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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
はじまり
7/151

ー7ー

「赤でこちゃん!」

「あ、赤でこ先輩だ~!」

「赤でこちゃん、赤でこちゃん~!」

「あ、2年の赤でこちゃんじゃーん」


「………は…はは」

(なんでこんなに赤でこ呼びが定着してるの!?!?!?!?)


波多野に『赤でこ』『でこ赤』と呼ばれるようになり、1週間がたとうとしていた。

今やクラスの枠を超え、学校中から『赤でこ』『赤でこちゃん』と呼ばれるようになっていた。

仲が良かった友達とはもっと仲良く、顔見知り程度だった人とは友達と呼ばれる間柄になった人もいるが、それはまだ良い。

問題なのは全然知らない先輩とか後輩からも声をかけられるようになったことだ。


「お、赤でこ~。ちょうどいいところに。これ各クラスに配っておいてくれ~」

仕舞いには教師たちからも赤でこ呼びされる始末。


(も~~~~絶対に波多野のせいだ!!!)

こんなにも『赤でこ』呼びが定着したのは波多野が原因ではなく、赤でこと呼ばれるたびに恥ずかしさで顔が赤くなっていることが大きな要因になっていることに本人は全く気付いていない。





「あ、あの!…私、1年青龍組の山田桜と言います…!赤でこ先輩に相談したいことがあってきました!」


お昼休憩中、朱雀組でサンドイッチと頬張っていると、見知らぬ後輩3人組がやってきた。

山田桜という女子は勇気を出して2年のクラスまでやってきたのだろう。

緊張で声せが震えているし、身体も小刻みに震えてハムスターみたいだ。

後ろの2人も山田桜を支えているようだが、ただハムスターが団子になっているようにしか見えない光景だ。

あれ、いまナチュラルに赤でこって呼ばれた気がしたんだけど…。

こんな大人しそうな子たちにまで赤でこ呼びされていることに驚きつつ、サンドイッチを飲み込んだ。


「あ!すすすみません!!赤でこ先輩じゃなくて楓先輩!!!すみませんすみません!!」

「あ、いいよ別に!そんなに謝らないで!」

そんな怯えさせるほど私いま怖い顔していたのだろうか…。

「ほらほら!3人とも座って座って~!」

自分の顔を揉みまわしていたら、見かねたりさちんが3人組を前の席に案内した。




「…私、最近好きな人ができたんです」

(どきっ)

『好きな人』と聞いて無意識に波多野の顔が浮かんでしまった。

(違う違う!!私、まだ波多野こと好きなんじゃないし!!!!!ってまだじゃない!!!!!)


「同じ倶楽部で今まで接点なかったんですけど最近仲良くなれて…」

(波多野と仲良くなったのも最近だなぁ…って違う違う!!)

「苦手な術の練習に付き合ってくれたり…」

頭の中に『俺が戦えるようにしてやるよ』と波多野の声がリフレインするので手で追い払う。


「それで気になるようになって…でも彼とは性格も違うし…好きな人ができたのも初めてでどうしたらいいのかわからなくて…」

「初恋かぁ!かわいいね、楓ちゃん!」

「う、うん!」


チラッと時計を確認するとまだお昼休みの時間はたっぷり残っていたので、りく先生に起こされなくてすみそうだ。

「じゃぁさっそくいってくるね!」

「はい!赤で…楓先輩!よろしくお願いします!」


いま、赤でこ先輩って言おうとしたな…と気づきながら私は夢を見にいった。



zz

zzz




「ーー」

「ーーーー!」


なんだか声が聞こえる。

あぁ、そろそろ起きなくちゃ…

でも誰の声だろう…




「起きろ!赤でこ!」

「!?!?!?!?」



目をあけると真っ白な枕ではなく、冷たくて茶色い机が広がった。

そして昨日から何度も何度もこだました波多野の声。



「………ふっ!!!!まゆけな顔してんじゃねーよ」

「!!!!!!!!!」


胸の鼓動が一瞬ではやくなった。それはもう全身が脈うっているかのように。

額をぶつけたはずなのに痛みを感じないほどだ。


「ま、枕返してよ!!」

「目つぶったら返してやる」

「またデコピンする気でしょ!?」

「これ、いらねーの?」

「うぅぅ…!!!」


納得いかない顔しながら目をつぶる私。

(もう!なんで言い返せないの私!?!?!?)

目をつぶるとよけいに胸の鼓動が聞こえてきてしまう。


(やるなら早くデコピンしなさいよ!!!)

