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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
55/152

ー55-

その後も3人の攻防戦は白熱し、決着がつかないまま20分が経とうとしていた。

3人の戦いは私の好奇心を刺激し続けた。

なぜなら同じ技を繰り返されることがなく、ゆうた君と博貴の技でさえ見たことがない技が繰り広げられていた。


「すごい…今のはさっきの応用の応用技で新しい技になってる…」


一つの技を使いこなすだけでも練習が必要なのに、3人はまさに戦いの中で成長しているようだ。

お兄さんもやけにゆうた君と博貴を「予想してたよりいいね!」とべた褒めしてるくらい。

でもふうちゃんに対しては「まだまだだね」と厳しい愛の鞭。


「不思議!水樹君と模擬戦してるとどんどん新しい技思いつく…!」

「今思いついたようには思えないくらい、火野君使いこなしてるみたいだけど?!」


コートではいま、ふうちゃんとゆうた君の一騎打ちで、水の青と炎の赤が交互にコートを染める。

ゆうた君にとって水属性は弱点であるはずなのに、引けを取らない熱量で、ふうちゃんもより勢いを増す。

一方、博貴はコートの隅で顎に手を添え、見るからに何か考え込んでいた。


「たかちゃん、なに考えてるんだろう?」


ふうちゃんは何度か博貴を狙おうとチャンスを伺ってる様子だったけど、ゆうた君がそれを防いでいるようだった。

すると何か閃いたようで、練習場に響くくらい手を叩いた。


「ゆうた~~~!!きて~~~~!!!」


そしてゆうた君を呼ぶ声と同時に、どんどん大樹に成長していく。


「今度はなに思いついたの?その姿ならさっきも見たよ」


と、ふうちゃんが悪戯に煽ると、博貴はニカッと笑った。

その間にゆうた君は博貴の足元に駆けつけ、博貴の肩に飛び乗った。


「どうしたら水樹君の本気が見れるかな~って考えてたんだ~。まだ俺らに手加減してくれてるでしょ?」

「そんなことはないよ。二人ともどんどん応用してくからこれでも必死だよ?」

「ん~ん。水樹君の本気はこんなもんじゃないね。だって目、赤くなってないもん」


博貴の言う通り、波多野戦ではふうちゃんの瞳が赤く変化してざわついていた。

だからふうちゃんはまだ二人に対して遠慮していると感じているのだろう。


「俺たち、またあの水樹君が見たいし、あの水樹君と戦いたい」

「このままでも楽しいけど~、やっぱり血が騒ぐんだよね!」

「佐藤君…火野君…」

「だから~今考えた最強作戦で勝ったら、俺らのこと苗字呼び禁止ーー!!」


そう宣言すると博貴はゆうた君に「ゆうたぁ!俺に火、つけて!!」と自らを追い込むようなことを言い出した。

私が驚く間もなく、ゆうた君はためらうことなく、博貴の全身に炎を広げた。

弱点である炎を全身に浴びて、苦しいはずなのに博貴の顔は楽しそうに笑ったままだ。


「…ありがとう、二人とも」


博貴とゆうた君の熱を受け、ふうちゃんの力がフッと軽くなったように見えた。

そしてふうちゃんをまとっていた水の結界が消え、はらはらと雪がふりはじめた。


「ここからは本気でいかせてもらうね」


その瞬間、ふうちゃんの瞳は赤く光を帯び、目に映る練習場全てが真っ白になった。


「これこれぇ~!!って寒い痛い寒いよゆうた~~!!」


ふうちゃんの起こす吹雪に博貴とゆうた君の火が弱まったが、ゆうた君の機転により二人の姿がはっきりとわかるくらい燃え上がった。

でもそのおかげでふうちゃんが巨大化した博貴の目線を超える高さまで飛んでいて、ふうちゃんの背後には無数の氷の矢が待ち受けていた。


「ふっふ~ん!!それならこうしちゃうもんね!!」


博貴はふうちゃんの攻撃にひるむことなく、炎が消えた右手で全ての矢を受けきった。

というよりも、博貴の右手に溶け込んでいくように見えた。


「うまくいってよかった」

「ゆうた、ばっちり~!!」

「なるほどね、受ける時は樹属性に戻って水として吸収したんだ。火野君の熱で溶かして」


ふわっと着地しながらふうちゃんが解説をする。

二人のチームワークがなせる業だね、と言いながら。

博貴とゆうた君の連携に、お兄さんとりく先生も興味津々といった様子。


「ほんと、佐藤君と火野君はおもしろいこと考えるね」

「このくらい勉強もやってくれるといいんですけど…」

「さ~て、大雅はどうでるかな~?」


お兄さんとりく先生が隣でそんな会話をしていたけれど、私はもう祈るように、ふうちゃんしか見えなくて、ふうちゃんの声と音しか聞こえなくなるくらい、全神経がふうちゃんに集中していた。



