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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
75/152

ー75-

りさちんと栄一郎君の土属性競技は障害物競走だった。

土属性に合わせてオレンジ色の花びらが舞う第二会場のコートにも、選手たちだけでなく、応援の生徒も多く集まっており第一会場と同じくらい盛り上がっていた。

障害物競走では校庭を自由自在に動かし相手チームの障害をつくる。

ゴロゴロと岩が転がってきたり、砂嵐がおきたり、障害をおこしながら障害を乗り越えるのは見ごたえがある。


第二会場に入ると競技用の結界が重なっていることもあるからか、体温がもどってきた。

さっきのことも、もしかしたら私の気のせいかもしれない。

そう思いながら応援していると、りさちんと栄一郎君たちのベスト8入りが大接戦で、夢中になっていき忘れてしまうほどだった。


「りさちん、ベスト8おめでと~!!明日は決勝トーナメントだね!!」

「ありがとう~!!去年負けたチームの人たち多かったところだったから、リベンジできたのは小鷹先輩のおかげです!!」

「俺はちょっとタイミング伝えただけだよ。あそこで地割れが起きる前に飛び越えられたのは、榎土自身だよ」

「うん、足場悪い中、よく飛べたと思うよ。おめでとう、りさ」

「ゆうた君…小鷹先輩…ありがとうございます…!!」


りさちんが嬉し泣きする中、大健闘したはずの栄一郎君が「俺は?俺は?」とキョロキョロしていたので、いつの間にか笑い泣きに変わっていた。


「小鷹先輩もさすがです。物理影響が大きい中、術だけで1着でゴールするなんて。石化攻撃受けたとき、一瞬で解除してましたけど、なにかコツあるんですか?」

「火野も応援ありがとう。あれはね、攻撃が反射するように鏡の術をここに仕込んで~…」


ゆうた君は食い入るように小鷹先輩にいろんなことを質問していた。

同じ火属性だから、他属性の中で立ち回る術や戦い方を吸収しているのだろう。

小鷹先輩の術の使い方は、どんな強風の中でも、水中の中でも、絶えず燃え続ける太陽のようで、他属性競技なのに小鷹先輩の場にしてしまう。

それが相手属性の場を奪う形ではなく、とてもスマートでなので人気なのも納得だ。

それに術構造をきくと実はシンプルなのがおもしろく、私も一緒になって勉強させてもらった。

私も楽しいけれど、ふうちゃんの役にたてるかもしれないからね。




午後の試合も残り2試合となってきた頃。

ふらっと第二会場にある人物がやってきて、波川先輩が声をかけた。


「よぉ波多野~なにお前ひとり~?」

「あ、お疲れ様です」

「お前がひとりなんて珍しいな。誰か探してんの?」

「音澤先輩に明日のトーナメント表渡してこいって言われて」


波多野が音澤先輩に雷属性の決勝トーナメント表を渡すと、一斉にのぞき込む私たち。

トーナメント表をみながら、そういえば波多野は音澤先輩、小鷹先輩のチームだったんだと気づいた。


「あれ?稲垣のチームに切島がいる」

「はぁ?あいつなら1回戦目で啓と小鷹に負けたはずだろ??」


たしかに音澤先輩と小鷹先輩、波多野のチームの反対側に3年朱雀組の稲垣先輩のチーム名があり、稲垣先輩の名前が消され切島先輩の名前に上書きされている。


「それが稲垣先輩が非常階段から落ちて骨折したみたいで、切島先輩が代理になったらしいです」

「でも稲垣と切島って接点あった?」

「知らないな…」


みんな不思議そうな顔をしながらトーナメント表と睨めっこ状態になった。

そんな中、波多野がいつになく真剣な顔で話はじめた。


「…さっき切島先輩とすれ違ったんですけど、いつもより様子が変だったんですよね」

「様子が変って?」

「…いつもならうるさいくらいに俺に自慢話とか、喧嘩売ってきたりするんですけど、気持ち悪いぐらい静かでした」

「啓に投げられて大人しくなったんじゃね?」


と、笑う波川先輩と栄一郎君とは対照的になにか考えはじめる小鷹先輩。


「わかった。報告ありがとう、波多野。とりあえず終わったら19時に俺の部屋でミーティングしよう。他のメンバーにも伝えてくれる?」

「わかりました」

「海斗たちとは夕食後だから…栄一郎と榎土は放課後部室に集まろう。火野はお昼にミーティングした内容をもう一度伝えておいてもらえる?」

「はい、わかりました」


小鷹先輩がそれぞれに指示を出している姿をみると、私も戦えていたらこんな風に同じチームになれていたのかな、とちょっとうらやましくなった。


「それと切島のことは様子がおかしいのはいつものことだけど、ここだけの秘密にしておこう。なにかわかったら報告するように」


いつだったかりさちんとゆうた君が言っていた。

小鷹先輩は理想のリーダーそのものだ、と。




「本日の競技はすべて終了しました。係の者は速やかに片付けを行い、それ以外の生徒は17時までに校舎から出るようにしてください。繰り返します。本日の競技は…」


1日目の体育祭が終了したことを告げるアナウンスが流れると、花火があがり、吹奏楽部による演奏も終わったようだ。

第二会場にいた生徒がぞろぞろと裏門へ向かい、その列に私たちも並ぼうとすると、さっきの嫌な気配を思い出した。


(…でもこれだけ人がいれば大丈夫だよね)

