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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
56/151

ー56-

北都女子の女子会はいつも金曜日の夕食後に行われる。

それぞれが談話室に秘蔵のスイーツを持ち寄り、お宝を見せ合い、分け合うのが定番になっていた。

そして話題はいつも一つ。

恋バナだ。

私は女子会のたびに何度も夢を見ては恋の華を咲かせ、消灯時間を過ぎても乙女たちの夜は明けない。


だが、ここは流行の最先端、東都だ。

そしてメンバーは東都を代表するようなダイヤちゃん。

これは東都らしく、おしゃれな女子会にしようという、りさちんの提案でアフタヌーンティーを開催することにした。

でもこんな楽しい居残りになると思っていなかったのでアフタヌーンティーにふさわしいお菓子がないと嘆いていると、ダイヤちゃんが「それなら私の部屋でやらない?相応しいかわからないけど、美味しい紅茶があるの」とお呼ばれされることになった。




「ダイヤちゃん、ありがとう!お部屋お邪魔させてくれて!」

「ダイヤちゃんのお部屋、すっごくかっこいいね!!」

「あ、ありがとう…へ、変じゃないかな…?」


さっそくダイヤちゃんのお部屋にお邪魔する私とりさちん。

私たちの目にまず飛び込んできたのは、グリーンのクッションで照れた顔を隠すダイヤちゃんと、子供から大きい大人たちに長く愛されている仮面ランナーのグッズだった。

歴代の中でも仮面ランナーDダイヤが好きなようで、壁にはポスターが何枚も貼られ、棚や机にもフィギュアが何体も並んでいた。


「私、自分の名前がコンプレックスなんだ…。でも初めて仮面ランナーDをみたとき、私と同じ名前なのに私と違って堂々としていて、強くて優しくて輝いてみえたんだ。私もそんな風になりたいと思ってたら…」

「どんどんハマっちゃったんだ?」


りさちんにそう言われると、コクンと頷くダイヤちゃん。

ダイヤちゃんの見た目からは想像できない趣味だけど、ポスターも穴が開かないように丁寧に貼られているし、フィギュアに埃も見られない。

本棚にはナンバリングごとにブルーレイが並べられていて、本当に仮面ランナーが好きなんだなぁと伝わってくる。


ダイヤちゃんが紅茶を用意してくれている間、ベッドに腰かけながらポスターを見ていると、誰かに似ているような気がした。

思い出そうとしていると、ちょうど紅茶と仮面ランナークッキーが運ばれ、結局思い出せないまま私たちのアフタヌーンティーがスタートした。




さっそく録画した二人の模擬戦を再生し、紅茶に口をつける。

するとシナモンとジンジャーの香りが際立ち、指先まで美味しさがまわるようだった。

私とりさちんは目尻を垂らしながらほっとしていると、仮面ランナーホットの紅茶だと紹介してくれた。

どうやら仮面ランナーの話をするダイヤちゃんは、いつもよりも饒舌になるようだ。


りさちんとダイヤちゃんの模擬戦は、一進一退、甲乙つけがたいほど、ダイナミックな技が繰り広げられていた。

先手はりさちんだった。

まず床が激しく揺れ、地割れを起こした。それで攻撃がいったん終わったかと思ったら、反撃にでたダイヤちゃんの足元が突如砂漠化し、蟻地獄のようにダイヤちゃんが落ちていった。