「それじゃ、次はこっちのば~~ん!!いくよ!ゆうた!」

「タイミングはお前に合わせる!!」


今度は左手を銃のように構えた博貴。

するとボロボロと大きな樹皮が剥がれ落ち、それらを次から次へと固めては燃える火球を野球のようにふうちゃんに向かって打ち始めた。


「二人って野球部だったの?」

「スポーツはなんでも好きだよ!今度は水樹君も野球やろうよ!」

「北都にいいグラウンド、あるんだよ」


3人は楽しく会話しているようだけど、ふうちゃんの何倍もある火球が何個も何個もふうちゃんの横をかすっていく。

ふうちゃんは微動だにせず、吹雪の風で火球の向きを変えている。

それでもギリギリのところに飛ばすので、ハラハラしているとガンッと大きな音が鳴り、私の心臓がぎゅっとなった。


「あたった~!?」


ふうちゃんが立っていたところに一番大きな火球が当たり、炎でふうちゃんの姿が見えない。

私の手に冷や汗がたまる。


「…野球なら、今もう、できるよ」


火球の影からふうちゃんの姿が見えた。

どうやら素手で火球を受け止めていたようだ。

無事でほっとしていると、ふうちゃんの手元に吹雪が見えないバッドのように集まってきた。

ただでさえ規格外な光景なのに、ひとつのバッドに収束した吹雪はブラックホールのように未知のものだった。


「ねぇ、ゆうた、あれちょっとやばくない??」

「そうだね、ちょっと想定してなかった」

「ゆ、ゆうた~つかまってて~~~!!」


二人が慌てるのも無理はないだろう。

それくらいふうちゃんが打ち返した火球は隕石のようだったから。


「的が大きいから当てやすかったよ」


と、余裕そうなふうちゃん。

火球の隕石を真正面から受けた博貴は床に倒れ込み、ゆうた君もなんとか床に着地できていた。

でも博貴を覆っていたゆうた君の炎は消え、先端は炭のようになっていた。


「わぁ~水樹君の雪、キラキラしてるや~」


仰向けに倒れ込んだ博貴が目にしたのは、ふうちゃんの雪だった。

ゆうた君も博貴につられて見上げると、しまった!という顔をした。


「博貴、起きろ!!」

「え?なんでぇ?」

「ダイヤモンドダストだよ!」

「なぁに~それ??」


呑気そうに床に倒れこんだままの博貴。

ゆうた君はそんな博貴に対し、なんとかふうちゃんに攻撃を仕掛けようとしたがどうやら間に合わなかったようだ。


「あ…れ??なんか、身体、動かないかも…?」

「だから言ったのに…」


博貴とゆうた君の手足がパキパキ静かに音を立てながら凍っていくのが見えた。


「よく気づいたね、火野君。そう、ダイヤモンドダストだよ。大気中の水蒸気を氷結させるから気づかれにくいんだけどね」

「さっき博貴が取り込んだ氷にも誘発術仕込んでたんだね。おかげで廻りがはやいや…」


瞬きするたびに、二人がどんどん凍っていき、完全に動けなくなってしまった。

そして…



「う~~~悔しいけどこうさ~~~ん!!!」



と叫ぶ博貴の声が練習場に響き渡った。




氷化も溶け、自由に動けるようになった博貴とゆうた君。

ふうちゃんの瞳もいつものこげ茶色に戻っていた。

そして二人のもとに歩いていくふうちゃん。


「二人ともありがとう、俺の本気と戦ってくれて。またやろう、ゆうた、博貴」


そう言って右手を差し出した。


名前で呼ばれた二人は驚いた顔を見合わせ、今日一番の笑顔でふうちゃんの手を握り返した。


「次は負けないからね~大雅!!」

「こちらこそありがとう、大雅。次は最初から本気でいくからね」


大好きな人と、大好きな友人たちが仲良くなる。

そんな幸せな空間に私の胸は模擬戦の興奮を鎮めるかのように、じんわりと温かくなった。


《ふうちゃん、かっこよかったよ》


と、魔法でメッセージを送ると目が合い、顔をくしゃっとさせながら

《えでかが応援してくれたからね》

と、メッセージを返してくれた。


でもね、本当にかっこよかったの。

ふうちゃんは気にしてるかもしれないけど、ふうちゃんの赤い瞳に見とれるくらい、本当にかっこよかったの。




「3人ともお疲れ様~。いいもの見せてもらって楽しかったよ。あとで好評してあげるから、風邪ひく前に着替えてきなさい」


と、お兄さんがマイクで3人に声をかける。

お兄さんに言われるまで気が付かなかったけど、ふうちゃんの氷化で北都ジャージがびしょ濡れになってしまっていた。

明日には持ち帰らないといけないので、寮の洗濯機を借り、乾くまで東都ジャージを貸してもらうことになった。


「じゃぁ案内してくるから、えでか、またあとでね!」


大きく手を振りながら練習場をあとにするふうちゃん、ゆうた君、博貴の3人。

私もふうちゃんに負けないように大きく手を振り返した。



時計は15時をすぎたところだった。

りさちんとダイヤちゃんの模擬戦も終わり、見学スペースにあがってきた。


「りさちん、ダイヤちゃん!お疲れ様!」

「も~ダイヤちゃん強すぎ~!!」

「りさちんこそ、私より体力あるから先にギブアップしそうだったよ」

「ふふ、あとで録画みながら話きかせて!」


そんな女子トークをしつつ、これからの女子会に胸膨らませていると、お兄さんが声をかけてきた。


「えでかちゃんはこれから女子会?いいね、楽しそう」

「はい!ダイヤちゃんと仲良くなりたいなと思って!」

「食いすぎて夕飯食えなくなるなよ~」


いつものりく先生の意地悪に、ほっぺを膨らませて対抗する私。


「ここは閉めておくから、楽しんでおいで」

「ありがとうございます!」

「僕らも3人の好評しにいくから、夕食でまた会おうね」

「お前らの録画もみてやるから、いつでも持ってこい」


りさちんとダイヤちゃんも嬉しそうに返事を返し、私たちはお兄さんとりく先生に後を任せ、女子寮に戻った。




続く

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