と、ゆっくり裏門に進んでいくと「あっ」と小鷹先輩が急に声をあげた。


「俺、忘れ物しちゃったからさ、みんな正門からいかない?」


小鷹先輩も忘れ物するんだって意外に思っていると


「…そうだな~、裏門混んでるし、正門のほうが近いかもな」

「立華たちも正門から一緒にいこうぜ」

「え、う、うん」


と、栄一郎君や波川先輩たちと裏門への行列から抜け出し、ガラガラになった校庭を通りながら正門へ向かった。

正門を出ると道路を挟んだ反対側に中学校があり、音澤先輩の弟がちょうど下校するところだった。


「相変わらず似てないよね~啓と違って可愛げあって」

「海斗うるさい。まぁ来年はこっちにあがってくるし、後輩になったら面倒みてあげてな」

「波多野ちゃんと先輩できんの~?」

「これでも一応いまもやってますよ…!」

「その点、火野は安心だね。面倒みなくちゃいけない奴が多いけど」

「波多野と博貴の面倒はもうなれました」

「面倒みなくちゃいけないって俺のことかよ」


先輩たちとのやり取りを聞いているだけでおかしくて、りさちんと声をあげて笑っているとあっという間に北都高校に戻っていて、あの嫌な気配を思い出す暇すらなかった。

けっきょく忘れ物を忘れた小鷹先輩たちと校舎前でわかれ、私たちはいったんクラスに戻ることにした。




校舎内にはほとんど誰も残っておらず、みな寮に戻ってしまったようだ。

さっきまで賑やかな場所にいたのに、放課後の校舎は不思議なくらい静かだった。


「…おい」

「ひゃ!び、びっくりした…な、なに?」


りさちんとゆうた君に続いて階段をのぼっていると、踊り場前でいきなり波多野に肩をぶつけられた。


「…お前、なんか聞いただろ」

「聞いた…って誰に?」

「…同じテントだったろ」

「同じテントって…ゆか先輩のこと?」

「…あぁ」


なぜか肩をぶつけられたまま、踊り場の角に追いやられ、第三者からみたらかつあげされているような状況だ。

りさちんとゆうた君は私たちなど見えていないようで、私たちは置いていかれてしまった。


「なに聞いた?」

「え、えっと…小さいときから一緒だったって…」

「あとは」

「あ、あと!?えっと…あとはアロマのことを…」

「それだけか?」

「う、うん…」


黙ったまま迫力だけ出し続ける波多野。

迫力に似合わないアロマの香りが、私と波多野の間を埋めていく。


「…ならいい」


やっと解放されると思い、ほっとするが、なかなか波多野はどいてくれない。


「あ、あの~…どいてくれないの…?」

「…」


依然波多野の眉間に皺がよったまま、私を見下ろす。

校内の静けさが逃げ場をなくし、よけいに緊張感をうむ。


「………たか?」

「ん?」

「第二会場でなにか感じなかったか?」


急に視界が明るくなり、アロマの香りが離れた。

波多野が隣に並び、壁にもたれかかった。


「聞いてただろ、第二会場に気をつけろって。なんか感じなかったか」


少しほっとしながらも、聞く相手が間違ってないかと確認したが、馬鹿にされながら間違ってないと答えた。


「私は…とくになにも感じなかったけど…」


裏門を出た時の気配は感じつつも、言えなかった。

自分の感覚が間違っているかもしれない、私の気のせいかもしれない。

でももし、間違っていたとしても、きっと波多野は私を責めない。

そうわかっていても言えなかったのは、気のせいじゃないって本当は気づいているから。


