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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
61/151

ー61-

「今日はお前にはこの練習場一面、花で埋め尽くしてもらう。花はなんでもいい」


りさちんたちとは、練習場に録画セットを返す名目で別れ、さっそく今夜の特訓がはじまった。

ふうちゃんとお兄さんも空間結界に入っていった。

お兄さんが「今夜は昼間の反省会」って言ったら、みるみるしぼむふうちゃんが何だか気の毒の思えた。

いったい空間結界の中ではどんな特訓がおこなわれているんだろう、と怖いもの見たさで好奇心が疼いた。


でもそんな好奇心もりく先生の一言でどこかへ飛んでいってしまう。

だって昨日やっと1本の夜花を咲かせるようになったばかりなのに、と思っているとりく先生が「お?弱音か?」と私を煽ってきた。

どうやら今夜の先生は昨日よりも意地悪な気がする。


「そんなんじゃないです!ただ…その、広いなぁと思って…」


私とりく先生しかいない練習場を見渡すと、ただ殺風景な壁が広がっていて、一番端まで見えなくなる。

午後、みんなで過ごした場所だからか、広さは変わらないのによけいに広く感じてなんだか心細くなった。


「まぁ、広いな、うちと違って」

「あっちの壁なんて全然見えないですもん…」


練習場一面を埋め尽くすのなら、結局この練習場はどのくらい広いのか把握しなければと思っても、肝心の端が見えない。


「でも、埋め尽くすために、距離を把握しなくてもいいんだよ」

「え!?じゃ、じゃぁどうやって…?」

「とりあえず、昨日の復習からやってみるか」

「はい!お願いします!」




その場に膝をつき、床に手を合わせる。

昨日初めて感じた私の生命力。

足の裏からぐっと力強くも軽く、全身をめぐる感覚。

お腹のもっと奥のほうから、あたたかいものがわきあがる感覚。

私だけの、私のための、私が咲くためのエネルギー。


そして目の前に夜花をイメージする。

また咲くために枯れる、強い夜花を。


まるで私をまっていたかのように、夜花のエネルギーとぐっとつながった。

その瞬間、昨日よりも立派に咲き誇る夜花があらわれた。

昨日はここまで出来るようになるのに息をきらしていたけれど、もうまったく乱れていないので慣れてきたのかなと思えた。


「おぉ、咲き方に遠慮がなくなってる。昨日より成長したな」

「ほんとだ…どこから見ても綺麗…」

「お前にみせたくて咲いてるんだよ」

「私に?」

「夜花はお前のこと気に入ってるからな」


そうりく先生が言うと、より夜花の輝きが増したように私の目にうつり、うれしくて表情がゆるんでしまう。


「えへへ、ありがとう」

と伝えると、風なんて吹いていないのにふわっと葉が動いて返事をしてくれたように見えた。


「夜花が協力してくれるってよ、練習に」

「そこまで意思疎通できるんですか??」

「まぁな。お前、猫飼ってるだろ?猫だって話せないのに何を言ってるかわかるだろ?それと似たようなもんだな」

「なるほど…」


たしかに茶々丸がご飯がほしいとき、扉をあけてほしいとき、遊びたいとき、眠いとき、顔をみただけで何をしてほしいのか手に取るようにわかる。

そう思うと、りく先生ほどじゃないけど、私にも夜花のことがわかるように気になった。




「じゃ、まずは俺が誘導するから夜花と一緒にここを埋め尽くしてみろ」

「はい!」


りく先生にリラックスできる態勢でいいと言われたので、夜花から手を放し、そのまま座り込んだ。


「目を閉じて。ここはお前の世界だ。練習場ではない。無限に広がるお前の世界だ」


言われるがまま目を閉じると、りく先生の声がいつもより穏やかに聴こえる。

いろいろ考えこんでいた頭の中がりく先生の言葉でいっぱいになる。

目を閉じた先にいる、私の世界にいる私は真っ暗中、ひとり佇んでいて少し胸がざわつく。


「目の前に咲いてる夜花が咲いている」


夜花ー。

目の前にポツンと辺りを照らすように夜花があらわれた。

その光をみたら、ざわついていた心にぽっと火が灯ったようにあたたかくなった。


「そうだ、それでいい。ここはお前の世界なんだ。本当にお前ひとりか?」


ううん、違う。

私ひとりじゃない。

夜花が一緒にいてくれてる。


そうだ。さっきりく先生が言っていた。

夜花と一緒にうめてみろって。

