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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
はじまり
6/151

ー6ー


『俺が戦えるようにしてやるよ』

『練習場裏に顔貸せ』


練習場の鍵を返し、とぼとぼ歩きながら波多野の言葉を思い出していた。


(顔貸せ…ってことは決闘?)

(やっぱり仲良くなれたと思ってたのは勘違い?調子乗るなってことなのかな…)


これまで波多野のことなんて知ろうともしなかったし、関わろうともしなかったもんだから、波多野の真意がわからないまま練習場まで戻ってきた。

つい数十分前までは練習終わりの生徒たちが集まってだらだらとしゃべったり、武器の手入れをしたりで賑わっていたのに、今はもう練習場の明かりも消えて寮まで続く外灯だけで辺りはもう真っ暗だ。



いつもならこのまま寮まで帰るのだが、もしかしたらもしかするかもしれないと、確認も兼ねてそうっと覗いてみた。

そう、これはマネージャーとして帰りの確認なのだから。



「…なんだ、いないじゃん」


顔を貸せと呼び出された練習場裏を見渡しても、波多野は見当たらなかった。


「やっぱり馬鹿にされただけかー」


きっと今までだったらこの状況に怒りがこみあげていただろう。

やっぱり波多野なんか大嫌い!って寮に帰ってすぐ、りさちんに話を聞いてもらっていただろう。



なのに今の私は波多野がいなくて寂しいと感じている。

来いと言われたから来ただけなのだとしても、でも心のどこかでまた波多野と話ができることを期待していた。

だからどんなに傷つかないように前もって言い訳をつくってここに来ても、波多野がいない寂しさをごまかす方法までは考えていなかった。


今まで波多野を嫌った罰があたったのかもしれない。

仲良くなれそうって期待した罰があたったのかもしれない。

呼び出されたのも私の勘違いで罰があたったのかもしれない。


久しぶりに感じる胸の痛みがいつもより鋭くて泣きそうになった。




「…あ、お花」


涙がこぼれ落ちそうになった時、私の癒しスポットであるお花たちが目に入った。


「今日忙しくてお世話できなかったね。お世話して帰ろう」


花はいい。来いと呼び出すこともないし、行けば必ず会うことができるもの。

そして元気をくれる。

「私もお花になりたい」

ひとつひとつ花の顔を見ながら、そんなことをつぶやいた。

(そしたら傷つかなくていいもん)

私は小さく膝を抱えて小さなお花の一部になろうとした。




どれくらい経っただろうか。

夜空を見上げるとさっきよりも月が少し高くなっていた。


ぐぅぅ~


私のお腹も空腹で限界だった。


「夕食の時間終わっちゃうし、そろそろ帰ろう」

立ち上がると少し足がしびれていて歩くと若干ふらついてしまう。


(まぁ、寮帰るまでには治るだろう~)

足のしびれに意識を向けないように、夕食なに食べようかで頭の中をうめつくしながら寮に向かうとした時

「わっ!!」

突然なにかにぶつかって尻もちをついてしまった。



「おせーよ」



どうやら波多野にぶつかり私は情けない顔でへたりこんでいた。


「え…?い、いたの…?」

情けない顔に続いて情けない声が出た。



「なに?こっちにいたの?裏っていったらあっちだろ」

と指をさした方で波多野は待っていてくれたようだった。


もうすでに帰ったと思っていた私は馬鹿にされたわけじゃなかったことと、何より波多野が待っていてくれたことに胸の奥が熱くなった。


「ここ、おめーの庭だろ」

「なんで知ってるの?」

「…」

なぜか急に目が泳ぐ波多野。


「…花に話しかけてる頭おかしい奴がいるなって思ってた」

「え!!見てたの!?」

何度か波多野の愚痴をこぼしていたことを思い出し、見られてた恥ずかしさで一気に熱くなった体が一瞬で青ざめた。

さっきから一向に目を合わせない波多野を見ると、やっぱり愚痴も聞かれていたのだろう。


どう波多野に謝ろうかろ考えていると

「まぁいいや。ここで練習するぞ」

と、さっきまで座り込んでいた場所に波多野が腰を落とした。



「練習ってなんの?」

「言ったろ。戦えるようにしてやるって」

「言ってたけど…」

「とりあえずいつもやってるみたいにやってみろよ」


そう言いながら横にずれた波多野は隣に来いと顎で指図する。

いつも、っていうことは、いつも見られていたということなんだろうか…。


波多野の隣に座り込み、言われたようにいつも通り異能を使ったお世話をはじめる。

土に手をかざしたり、茎にふれたり、花びらにふれたり。

そうしながら水分の確認や栄養の確認、病気がないか確認をし、足りない部分を意識する。

(元気になぁれ。元気になぁれ)

