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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
73/151

ー73-

体育祭1日目

火属性のパフォーマンスによる開会の花火があがり、校庭には全校生徒が各属性ごとに列をつくる。


「あ、楓~おはよ~」

「おはよーたかちゃん」


木属性の列に向かうと、博貴が手をふって出迎えてくれた。


「楓、テストどうだった?」

「ん~まぁまぁできた方かな…返ってくるまでわからないけど頑張ったと思う…!」

「さっすが~!でも俺も鉱石術はダイヤちゃんのおかげで最高得点かも!体育祭の写真も送ってあげるんだ~あ!楓もあとで一緒に撮ろうね!」


ニコニコの博貴をみるに、ダイヤちゃんへの気持ちは自覚していなさそうだけど、順調そうでよかった。

会うとツンツンしてしまうダイヤちゃんもメールでは素直らしい。



博貴とダイヤちゃん話で盛り上がっていると、吹奏楽部による目がさめるような音楽がやみ、全員の目線が前方のお立ち台へ集中した。

私は長身が多い樹属性たちに囲まれてしまい、前方がよく見えなくなったので、校庭をくるっと眺めてみた。

すると私たちのテント装飾だけでなく、各属性の横断幕も掲げられ、校庭はとても彩りが豊かで目が楽しい。

そして草花属性のパフォーマンス部門による開会の花吹雪がゆらゆら舞う中、開会式が行われた。


いつも長い校長先生の話も急遽教頭先生が立ち、校長先生が不在の理由は明かされないまま二言三言話しただけですぐに校内に戻っていったのが見えた。

まだ湯田先生の件が公にされていないので仕方ないのだろうと思いながらも、みんな競技開始が待ちきれない様子で気にもとめていないよう。


「続きまして、優勝旗返還!」


雷属性のアナウンス担当が開会式を進行する。

名物司会と言われる先輩なのだが、昨年は治癒隊の忙しさでアナウンスを聞く余裕なんてなかった。

今年は少しでも楽しめるといいな。


「前年度優勝、火属性チーム!代表者前へ!」


みんなの頭の間から、キラキラ輝く先端がお立ち台に昇っていくのがみえた。

深紅に染められた優勝旗は、優勝属性の色によって変化する異能糸で造られた優勝旗だ。

歴代の優勝チームの名前が書かれたペナントの数は、男子高時代からの歴史の長さを感じさせる。

しかしこの特殊な優勝旗は、誰が作成したのか実はわかっていないのだそう。

だからどういう理屈で色が変化するのか、異能糸の属性は何なのか解明されておらず、北都七不思議から引き継がれた新七不思議になっている。


「やっぱり今年の代表は檜原先輩か~負けられないな~」

「せっかく火属性の連覇とめられたのに去年負けちゃったもんね」

「洋介君の仇とるんだから~!」


洋介君とは私たちの2個上の先輩で、現在北都異能大学の1年生だ。

博貴とは幼少期からの幼馴染で、2年生時にこれまで立場の弱かった樹属性を優勝へ導いた先輩だ。

戦闘俱楽部の部長であったので私にもよく「かえでっち!」と声をかけてくれ、俱楽部内で居心地のいい場所をつくってくれた恩がある。

しかし何年も連覇していた火属性が樹属性に敗れたことでプライドに火がつき、これまでの戦略を見直し、徹底的に樹属性(主に洋介先輩)を研究し、昨年王座を奪還した経緯がある。

