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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
71/151

ー71-


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夢をみた。


真っ暗で何も見えないなか、誰かを呼ぶ声だけがかすかに聞こえる。


声の主は誰なのか、誰を呼んでいるのか聞こうにも私の身体は鉛のように重くて

必死に声を出そうとしてるのに全て飲み込んでしまう。


誰の声なんだろう。


なんだか少し切なくて、力になってあげたいのに私はただ暗闇の底に沈んでいく。


どうか『彼』が会いたい人に会えますように…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




目が覚めると目元に涙がこぼれ落ちた痕があった。

夢の中、誰かを探しもとめる声の切なさに胸がしめつけられたからだろう。

いつもの夢じゃない、なにかを予兆する夢のようだったけれどヒントが少なすぎて予想ができない。


「…会えるといいな…」


だって会いたい人に会えないさみしさは、私もわかるから。

次の夢では再会できてるといいなと思う。




今日の朝練メニューはテスト勉強で固まった筋肉をほぐすのをメインにしたメニュー作りになっている。

私の今の筋肉のつきかたは『草花属性は弱い』洗脳をもったままついた筋肉なので、草花属性の本領を発揮するに不向きなんだそう。

なのでこれからの私にあった筋肉をつくり治しているところなのだ。

だからなのか、どんなに寝不足でも身体が喜んでいるのを感じるので朝のトレーニングは苦にならない。


《ふうちゃん、私、つま先まで届かなかったのに届くようになったんだよ》

《それはすごい。でもえでか、頑張りすぎてない?》

《大丈夫だよ、朝のトレーニング気持ちいいよ》

《それならいいけど、終わったらゆっくり休むんだよ?》

《うん、ありがとう、ふうちゃん》


いつも私の心配をしてくれるふうちゃん。

今日みた夢の余韻が残っているのか、ふうちゃんとの魔法でお喋りできることがいつもよりも幸せに思う。


《えでか、なにかあった?》

《え、どうしてわかったの?》


魔法で伝わるのは言葉だけで、感情も表情も伝わらないはずなのに夢のことを思い出していた時だったので、ふうちゃんには伝わっているのかと思った。


《えでかのことならわかるよ》

《ふふ、すごいなぁふうちゃん。実はね、今日みた夢を思い出してたの》

《夢?どんな夢だったの?》


股関節を伸ばすストレッチをしながら、夢の内容をふうちゃんに伝える。

ちょっと目元が熱くなってしまったけれど、空を見上げて凌いだ。


《大丈夫、きっと会えるよ。えでかがそう願い続ければ》


ふうちゃんはすごいなぁ。

私は朝からずっと余韻に引きずられて会えるか気にしていたのに、ふうちゃんが大丈夫と言うだけで本当に大丈夫だと思えちゃうんだもん。


《…うん、そうだね。ありがとね、ふうちゃん》

《本当のこと言っただけだよ》

《それでもありがとうなの》

《そっか、じゃぁさ、お礼に一つお願いきいてくれる?》