「そうか…もしなんか異変があったらすぐに言えよ」

「う、うん、わかった…」


だって、言ったら体育祭を抜けてでも戦いにいくだろう。

そんな気がしてしまったから、私は波多野に嘘をついた。





ー 夜 練習場 ー


りく先生との特訓のため、練習場に向かうとパフォーマンス部門の準備スペースや、鉱石属性のコートになっていて結界がはられていた。

このままここでいつものように夜花世界を出してしまうと、結界が異常を察知して警備員を呼んでしまうので、限られたスペースで双剣練習をすることになった。


「今日は軽く打ち合うくらいにしておこう。治癒技術試験で疲れたろ」


本音を言えば軽くと言わず、思いっきり練習したいところなのだが、強くなる前に一生双剣を握れないような怪我をしてしまっては元も子もない、とりく先生に言われたことがある。

いまの私みたいに、自分の成長が目に見えてきて楽しくなってきたって時に、無茶な練習をしがちで怪我をしてしまうことが多いらしい。




少し汗ばむほど打ち合いを続けると、蔓がお水と煙草を渡してくれて休憩することになった。


「そういえば先生、今日ほとんど外にいなかったですね」

「あぁ、ずっと校長と教頭の調書とって、校長たちの退職手続きの準備に後任の手続きとって、空雅さんに報告して…って体育祭どころじゃなかったんだよ…」

「調書って先生がとるんですか?!」

「あー…空雅さんの代理みたいなもんだ」

「へぇ~…」


私よりも疲れ切ったりく先生。

それでも特訓をつけてくれるのだから、説明がめんどくさくなったな、と察しながらも私は感謝しかないなと感じる。


「で、体育祭はどうだった?って言っても治癒試験でそれどころじゃねーか」

「忙しかったですけど楽しいですよ!」

「なんか切島と揉めたそうじゃん」

「でもゆか先輩とか小鷹先輩たちが助けてくれましたから」


ずっと校舎にこもっていたはずなのに、どうして切島先輩のこと知っているのだろう、それほど目撃者が多かったのかなと思っていると、波多野が言っていたことを思い出した。

りく先生になら私が感じた気配について話ても安心できるので、今日の出来事をゆか先輩が忠告していたころから報告をした。




「…そうか、報告ありがとな。気のせいだとしても、小さい違和感でいいからまた報告しろな」


と、ヘアアクセサリーが崩れる勢いで私の頭をなでまわした。

でもすぐにりく先生は溜息をつき、頭を抱えながらぼやいた。


「湯田があんなことにならなきゃ俺が見張っていられるんだけどな…」

「湯田先生?」


まぁ横領にセクハラ、盗撮、カンニング補助などなど…あげたらキリがないほど問題を起こしたのだからりく先生も大変だよなぁと思っていると、りく先生の目つきがするどくなった。


「あぁ違う違う。実は脱走したんだよ、湯田」

「え…えぇぇ!?だ、脱走って…ど、どうして…」

「わからん。橋本家の人員と討伐員総出で捜索にあたってるんだが、まだ見つけられていないんだ」


そりゃ体育祭どころではない忙しさになるはずだ。

きっと昨日もあれから眠れていないのだろう。いつもよりもクマが濃いように見える。


「だからお前が感じた気配も気のせいではないだろう。体育祭の異能の気配につられてやってきたか、捜索員の気配を感じてやってきたのかもしれない。あぁ…でもそれだと切島の件とつながらねぇな…」