「すごい、りさちん!!」


土属性ということもあってか、りさちんの技はいつも豪快で画面映えするものが多い。

さすがに地割れ中はカメラもぶれてしまったけれど。


すると蟻地獄の中心から、キラキラと光るなにかが天をめがけて現れた。

それはダイヤちゃんの武器、鞭だった。

鞭といってもダイヤちゃんの異能で造られたもので、透明感のある白の中で、キラキラと輝きあっていた。

そして長い手足を活かし、りさちんを圧していく。


ここでふと、あることに気が付いた。

初めてダイヤちゃんの模擬戦を見た時、ひとつひとつの光は綺麗なのに、集まると鋭く冷たいと感じたのが、ほんのり優しい桜色を帯びていることに。


「ダイヤちゃんの色、なんだか恋の色って感じするね」


そう、思ったことを口にした瞬間、ダイヤちゃんの顔が見る見ると、錯覚で湯気が見えるくらい真っ赤になってしまった。

これには私もりさちんも驚いて、録画どころではなくなった。

なぜなら恋バナ好きの北都の血が騒ぐからだ。



「「えぇぇぇ!!!ダイヤちゃん、いま恋してるのぉぉ!?」」


前のめりになる私とりさちん。

慌てたダイヤちゃんは抱えていたクッションで私たちの口を塞ぐ。


「あ、あの、これは、違くて、いや、違わないんだけど、えっとその」


明らかにてんぱっているダイヤちゃんは、おもしろいくらいに早口になりながら言葉にならない言葉をつぶやき続けている。


「あ、もしかしてこの仮面ランナーDのポスターの人?!」


りさちんがなんとかダイヤちゃんを落ち着かせようと、ダイヤちゃんが好きな仮面ランナーDの話題にそらそうとした。


「あ、なるほど!ダイヤちゃん、仮面ランナーD、大好きだもんね!…ってあれ?この人やっぱりどこかで見覚えが…」



見れば見るほど誰かに似ているという確信が強くなる。

そしてぼんやりしていた姿が、徐々に晴れていく。

男性的だけど、線が柔らかく、笑うと大きい口。

身長も高く、仮面ランナーの主役を務めるに値する体型。

甘いマスクが際立つ、ツンツンヘアー。


「も、もしかして…ダイヤちゃんの好きな人って…」


当たっている自信はない。

だって二人がいつ出会っていたのかなんて、私には知るすべがないから。

それでも確信はある。

北都の女子会で鍛えられた勘が、そう言っている。




「…たかちゃん…?」





静まり返るアフタヌーンティー。

クッションを抱え直したダイヤちゃんは観念したのか、静かにコクンと頷いた。



「え!!!!」

と、叫びそうになる口を、りさちんはギリギリで自分の両手でふさぎ、なんとか耐えた。


ゆっくりとクッションから顔をあげたダイヤちゃんは、恥ずかしかったのか目がうるうるとしていた。

そしてゆっくりと口を開いた。


「…ひ、一目惚れ…なの…合同演習のときに…あって…わたし、こんな気持ち、は、初めて、で…」

「「うんうん、それで!?」」

「だ、だから…恋人がいる二人の…話が聞きたくて…仲良くなりたかったの…東都の子には…話せない、から…」


息がそろう私とりさちん。さすが北都の血。

そしてどうやら模擬戦のとき、ゆうた君とりさちんが抱き合っているのを見ていたそう。

きっと彼女は恋愛に詳しいのだろうと思っていたら、昨日りさちんがいて驚いたみたい。

りさちんは思わず抱きついてしまったことを思い出され、ダイヤちゃんと同じくらいに顔を赤くした。


「楓も…」

「私?私、模擬戦のときはまだふうちゃんと再会したばかりで、まだ付き合う前だよ?」

「楓、東都では有名なの。水樹君の想い人だって。それに休憩中に二人で話していたでしょう?あんな水樹君の姿みるの初めてだったから、皆気づいたと思うよ」

「へ?????」


ど、どういうこと?????

東都高校では有名だって…ふうちゃんの想い人だって……え、しかも皆って…

へ??????




