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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
62/151

ー62-

目を閉じて、りく先生の誘導を思い出しながら、順番に私と夜花の世界に入る。

確認のために目をあけると、まばらに咲いて隙間が多かったり、持続時間が短くてすぐに枯れ消えてしまって夜花世界と現実の差が大きい。


「あれ~??なんでだろう…」


上手くできたと思っても自己誘導の仕方が足りないのか、イメージが悪いのか、繰り返すたびにできなくなっていく。

もう何度も繰り返したかわからなくて、出来ない焦りと疲労だけが蓄積される。


「頭で考えすぎだな。さっきはこうだった、これで大丈夫かな、次はこうしてみようって思考優位になってるんだ」

「言われてみれば…たしかにそうかもしれないです…」


りく先生は植物と意思疎通だけじゃなくて、私の頭とも意思疎通できてるのだろうかと思うほど私の思考を言い当てた。


「夜花世界に入るために、俺の誘導を真似しなくてもいい。大事なのはあの時の感覚だ。どんな感覚だったか思い出せるか?」

「えっと…夢の中にいるような感覚でした。まるで夢の中が現実みたいな。あとは…頭より心が語りかけるような…。そっか、私、考えすぎてました」

「上出来。でもこればかりは何度も練習して異能の流れを身体にならしていくしかないんだ。慣れれば一瞬でできるようになるけど、いきなり頭で考えるなって言われても難しいだろ」