意外な返事に驚きつつも、ふうちゃんからお願いされるなんてうれしくて胸が躍る。


《お願い?なぁに?》

《明日は朝練お休みして、ゆっくり寝ること》

《それがお願いなの?》

《だってえでか、そうでもしないと毎日朝練するでしょ?》


うっ。さすがふうちゃん。

私のことはなんでもよく知っている。


《でもでもでも!そんなに疲れてないし、むしろ朝練したほうが元気になれるよ?》


もちろん嘘ではない。

たしかにここ最近のテスト疲れは感じたが、朝トレーニングをしていると疲れが晴れていく感じがして、むしろすっきりできるのに。


《草花属性はね、休息も大事なんだ。それに今までより急に早起きになって動いたら、身体が慣れてないから後から疲れがどっとでちゃうよ?》

《う~~~~~》


ふうちゃんの説得力になにも言い返すことができない私。

ふうちゃんのお願いをきいて休むこともしたいけど、朝からふうちゃんとお喋りしていたい。

その狭間で揺れていると


《ねぇえでか?俺のお願いきいてくれないの?》


と、見えないはずなのに私が弱いふうちゃんの甘えフェイスが見え《わかった》と返すしかなかった。


《あと、体育祭の写真、いっぱい撮っておいてほしいな》

《写真?》

《うん、いまは送ってもらえないけど、東都にきたときに見せてほしいな》

《ふふ、お願い2つになってる》

《だめ?》

《だめじゃないよ。いっぱい写真撮っておくね》

《うん、楽しみ》


生存記録で私の視界を通して体育祭を視ることはできるけど、私のことは見えないそう。

だからあまり写真に写るよりもみんなを撮ることのほうが多いのだが、今年はいっぱい写真を撮ろう。

ふうちゃんと写真をみながら体育祭の思い出話を話す日のために。





ー 夜 練習場 ー


「あれ…全然うまくできなくない…」


今日も夜花世界から特訓がはじまったのだが、昨日までは上手くいっていた夜花世界が、練習場でまばらに咲いている。

近くの夜花をよく見てみると、花びらもいつもより薄く、香りも弱い。

全体的に夜花の元気がないように見える。

昨日まで出来ていたことが、いきなりできなくなるなんて、これがスランプなのだろうかと焦りで汗が滲んだ。


「…お前、ちゃんと寝てるか?」

「え?は、はい…」


すると後ろにいたりく先生も夜花に触れ、なにかを感じ取ったようだった。


「昨日はあれから部屋に戻って何時に寝た?」

「えっと…22時すぎに部屋についたので、そこからシャワーあびたりして…日付過ぎたくらいに寝たと思います」

「今日は何時に起きた?」

「5時です」


唐突な問診に戸惑っていると、りく先生は「やっぱりな」と夜花を一息で消し、私の前にしゃがんだ。


「これは別にスランプなんかじゃない。むしろスランプになるほど進んでない」

「じゃぁどうして…」

「寝不足」

「え?」

「単純に寝不足だ」


意外な原因に唖然としていると、寝不足がなぜ夜花世界に影響するか説明してくれた。

草花は休む時間と花開く時間にメリハリをつけているから成長もする。

だから草花属性の私たちは意識的に休まないと疲れ枯れてしまうのだそう。


「火属性のゆうたなんかは、休まなくてもずっと活動できるタイプなんだ。もちろん燃料となる栄養や、休息は必要だが、俺たちに比べたら少なくてすむ。逆に休みすぎると燃料切れで弱くなってしまうしな」