本当はこの広い練習場を一晩で埋め尽くせるようになるなんて出来ないかもって不安だった。

出来なかったらどうしようって怖かった。

でも私はひとりぼっちじゃない。

私には私よりも強い、夜花がいる。

何度も散ってはまた強く咲き誇る、美しく夜花が。


でも私はひとりじゃない。

夜花と一緒に私たちは強くなるんだ。


「そのまま周りを見渡してみろ。夜花はひとりか?」


言われたようにぐるっと見てみると、目の前だけだと思っていた夜花が、私を囲むように咲き誇っていた。

夜花に囲まれて、甘くもさわやかな優しい香りが私を包み込む。

私、目の前の夜花しか見てなかっただけで、本当はずっとたくさんの夜花が一緒にいてくれたんだね。

と語りかけると、気づいてもらえたのが嬉しかったのか、ゆらゆらと顔を躍らせた。

きっと他にも見てなかった夜花、いっぱいあるかもしれない。


「あぁ、お前に気づいてほしい夜花がまだたくさんお前を待ってる。もっと遠くまで探してみろ…」


私を待っている夜花を見つけるため、顔をあげた。

すると真っ暗だった世界が、一面夜花で真っ白に光り輝いていた。

遠くの夜花まで一輪一輪、顔がはっきりとみえ、嬉しそうにみんなゆらゆらとゆれていて、風が吹いているのかと思うほど。


みんな、とってもきれい。私の世界、みんなのおかげでこんなに美しかったんだね。

ありがとう。これからも一緒に強くなってくれる?

と、問いかけるとぶわっと突風が吹き、思わず目をつぶった。

すると一斉に枯れ始め、枯れ消えるよりもはやく生まれ変わり一段と輝きをはなった。

まるで私の問いかけに返事をしているかのように。

あぁ、りく先生みたいに意思疎通の力がなくても、お花は語りかければ応えてくれる存在だったね。

これからいっぱい語りかけよう、いっぱいお話しよう。

夜花とも、いろんなお花といっぱいいっぱいお話しよう。

どこまでも続く夜花でできた私の世界にそう誓った。




「立華、目、あけていいぞ」


ふっとりく先生の声が聴こえて、特訓中だったこと思い出した。

もう夜花の世界が現実なのか、夢なのかわからないまま、夜花の香りに誘われるように目をあける。




「・・・え?ゆめ・・・?」

「夢じゃない、現実だ」




りく先生が「なかなかやるじゃん」と私の頭をぐりぐりとなでた。

そのおかげでやっとこの現実を受け入れられるようになった。

だって、目を閉じてみていた私と夜花の世界みたいに練習場いっぱいに夜花が咲き乱れているんだから。

私は腰が抜けたかのように力が抜けてしまった。


「立華、これがお前の世界の力だ」

「私の世界…」

「お前の世界は狭くない。もっと可能性に満ちてる。お前が望めばお前の世界はこうやって応えてくれるんだ」


正直、まだこれを私がやったなんて信じられない。

でも嬉しそうな夜花を見ていると、自然と信じるしかない気になってくる。


「だからもっと望め。可能性を閉じるな」

「…私、もっと夜花と仲良くなりたいです。夜花だけじゃなくて、いろんなお花と仲良くなりたい。それでいろんなお話したいってさっき思ったんです」


世界にはまだいろんなお花がある。知らない異能花もまだまだたくさんある。

りく先生がつくった戦闘植物とだって仲良くなりたい。

自分のために生きて、咲き誇る姿をたくさん見せてほしい。


「…仲良くなりたい、か。お前らしいな」

「子供っぽいですかね?」

「いいんじゃないか?その素直さがお前のいいところなんだから」

「…先生、なんだか今日優しいですね」


昨日あれだけ意地悪をされたのに、今日はやけにりく先生が優しくて、私の直感が嫌な予感を察した。


「そりゃそうだ。これでもまだまだ赤点だからな」

「赤点!!」

「ほら、あの辺とかよく見てみろ」


と、りく先生が指さす方を見てみると、埋め尽くしたとは言えないほど隙間があったり、まばらに咲いているところが数か所もあった。


「それにこれを俺の誘導なしで出来るようになってもらう」

「え!!」

「しかも一瞬でな」

「うっ…」


考えるよりも先に、思わず癖のように弱音が出そうになる。

これも長年積み重なった価値観による洗脳によるものなんだろう。

でもあと一歩のところで飲み込んだ。

だって私ひとりじゃないから。

夜花と一緒だから。


「頑張ります!!」

「そうこなくっちゃな」


にやりと笑う先生。

そして昨日以上のスパルタタイムがはじまった。




続く

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