とデコピンがくることを覚悟していると


「わぶっ!!!」

「ばーか」

「んー!んーー!!んーーー!!!」

枕で顔を抑えられ、離して!と抗議したくてもちょうど波多野の手が鼻と口近くにあるからか、ふわふわ枕の圧で声にならない。


「今日も練習するからな」

そう耳元で波多野がささやいた瞬間、枕がはなれやっと息ができた。


「ぷは!!!ちょっと!!!」

枕から顔をあげると波多野はもう朱雀組から出て逃げられていた。


「くっそぉぉ…!!」

「っぷ!!…あ!ごめんなさい!」

「あ、こちらこそ変なところ見せちゃってごめんなさい!」

さっきまで緊張でハムスターになっていた山田桜だが、やっとリラックスした表情で笑っていた。

(うん、夢でみた笑顔だ)

「じゃぁ夢のお話するね」




私は一通り夢から得た情報を話終わった。

いつの間にかギャラリーの女子も増え、来たときよりも真っ赤な顔の山田桜を囲んでいた。

「赤で…じゃなくて楓先輩、本当にありがとうございました!私…頑張ります!!」

自信で満ち溢れた山田桜はキラキラしていて、恋する乙女のかわいらしさを放っていた。


「これ、お礼のチョコレートです」

「わ!!これ有名なやつ!!!ありがとう~~~!!!」

「あの…楓先輩、頑張ってくださいね」

「え????」

「さっきの男子の先輩…」

「わーー!!!!」


私は慌てて枕で山田桜の口をふさぐ。

ギャラりーが減っていてよかった…。


「ふふ、やっぱりそうなんですね」

「いや、あの…その…」

「3年の玄武組に占いで有名な先輩いるのご存知ですか?」

「占い?」

「はい、恋愛に特化した占いで有名なんです。この日に告白すると良いと言われてその通りにすると必ず成功するって」


そんな先輩がいたなんて知らなかった…。いや、でも私には関係ないもんね!?

「じゃぁ最初からその先輩にお願いすればよかったんじゃ?」

「それもそうなんですけど…楓先輩とお話してみたかったんです」

「私と?」


後輩3人組は顔を見合わせ、首をかしげる私に微笑んだ。

「いつも明るくて私たちの憧れなんです」

「お話してみたいと思ってたんですけど勇気が出なくて」

「赤でこ先輩って呼ばれるようになってから何だか親近感がわいて、ここにくる勇気出せたんです」

「楓先輩、今日は本当にありがとうございました!!」




朱雀組を出ていく3人組を手を振りながら見送っていると

「か~~え~~で~~ちゃ~~~ん」

「ひゃぁあ!!!!!!」

後ろからりさちんに抱き着かれた。


「楓ちゃん!!波多野君となにがあったの!?!?!?」

「うっ…」

ここには最近成就した恋する乙女がいたなと思い出させるくらい、目を輝かせたりさちんに嘘は通用しないと思わさせる説得力を感じた。



「ま…まだわからないよ?好きかどうかなんて…」

「うんうんうんうん!!!!!」

「気の迷いかもしれないから!!!!!」

「大丈夫大丈夫♪わかってるから♪」

「本当だってばぁ~!!!」

りさちんのキラキラオーラには昔から圧倒される。

でも嫌な気持ちにはならない。悪意のある好奇心じゃなくて、本当に私のことを想ってくれてるのがわかるから。


「それにしても赤でこちゃんから恋バナが聞けるなんていつぶりだろ~~♪」

「もう!りさちんまで赤でこって!!」

「でも嬉しいでしょ?♪」

「うっ…」

確かに誰かに『赤でこ』と呼ばれるたびに波多野の顔が浮かんで、胸の奥がうずうずになる。


「あれかな?小学生以来かな?」

「あ…」

「あ、ごめん」


波多野の顔が一瞬で消え去った。

代わりに電気が消えた教室に一人佇む後ろ姿を思い出す。

りさちんは言ってはいけないことを言ってしまった顔をして、手で口元をおさえた。


「ううん、もう…大丈夫だよ」

「楓ちゃん…」

「本当にもう大丈夫だから♪あいつのことで何かあったら相談するからね♪」

「…うん、わかった」

まだ気にした顔をしているりさちんを励ますように明るくふるまった。


午後の授業では午前中とは打って変わって波多野のことを一度も考えることはなかった。

頭の中にはある男の子でいっぱいだった。


(…ふうちゃん)




ひよこの目をした、私の初恋の人。



続く

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