「…はい」

「ま、お前ならしょっちゅう寝てるからすぐ慣れるだろ」


意地悪な言い方だけど、私には「焦らなくていい」って聞こえた。

コツがあるとすればうまくいったとき、何を心が感じたのかを掴むことだと教えてくれた。

それを聞いて、私はひとつ思いついたことがある。


「先生!もういっかいやってみます!」

「あぁ、何回でも付き合ってやるよ」




私は再び目を閉じる。

目を閉じてもまだあちこち思考が働いているのがわかる。

頭に集まっているエネルギーを、心に少しずつ集めていく。

夜花をイメージしながら、ある気持ち、あの感情をつぶやく。



ー 私はひとりぼっちじゃない。私は夜花と一緒だ。 ー



すると夜花世界に深く入れたのが、夜花の輝きでわかった。

りく先生に誘導してもらったときよりも、香りの深みが違う。

濃くなったり、ふわって優しくなったり、まるで香りが遊んでいるみたい。


どこまでも続く夜花を眺めながら、私は夜花に語りかける。


「ねぇ、どうしたらもっと強くなれるかな。どうしたら大好きな人を守れるくらい強くなれるかな」


夜花世界を眺めていると、ひとりぼっちじゃない安心感から、誰に相談するわけでもないけど影を落としていた悩みや不安が自然と言葉にできるみたい。


「わっ!!」


髪が乱れるほど強くてあたたかい風がぶわっと吹いた。

そしてそよ風にのって、ふうちゃんの華やかでお日様の香りがした。


「ふうちゃんの香りだ…」


手のひらから私を包み込むようにふうちゃんの青い光があらわれた。

そしてふうちゃんの姿に夜花が変化し私の隣に立った。


「そうだ…私たちにはふうちゃんもいるんだ…」


青い光のふうちゃんは、本物のふうちゃんみたいに優しく私に微笑んだ。

ふうちゃんを信じてるみたいに、夜花も信じてみようと思ってたけど、もうとっくに信じていたんだと気づいた。

だって信じていなければ夜花に弱音、吐かないもんね。


「あぁ…好きだなぁ、ふうちゃんのこと」


ここにいると、ただただふうちゃんを好きな気持ちで世界が満たされる。

夜花も同じようにふうちゃんへの気持ちを感じているのか、優しくふうちゃんの香りを風にのせた。



するとまた強い風が吹き、また新しい香りを風にのせてきた。


「この甘い香り…りく先生の煙草の香りだ。そうだね、私たちにはりく先生もいるね」


植物との信頼関係から織りなす戦いは圧巻だった。

そんな頼りになる先生が私たちにはいてくれてる。

今日のりく先生の戦いを思い出していると、夜花の束がりく先生の形に変化した。


あまりの気持ちよさに天を仰ぎ見る。

真っ暗だった私の世界は、天の川が綺麗な夜空を、夜花が夜空を照らしている。

そのまま倒れ込みそうになったところ、お兄さんの形をした夜花が受け止めてくれた。


「うん、私たちには頼りになるお兄さんもいるね」


背中からお兄さんの香りもする。

ふうちゃんと似た香りだけど、お兄さんの方が少し大人な海の香りがするんだ。




ふうちゃん、お兄さん、りく先生に囲まれ、私の中に新しい気持ちがうまれた。


「私たちなら一緒に強くなれる」


ふうちゃんもお兄さんもりく先生も、私の助けなんていらないくらい強い。

私がみんなを守る場面がくることなんてないかもしれない。

けど、大好きな人たちを守りたいという私の生命力には逆らえない。

それは私の好きを守ることと同じだから。


「私たちなら出来るよね」


と、夜花に話かけると頷くように顔をゆらし、心地い風とともに夜空に向かって花びらが飛んでいく。

羽のような花びらが夜空に帰っていくようで、幻想的な美しさだった。


「素敵な景色をありがとう。大好きだよ、夜花」




強い風が花びらと一緒に私に向かって吹いてきて、思わず目をつぶった。

そして目をあけると、勢いよく頭をぐしゃぐしゃに撫でられて現実に意識が戻ってきたのがわかった。


「上出来」

「頑張ったね、えでかちゃん。2日でここまで出来るようになったんだね」


りく先生にぐしゃぐしゃにされた頭を、おさえるのに顔をあげると夜花世界にいたときのように、いつのまにか戻ってきていたふうちゃんとお兄さん、りく先生に囲まれていた。

そしてそれだけでなく、練習場が隙間なく夜花で埋め尽くされ、消えることなく花びらがゆっくりと天井に向かって舞い上がっていた。


「えでか…綺麗だね、この景色」

「…ふうちゃん…」


広い練習場が一面夜花で埋まり、まるで地平線まで続いているようで、世界に私たちしかいないような感覚だった。

でも全然さみしくない。

私には大好きがたくさんあるから。


「ふうちゃん、大好きだよ?」

「うん、俺も大好きだよ…ってえ!えでか!?」

「お兄さんもりく先生も大好きです」

「ふふ、ありがとう、えでかちゃん」

「…あぁ」


「大好きだよ、夜花」


私たちは地平線まで続く夜花が、すべて夜空に帰っていくのを見送り続けた。




いつも通りの練習場に戻ると、照れたままのふうちゃんが私を立たせてくれて、お兄さんとりく先生が口を開いた。


「えでかちゃんの夜花世界には、光の花の闇を祓う力が極限まで活かされているね」

「えぇ、夜花の浄化効果もありますね」

「そうみたい。さっきまでの疲れとか一気に回復されているし、コンディションも一番いいよ。今なら兄ちゃんに勝てる」

