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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
68/151

ー68-

翌日から修学旅行の浮かれ気分を引きずりながらも、みんなテスト勉強へ切り替えはじめた。


「楓ちゃ~ん、ごめん、ここわかる~!?」

「ちょっと待ってぇ~そこなら確かノートに…あ、あった、ここ暗記しちゃえば大丈夫だよ!」

「わぁ~ありがとう~!でもほんと、いつ見ても楓ちゃんのノート、細かいところまでちゃんととってるよね」

「えへへ、ありがとう~」


私はというと昼間はしっかり授業を受けつつ、休み時間はテスト範囲の復習をし、夜はりく先生との特訓をこなす日々を過ごしていた。

一日一日驚くくらいにあっという間に過ぎて、クラスでの話題からも修学旅行の話は消え、テスト範囲の確認の話、問題を出し合ったりとテストの話ばかりになった。

もちろん私にふうちゃんのことを聞いてくる生徒もいなくなった。


するとクラス中からピロンとスマホに通知が届いた音があちこちから聞こえた。

私のスマホにもお知らせが届いたので確認してみた。


「わ、また津島山のほうで蟲がでたんだって。最近増えたよね~」

「…そうだね…でもすぐ解除されたみたいでよかったね」


スマホに届いたのは『鬼蟲発生情報』だった。

お兄さんの言っていた通り、東都から帰ってきてからこれまで月2~3回ほどだったのが、週2回ほどにまで増えてきた。

りく先生の話だとテスト期間になればふうちゃんの話は落ち着いて、蟲の発生も落ち着くだろう、とのことだ。

お兄さんからの指示と橋本家の協力で討伐員の人員配置や警備が増えたおかげで、幸い誰も被害にあわずにすんでいるが津島山付近に住んでいる人は内心落ち着かないだろうなと胸が痛む。


