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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
60/151

ー60-

ダイヤちゃんの異能をはじめてみたとき、ひとつひとつの光は綺麗なのに、集まると冷たい感じがした。

それはダイヤちゃんの感情があらわれているんだって、ふうちゃんが教えてくれた。

だからスクリーンに映るダイヤちゃんの光は、女子会でみたときのように、淡いピンクや淡いオレンジが綺麗なグラデーションになってまるで恋する乙女の色をしていた。


「うん、近郷さんは鞭の伸びがいいね。いい感じに馴染んでる。でも近距離の間合いをつめるのが一歩遅いかな」

「最近武器、新調した?」

「はい、少し全体の重さを変えてみました…」

「あぁ、なら少し柄の部分を2センチ短くするといい。近郷の手は小さいようだから、長期戦になったとき負担がかかってくる。武器は職人に頼んだのか?」

「いえ、自分で作りました」

「じゃぁ試しに柄、調整してみてくれ」

「ありがとうございます…!」


りく先生からのアドバイスをダイヤちゃんは真面目にメモをとりながら、武器についていろいろと質問を交わしている。

りく先生も刀を愛用しているからなのか、ダイヤちゃんとの会話が専門的になってきて、聞いている方も勉強になるくらいだ。

実際、戦闘に武器を使う異能力者は少ない。

それは属性的に扱いずらいこともあるが、自分の能力にプライドがある者が多いのか、自分の能力で強くなりたい、自分の能力だけで勝ちたいと思うものが多いからだ。

そのため、土属性や鉱石属性など形ある属性などは自分の能力を武器という形に変化させるのが主流となった。

なので、りく先生のように自分の属性ではない武器、ましてや天敵属性の武器を使う人はとても珍しいのだ。


「ダイヤちゃん、楽しそうだね、武器の話できて」

「りくさん、武器のことになるとうるさいんだよ」


ふうちゃんとこそっと好評の邪魔にならないようにお喋りをしていると、意外な人物が口を開いた。




「…きれい」




「え?」




全員の視線が博貴に集まった。

博貴はスクリーンに穴があくような目で見つめ続けている。

淡い光に包まれた、鞭をふるうダイヤちゃんの姿を。


「…ダイヤちゃん、すごくきれいだ…」

「ひ、博貴…?」


隣のゆうた君が博貴の肩をゆすっても、目のまで手をふっても、画面に夢中でぽけっとしたまま。

そしてダイヤちゃんは完全に真っ赤になって俯いていて、表情が隠れてしまっている。


「あらら…??これは…好評どころじゃないかな??」


お兄さんがダイヤちゃんと博貴の状況をみて、くすくす笑いながらふうちゃんと私に電気をつけるようにアイコンタクトを送った。

ふうちゃんがすぐに電気をつけてくれると、博貴はやっとハッとしたようで、あたりをキョロキョロしてした。


「今日はここでお開きにしよう。北都のみんなは明日早いでしょう?今夜はゆっくり過ごすといいよ」

「明日は8時の新幹線に乗るから6時には出るぞー寝坊すんなよ」

「榎土ちゃんの好評はりくを通して送るから待っててね」

「あ、ありがとうございます!」


なんとなくお兄さんが早めにお開きにしてくれたのは、ダイヤちゃんと博貴に時間をくれたような気がした。

みんなそれぞれ立ち上がって帰り支度をはじめたけれど、ふたりは相変わらず座ったままで、りさちんとゆうた君に促されてようやく立ち上がった。

ぽけ~っとしたままフラフラとひとり出口にむかう博貴を見ていたら、プロジェクターを片付け終わったふうちゃんが「えでか、いまチャンスじゃない?」と後ろから声をかけてくれた。


「そ、そうだ!!ありがとう、ふうちゃん!」

「俺も手伝うよ」


そう言ってゆうた君と波多野のもとへ向かったふうちゃん。

ふうちゃんが波多野と一緒にいるのは模擬戦以来なので、なんて声をかけるのか気になったけれど、りく先生とお兄さんが出口に向かおうとしていたので急いで引き止めた。

お兄さんはすぐに察してくれたけど、りく先生は察しが悪く「なんだ?まだ腹減ってるのか?」と素で聞いてきたので、お兄さんに後ろから首をつかまれて苦しそう。

そしてダイヤちゃんや、りさちんと一緒に出口に向かうところだった。


「ダイヤちゃん、いまチャンスだよ!」

「…え?」

「いま、たかちゃん一人で出て、いま食堂にいるから…!!お礼、伝えよう??」


ダイヤちゃんはどうやら熱がおさまらないようで、食事前の気合はどこかへ消えてしまったみたい。


「で、でも…あ頭がまわらないの…伝えたいことと、違う言葉が口から出ちゃって…」

「わかるよ、ダイヤちゃん。私もゆうた君といるとそうだもん」

「りさちん…も?」

「うん、だから気持ちが伝わるんだと思う。頭で考えた言葉より、心からの素直な言葉が届くんだって私は思ってるよ」


りさちんの言葉が、私の心にも届くようだった。

なにも疑うことなく、ただただりさちんの素直さが、りさちんの優しさが染み入った。


「私たち、ここにいるから。ダイヤちゃんのペースで、ゆっくりお話ししておいで?」

「楓…りさちん…ありがとう。私、いってくる!」


ダイヤちゃんは走ることもなく、ダイヤちゃんのスピードで、博貴がいる食堂へ向かう姿は芯の強さが表れていて、事情を知らない先生やゆうた君たちも目を奪うほどだった。




「やったね楓ちゃん!!」

「うん!!」


なるべく音をたてずにハイタッチした私とりさちんは、ここでようやく何も知らなかったゆうた君やりく先生たちに事情を説明した。

もちろんダイヤちゃんが博貴を好きだということは伏せて、お礼を伝えたいことを伝えると、みんな納得してくれた。

波多野も帰ることなく、黙ったままだったけれど残ってくれたのが嬉しかった。


「えでか、こっちおいで?」

「ん??」


扉付近に立っていたふうちゃんに手招きされて、ふうちゃんのもとへ向かうと

「ここから二人の様子、見えるよ」

と、教えてくれた方を覗くと少しあいた扉から、ちょうどテラスから見える月をぽけっと眺めた博貴と、後ろから近づくダイヤちゃんが見えた。


決して無粋な気持ちで覗きたいわけではないけれど、でも好奇心と見守りたい欲が勝ってしまい、ふうちゃんにりさちんも呼んでいいか聞くと「もちろん」と答えてくれたので、りさちんを招待した。