それを主導したのが、今年の代表、檜原小鷹先輩だ。

でも洋介先輩も檜原小鷹を恨むことなく「檜原に負けたなら満足だ」といって、笑顔で戦闘俱楽部の部長を譲り引退した。


「頑張ってね、たかちゃん!」

「怪我したときはよろしく!」

「それは…なるべく怪我しないでほしいなぁ」




開会式が終わり、たかちゃんと別れ、複数に振り分けられた治癒隊エリアへ移動する私。

今回担当するのは第一会場の北都高校だ。

というのも人数と競技が多いので、隣の敷地になる元女子高が第二会場となっているのだ。

昨年は第二会場を担当したのだが、第一会場は第二会場と比にならないほど戦場になるらしい。


「あら?もしかして楓さんも同じエリア?」

「もしかしてゆか先輩と一緒ですか!?」


振り分けられたテントをくぐると、なんとゆか先輩と同じテントで嬉しくて駆け寄った。


「楓さんと一緒だなんて心強いわ」

「こちらこそです!先輩も治癒術申請してたんですね!」

「えぇ、進路には必要ないのだけど、今年で最後だから…」

「あ…」


以前、ゆか先輩にお呼ばれした際に、北都美術大学の異能美術学科を受験する予定だと聞いた。

ゆか先輩と迎える体育祭も今年で最初で最後なのかと思ったら、さみしくてしんみりしてしまった。


「…何事も起こらないといいのだけど…」

「え?なにか言いました?」

「いいえ!さ、楓さん、肩を落としてる暇なんてないわよ!」

「は、はい!頑張りましょ!」


競技開始の合図の花火があがり、ゆか先輩の声がうまく聞こえなかったが、これからはじまる混沌に気合を入れ合った。




「次の方どうぞ!」

「これはひどいわね…少し痛むかもしれないけど我慢してね」


第一会場の1種目目は火属性による火球ドッジボールだ。

1年生~3年生まで実力を均等にしたチームごとに、火球の大きさ、火力、数などを競い合う。

しかも数に制限はないドッジボールなので、火傷のような怪我を負った生徒は次々に運ばれてくる。

こちらも治癒技術の試験なので、どの属性でも対応できるように属性区別などはないものとなっている。


ちょうど私の位置から校庭の様子が伺えるのだが、ここは太陽なのかと疑いたくなるような光景が繰り広げられている。

見てるだけで溶けてしまいそうだけど、結界術試験を受けてる人たちの結界のおかげで安心して治癒臨める。


それと今朝、ふうちゃんからは《無理に記録に残さなくても大丈夫。試験優先で頑張れ》と言ってもらえたけど、少しでもふうちゃんの目になりたいので、競技風景をみたいと思っていた。

