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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
70/151

ー70-

「はい、そこまで~。後ろから回答用紙回せ~」


チャイムと同時に静かだった教室にりく先生の声が響く。

長いようで短かった1週間の期末テストが立った今終わりを告げた。

このテスト期間を含む約2週間、私は勉強と特訓を繰り返す毎日だったので勉強から解放された安心感で頭がふわふわしている。


「終わったぁぁぁぁ・・・」


頬に机の冷たさがあたる。

テスト中はさすがにいつもの枕は入れておくことができないので、はじめての感触かもしれない。


「楓ちゃ~ん、お疲れ~・・・」

「りさちんもお疲れ~・・・」


お互い今の学力よりも高いレベルを目指すことになったので、さすがのりさちんもかなりお疲れの模様。

私と同じ格好で机に倒れ込んでいる。

というか、りさちんだけでなく、ほとんどのクラスメイトがぐったりとしていた。


すると隣の白虎組から


「終わったぁぁぁぁ!!!!!!!」

「いよっしゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


割れんばかりの雄たけびで、ぐったりしていたクラスメイトたちが驚いて飛び起きた。


「な、なに?!」

「テストが終わったから体育祭が待ちきれなくて騒いでるのよ」

「あ、委員長~おつかれ~」


テスト疲れなどみじんも感じない委員長の佐々木は一人一人にある用紙を配っていた。


「体育祭の属性課題よ。あとこの後説明会の時間になるから残っててね」

「わかった~ありがとう~」


さっそく配られた用紙で確認すると、草花属性の課題は優勝チームへの花束作成や、各チームのテントに飾るミニブーケなど書かれていた。

私の担当はどこか探すと、水属性チームのブーケが担当だった。


「楓ちゃんは治癒隊に配属になるんだっけ?」

「うん、治癒技術の試験も申請してたからね。だから当日はほとんど治癒スペースにいることが多いかな~」


そう、体育祭での異能試験は属性課題は必須で行われ、治癒技術や結界術、陰陽術などは申請しないと試験をうけることができないのだ。

必須科目ではないし申請しない生徒も多いのだが、将来的に治癒師や結界師、陰陽師を目指すものは成績に加算されるので、治癒隊に所属している者はほとんど全員が申請している。


「じゃぁ競技にも参加できないの~?」

「ううん、参加できるよ!でも怪我しなくていい簡単なものになるけどね」

「そっか。体育祭の治癒隊、一番忙しいもんね」


りさちんの言う通り、治癒隊の繁忙期は俱楽部活動中の放課後でも、大会シーズンでもなく、この体育祭なのだ。

皆、己の実力と成長を見せつけるように異能をぶつけあうので、治癒隊の我々が怪我をしている場合ではないほど治癒スペースは混雑する。

昨年は先輩のサポートとして参加したが、次から次へと怪我をした生徒たちがやってきて本当に大変だった。

なので属性課題がミニブーケ担当だったのは非常にありがたいことだった。




疲れた頭に効く甘いものであるチョコをりさちんや、近くのクラスメイトと分け合っているとりく先生と白虎組の担任、原田先生がそろってやってきた。

なぜ原田先生が?と首をかしげあっていると、廊下に白虎組の男子たちが勢ぞろいしていて、修学旅行前を思い出した。


「全員席つけ~、体育祭のことで原田先生から説明があるからよく聞くようにー」


私は机に山盛りになったチョコを鞄にしまいつつ、教室が落ち着くのを待った。


「朱雀組の女子たち!試験お疲れさま!さっそく体育祭について私から説明するからよく聞くように!」


原田先生は不良生徒が多い白虎組をまとめているだけあって、女性なのに体格がよく、学生時代には全国異能競技選手権やインターハイで無双したとの逸話をもつ。

なのでいくら不良生徒が多いといっても他の組と比べたらという話であって、それに原田先生には敵わないこともあり、町で喧嘩をしたりすることはない。

波多野という一部を除いて…。


「原田先生、今日も相変わらず男装の麗人だね」


りさちんがこそっと耳打ちするように、原田先生は有名な劇団で男役をはれるほど端正な顔立ちをしている。

なのでバレンタインでは毎年、男性教師陣に圧倒的な差をつけているのだ。


「さて、来週から君たちにとって前期の頑張りを披露する異能試験、その名も体育祭の準備期間に入る。日程は例年通り3日間!1日目と2日目は属性別に競技部門とパフォーマンス部門にわかれるが、3日目は各組ごとの体育祭となる!そこで!今年、朱雀組からは治癒隊に配属になる者も多く、人数バランスで不利になってしまうため修学旅行同様、我々白虎組と合同となることになった!」


えっえぇぇ~~~~?!?!

