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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
57/151

ー57-

女子会はあわあわするダイヤちゃんを楽しみつつ、ダイヤちゃんお礼計画があれよあれよと進んでいった。

私にできるかなってダイヤちゃんは不安そうにしていたけれど、最終的にはもう一度髪を高くポニーテールに結び直して意気込んだ。

そして私もお礼計画を成功させるために夢をみにいった。

直前までダイヤちゃんは「え、ね、寝る?夢?」と何度も首をかしげていたけど、夢でみたことを伝えたら理解したみたい。


「じゃぁ夢でみた通り、私とりさちんに任せて!」

「ダイヤちゃんはいつも通り、でね?」

「う、うん…頑張る…!」


作戦を成功させるには、ダイヤちゃんにはリラックスしててもらう必要があるようだ。

なのであまり頑張ってほしくはないけれど、ダイヤちゃんにとったら頑張ることがリラックスの一つなのかもしれない。

ここは私とりさちんのチームワークが鍵になるね、と私たちはアイコンタクトをした。



「あ、そういえばダイヤちゃん。さっき東都で楓ちゃんが有名って言ってたよね?」

「うん、そうだよ」

「私、その話、聞きたい~!」

「りさちん!?」


何やらおもしろい女子会ネタを見つけたように、生き生きとしているりさちん。

私はまだ、冷静に話を聞く準備できていないのに、ダイヤちゃんもクスクスと笑いながら私の静止を待たずに話はじめた。

…ダイヤちゃん、女子会のノリつかむのはやくない?????


「私、小学校のときは父の仕事の都合で海外の学校に通っていたの。だから水樹君を知ったのは中学に入ってからなんだけど、その時にはもう楓のことは有名だったよ」

「えぇ!?そんなに前からぁ!?」

「だからクラスメイトから聞いた話になるんだけど、彼、転校してきてすぐ有名になったの。周りに比べたら大人びていたし、運動もできる、実力もある、勉強は苦手みたいだけど人柄がいいからすぐに友達もできて。それに彼、二属性持ちでしょ?」

「え?あ、う、うん…」


一瞬、胸がドキッとした。

私はふうちゃんが全属性を使えることを知っているけど、学校では二属性持ちということで内緒にしているんだと気づいた。

いまの返し、変じゃなかったか気になって、あせって紅茶に口をつける。




「だからすごく女の子にモテたみたい」

「っう”!!!!!!!!」

「か、楓ちゃん!?大丈夫!?!?!?」

「げっほげほっ…!!!!ヒュッ、ご、ごめん…げほげほっ!!!」


ダイヤちゃんの一言に驚いて紅茶が気管に入ってしまい、大きく咳き込んだ。

危うくダイヤちゃんのベッドを紅茶まみれにするところだったが、なんとか間一髪飲み込めた。

でも肺が痛くなるほど咳込んでいて、呼吸がろくにできずにいる。


「楓、大丈夫?」

「楓ちゃん、そんなにびっくりしたの?」


本当に心配そうな顔で背中をさするダイヤちゃんに対し、りさちんはちょっと笑いをこらえているみたい。

それをみたらつられて笑いそうになって、よけいに苦しくなりそうだった。


やっと胸の痛みもとれて、呼吸も落ち着いてきたので

「…ふうちゃん、モテてたの?」

と、初めて芽生えたやきもちが、好奇心と一緒にちらっと顔をだしながらダイヤちゃんに聞いてみた。


「うん、告白する子も多くて、なんなら娘の婚約者にしたいって政治家や起業家からも誘いがあったみたい」

「え…」


なんだかお腹に冷たくて重いものが落ちたみたい。

心が落ち着かなくてざわざわしてるのに、体も顔も固まって動けない。

こんなとき、どうしたらいいんだろう。

頭も固まったみたいで思考が働かない。


「でもね、水樹君は全部断ってたんだって」


ふっと顔をあげると、にこっと微笑むダイヤちゃんと、ニコニコしてるりさちんと目が合った。

そこで私ははじめて俯いていたことに気づいた。


「それも結構ひどい断り方で、何人もの女の子を泣かせてきたみたい。娘の婚約者にしようと汚い手を使おうとした人もいたみたいで。でも汚職で捕まったり、倒産になって女の子たちも転校しちゃって…3カ月くらいにはもう、水樹君に話かける女子はいなくなったって…」