「はやく落ち着くといいな」


だからせめて今までの日常に戻って、おだやかに過ごせるように、津島山のほうを見つめながら願う。




ー 放課後 ー


今週もあっという間に終わり、明日からテスト前で部活が休みになるので私は練習場とトレーニングルームの清掃をしていた。


「あ、楓おつかれ~。勉強じゅんちょー?」

「たかちゃん、おつかれ~!どうだろう…頑張ってはいるけど数学と属性理論は苦手なんだよね…」

「あっはは~俺と一緒~!」


木専属ルームの清掃をしていると、トレーニング終わりの博貴が話かけてきた。


「最近、大雅と連絡とってる~?」

「うん、毎日とってるよ」

「ラブラブだね~ふたり♪俺もまた大雅に連絡しよー!」

「ふふ、きっと喜ぶよ~」

「でも大雅って忙しいの~?いつも返事遅いんだよね~」


博貴は忙しそうなのにくだらない連絡してもいいのか気にしてくれているようだった。


「ふうちゃん、お兄さんにスマホ預けてるからすぐ気づけないみたいだよ。だから気にしなくても大丈夫♪たかちゃんからの連絡、楽しみにしてるから」

「ほんと!じゃあ、あんこの写真送ってあげよ~!」

「あはは!絶対よろこぶよ~!」


ごめんね、たかちゃん。

お兄さんが預かってるっていうのは半分嘘なんだ。

実をいうとふうちゃんのスマホは櫻子お姉さんが預かっていて、櫻子お姉さんがふうちゃんの代わりに返信を返している。

東都内でのやり取りなら構わないが、北都と東都でのやり取りになると電波も痕跡になって、ふうちゃんの居場所がバレてしまう可能性があるからだ。

なので櫻子お姉さんが影武者のような形でふうちゃんのスマホを預かることになったようだ。

「変なこと返さないでよ」とふうちゃんは櫻子お姉さんに念を押していたけれど、櫻子お姉さんは男子高校生になりきって男子高校生とやり取りするのが楽しいみたい。


「そういえばダイヤちゃんにも連絡してるの?」

「うん!してるよ~!この前電話で鉱石術のこと教えてもらったんだ~!優しいよね~ダイヤちゃん!」


ダイヤちゃんの話をした途端、にっこにこで電話でこんな話をしたんだって詳しく話はじめた博貴。

北都に帰ってきてから博貴とこうしてゆっくり話す機会がなかなかとれなかったので、私は博貴が話終わるのをうずうずしながら待った。


「ね、ねぇたかちゃん…」

「ん~??」

「東都駅で待ってるとき、ダイヤちゃんのことなんて言ってたか覚えてる・・・?」

「ダイヤちゃんのこと?」


キョトンと顔をしながら思い出す博貴を、私はドキドキしながら待つ。


「覚えてない!!俺、なんか言ったの~~??」

「え~~~!!!」


ドキドキががっくりとして、持っていた清掃ファイルを床に派手に落としてしまった。

笑いながら博貴が拾ってくれたけど、忘れてる博貴に私はちょっとおこモード。


「も~あんなすごいこと言っておいて~」

「え!!俺、なに言ったの!!教えてかえでぇ~~」


変なことを言ってしまったのかと顔が青くなる博貴をみたら、さっきまでニコニコだったのにダイヤちゃんのことになるとこんなに乱されるんだなと思った。


「教えてあげてもいいけど…たかちゃんはダイヤちゃんのことどう思ってるの?」

「ダイヤちゃんのこと?もちろん好きだよ?」


博貴は当たり前のような顔で答えるけれど私は知っている。

これは「みんな好きだよ」と同じ好きだってことに。


「ダイヤちゃんのことも好きだし~楓のことも大雅のことも好きだよ~?あとゆうたも波多野もりさも好き~」


ほらね。

指を折りながら「あとりく先生と~水樹先生と~さゆり先生と~」と全員答え始めようとするのを、私の勘はとらえていた。


「もー!そうじゃなくて!じゃぁなんでダイヤちゃんに電話したり連絡したりしてるの~??」

「え?だってもっと仲良くなりたいじゃん!」

「それは友達として??」

「うん、そうだよ~??」

「じゃぁ別に鉱石術のことなら北都の鉱石タイプの人に聞いたらよかったんじゃない?」

「そう~??ん~そうだなぁ~」


修学旅行前の私もこうだったのかもしれない。

友達としての好きと、恋心の好きの違いがわからなかった私と。

そんな話を続けていると同じく他のトレーニングルームを清掃していた先輩が声をかけてきたので、そろそろ閉めなければいけなくなってしまった。


「ふふ、ま、たかちゃんもいつか気づくよ♪」

「え!なにそれ!教えてよ~~かえでさま~~!!」

「あっははは!!なにそれぇ~!!」


涙がでるほど笑ったあと、結局なにも思い出せなかったけれど元気になった博貴は「今日もダイヤちゃんに勉強教えてもらうからまたね~」と寮に帰っていった。



残るは専属ルームの施錠だけなので、私も帰る支度をして、一部屋一部屋確認して鍵を閉めていくと雷専用ルームにまだ誰か残っているのが見えた。


「お疲れさまでーす、もう施錠しまーす…あ」

「・・・」


ちょうど帰るタイミングだったのだろうか。

そこには謹慎があけたばかりの波多野がいた。

波多野もびっくりしたのだろうか、それとも私が驚かしてしまったのだろうか、扉の前で猫みたいにびくっとした。


「えっと、お疲れさま。もう施錠しちゃってもいいかな?」


東都から帰ってきて以来に会ったので、一瞬どんな風に話かけていたのか喉が忘れていたようだった。

一応変な感じにならなかったと思うけど、波多野の機嫌を気にするのはすぐにやめた。


「・・・あぁ」

「ありがとう。じゃ、お疲れ」

「・・・」


無言でトレーニングルームを出た波多野を確認して、施錠をしていると


「…あのさ」

「ひゃ!!」


寮に戻ったと思った波多野に後ろから声をかけられて、今度は私が猫のように飛び上がった。


「ご、ごめん!もう帰ったのかと思ったからびっくりしちゃった…」


心臓がバクバクするのおさえていると、私が驚いたことに波多野も驚いたようで目がまんまるになっていた。

でもいまのは私、悪くないと思うよ???