「「「・・・・・・・・・」」」


部屋の中には顔を赤くした女子が3人、混乱した頭をなんとかすることで精一杯になっていた。

この混乱から先に回復し、沈黙の中に気付薬を投げたのは、3人の中では一番の恋愛上級者のりさちんだった。


「あれ?合同演習って…ダイヤちゃんも参加してたの?ダイヤちゃん、選抜にいなかったよね?」


りさちんの薬のおかげで、ダイヤちゃんの顔色も熟したトマトからリンゴくらいに落ち着いてきた。

そしてゆっくりと合同演習の日のことを語ってくれた。


「うん…選抜メンバーに選出されていたんだけど…断ったの」

「え!?どうして…」


クッションを持っていた手が力なく膝の上に落ちた。

やっとトマトからリンゴまで落ち着いたのに、一瞬でダイヤちゃんの白い肌に影が曇る。


「…だめなの…人前に出るのが。名前を…呼ばれるのが怖くて…」


ダイヤちゃんの声がかすかに震えている。

代々続くダイヤモンド会社の跡取りとして大きな期待を名前として背負わされたダイヤちゃん。

幼いころからそのプレッシャーを抱え込みすぎてしまい、人前で名前を呼ばれる場に立つと人の目が気になってしまい過呼吸になってしまうのだそう。


「仮面ランナーDみたいになりたいと思っても…私には…とても…」


そう言ってダイヤちゃんは悲しそうな顔で笑ってみせた。

その表情がとても痛々しくて、私はそっとダイヤちゃんの手を握った。


「…ありがとう、ダイヤちゃん。ダイヤちゃんって呼ばせてくれて」

「楓…」

「会ったばかりの私たちに話してくれてありがとう、ダイヤちゃん」

「りさちん…」


私の手の上に、りさちんの手が重なる。

りさちんの力強く大きい優しさがダイヤちゃんにも届いたのか、陰っていたダイヤちゃんの顔に光が戻ってきたように見えた。





「と・こ・ろ・で~~」


りさちんの手がぎゅうっと私とダイヤちゃんの手を握りしめる。


「たかちゃんとはいつ出会ったの?!」


さすがりさちん。

またさらに場の空気が恋バナモードに切り替わる。

ダイヤちゃんもりさちんの勢いに目を丸くしたけれど、緊張がゆるんだのか、今までで一番17歳っぽいダイヤちゃんの顔で笑った。


「実はね、午前の演習、水樹君と同じ救援部隊にいたの。水樹君とは違う管轄で、見回りしていたとき、大事なお守りを落としちゃって…」


そう言って高いポニーテールをさっとほどくと、結んでいたリボンを見せてくれた。

リボンは白と黒が裏表になっていて、よくみるとダイヤモンドのような模様が刺繍されていた。

仮面ランナーDの名シーンで、ランナーの寅次郎がヒロインのピンチを救う時にプレゼントするのだそう。

しかも実際にドラマで使われたもので、抽選1名のところ見事当選したそうで、そのシーンが大好きなダイヤちゃんは、寅次郎のように強く優しく、そしてヒロインのように可憐になると誓い、お守りとしていつもヒロインと同じ髪型に髪を結っていたのだと教えてくれた。


「でも休憩中に一人で探しても見つからなくて…もう見つからないかもって諦めかけたとき、誰かに声をかけられたの。もしかして、これ探してる?って。でも逆光でよく見えなくて…お礼も言えないまま彼、すぐ演習に戻ってしまって…」


それに仮面ランナーDのリボンだってバレたかもしれないって内心焦って、よけいに何も話せなかったそう。


「そしたら模擬戦にでた彼をみたとき…あの人だってわかったの。…それに模擬戦後に楓に声、かけてたでしょう?」

「あ、そういえば…炎の勝ち方教えるね~って言ってた…」

「その声を聞いて確信したんだ…彼がこれを見つけてくれた人だって…」


と、ダイヤちゃんはリボンを大事そうに見つめながら、きっと博貴のことを思い出していたのだろう。

だってダイヤちゃんから恋する乙女の輝きがあふれ出て、ダイヤちゃんをかわいく映すのだから。


「じゃあさ!夕飯の時、たかちゃんにお礼、伝えよう!」

「それがいい!!楓ちゃん、ナイスアイディア!!」

「えっえっでも…なんて声かけたらいいのか…」


あわあわと慌てるダイヤちゃんをよそに、私とりさちんはダイヤちゃんお礼計画を立てはじめる。

そんなことになってるとは知らない本人は、「1回戦だけじゃ足りな~い!」と急いで着替えを済ませ再び練習場に戻り、2回戦目に夢中になっていた。



続く

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