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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
体育祭編
66/151

ー66-

東都から6時間後。

北都に帰ってきてからは大変だった。

寮に戻るやいなや、クラスメイトの女子たちが押しかけてきてふうちゃんとの関係を次々に問い詰められた。

それと前髪のこともあって、みんな鼻息が荒い。


「もう~待ちきれなかったんだからぁ!明日の夜ねって言ってたのに東都に残らされてるし!!」

「ごめんごめん!私だってびっくりしたんだから!」

「それで!あの水樹君とはどういった関係なわけ!?!?!?!?」

「えっと…私の大事な恋人だよ」

「きゃあ!やっぱり!!いつからいつから!?」

「え、えっと…みんな落ち着いて~~」


部屋に20人弱に女子が入りきるわけもなく、廊下にもあふれ出してしまった。

さすがにまだ荷物の整理もできれいないので、どうしようかと困惑していると


「みんなみんな!楓ちゃん困ってるから後でゆっくり聞こう♪」


一応寮にいたことになっていた、りさちんが助け船をだしてくれた。


「あ、りさ!体調はもういいの?」

「う、うん!おかげさまで!それより、せっかく楓ちゃんの話みんなで聞くなら談話室にしようよ!」

「それもそうね…じゃぁ15時でどう?!私、スターツリーでパティスリー・エヴァンフランのフィナンシェ手に入れたから持っていくわ♪」

「え!!!!!あの入手困難なっ!?!?」


パティスリー・エヴァンフランのフィナンシェと言えば、フランスで超人気店で修業し日本人で初めて認められたパティシエの店。

フランスで自分の店を立ち上げ、フランス人からも愛される味で、昨年日本に初上陸したのだ。

そのため連日大人気で整理券がないと買えないのだが、東都にいる姉と協力して入手してくれたそうだ。


「じゃ、15時にみんな集まりましょ~!」

「「「は~~い!!」」」


次々と部屋に戻っていったり、談話室にいったり、各々の日曜日に戻ったところで、りさちんがやり切った顔をしていた。


「ふ~。なんとかみんな帰ってくれたね」

「ありがとう~りさちん。それにしてもりさちん、体調悪いことになってたんだね」

「そうそう。体調悪いから寝込んでることにして、誰も部屋こないようにしてたの♪ゆうた君とたかちゃんもそうじゃないかな?」

「ふふ、じゃぁ私たちだけの秘密だね♪」


東都にいた間のりさちんの状況を口裏合わせして、またあとでねと、りさちんも部屋に戻っていき、やっと部屋でゆっくりすることができた。

私はベットに寝転んで猫のぬいぐるみをかかえた。


「ふぅ…なんだか久しぶりに感じるなぁ」


3泊4日の修学旅行が1日伸びただけ。

それなのにいろんなことがありすぎて、1カ月ぶりに帰ってきたように感じた。


《ふうちゃん、ただいま》

《えでか、おかえり。疲れてない?》


さっそく部屋に着いたことをふうちゃんに魔法で報告をすると、すぐに返事が返ってきた。


「うふふふふ」


自然と声に出て、嬉しさがこみあげる。

北都に戻ってきてもちゃんとつながってることに。

もうふうちゃんはいないと信じながら過ごしたこの部屋での記憶が嘘みたい。


《大丈夫だよ。ふうちゃんは結界整備終わった?》

《それならよかった。俺はまだだよ。これから白尾山神社いくところ》

《そっか。お疲れ様だね》

《ありがとう、えでか》


北都に戻ってきたらもっとさみしくなっちゃうかなって思っていたけど、こうやって魔法が繋がってる幸せが上回る。

手のひらに浮かぶ、ふうちゃんの光を眺めていると、そばにいてくれるような気がするもの。


《そういえばね、やっぱりふうちゃんの言った通りだったよ》


私はふうちゃんに女子たちから詰め寄られたこと、そして女子たちから聞いた話で男子寮でもふうちゃんの話は話題になっていることを伝えた。

中には北都小出身で覚えている生徒もいたり、噂に尾びれがついて模擬戦で相手に大けがを負わせたとか3年生と1年生のクラスにも伝わっているみたい。


《でも本当にいいの?ふうちゃんのこと話ても》


ふうちゃんとお兄さんから、もし私にどういう関係なのかって聞かれたら話してもいいって言われていた。

濁したり秘密にするほうが憶測で話が広がることもないし、騒ぎになるのは一瞬だけだろうからって。


《もちろん大丈夫だよ。そのくらいで負けるわけないからね》


と、メッセージだけじゃなくて安心まで伝わってきて、私の胸がほっこりした。


《それに》

《それに?》

《その方がえでかに変な虫つかないから》


想定外の返事にドキッとしたけれど、嬉しくてまた部屋でひとり笑みがこぼれる。


《でも相手に大けがさせたって噂はいいね》

《どうして?ふうちゃん、別になにもしてないのに》

《だってその噂、大けがしたの波多野君になるってことでしょ。いい噂だよね》

《もう、ふっちゃんったら》

《冗談だよ》


ふうちゃんの表情は見えないし、感情まで伝わるわけじゃないけど、冗談じゃないことはなんとなくわかる。


《そうだ、私、先輩にお土産渡してこなくちゃ》


ゴロンと寝返りを打った際、かばんの横にゆか先輩に買った東都限定ストロベリーティー味のダックワーズが目に飛び込んだ。


《いってらっしゃい。俺もちょうど白尾山神社ついたからいってくるね》

《いってきます。ふうちゃんもいってらしゃい》

《ありがとう、えでか。いってくる。…ふふ》

《ん?どうかした?》


ベットから起き上がり、お土産を手に部屋を出るとふうちゃんが笑っている。


《兄ちゃんがうらやましそうな顔で見てる》

《お兄さん?》


日曜日の寮はにぎやかだ。

談話室で勉強する人、廊下で立ち話する人、食堂でまったりしてる人、トレーニングルームで筋トレやストレッチする人、友達の部屋でお喋りする人。

いろんな人とすれ違い、いろんな声と、いろんな香りがする。

やっと北都に帰ってきたんだなと、改めて実感しながら、ゆか先輩の部屋5階まで階段をあがる。


《そ。えでかが恋しいんだって》

《ほんと?ふふ、それならうれしいな》


お兄さんの顔もなんとなく想像できるな。

ほんとうに濃密な時間を過ごしたから、私にも生存記録が見れてるんじゃないのかなって思うくらい、鮮明に想像できて踊り場でくすっとしたら、すれ違った先輩におかしな顔をされて慌てて訂正した。