と、りく先生はぶつぶつと煙草をふかすことも忘れて、火が指にあたりそうになって慌てて灰皿に煙草を消し入れた。


「とにかくだ。お前が感じた気配、俺も気にしておくし、近くに警備用の植物も置いておく。もし鬼に遭遇しても決して戦うなよ!?気配を感じたらすぐに逃げろ、いいな?」

「…!!…は、はい!!」


”もしも”のことがないといいなと思いながらも、気を引き締めなければいけないと固唾をのんだ。

あとこれもやっておく、と言ってりく先生が差し出した手から、私はあるものを受け取った。


「…種?」

「あぁ、逃走用植物の種だ。強く握ると簡単に割れて中から芽が出てくる。お前ひとりくらいなら簡単につれて逃げられるから、もしものときはこれを使え」

「わ、わかりました!」

「使わないに越したことはないがな…」


私もできれば使わずに、明日返すことができたらいいなと思う。

でも私が感じた気配、湯田先生脱走の件、関係あるかわからない切島先輩の件、大小あれど一度におかしなことがおこるなんてやっぱり近くで何か起きているのは間違いないだろう。


「さ、最後にもうひと打ち合いして終わるか~」

「…はい!」


うん、嫌な想像ばかり浮かんで背筋が震えるけれど、今は目の前のりく先生との打ち合いに集中しよう。




ー 寮 楓の部屋 ー


特訓が終わると珍しく寮まで送ってくれたりく先生。

これから見回って警備用植物をおいていくって教えてくれた。

もちろん用心に越したことはないけど、りく先生が対策してくれてるって安心感は強い。


《ふうちゃん、今日の特訓おわったよ》


今日は一日忙しかったから、あまりふうちゃんに魔法でメッセージを送ることができなかった。

なのでベッドに横になりながらふうちゃんに魔法を送るこの時間が、やっと私に安息をもたらすのだ。


《お疲れさま、えでか。今日は体育祭で疲れたでしょ》

《でもいま元気になったよ》

《俺もいまが一番元気》


あぁ、今日も一日いろんなことがあって、忙しくて、楽しいこともあったけど、ふうちゃんとのこの時間を恋しく感じていたことがわかる。


《話したいこといっぱいあるのに瞼が重いよ》


ひんやり冷たかったシーツが徐々に私の体温に近づいていくと、ベッドと身体がひとつになっていくように睡魔が襲ってくる。

今日の体育祭の話とか、ふうちゃんの今日の話を聞きたいのに眠気に勝てない私が憎い。


《えでか、時間はいっぱいあるんだから、ゆっくり聞かせてよ》

《…うん。そうだね…ふふ、話終わることにはおばあちゃんかも》

《それは長生きするの楽しみだ》


冗談で言ったことだけど、本当におじいちゃんおばあちゃんになっても今日のことを話していそうで、あたたかい幸せが私を包み込む。

ふうちゃんとの未来は、私の生命力を強くして寿命を延ばしているに違いない。


《ねぇ、ふうちゃん。明日も頑張るからお願いきいてもらってもいい?》

《なぁに?えでかのお願いなら頑張らなくてもなんでも叶えるよ》

《ありがとう。あのね、今度会う時、またふうちゃんの海の結界に連れていってほしいの》

《わかった。気に入ってくれた?》

《うん、ふうちゃんの結界、大好き》


水中球技のコートにふれたて、ふうちゃんの結界を思い出しただけでなく、きっと私、自分で自覚している以上にふうちゃんに会いたくて仕方ないのかもしれない。

おとぎ話のような、絵本の中に飛び込んだようなふうちゃんの海の結界は、全身でふうちゃんの優しさを感じたいのだから。


《いつでも連れていく》

《ありがとう、ふうちゃん》

《えでか、そろそろ眠りな?》

《うん、そうする》

《また明日の朝、起きたら魔法おくってよ》

《うん、起きるの楽しみだなぁ》


ふうちゃんと魔法を送りあっていると、寝るのが名残惜しくて、朝起きるのが楽しみになる。

でもふうちゃんの「おやすみ」をきくと、毎晩幸せな気持ちで眠れるのでやっぱり寝るのも好きなんだな。


《大好きなえでか、おやすみ》

《ふうちゃん、大好きだよ、おやすみなさい》


そして私は魔法の光が消えるよりも早く眠りについた。




続く

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