それもなんとかなりそうでよかった。




「…はい、もう大丈夫です!次も頑張ってください!…次の方どうぞー!」


太陽の光景から、眩しい光と共に爆音と振動の光景に変わり、雷属性の競技に進んだのだとわかった。

それでももう何人治癒したのかわからないほどになってきたとき、次の生徒に声をかけると


「げっ雑草かよ…」


と、苦虫を嚙み潰したような顔した雷属性の先輩がテントに入ってきた。

あまり見たことがない先輩のようなので、この先輩からいきなり草花属性の悪口である「雑草」と呼ばれる心当たりはない。


「おい、1年。あの雑草じゃなくてこっちにしてくれ」

「え、えっと…じゅ、順番に案内してるので…」

「あぁ!?」

「ひっ…!!ゆ、ゆか先輩はいま重症の方の治癒中なので…!」


先輩が治癒隊のサポートをしてくれてる1年生を脅しはじめた。

恐怖で涙を浮かんできたのをみて、慌てて間に入った。


「あ、あの!治療するので中にどうぞ!」

「…あのさ、お前雑草だろ?俺、雷なの。相性悪いのわかる?」

「…どの属性の方でも治療できるよう勉強してます。なのでどうぞ座ってください」

「はぁ?!だ~か~ら~!いくら勉強してるっていったって相性悪かったら意味ねーの!まだ勉強足りね~んじゃねぇの後輩ちゃん」


私の後ろで震えている後輩もたしか同じ草花属性だったはず。

なのでここまで言われて悔しいのだろう。ボロボロ涙をこぼし、鼻をすする音がする。


「勉強だけじゃなくて戦闘俱楽部で経験も積んでます。順番待ちの方もいるので座ってください!」

「あ!?俺よりも後ろのやつを優先するって言いてぇの!?治癒隊が属性差別していいのかあぁ!?」


私の言い方が先輩を蔑ろ扱っているように聞こえ、先輩の気に障ったのだろう。

先に属性差別したのはそっちなのに、と本音をなんとか堪えながら声を荒げる先輩と向かいあう。

それでも座ろうとしない先輩に埒があかないでいると


「…白虎組の切島君よね」


ゆか先輩が重症の生徒の治療から目を背けずに先輩を呼んだ。


「…あ?やっと治療してくれんのか?早くしてくれよ」

「あなた、どこ怪我しているの?」

「ここだよここ。さっき攻撃したときに出力強すぎて…」

「嘘。どこも怪我してないわ」


えっと驚いていると、切島先輩の顔が初めて歪み、額に汗が浮かんだ。


「ちゃ、ちゃんと怪我してるだろうが!ほら!この指!!よく見ろ!!」


と、私と後輩を押しのけてゆか先輩の方に近づくが、サポートの1年生たちがなんとか抑え込んでいる。

切島先輩が伸ばす手をよく見ると、どこにも怪我は見当たらなかった。

表に出てないだけかもしれないが、ゆか先輩の言葉を私は信じる。


「あなたの怪我は怪我じゃない。負けた悔しさはここでは治せないの。八つ当たりならやめてちょうだい」


ゆか先輩に言い切られて顔が真っ赤に膨れ上がっていく切島先輩。


「怪我、してないなら出て行ってください」

「~~てめぇ雑草のくせに調子のってんじゃねぇぞ!!」


そう切島先輩に声をかけると、再度私に矛先が向いたようで、手元にバチバチと音をたてて雷玉で攻撃を仕掛けてきた。


(やばっ…!ゆか先輩治療中なのにこんなところで攻撃されたら…!!)


