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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
67/156

ー67-

「おっ来たか…ってなんかお前げっそりしてないか?」

「は、ははは…」


15時からの報告会に遅刻した私は夕食時間も質問攻めで、部屋に戻ろうとするもまた談話室に引きずられていった。

恋バナに対する女子のエネルギーって恐ろしいなと思ったけれど、逆の立場でもきっと私もみんなと同じことをするだろうな。

だってみんなのこと大好きだから、一緒にいると楽しくなっちゃうんだ。


「それよりちゃんと見つからずにこれただろうな?」

「た、たぶん…。ここまで誰ともすれ違ってないので…」


人の動きが落ち着きはじめた頃。

ドキドキしながら人気のないタイミングを狙いながらこっそり練習場までやってきた。


「ならいい。今日から双剣の特訓もはじめる。ついてこい」

「はい!」


りく先生と一緒に練習場に入ると、こんな夜遅くに来ることはないので、いつも以上に静かだった。

でも北都の練習場の無機質な匂いが、なんだかちょっと懐かしい。

たった4日いなかっただけで懐かしいと感じるほど、濃密な時間だったことに気づいた。




「今日はさすがに移動疲れもあるだろうから、双剣の基本動作について教える。さっそく双剣だしてみろ」


しっかり準備運動も済ませ、前回の復習として夜花世界で埋め尽くした後、はじめての剣術特訓がはじまることにわくわくした。

左手の指輪に口づけすると、青い光を纏いながら手のひらから双剣があらわれ、柄が吸い付くように手におさまった。


「相変わらず櫻子はいい仕事するな…」

「ほんと何度みても綺麗です…」


櫻子お姉さんが創ってくれた私の双剣は不思議な刃をしている。

まるで海を閉じ込めたかのようにゆらゆらと小さくキラキラしていて、飛び込んだらずっと深い海の底に繋がっていそうな刃をしている。

そしてふうちゃんの光をベールのように纏っていて、最高傑作と言われるのが私でもわかるくらいだ。


「これが武器なんて信じられないです」

「そうだな…よし、さっそくやってくぞ」

「はい!!」


蔓たちがりく先生に双剣を手渡し、りく先生の言われるがまま、見様見真似で同じ姿勢をとっていく。


「まずは双剣の構え方だな。まず持ち方はそのままでいいから、足の幅は基本このくらいで少し腰を落とす」

「はい…!」

「腰は落としても腰は常に入れておく。どんな大勢になっても、技を打つとくも必ずだ。それと…」


腕に足に腰に角度に力の入れ具合に…と、とにかく意識することが多い。

でもこの基本姿勢が保てないと不意に攻撃を受けたときに追撃をされ、隙を与えてしまうので、すぐに体制を戻す必要がある。


「まだ腰が引けてる。あと顎をあげるな、しっかり引いて、目線はしっかり俺をとらえろ。だいたい眉間あたりだな。このあたりが一番相手も周りの空間も捉えやすい。腰と同様、相手から視線を外すなよ」

「は、はい…!!」


すごい。

まだ基本姿勢しか教わってないのに、なれない姿勢を続けているからか腕も足も震えてくる。


「あと大事なのは丹田だ」

「丹田?」

「臍の少し下のところ。ここは常に力を入れておく。そうすると姿勢も安定しるし、腰も入りやすい」


りく先生に言われるまで鳩尾あたりがぷるぷるしていたけれど、おへその少し下、丹田と呼べれる場所を意識すると全身の無駄な力が抜けたからか震えがおさまった。

ほどよく、必要な場所に、ほどよく力がはいし、力が抜けていたほうがいいところが抜けている。


「あ、いますごく楽になりました」

「あぁ、ばっちりだ。それが双剣の基本姿勢だ。技の打ち終わり、攻撃の防御、すべてこの姿勢に戻るし、この姿勢から技が派生していく。こんな風に」


軽い感じでりく先生が言うと、にょきにょきと5,6本の幹があらわれ、私と同じくらいの身長まで伸び、双剣の姿勢をとった。

そしてりく先生がポンっと一瞬で懐まで近づき、手首、肘、脇、そして首を流れるように切り落とし、着地するように基本姿勢に素早く戻った。


「すごい…はやい…」

「だからお前に双剣は合ってるんだ。刀よりも軽い分速さが出せるし、それほど腕力や腕の力も必要ないからな。それに防御に適した武器でもある。だからお前にあった武器だよ、ほんとに」


きっと修学旅行前の私だったら、でも私にできるでしょうかって聞いていたと思う。

もちろん、いまもそう思うのも嘘ではない。

でもそんな気持ちよりも、はやく出来るようになりたい、もっと強くなりたい、その気持ちが私の中で目立って私をわくわくしさせる。


「とにかく速さにも振り切るにも、大事なのは丹田だ。一説によると丹田の強さが異能力の強さ、なんて言われていてな。生命力もここに眠ってると俺は思ってる」

「丹田が…生命力がここに…」


ふうちゃんとの幸せを感じたり、強い気持ちがあふれたとき、胸のもっともっと奥のほうから湧き上がってくると思っていたが、それが丹田にある生命力が源だったのだろうか。



バラバラに切り落とされた植物のかけらがネバネバと糸をひき、みるみる元の形に戻った。

戻った植物に傷跡や、接合部分などもなく、文字通り元通りだった。


「じゃ、さっそくこいつを切ってみる。いま言ったことを意識しながら基本姿勢をとれ」


りく先生に言われたことを頭のてっぺんから足の先、重心から丹田まで意識をして、基本姿勢をとる。


「よし。まず踏み込まなくていいから、そのまま右腕をこう、振りながら首を狙う。その時、首の先を狙うのがコツだ」

「首の先…?首じゃだめなんですか?」

「あぁ。これは首だけじゃなくて技を打つ時は必ず意識することなんだが、首を切ると意識したときの首ってだいたい首の中心なんだよ。だから確実に切り落とすには、その先、首の先まで捉えないと切り落とせないんだ」