「お前だけじゃなくて僕のコンディションも最高なんだけど?」

「うっ」


夜花世界にそんな効果があったなんで全然気づかなかった。

でも言われてみると、夜花世界では弱音を吐けたり、自分の気持ちを純粋に感じられたのは、それらを邪魔するような洗脳や思考が解けてるからかもしれない。


「ここまで出来たら一瞬で出来るようになってるはずだ」

「え!そ、そうなんですか?!」

「世界に入るトリガーがあるはずだ。それさえつかめれば入れるんだよ。もっかいやってみろ」

「僕もまたえでかちゃんの夜花世界、見せてほしいな」

「えでか、もういっかい♪」


私の口癖をまねするふうちゃんがおかしくて、ふうちゃんのためなら何回でも見せてあげたくなった。


りく先生が言うトリガーはきっとあの言葉。

目を閉じながら、心の中でつぶやく。


ー 私はひとりぼっちじゃない。私は夜花と一緒だ。 ー


胸の奥でぽっと夜花が輝くのを感じ、瞼をあけると、さっきと同じように練習場に夜花世界があらわれた。


「ほんとだ…」

「だろ?」

「えでかちゃんらしい、優しい世界だね。これは鬼神にも真似できないだろうね」

「鬼神、ですか?」


にこっと微笑んで、お兄さんはフッと息を吹くと夜花は一斉に光になって消え、床から昨日みたりく先生の植物がもこもこ生えてきた。

そして椅子のような形になり「疲れただろうから座って?」と促した。



「えでかちゃんは昼間の大雅たちの模擬戦みて、どう思った?」

「模擬戦ですか?えっと…みんなその場で新しい技をどんどん繰り広げてました。一回も同じ技はなかったです」

「うん、よく見てたね。鬼神との戦いではね、大雅にその力が必要なんだ」

「ふうちゃんに…?」


技の応用力ならすでにふうちゃんに身についているのではと、不思議に思いながら隣に座っているふうちゃんを見ると、ふうちゃんが続きを教えてくれた。


「鬼神はね、一度受けた技は全て覚えてるんだ。だから同じ技は通用しない」

「えっ…」


私は驚いて声が出なかった。

文字通り頭が真っ白になる。


「兄ちゃんと特訓してたり、成長するにつれて俺の中の初代が教えてくれるんだ、初代の技とか術を。でも鬼神に覚えられているからさ、そこから派生させて、あいつが知らない技をたくさん習得する必要があるんだ」

「でも、それも覚えられちゃうんでしょう…?」

「そう。だから戦いながら新しい技を生み出す力が俺には必要なんだよ。あと俺が思いつかないような技とか、知らない技もね」


そのためにゆうた君と博貴はふうちゃんの特訓相手に最適だったんだそう。

二人は型にはまった戦い方をするよりも、楽しい、おもしろいを優先して遊ぶように戦うタイプだ。

だから頻繁に新しい技や戦法を試しては改良している姿をみてきた。

そして波多野もよく混ざっていたことを思い出した。


「…鬼神は自分が生きていた頃しか知らないけど、時代は変わった。いまは五属性だけじゃなくて、派生属性がたくさん生まれてる。これからも時代が変わるにつれて派生していき続けるだろうしな」

「ま、僕らには時代が味方してるってことだね」


そう言いながら力強く、私を見つめ直した。


「だからね、えでかちゃん。えでかちゃんの成長は大雅のためになるんだよ」

「ふうちゃんのため…」

「そうだよ。大雅に夜花世界なんて作れないもんね」

「うん、近い世界はつくれるけど結局劣化版になると思う。そのくらいえでかの世界、綺麗だったから」

「ふ、ふうちゃん…」


心から本気だからこそ、恥ずかしげもなく言葉にするふうちゃんに、嬉しくて、でも恥ずかしくて、でも幸せで何も言えなくなってしまった。




そんな姿をにこにこと3人に見守られていると、お兄さんのすぐ隣の空間が歪み、見知らぬ女性があらわれた。


「あ、ここにいた!あなたがえでかちゃんね!」

「えっえっ?????」


いきなり女性があらわれただけでびっくりしていたのに、「えでか」と呼ばれて混乱した。


(だ、だれ????こんな美人なお姉さん、し、知らない~~~~)


両手をぶんぶん振られて、よけいに頭がぐるぐるしていると、りく先生が呆れたように声をかえ、お姉さんを引き離した。


「櫻子、落ち着きなさい」

「あ、兄さん!」

「にい…ってえ!?!?!?兄さん!?!?」

「大雅君も元気そうだね~」

「うん、櫻子姉さんも相変わらずだね」

「へ??????ね、姉さん??????」


えっとえっと…つまりどういうこと?????

りく先生の妹で、ふうちゃんのお姉さんで…え、ふうちゃんのお兄さんってお兄さんじゃないの?????

あれ?もしかしてりく先生も兄弟だったの???????


「あはははは!!!えでかちゃん、おもしろいこと考えてるね!!」

「…立華、嫌な想像すんじゃねぇよ…空雅さん、訂正して…」


ふうちゃんもくすくす笑う中、お兄さんは美人なお姉さんを椅子に座らせ、口を開いた。


「彼女は僕の奥さんだよ」


「…え」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」




続く

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