《あ、先輩の部屋ついたから、またあとで魔法かけるね》

《うん、楽しんできてね》

《ありがとう。ふうちゃんは怪我しないでね》

《ありがとう、えでか。いってくるね》

《いってらしゃい!》

《またあとでね》




ゆか先輩の部屋をノックすると、ゆか先輩のやわらかい声が返ってきた。


「いらっしゃい、楓さん。どうぞ、入って?」

「お邪魔します!」


相変わらずうらやましいウェーブがかかった髪をふわふわさせたゆか先輩。

部屋にはゆか先輩の作品が並び、まるで小さなアトリエのようだった。

そしてやっぱり間違いない。

ゆか先輩の部屋は波多野の香りがした。



「ゆか先輩、絵、描いてたんですか?」


部屋の奥に描きかけのキャンパスがおいてあり、腰かけた椅子からちょうど陽の光があたっていた。


「えぇ。ちょうど休憩しようと思ってハーブティーいれたところなの。よかったらどうそ」

「わぁありがとうございます!」


ゆか先輩がブレンドしたというハーブティーは、お花の香りをそのまま飲んでいるかのようで、口当たりも優しく体中隅々までいきわたるようだった。

ポットにうかぶ花々をよくみると、ゆか先輩のキャンパスに描かれたお花たちだった。


「おいしい…これ、この絵のお花たちですよね。すごい…電車疲れがいっきに癒されていきます~」

「ふふ、ありがとう。この子たちはお日様が大好きなの。だからあぁやって陽のあたるところで描いてたの。それに疲労回復の効果もあるお花たちなのよ」

「そうなんですね…あっ!いけない!忘れるとこでした!」


あまりにもリラックスしすぎて、すっかりゆか先輩へのお土産を渡し忘れるところだった。


「これお土産です♪ゆか先輩には修学旅行前、お世話になりましたから」

「まぁ!わざわざありがとう…せっかくだから一緒に食べましょ」

「いいんですか?」

「えぇ、だってこんなにおいしそうなんだもの。お茶ときっと合うわ♪」

「じゃぁいただきます♪」


私はゆか先輩のご厚意に甘え、ダックワーズを口にした。

ゆか先輩の言う通り、ハーブティーの優しいすっきり感と甘いものが合う。

そして修学旅行のお土産話に花が咲き、本題にはいった。


「私、ゆか先輩にお礼伝えたくてきたんです」

「お礼?なにかしら…」

「実は2日目の合同演習のときに鬼がでたんです」

「鬼が…?」


ゆか先輩は驚いて口元を手でおさえた。

私はもう、鬼の話をしても、あの時のことを思い出しても平気だから、ゆか先輩は驚き方も上品だなぁと、ゆか先輩とは対照的に冷静だった。


「パニックにならないように秘密になってるんです。それで私たちの班が遭遇してしまって」

「楓さんの班って…」

「私とりさちんと、ゆうた君と波多野です」

「・・・!」


波多野の名前を聞いた途端、わずかに手がふるえはじめた。


「そのとき、ゆか先輩の夜花の話を思い出して、みんなで勝つことができたんです。本当にありがとうございました…!!」

「…そう……楓さんも無事でよかったわ…大変だったわね?」

「まぁ…そのあと勝てたと思ったのに私、鬼に捕まっちゃって」

「えぇ!?だ、大丈夫だったの!?」


ゆか先輩は驚くというより本当に心配そうな顔をして、わなわなと震えている。

妖艶で大人っぽいゆか先輩しか知らなかったから、こんなに表情がくるくるすると思わなかった。