練習植物を複製して、見本をみせてくれながらりく先生は説明してくれるので、非常にわかりやすい。

ふうちゃんが、りく先生は武器のことになるとうるさいって言っていたけれど、ひとつひとつ丁寧に教えてくれるりく先生を見ていると剣術が好きなんだなぁと感じた。


「…わかったか?斬るときの手首の角度に気を付けてやってみろ」

「はい!!」


もう一度基本姿勢をとり、首の先を意識しながら、腰で斬る。


「あ」


すると調理実習で切ったズッキーニみたいにスッと刃が首を通過した。


「おお、初めてにしてはいいじゃねぇか。まだ腰の入りはいまいちだったけど上出来だ」

「わっ…で、できた…」


ドンっと音をたてて落ちた練習植物の頭をみて、この双剣は櫻子お姉さんの芸術作品ではなく本当に武器なんだと実感した。


「よし、じゃか次は踏み込み近づいてやってみるそ~」


りく先生の声に合わせたかのように、練習植物の頭はまたネバネバと体に戻って、元の形になった。

ほんと、植物って強いなぁって思うよ。





それから基本姿勢からの連撃動作を練習植物で試しながら、気づけば時計の針がてっぺんに近づいていた。


「おっと…今日はこんなもんだな。はじめてでここまで出来るなんて、上出来だ」

「ありがとうございます!…ってもうこんな時間だったんですね」


蔓に双剣を預け、練習植物を帰したので、私も双剣を指輪に戻した。


「どうだった、はじめての剣術は」


するとりく先生は私の答えがわかっているかのように、なにかを期待してる顔で笑っている。


「…楽しかったです。異能戦ともスポーツとも違う楽しさでした…」

「そうだろ?」


そう。

異能戦のようなワクワクした楽しさでも、スポーツしているときの緊張感ある楽しさでもない。

例えるなら、自分らしくいられる楽しさと言うのだろうか。

生命力が喜んで丹田を熱くしているのがわかる。


「これから草花能力の向上と、剣術、この2柱で特訓してくから覚悟しとけよ?」

「はい…!!」

「あと、お前、ちゃんと勉強もしてるか?」

「勉強?なんのです?」


お花の勉強のことだろうか?それとも剣術の勉強だろうかと、ぽかんとしていると、やれやれといった表情で私にあることを思い出させた。


「お前…もうすぐ学期末試験だろ…」

「・・・・・あ」

「お前だけじゃなくて全員修学旅行でうかれて忘れてるだろうがな」


たしか2週間後には試験前で部活が休みになって、3週間後には学期末試験がはじまる。

2年のこの時期の試験結果は大学受験にも大きく影響するため、気を抜くことができないのだ。

ましてやふうちゃんと同じ東都異能大学を目指すのなら、のんびりしている暇はない。


「テスト期間も特訓は変わらないからな。ま、わからないことがあればいつでも質問にこい。大雅さんと同じ大学、行くんだろ?」

「…はい!…ってえ!!なんで先生知ってるんですか!!」

「お前らのことなんてお見通しだ。で、頑張るのか?あきらめるのか?」


また私の答えを知ってるくせに意地悪な顔をする先生。

でもそれに対して先生を上回ることが言えない私も私なのだが。

櫻子お姉さんだったらなんて言うだろうかと、ふと想像した。


「…先生の意地悪。そんなの決まってるじゃないですか」

「ふっ、いい目、してんじゃん」


いくらテスト期間で勉強時間が必要でも、特訓時間を減らすことはできないし、したくない。

だからといってテストをおろそかにはできない。

どってもやってやるんだ。

ふうちゃんとの未来のために。




部屋に戻ると今日1日の疲労がどっときて、くたくたになった私。

なんとか寝る前の準備を一通り済ませ、布団にもぐりこんだ。


《ふうちゃん、りく先生との特訓おわったよ》

《お疲れ、えでか。俺はいま休憩中》

《まだ特訓中だったんだね、お疲れさま》

《双剣はどうだった?》

《楽しかったよ、双剣もすごく手になじんでたよ》

《それならよかった。えでか、眠い?》

《うん…なんでわかったの?》

《えでかのことだからね。先に寝ていいよ。えでか》


すごいなぁふうちゃんは。

近くにいないのに、もう私の瞼が限界なのが見えてるみたい。


《ありがとう、ふうちゃん…先に寝るね》

《うん、眠いのに魔法かけてくれてありがとう、えでか》

《また明日ね、ふうちゃん》

《うん、また明日、おやすみ、えでか》

《おやすみ、ふうちゃん》


瞼が限界をむかえると、青い光がふっと消え、私は側にふうちゃんを感じながら眠りについた。

明日をむかえられる幸せを抱きしめながら。




続く

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