「なんか…意外だね?北都にいたときは女子とも話すことあったと思うけど…ね、楓ちゃん?」

「え!う、うん…」


二人はきっと

「知らない水樹君の一面を聞いてびっくりしたんだろう」

と、思っているのかもしれない。

でも本当は違う。

この気持ちをこのまま話たら、どう思われるのか少し怖くて、そっと胸にしまいこんだ。

この気持ちを知っていいのは、ふうちゃんだけ、と。


「中学から入ってきた子とかは知らないから声かけたり、告白する子もいて、前よりは断り方が優しくなったそうだけど、それでも泣く女の子は多かったよ」

「そ、そっか…。でも、なんで私が有名になっちゃったの?」

「あぁ、それはね、水樹君が公言してたから。俺にはえでかがいるからって」

「え!!」

「・・・・・・え?????」


なぜだろう。私よりもりさちんが先に乙女のように顔を赤くして、ニヤニヤと私を見つめている。


「中には2番目でもいいって言う子もいたみたいなんだけど…そういえばその子、最近みてないな」

「東都、広いもんね~…って!!楓ちゃん!!顔!!顔!!!」

「…え?顔?」


りさちんに肩をゆすられ、気づくとお腹の底が地獄みたいに真っ黒で、真っ赤に燃えてるみたいで、頭の中もチリチリ焼けてるみたい。

顔を真っ青にしたダイヤちゃんに仮面タイガーDの鏡を渡され、鏡をみると、般若の顔がうつっていた。


「ひゃ!!…って、え?今の顔、わ、私????」


驚いて鏡から離れると、般若も同じく離れ、遠目で鏡をもう一度のぞくと情けない顔した私と目があった。

そこで今の般若は自分だったことを知る。


「…あはは!楓ちゃん、そんな顔もするんだねぇ!」


と、お腹を抱えて笑いだしたりさちん。


「り、りさちん…笑っちゃ楓がかわいそう…ふふっごめんなさい!」

「えぇダイヤちゃんまでぇ!」

「私、はじめてみたかも、楓ちゃんが嫉妬してるところ!」

「嫉妬?」


りさちんに言われるまで気づかなかった。

自分がいま、嫉妬していたことに。

いままで自分は平凡で、周りには自分より優れた人が多いから、嫉妬することなんてなかった。

だからこれが嫉妬の感情なんだと、驚いた。

でも誰に嫉妬したのだろう?ふうちゃんにではない。

自分の嫉妬を思い返して観察をしてみると、わかったことがある。

私の中には閉じ込めておいたほうがいい私がいることに。

この私を見てもいいのは、ふうちゃんだけ。




「よっぽど水樹君のことが好きなんだね、楓ちゃん」

「…うん」


あぁ。ふうちゃんのことを考えて、ふうちゃんのことを思い出すと心があったかくて優しい気持ちであふれていく。

黒くよどんでいた心も、ふうちゃんへの気持ちが光となって溶かしていく。


「楓、安心してね。今はもう、水樹君に告白しようとする子、いないから」

「どうしてわかるの~?」

「模擬戦の時、二人が一緒にいるのをみんな見ていたから。水樹君のあんな嬉しそうな顔みたら、楓が水樹君のえでかなんだってわかるよ」


安心がじゅわっと胸に広がる。

でもこの安心は私のエゴ。

離れていてもふうちゃんに告白する女の子はいないんだって、勝手に不安になってしまう小さな私が安心した音。


「隠れて水樹君のこと想ってた子もかなり減って、いまは…その…」

「…ダイヤちゃん?」


みるみると肩をおとしていくダイヤちゃん。

もともと細見なのに、ペラペラの紙みたいに見えるくらい意気消沈している。


「か、彼に気持ちがうつったみたい…」

「彼って…たかちゃんに!?」


か細い声で状況を話してくれたダイヤちゃんによると、ふうちゃんのことを隠れて好きだった子たちは恋愛感情というよりも他の同級生は違う一面に憧れていたり、一途に想い続けるふうちゃんを応援している子が多かったそう。

それが模擬戦の休憩中。私といる姿をみて「なんだ、水樹君も他の男子と一緒なのか」と幻滅して離れ、「やっと水樹君の想いが叶った」と見届け終わったことで離れていった。

ところがそこに彼女たちの母性本能をわしづかみにしたのが博貴だった。

たちまち東都に博貴ファンが増え、恋愛感情を抱く子もあらわれたのだと言う。


「たしかに交流会のとき、やたら視線を感じたな~…」

「それでダイヤちゃんは落ち込んでるの?」

「だ、だって…初恋なのにこんなにライバルが多いなんて…」


ベッドの上で体育座りしていじけるダイヤちゃんのおかげで、感情の波が落ち着いてきた。

初めて感じる感情を2つも経験して、もう心がお疲れモード。

本当だったらこのまま眠ってしまいたいけれど、今夜のことを考えたら一気に復活した。


心はいま、ダイヤちゃんお礼計画でメラメラ燃えているけど、ひとつだけハッキリとわかるのは、私の感情はどんな感情も、ふうちゃんにつながっているんだってこと。

楽しいも、嬉しいも、幸せも、不安も、嫉妬も、怒りも、きっかけは全部ふうちゃんなんだ。


楽しんでいる二人には悪いけど、ふうちゃんのことを考えたらふうちゃんに今すぐ会いたくなってしまって、こっそりと《ふうちゃん、はやく会いたいな》と魔法でメッセージを送った。

するとすぐに《俺もだよ》と食い気味に返ってきた。

それに思わずくすっとすると、りさちんに見つかってしまい、夕食まで問い詰められることになってしまった。




続く

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