「あ、あの…」

「…わ!だ、ダイヤちゃん!!」


後ろから声をかけられて驚いた博貴は、少し正気を取り戻したようだけど、まだふわふわしているように見える。


「・・・」


ダイヤちゃんの表情は後ろ姿で見えないが、少し黙ったあと、スッと結った髪をほどき、黒くてしなやかな髪がサラサラと流れた。


「合同演習のとき…これ、見つけてくれたの…覚えてる…?」

「あ、これ…もしかしてあの時の…?」

「…うん。お、お守り…だったの。もう見つからないかもってあきらめたとき…さ、さ、佐藤君が見つけてくれて…」

「これ、仮面ランナーDのリボンだよね。抽選で1名しか当たらないやつ」

「!!」

「俺もね、仮面ランナーD、だいすきなの」


と、言いながらそっとダイヤちゃんに近づき、リボンを手に取るとダイヤちゃんを前から抱きしめるかのような距離で、ダイヤちゃんの髪を結った。

私とりさちんは、角度的に抱きしめたのかと思って驚く声を慌てて塞いだ。


「うん…!やっぱりダイヤちゃんにピッタリだぁ!」


慣れてないことをしたおかげで、ダイヤちゃんの髪はくしゃくしゃに結ばれている。

でも、ここから見るかぎり、博貴の笑顔はいつもの人懐っこい笑顔じゃなく、どこか頼りになるお兄さん感があふれていた。


「・・・と」

「ん??」


ダイヤちゃんがなにか口にしたけれどよく聞こえなかったようで、博貴が前かがみになって近づいた。


「…ありがとう。お守り、見つけてくれて…!」


ダイヤちゃんの勇気が首元まで赤くそめた。

それは博貴にも伝染し、照れながら「どういたしましてぇ!」とニカッと大きい口で笑った。


そしてそのままダイヤちゃんは博貴に「ねぇダイヤちゃん、仮面ランナーの話しながら寮まで一緒に戻ろう~」と誘われ、「し、仕方ないから送ってあげる…」とここでツンデレを発揮して二人は食堂を後にした。




「よかった~~」

「作戦成功だね、楓ちゃん!!」


安心した私はずるずると床にへたりこんだ。


「なるほどね~えでかちゃんと榎土ちゃんは、こんな計画をたててたわけね~」

「わっ!!お兄さん!!」

「言ってくれたら協力したのに~」


振り返るといつの間にかお兄さんだけじゃなくて、りく先生もゆうた君も覗いていた。

波多野も意外にも少し離れて覗いていたようで、さすがに博貴のこと心配だったのかなって思った。


「でもふうちゃんが協力してくれましたから」


座りこんだ私に手をさしのべるふうちゃん。

ふうちゃんの手をとりながら「ありがとう、ふうちゃん」とお礼を伝えると「どういたしまして」とほほ笑んだ。

あぁもう。そうやって私だけ優しく見つめるところ、大好きなんだから。


「それにお兄さんにはみんなで夕飯食べれるようお願いきいてもらいましたし。ありがとうございました!」

「妹の頼みだからね、いつでもお安い御用だよ」

「だからまだ立華は妹じゃないですけどね」

「…りくはいっつもそこ、つっこむよね…」


お兄さんは大きくほっぺを膨らませて、口を尖らせた。

ふうちゃんのお兄さんだけあって、ほっぺの柔らかさも遺伝するのかな、なんて思ってつい笑みがこぼれた。

もちろんお兄さんが私を「妹」と呼んでくれるのは嬉しい。

「妹」のように可愛がってくれているから、そう呼んでくれるんだろうから。

でもいつか、本当にお兄さんの「妹」になれたらいいなと思う。

そしたら私はふうちゃんのお嫁さんってことだから。


「・・・・・・」

「えでかちゃん、いまなにか想像したの?大雅、顔真っ赤になってるけど…」

「え????・・・あっ!!!」


お兄さんに言われてふうちゃんを見ると、片腕じゃ足りなかったのか両腕で真っ赤になった顔を隠してるふうちゃん。

つられて私まで顔が熱くなってきて、咄嗟に両手で顔を隠した。


《ふうちゃん、もしかしてだけどもしかする?》

《もしかしてだけどもしかした》


やっぱり…一瞬、想像しちゃった。

ふうちゃんのお嫁さんになって、家族になった私と隣にいるふうちゃんを。

子供っぽい妄想がそのまま伝わったのが、ちょっと恥ずかしくなってしまった。

少し離れたりさちんとゆうた君が不思議そうに眺めていたのが、幸いだった。


「はは~ん、お前、もしかして妄想してたんだろ~大雅さんとけっむぐ!!!!!!」


りく先生が「けっ」と言ったあたりで私は反射的に先生の口を抑えようとしたら、ふうちゃんのほうが一歩はやくおさえて、二人でりく先生の口を塞いだ。


「いじわる!!先生のいじわる!!」


これがきっかけで、今夜の特訓がハードになるなんて思わなかったけれど。




続く

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