驚く私をよそに、原田先生の発表と同時に廊下の白虎組男子たちはさらに盛り上げる。

冷静なのはゆうた君くらいで、波多野も楽しそうに笑ってる。

笑っているのをみるとテストもいい感じだったのかなって考えていると、バチっと波多野と目があってしまった。

波多野を見ていたことが見つかった恥ずかしさでドキッとするも、波多野は顎でくいっと原田先生のほうを向くように誘導されてしまった。

まぁ怒ってる感じではなかったからいいけど。


「では参加競技のメンバーを決めていく!順番に競技種目をあげていくので、立候補者は前にきて名前を書いていくように!治癒隊の者は担当属性と役割分担など確認し、怪我しない競技を選ぶように!それでは火野!佐々木!ここからは委員長たちに任せよう!」


指名された二人は教壇に進んでいった。

原田先生はりく先生と一緒に後ろに座って見守るようだ。


「体育祭の競技と時間についてはさっき渡した用紙に記載してあります。合同になったとはいえ、人数的に一人2~3種目出場する人もいると思うので、順番も考えて立候補してください」

「あと2年は応援団もやらなくちゃいけないので、そのあたりも考慮して参加競技考えてください」


二人の冷静は進行により、1種目目の障害物競走から立候補がはじまった。


「ねね、楓ちゃん。なにに参加するか決まった?」

「私はこの〇×クイズかな~怪我しなさそうだから」

「たしかにそうかも!」

「りさちんは決まってるの?」

「ふふ、私、実は合同になることゆうた君から聞いて知ってたの。だからもう決まってるんだ」


口元を両手で隠しながらむふふと笑みが隠しきれていないりさちん。

その様子がおかしくて、私までつられて口元を隠して笑いをこらえる。


(あ、ふうちゃんに魔法かけてみようかな)

今ならちょうどにやけ顔も隠れているし、りく先生も後ろにいることだし、と思いふうちゃんにメッセージを送ってみた。


《ふうちゃん、テスト終わった?こっちはいま体育祭の参加競技決めてるところだよ》

《テストお疲れ、えでか。こっちもテスト終わってこれから練習場に行くところ。えでかはなんの競技にするの?》

《私は治癒隊も試験もあるから怪我しなくていい〇×クイズだよ》

《えでかが怪我しないなら安心》

《えへへ》


「楓ちゃん?どうしたの?」

「えっ!?」

「なにかおもしろいことでもあったの?」

「え、いま、私、声…出てた?」

「うん、えへへ~って嬉しそうに笑ってたよ」


そんな…口元隠していたらバレないと思っていたのに、うっかり嬉しさが声に出てしまった。


「ちょ、ちょっと思い出し笑いしちゃっただけだよ!」

「え~なに思い出したのよ~気になる~」

「えっえっと…」


ふうちゃんと魔法でお喋りしてて…なんて言えないし、でもりさちんに嘘をついて誤魔化すのもできなくてどうしようと頭を働かせていると


「次~、二人三脚参加したい人~」


と、委員長の声がして、りさちんが「あっ!」と声をあげた。


「私、名前書いてくる!ゆうた君と二人三脚出ようって約束してたの!」


そう言うと跳ねるように黒板に向かい、ゆうた君と名前を書くと白虎組の男子から囃し立てられていた。

他に立候補しているのは、仲良しコンビや、相性のいい属性同士の名前があがっているなか、カップル名であげるなんて堂々としていてかわいいなと思った。

そんな二人を眺めていたら、もしふうちゃんも北都にいたら、一緒に二人三脚に出たりしたのかな。

でも私とふうちゃんじゃ足の長さが違うから他の組に負けちゃうかな、なんて想像していたら


「立華、顔」

「!!!!!~~~~先生…びっくりさせないでくださいよ…」

「わかりやすすぎるお前が悪い」


と、いきなり背後からこっそりりく先生が声をかけてくるので、心臓が飛び出るかと思った。




「諸君らの協力により、スムーズに参加競技を決めることができた!そしてここまで進行してくれた佐々木、火野に皆感謝するように!」


なんと、けっこう人数割れたり足りなかったりして時間がかかるかと思われたが、1時間ほどで全競技の参加メンバーが決定した。

応援団は白虎組の男子は全員参加するそうで、他の組の男子もほとんど参加するのだそう。

それもそのはず、応援団は元男子高の受け継いだ男子憧れの伝統なのだとか。

たしかに去年みたとき、100人以上が同じ長ランに鉢巻、下駄の恰好で太鼓の音に合わせた応援は迫力があり、私も男子だったら絶対に参加していただろう。でも


(ふうちゃんだったら応援団長に選ばれてたかな)