もしかすると本当はもっと高校生らしいゆか先輩が素なのかもしれない。


「…はい。助けてもらいました…眩しくて、ずっと恋焦がれてた、大好きな人に」

「…その光の彼かしら?」

「え?」


私の知ってるゆか先輩に戻り、ゆか先輩は優しく包み込むような穏やかな顔をしていた。


「やっぱり…ゆか先輩にはこの光、見えるんですか…?」

「厳密に言えば、いいえ、かしら。はっきりと見えるわけではないの。なんとなく、楓さんを纏うオーラが光に似ているような感じ、と言えばわかるかしら…」

「な、なんとなく…」


きっと難しい顔をしていたのだろう。

ゆか先輩はくすくすと笑いながらハーブティーのおかわりを注いでくれた。


「楓さんを占ったときね、私、てっきり赤でこちゃんって呼ばれるきっかけになった波多野君のことだと思ったの」

「…あの時はそのつもりでした…」


仲良くなれた嬉しさを、恋心を勘違いしていたこと思い出し、ちょっと恥ずかしくなって笑ってしまう私。

そんな私のことも包み込むように笑ってくれるから、素直に話すことができるんだなと思う。


「その光を見たとき、ずっと楓さんを守ってくれていたのがわかったわ。そしてその光ともうすぐ会えることも。だからあの結果は波多野君じゃないって思ったのよ」

「そうだったんですね…ほんとゆか先輩、すごいです…」


占いだけでなく、直観力とでもいうのだろうか。

見えない光を見ただけでそこまでわかるなんて、私の夢なんて足元にもおよばないや。


「ふふっ。すごいのは光の彼のほうよ。だって波多野君だと勘違いしてる私にこんなにわかりやすく伝えてくるんだもの」

「えっ!ふ、ふうちゃんがですか?!」


ゆか先輩によると、勘違いしている自分を正すように、見ようとしていないのにあっちから発してきたのだという。

ときどき占いをしているとカードがもつ意味の、もっと奥からないか大切なメッセージを発してくるこたがあるのだが、小さかったり一瞬通り過ぎる感じなので、それらを捉えて言葉にするのはゆか先輩でも難しいのだそう。

なので私を纏う光から、見えないのに存在があるかのようにはっきりと主張してきたので、驚いたみたい。


「えぇ、彼、よっぽど楓さんのことが大好きなのね。きっとこれまでもあぁやって見守って、悪い虫がよりつかないように牽制していたんでしょうね」


くすくすと笑いがとまらなくなってしまったゆか先輩。

ふうちゃんの噂が広まってる話をしたとき、ふうちゃんも変な虫がつかないから安心って話をしていたのと被って、ふうちゃんらしくて私もつられて笑ってしまった。


「はい…私も大好きなんです!ふうちゃんのこと!」

「ふふ、そうみたいね。笑顔が明るくなったもの」

「そ、そうでしょうか…」


まるで聖母みたいに見つめられて、思わず照れてしまう私。


「楓さん、彼との話、もっと聞かせてくれるかしら?」

「はい!もちろんです!」

「それと、そのかわいい前髪の話もね」

「ふふ、はい!」



その後、ゆか先輩の部屋で、ふうちゃんとの思い出話をお土産話にしてたくさん話をした。

つい長居しすぎて15時からの報告会に遅れてしまった。




続く

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