「な、なるほど…」

「花だって24時間ずっと咲いてる花なんてないだろ?夜はしっかり休んで明るくなったらまた顔を出す。それは俺たちにも通じることだ」

「5時間じゃ少ないですか?」

「自分に自覚なくても、夜花世界に影響が出てきてるのなら足りてない証拠だな」


あんなにいつも私にエネルギーを送ってくれる夜花が、元気なくしてしまった原因が私にあったなんて胸が痛くなった。

私、自分しか見えてなかったんだなって。


「ま、気持ちはわかるけどな。成長が見えて楽しかったんだろ?」

「…はい」


強くなることをあきらめていたから、日に日に夜花世界が広がっていったり、夜花が増えていったり、双剣の練習が楽しくて夢中になってしまっていたんだ。


「夜花もそれはわかっているけど、心配してるんだってよ」

「夜花にも心配かけちゃってたんですね…」

「あと櫻子もな」

「櫻子お姉さん?」

「あぁ。トレーニングメニューに休息日もいれてるけど、きっと楽しくて休まないだろうからちゃんと休ませてって言われてんだよ」


ドキッとした。

櫻子お姉さんにお見通しだったのだろう。

たしかにトレーニングメニューのカレンダーには毎週日曜日は休息日になっていたのだが、身体を動かす楽しさや、朝のすっきり感から日曜日もトレーニングしていたのだ。


「それに属性課題もあるし、まだ期末は終わってないんだから、休めるときにしっかり休め。…櫻子には黙っておいてやるから」

「…はい、先生?」

「ん?」

「…ごめんなさい」

「…謝るようなことじゃねぇよ。楽しくて夢中になっちゃうのはみんなわかってたことだから、ちゃんと休めるかみんな心配してるってだけだ」

「…ありがとう…ございます」

「あぁ」


朝のふうちゃんのお願いも、りく先生も、夜花も。

私が私のことしか見えなくなってしまっても、私のことを心配してくれてる。

私もみんなにとって、そんな優しさをもった存在になれたらいいなと思った。


「ま、まだ属性課題もあるし、期末試験は終わってないからな。お前、ちゃんと課題確認したか?」

「はい、水属性のミニブーケでした」

「一番楽な課題にしてやったんだから、明日はちゃんと寝とけよ?」

「はい!…って、え!?りく先生が決めたんですか?!私の課題!」


私が今日一番驚いたのは、属性課題を決めるのは賄賂などを避けるため生徒たちには秘匿にされており、属性主任の先生が決めている説が有力だった。

でも新七不思議のひとつに、誰も顔をみたことがない幽霊教師がいて、その先生が属性課題の担当していると言われはじめていた。

みんなちょっとワクワクしちゃう秘密をあっさりりく先生が口にするものだから、唖然とするのも無理はない。


「あぁ、あの噂な。幽霊教師なんているわけないだろ。属性主任が担当してるに決まってるだろ」

「なんかこうもあっさり真相を知ってしまうとワクワク感なくなりますね…」

「そうか?」


りく先生は休み方のお手本を見せるかのように、南国風な異能花を出し、にょきにょきと枝が伸びて出来上がったハンモックに寝転んだ。

私の分もつくってくれたので、あるがたく初めてのハンモックに寝転ぶとバランスを崩しそうになったが私を包み込むように受け止めてくれた。

見上げると見慣れた天井だけど、呼吸に合わせてゆらゆら心地よく揺れて瞼が落ちそうになる。

そんな私をみて、りく先生は「いいだろこれ」と自慢げに笑った。

いつも先生のお仕事以外にも、お兄さんからの依頼や、家での仕事もあって忙しい日々を過ごしているりく先生も、こうやって休めるときに休んでるのだそう。

私はあんなに強いりく先生もちゃんと休んでいるんだ、と思えて少しほっとした。


「と言っても、採点担当は俺じゃないから雑につくったら原点になるからな。せっかく楽なやつにしたんだから、ちゃんと休んで頑張れよ」

「…はい!ありがとうございます、先生!」


私に元気が戻ってきたのを確認すると微笑みながら煙草に火をつけた。

本来なら敷地内は禁煙なんだけど、結界があるから大丈夫なんだって。

毎日特訓のたびにりく先生の煙草の香りを嗅いでいるから、先生の煙草の甘い香りを嗅ぐとなんだかほっとしちゃう。


「でも先生?なんでそこまでしてくれるんですか?」

「んー?…そりゃ少しでも特訓に時間を使いたいってのもあるが、本当はあまり目立ってほしくないからだよ。アーチ作成とか花束担当になったら目立つだろ?」

「まぁ草花属性のメイン課題みたいなものですからね…」

「だろ?メイン課題になっちまったら異能力が上がっているのがわかるし、組替えの可能性だってゼロじゃなくなる。そしたら俺がサポートできなくなるだろうが」

