!!」と発言した。

放課後、ふうちゃんはテーマとは全く関係のない発言をしたこと、そして「クラス仲良くしないとだめでしょ」とお説教をされていた。


でもそれがきっかけで、私を「えでか」と呼ぶクラスメイトはふうちゃん以外いなかったし、私しか「ふうちゃん」と呼ぶ人はいなかった。




私とふうちゃんは2年生になり、二人だけの秘密の遊びをするようになった。


「えでか、手だして」

「手?こう?」

私が手のひらを上に向けて両手をさしだすと、ふうちゃんは私の手のひらに人差し指で文字を書き始めた。


「あはは!!くすぐったいー!!」

「いまなんて書いたかわかった?」

「え?わかんない!もっかいやって!」

「…え…で?…か…えでか!私だ!」

「あたり!」

「じゃか次、私もやる!」


そうやって休み時間、お昼休み、放課後まで続き、次の日も次の日も指文字遊びが続いた。




「ねぇふたりいつもなにやってるの?」

さすがに秘密の遊びじゃなくなって、クラスメイトにバレ始めたころ、3人の女子がやってきた。

こうやって遊んでるんだよ、と説明し彼女たちも混ざって遊ぶことに。


「…んー…いぬ?」

「ぶー。正解はくま!」

「えー全然わかんない」

「じゃぁ次えでかね」

「…ピカチ〇ウ!」

「あたり!」

「かえでちゃん、すご~い」


私とふうちゃんは何度も何度も遊びすぎて、お互いに書いたことが百発百中の域に達した。

でもふうちゃん以外の誰かが書いたこと、私以外がふうちゃんに書いたことは全くわからなかった。

だから『二人だけの秘密の遊び』になった。




4年生になったある日の休み時間。

ふうちゃんは廊下で他のクラスの男子とワイワイおしゃべりしていた。

男子同士の中で男の子っぽく遊んでいる姿がいつも楽しそうで、こっそり横目で盗み見ては胸をときめかせていた。


「ねぇ、楓ちゃん、この話読んだ?」

「なんの話?」

「教科書に載ってる『ひよこの目』ってやつ」

「読んでないよ~」

「読んでみて!泣けるから!」


どうやら学年の女子たちの間で『ひよこの目』が人気で休み時間に涙する者が多発していた。

さっそく私も読んでみた。



話の内容としては死なせてしまったひよこの目が死を予期した目で、親しくなった男の子も同じ目をしていた、といった内容だった。

読み終わったとき、私の感情も大きく揺さぶられ涙ぐんでしまった。

席に戻っていたふうちゃんに「花粉症?」とからかわれるくらい、私の目は真っ赤だったのだろう。




私たちの秘密の遊びも成長し、簡単な会話までできるようになった。

ちょうど席替えで隣同士になった私たちは、授業中も指文字でおしゃべりばかりしていた。


《2くみの 小林 しってる?》

《しってるよ さっき 一緒に いた男子 でしょ?》

《えでかのこと 好き だって》


このころは思春期突入特有の、誰が誰を好きかって話題で常に盛り上がっていた。

ふうちゃんはクラスの垣根を越えて人気者で友達も多かったので、学年の恋愛図に詳しかったし、相談に乗っているのもよく見かけていた。


《返じ は?》

《わたしは 好き じゃない》

《なんで? 小林 かっこいい じゃん》


(なんでって…そりゃぁ)




ーー私はふうちゃんが好きだから。




私はもう、ずっとずっと前から、あの学級会の日から、ふうちゃんのことが大好きだった。

付き合うとか結婚とか、少女漫画の世界でしかわからないけど、大人になっても一緒にいたいと思うくらい大好きだった。



この気持ちを伝えたくて、ふうちゃんが好きって書きたいのに一向に指が動かない。

でもふうちゃんはしばらく手のひらを上にしたまま待ってくれた。



《他に 好きな人 いるから》



これ以上の勇気が、あの時の私にはなかった。



ちょうど授業が終わり、席を立ったふうちゃんは

「じゃ、小林に言ってくるな!」

と、なぜか少しテンションが高かった。




でもあの日、好きだと伝えておけば何か変わったかもしれないと、何度も後悔することになるとは思わなかった。




続く

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