と願いながら。




「…」

「終わったけど、さっきお世話しちゃったからそんなに変化ないよ?」

波多野は終わるまでじっと黙ったまま、何かを考えこむようにお花たちを見つめていた。


「お前さ…根はどうしてんの?」

「根っこ?根っこは触れないから土の状態から判断してるかな…」

「ふーん」

「!?!?!?!?」


波多野は涼しい顔をしながら土に触れていた私の手を上から軽く抑えた。

肩もぶつかり合う距離で左耳に波多野の吐息がかかり、甘い香りが鼻をくすぐった。

あまりの近さに緊張なのか驚きなのか、それとも突発的な発作なのかわからないくらい胸がドキドキしている。

これ以上くっついていたら私のドキドキが伝わってしまいそうで。


「このまま根に意識流して」

「う、うん」


波多野の手が気になって意識が乱れそうだったが、根に意識を集中させたとき自分の異能ではない力が手を伝って流れ込んできた。

(これ、波多野の能力?)

お花たちが眩しいくらい青白く発光し、バチバチと雷がはじける音がうるさいくらい鳴り続けている。

でも不思議と安心感があった。

重なっている波多野の手が優しく、波多野の異能が温かかったから。



「おい、見ろ」

眩しくて細めていた目を波多野に言われて開けてみると

「な、な、なにこれぇ!?!?」


足元にひっそりと咲いていたお花たちは、3階建ての高さがある練習場を覆う壁のように成長していた。


「やっぱりな!」

「ど、ど、、、、えぇぇ?????」

いたずらが成功した悪ガキのような笑顔の波多野とは対照的に、言葉が出ないほど呆然としている私。



「な?」

と、にやついている波多野だが、ふとある疑問が思い浮かんだ。


「…ねぇ、これどうやって戻すの?」

「それは知らない」

「え…バレたら怒られない?」

「黙ってりゃ俺らがやったってバレねーよ」

「え」


悪い笑みを浮かべたままの波多野は鞄を持ち、帰る準備をはじめたその時

「誰かいるのかー?」

と警備員の声が聞こえた。


「やばっ!急げ!」

「えっえっ!!って私の鞄!!」

波多野が私の鞄まで持って行ってしまうもんだから、私も慌てて波多野のあとを追い、寮に向かって二人で逃げるように走りはじめた。

「うわ!なんだこれ!」って警備員の声が聞こえ、前を走っている波多野が笑った。

波多野につられた私もなんだかおかしくなって笑った。


(こんな悪いことしたの初めてかも)





寮の玄関にたどり着いた私たち。

息が切れている私に対して、さすが攻撃隊の波多野は息ひとつ切れていない。


「はぁ…はぁ…ごめん、鞄、ありがと」

「おめー体力もねーのな」

「そっちが速すぎるの!!」


鞄を受け取ると、波多野にとられた猫のぬいぐるみボールペンを思い出した。


「あ!ボールペ…」

「目つぶれ」

「へ?」

ボールペン返してと言い切るまえに、おもちゃを見つけた悪ガキの顔した波多野が詰め寄ってきた。


「ボールペン…」

「目つぶれ」

と言い合いながら後ずさりする私と、さらに詰め寄る波多野。

後ろはすでに女子寮の玄関門で逃げることができない。


「つぶるから返してよ!?」

「はいはい」

しぶしぶ目をつぶる私は、走ってきたから髪の毛変になってるかもと前髪の心配をした。


少し間があき、怪訝に思っていると

ペチン!と額に軽く衝撃がはしった。


「いたっ!!!」

目をあけると波多野に奪われていたボールペンでデコピンされたようだった。


「っぷ!!おつー!」

雑にボールペンを私に返すと笑いをこらえながら男子寮の方へ引き返していった。


(そういえば男子寮のほうが近いのに女子寮まで走ってたんだ…)


波多野の後ろ姿を見つめていると収まっていたドキドキがまたぶり返していた。




(なんでまたドキドキしてるの…?)

(もしかして私…波多野のこと…)


ないないないない!!!!!!!!!!!

だってこの前まで嫌いだったんだから!!!!

私が波多野のこと好きになったなんてありえない!!!!!!!

と、可能性を振り払うように頭を何度もふりはらった。


それでも波多野のことを思うとドキドキする現象に『恋』以外の説明がつけられなかった。




居ても立っても居られず、自分の部屋まで走りだした。

途中でりさちんに「楓ちゃん、ご飯は~?」と声をかえけられたが「いらない!」と走りながらこたえた。

部屋に飛び込む私をみてりさちんは不思議そうにしていたが、さっきはお腹すいてたのにいつのまにかお腹いっぱいになってたんだよ。



続く

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