「どうしたの?忘れ物?開けようか?」

「いや、違くて…」

「???」


なにか言いずらそうに言いよどむ波多野を、私は不思議にみつめながら首をかしげた。


「…空属性理論のノート、貸して」

「へ…ノート??」


意外な返答に今度は私の目が丸くなってしまう。


「空属性理論の高延に質問しにいったら、お前のノートの取り方、勉強になるから見せてもらえって」

「高延先生が?」


私は夢みてるのだろうか。

あの問題児代表と言われる波多野が、高延先生に質問しにいって、私のノートが見たいって。

そういえば、東都にいたとき、博貴が「波多野、勉強ばっかりで遊んでくれない!!」って騒いでいたのを思い出した。

私はてっきり謹慎中だから勉強しているのかと思っていたけれど、勉強に目覚めたのだろうか。


「嫌なら別にいい。忘れろ」

「い、嫌じゃないよ!ちょっと待って…空属性理論のノートは…」


鞄をおろしてぎゅうぎゅうにつまったノートから空属性理論をひっぱり出すと、持っていた鍵を落としてしまって廊下に鍵の音が響いた。

慌てて拾おうとすると、私よりも先に波多野の手がのびるのが見えた。


「ん」

「ありがとう」


やっぱり波多野は優しいと思う。

こんなにぶっきらぼうだけど、根はやっぱり優しい人だ。


「はい、ノート」


だから私も抵抗なく、ノートを渡せる。

だって優しい人に頼られたら嬉しから。


「…土日、借りてていい?」

「うん、大丈夫だよ」

「…さんきゅ」


優しさに、優しさで返せたからだろうか。

久しぶりに波多野の笑った顔をみた気がする。


「私、もう空属性理論は復習終わってるから、いつでも大丈夫」

「わかった。終わったら返す」

「うん!じゃぁ、また来週!」


不思議と修学旅行前みたいに仲良く話せている気がする。

なにがきっかけなのかわからないけど、また仲良く話せたのは素直に嬉しい。

でも波多野はなかなか動かないので、どうしたのだろうかと思っていると、また意外なことを口にした。


「・・・送る」

「え??」

「鍵返したら寮帰るんだろ?だから送るっていってんの」

「え!!だ、大丈夫だよ一人で帰れるよ!?って私の鞄!!」


波多野の意外な行動に追いつけないでいると、私のぎゅうぎゅうの鞄を持って、教官室のほうにむかって歩き出してしまった。

慌てて追いかけると「ここで一人で帰したら俺が怒られるっつうの」って聞こえたような気がしたけど、誰に怒られるのかわからなかったので私の聞き間違いかもしれない。


そのまま女子寮まで鞄を持たれたまま送ってもらった私。

突然の距離感にまだ追いついていないけれど、また仲良くなれそうな兆しなら嬉しいなと思った。





《ふうちゃん、りく先生との特訓終わったよ》

《お疲れ、えでか》


今日もりく先生との特訓が終わり、眠りにつく前にふうちゃんに連絡するのが日課になっていた。

剣術ではだいぶ基礎動作に慣れてきて、連撃動作で練習植物の首を落とせるようにまでなってきた。

こんなに短期間でここまで出来るようになったのは、りく先生の指導もあるけれど、櫻子お姉さんの双剣の力も大きい。

双剣を握っていると、りく先生の言葉がスムーズに頭に体に染み入って、自分の思っている力以上を発揮することができているように思う。

それもこれも双剣による潜在能力を引き出す効果だろう。


《櫻子お姉さんの双剣のおかげかな》

《櫻子姉さんも喜ぶよ。あ、博貴からあんこの写真、届いたよ》

《ほんと?!かわいいよね、あんこ》

《うん、俺にも会わせたいって》

《一緒にあんこに会いにいこう》

《うん、楽しみにしてる》


また一つ、ふうちゃんとの未来が約束された。

そうすると私の生命力も強くなる気がする。

ふうちゃんとの未来のために、強くなる力が。


《そういえばね、今日、波多野と久しぶりに話したの》

《へぇ。大丈夫だった?》

《うん、前みたいに仲良く話せたよ。ノート貸してあげたの》

《えでかのノート、俺も勉強になってる》


ぬいぐるみを抱きながら、私のノートが生存記録で役にたっていることが嬉しくて笑みがこぼれる。

離れてても生存記録見れたら、最新のも見せてあげられるのになってわがまま思うくらいに。


《それでね、帰りも寮まで送ってくれたの。急にどうしたんだろうね》

《あぁ、きっと最近北都で蟲発生増えてるからだと思うよ》

《ふうちゃんも知ってたんだ》

《もちろん。えでかに何かあったら心配だからね》

《えへへ、ありがとう》


離れていても私のことを想ってくれてるのが伝わって、幸せで今日はもう眠れないかもしれない。


《たぶん櫻子姉さんが俺の代わりにゆうたと博貴に頼んだんだと思う。帰り一人になるようだったらよろしくって》

《櫻子お姉さんが…うれしいなぁ》

《だからゆうたか博貴が波多野君にも声かけたんじゃないかな》

《そっか。たかちゃん、ダイヤちゃんに勉強教えてもらうって言って先に帰ったからそうかもしれない》

《でもずるい》


子供っぽくすねたふうちゃんの顔が浮かんで、かわいくってぬいぐるみに埋まりながらくすくすと笑ってしまった。


《ふふ、じゃぁさ、大学生になったら送ってくれる?》

《毎日送る。朝も一緒にいこう》

《ありがとう、楽しみ》


大学生になったふうちゃんと私を想像する。

パンフレットでみた東都異能大学のキャンパスを、私服で並んで歩く私たちを。

その頃の私たちはいったい小学4年生から何年生になっているのかな、と。

私たちの未来はゆっくりと進んでいくのだから。


《そろそろ兄ちゃんとの特訓に戻るけど大丈夫?》

《うん、ちょうど私も眠くなってきた》


ふうちゃんはいつも私から先にやり取りを切るとき以外、必ず「大丈夫?」って確認してくれる。

私がさみしくないか、さみしいまま眠らないか必ず。

だから私もふうちゃんに安心してもらえるように大丈夫なときも、もう少し話したいときも素直に伝える。


《ゆっくり休んでね、えでか》

《ふうちゃんも特訓頑張ったらゆっくり休んでね》

《ありがとう、おやすみ、えでか》

《おやすみ、ふうちゃん。今日も大好きだよ》

《俺も大好きだよ、えでか》


私の一日はふうちゃんに大好きと伝えて眠りにつく。

ふうちゃんとの新しい未来の約束と、ふうちゃんへの想いを抱きしめて眠れるから。




続く

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