と、ふうちゃんの応援団長姿の妄想がとまらなくて体育祭の用紙で顔を全部隠した。



いつか…

鬼神を倒したら見れるといいな。



「それでは皆、属性課題もあると思うが総合優勝目指して頑張ろう!!!!」

「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」


学校中に響いたであろう白虎組の男子の雄たけびが静まると同時に、ぞろぞろクラスメイトたちも席をたちはじめ、体育祭の作戦会議をはじめたり、帰り支度をはじめたり、試験から一時的に開放できたからか皆リラックスモードだ。


かく言う私もりく先生から枕が返ってきたので、再会を楽しんでいると、ぞろぞろと私の周りを男子たちが囲んでいった。


「…これ、遅くなって悪かった」


さすがに外見が不良生徒に囲まれると何が起きているのかと混乱したが、波多野が私の雷属性理論のノートを持って目の前に立っていたのでちょっと安心した。

波多野からメールがきた翌日、寮までノートを返しにきてくれたのだが、別教科のノートも頼まれたのだった。


「あぁ!ノート!ううん、連絡もらってたし大丈夫だよ。テストできた~?」

「まぁ…」

「立華さんのおかげで俺赤点回避できそうだよ~!!」

「立華さんのノートめっちゃわかりやすかった!!!!あれ絶対売れる!!!」

「えぇ!?売れないよ!!」


波多野が何か言いかけたけど、今まで顔と名前しか知らなかった男子たちが一斉に話はじめて波多野は遮られてしまった。

でも雰囲気からみると案外テスト解けたのかなって気がする。

謹慎中から頑張ってたもんね。


「あとこれ!!立華さん、チョコ好きって聞いたからノートのお礼!!」

「こ、こんなに!?私ノート貸しただけだよ!?」

「いいのいいの!立華さんのおかげで体育祭参加できるようなもんだし!」

「いっぱいあるから皆で食べてもいいよ~」


と、机に私が隠れるほど大量のチョコレートが積み上げられていき、あっという間に山のようになった。

ノートを貸しただけなのにこんなにもらっていいのだろうかと思っていると


「もらっとけ。いまもらっておかないとどんどん増えるぞ」


と、私が受け取りやすい流れをつくってくれた。


「じゃぁ立華さんのためにつくった歌も聞いてくれ!」

「う、歌!?」


前に彼女と喧嘩したことがきっかけで夢をみた南君がギターを準備しはじめた。

さすがに歌はどう受け取っていいのだろう…と私のキャパがオーバーしてきた。


「南やめとけ、変なことするとこいつの男めんどくせーから」

「え!?立華さん彼氏いんの!?」

「うっそまじかぁぁ!!!」

「ってなんで波多野知ってんだよ?!」

「うるせ。もう練習場いこうぜ」


思わぬ助け船に驚いていると「またねー!立華さん!」「体育祭がんばろーねー!」と帰っていく男子たちに反応できずにいた。


「あ、み、みんなチョコありがとう!体育祭がんばろうね!」


みんなが帰るギリギリでなんとかお礼を伝えることができた私。

白虎組の男子は一見不良っぽくて怖そうに見えるけど、ただエネルギーが有り余っているだけで、ちゃんと同級生なんだって思えた。

女子たちも「おやつありがと~!」「がんばろーねー」などと一緒に声をかけ、にぎやかなクラスを見てると、本当に皆で体育祭優勝できたらいいな、なんて思う。





ー 女子寮 楓の部屋 ー


「つ~か~れ~た~~~~」


あの後、短時間の倶楽部活動が解禁になったため練習場に向かい、自分の属性課題の練習もしつつ、マネージャー業務をこなし、寮に戻ると急いで夕飯を食べ、また練習場に戻ってりく先生との特訓が終わったところだ。

りく先生もさすがにテスト疲れを気遣ってくれたのか、剣術稽古よりも夜花世界の練習を多めにしてくれた。

それでもベットに寝転ぶと隠れていた疲れが一気に姿をあらわした。


《ふうちゃん、いま休憩中?》

《休憩にしてきたよ。えでか、今日は疲れたでしょ》

《うん、でもおもしろいこともあったの》

《どんなこと?》


もう瞼は重く閉じられて開く元気なんてないんだけど、ふうちゃんとお喋りする元気は無限にある。

なのでノートを貸したらチョコいっぱいもらったことや、歌をもらいそうになったこと、波多野がそれをとめたことを伝えた。


《へぇ波多野君がそんなこと言ったんだ》

《うん、私うれしくなっちゃった》

《どうして?》

《波多野とか他の人からみても、私、ふうちゃんの彼女なんだって思って》


私はふうちゃんの恋人であることが、私の夢なんかじゃなく、妄想なんかじゃなく、ちゃんと現実なんだって。

そう実感できたんだ。

うまく伝えられたかわからないけど、ふうちゃんは《そっか》と短い返事を送ってきた。

《そっか》にふうちゃんの優しさと、幸せがこめられているようで私の心をじんわりあたためる。

そのあたたかな幸せは、私を寝かしつけるように。



続く

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