「なるほど…たしかにりく先生が担任じゃなくなるのはやだなぁ」


他の組の先生も素敵な先生ばかりで大好きだけど、朝からだるそうな挨拶をきけなくなるのはさみしく感じた。


「…それに鬼が人を襲う理由はいろいろあってな。目立つと狙われやすくなるんだよ」


ちょっと煙草の煙でむせたりく先生の言う通り、鬼が人を襲う理由は様々と言われている。

なぜなら鬼を生み出したのは私たち人間の負の感情だから。

自分たちを生み出したのに忘れたかのように生きているのが許せないから人を襲う、と授業では習ったし誰でも知っている常識だ。

それに鬼は誰に生み落とされたのか把握ができないので、無差別に襲うのだと。

だから理由は『様々』だと言われていた。


でもりく先生の言い方に含みを感じた。

きっとこの理由も都合のいい大人たちによって作られたものなのだろう。

きっと世間に知られたら常識が揺るぎかねないなにかが隠されているのだろう。


「…いま勘づいている通りだよ。でもまだ節説明するにはお前にはまだ知識が足りないからな。追々説明するから待ってろ」

「…はい、待ってます」


今すぐ答え合わせをしたい気持ちはあるけれど、りく先生が待ってろと言うのなら、先生が説明してくれるまで私は待とうと思う。

だってここで焦って聞くこともできるけど、りく先生が私の期待を裏切ることはないって信頼してるから。


「だっていうのにお前ときたらさぁ!」

「ひゃあ!!え!な、なんですか!?」


自分の中にあるりく先生への信頼を大事に確かめていたのに、一瞬で起き上がった先生はまだ寝転んでいる私の頭を鷲掴みにし、ぐしゃぐしゃと視界を塞いだ。


「俺は何度も目立たないように夢見るのやめろって言ったのに!毎日毎日毎日夢ばっかみて!!俺がどんだけハラハラしたと思ってんだよ!!」

「…だ、だってそんな理由があったなんて知らなかったですもん…」

「ったく…まぁお前の周りにもっとうるさい奴らが多かったから目立たずに済んだけどな!」


ぼさぼさにされた前髪を整えていると「とにかく今後は控えろよ」と、私が頷くまで整えたそばから何度もぐしゃぐしゃにされた。




ベットに潜りこむと今日はいつもよりも時計の針が遅いことに気づいた。

あれから双剣の特訓もしたからもっと遅くなると思ったが、少しのんびり寝ても6時間は眠れそうだ。

あ、でも明日は朝練はお休みしなくちゃだから、目覚ましはとめなくちゃ。


《ふうちゃん、いま休憩中?》

《休憩もらってきたよ。今日ははやいね》

《うん、今日はいつもよりあっという間だったみたい》

《じゃぁ今日はいっぱい寝れそうだね》

《お昼まで寝ちゃうかも》

《えでかには足りないくらいだよ》


どんなに疲れていても、どんなにアンニュイな気持ちでいても、毎晩こうやって私をくすっとさせてくれる。

そうすると身体も気持ちもふっと軽くなって寝入りが気持ちよくなるの。


《ねぇ、ふうちゃん。もし朝起きちゃったら魔法かけてもいい?朝練はしないから》


朝練はお休みしてゆっくりいっぱい休むって約束はしたけれど、もし最近の習慣で目がさめちゃった場合、おはようって送りたいし、おはようって聴きたい。

そんなわがままを言ってみる。


《いいよ。二度寝して起きても三度寝して起きても、何度でも送ってよ》

《ふふ、そんなに寝れるかな》

《茶々丸とよく寝てるでしょ》

《うん、つい寝ちゃう》


生存記録でみたのかな。

実家に帰ったとき、茶々丸と寝てると茶々丸につられて四度寝くらいまでしちゃってること。

猫じゃないのに寝てばかりでだらしないなって思う時もあるけど、茶々丸の誘惑には抗えないんだもん。

でもふうちゃんと話していると、なんだか不思議と誇らしくなってきちゃう。


《えでか、眠くなってきた?》

《うn…茶々丸思い出したら一気に眠くなっちゃった…》

《じゃぁまた明日だね、えでか》

《うん、また明日…おやすみ、ふうちゃん》

《おやすみ、えでか。大好きだよ》

《私も大好き…ふうちゃん》




目を閉じるとすぐに深い眠りに落ちていくのがわかった。

そしていい夢が見れそうだなって思っていたのに、また誰かを探す夢をみた。

寝不足だから同じ夢を見ちゃったのかなと理由付けしようとしたけど、昨日よりも声が必死で私の胸を切なさで苦しめる。

この苦しさはまるで現実のようだった。




続く

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