と、咄嗟になにができるかわからずに切島先輩の手元に飛び込もうとすると、見覚えのある人たちが切島先輩を外に放り投げ、間一髪間に合った。

テント外で尻もちをついた切島先輩は目をパチクリさせながら、自分を放り投げた人たちを見上げている。


「なになに~??立華が治療してくれんの~??」

「おっ、立華のテントか。ラッキ~」

「小鷹~、立華が治療してくれるって~」


切島先輩と同じく一瞬のことで私もパチクリしていると


「お疲れ、立華。前の人いないみたいだし、治療お願いしてもいいかな?」


檜原小鷹先輩と、檜原先輩と仲良しな波川先輩、畑中栄一郎君、音澤先輩が助けてくれたのがわかった。


「あれれ~??さっき負けた切島君じゃ~ん。こんなとこでなにしてんの~?」

「…くっ!」


いま気づきましたといった顔で波川先輩が切島先輩を煽る。


「てめぇに負けたわけじゃねぇよ!」

「あぁ、無謀に小鷹に挑んだ結果、指パッチンで吹き飛んだんだっけか!」

「ち、ちげぇよ!あ、あれは!そ、その」


小学校からよく知っている畑中栄一郎君が嘘のような事実を口にして、なにも言い返せずにいる切島先輩。

さらに音澤先輩も追い打ちをかえる。


「お前、さっき持ったら女みたいに軽かったぞ。ちゃんと筋トレしたほうがいいぞ」

「~~~~~!!!!」


プルプルと震えて俯く切島先輩。


小鷹もな~んか言ってやれよと、波川先輩が小鷹先輩に声をかけると


「え?誰かいたの?」


と、とぼけるので私も含め、ゆか先輩も、ゆか先輩の治療をうけていた人も、テント外に並んでいた人も、全員同時に噴き出してしまった。

恥ずかしくなった切島先輩は「て、てめぇ覚えてろよ!!!!!!」と、お手本のような負け犬っぷりを披露して、光の速さで消えていった。




「はぁぁぁぁ…小鷹先輩、波川先輩、音澤先輩、栄一郎君ありがとうございました…」


災難がさったら一気に安堵して、長い息を吐いた。


「切島の顔、おもしろかったな」

「写真とっておけよかった」


と、写真をなにに使うのか想像にたやすい顔で波川先輩と栄一郎君が笑っていたので、つられて私も笑ってしまった。


先輩たちは同じ戦闘俱楽部の先輩で、北都イケメン4人組とファンクラブがあるほど人気がある。

毎年文化祭ではバンドを組んでおり、会場は阿鼻叫喚の図となるのがお約束だ。

しかしなぜ栄一郎君だけ先輩呼びじゃないのかというと、小学校の時に同じ英語塾に通っていて仲が良かった。

それもあり、こんな風によく先輩たちから声をかけてもらうことが多いのだ。


「ゆか先輩もありがとうございました…1年生たちもありがとう…」


1年生たちはほっとしたのか泣き出したり、堪えたりと忙しくしている。

すると重症治療の片付けを終えたゆか先輩が、少し気落ちしながら口を開いた。


「私…楓さんにあんなこと言うなんて許せなくて火に油を注いでしまったわ…ごめんなさいね」

「いいえ!ゆか先輩が切島先輩に怪我がないって気づかなかったらあのまま平行線だったので助かりました!」

「…それならよかったわ…。さ、反省会はあとにして、治療続けましょうか!」


と、空気を入れ替えるかのように、ゆか先輩が手を叩くと治癒技術の試験中なことを思い出した。


「そ、そうでした!!小鷹先輩、こちらに座ってください!」

「よろしくね、立華」


先輩たちのおかげで和やかな雰囲気に変わり、小鷹先輩を治療スペースへ案内した。




そして先輩3人に見守られながら治療を終えた私。

ゆか先輩に「もう、関係ない3人は邪魔になるから外で待ってて」と注意されたが、ああ言えばこう言うで小鷹先輩の治療中、囲まれていた。


「ありがとう。立華の治療は丁寧だね」

「ありがとうございます!先輩、雷属性の競技も参加したんですね」

「うん、陰陽師試験の希望出したんだ」


陰陽師試験とは、異能大学の陰陽科の受験資格を得るための試験だ。

自属性の他に2属性以上の試験で、術を駆使して優秀な成績をとらなければ、資格を得ることだできない厳しいものになっている。


「そうだったんですね…でも小鷹先輩なら大丈夫ですね!洋介先輩も認めるくらい強いんですから!」

「ありがとう、立華。洋介先輩の分も応援しててよ」

「任せてください!」


小鷹先輩は洋介先輩をずっと尊敬していたのを知っている。

だから洋介先輩を追い越すために遅くまで残って自主練していた。

私も居残りして勉強したりしていたので、ちょうどよく残っていた私によく声をかけ治療させてもらっていた。

そしてそのたびに、まだ未熟な私に治療のアドバイスもしてくれた優しい先輩なのだ。

たぶん今の3年生の中で私が一番治療したのは小鷹先輩かもしれない。



先輩たちが会場へ戻ろうとする中、栄一郎君が思い出したかのように振り返った。


「あ、立華。そういえば夏休み、塾に顔出す~?」

「うん、試験受ける予定だから受験票もらいに顔出すよ」

「おっけ~じゃぁ言っとくわ。どっちも試験頑張れよー」

「ありがとう~!」


急に塾の話で拍子抜けたが、きっと栄一郎君なりの優しさなのだろう。

おかげで少し残っていたざわついた気持ちが、ふっと落ち着きを取り戻した。

切島先輩にうまく立ち回ることはできなかったけど、ゆか先輩や小鷹先輩たちのような優しさと強さをもった先輩に来年にはなれたらいいなと、先輩たちの背中をみて思う。





でも、もっと気を引き締めておかなければいけなかったんだ。




続く

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