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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
54/151

ー54-

「じゃぁルールはこうね!俺もゆうたも水樹君も一対二!タッグを組んで攻撃してもいいし、変えてもOKのなんでもあり戦ね!」

「うん、それでオッケーだよ」

「じゃぁ開始の合図はどうしようか?」

「う~ん、そうだなぁー…」


コートの中心に集まってルール確認をしていた3人。

開始の合図をどうしようか博貴があたりをきょろきょろしていると、見学スペースに目を向けた博貴と目が合った。

昨日見学したときはコートから見学席は見えないようになっていたが、ふうちゃんが視認ありで申請をしてくれたようで、こちらからの声も届くようにマイクも準備されていた。

申請ひとつでここまで臨機応変に練習場の仕様を変更できるなんて、さすが東都高校の設備は最新だなと思わせた。



「あ!!楓~!!合図して~!!」

「えぇ!!わたし!?!?」


突然指名されて戸惑いつつも、いいアイデアを閃いたと喜びあふれんばかりに飛び跳ねる博貴の姿をみたらきっと誰も断れない。


「えでかが合図してくれたら俺、有利になっちゃうな~」


ふうちゃんが腰に両手を添え、自信満々は顔で持ち場に立つ。

ゆうた君と博貴もそれぞれ持ち場にたち、3人の準備が整ったのを確認し、私はマイクに向かって声をはる。



「じゃぁいくよ~…すぅ…模擬戦、開始!!」



普段戦闘倶楽部では治療部隊に所属しているため、開始の合図をしたのははじめてだった。

なので席に戻っても胸がドキドキしてる。

コートに目をやると、3人はまだ持ち場から一歩も動いていなかった。



「あれ?二人ともかかってこないの?」

「どうしようかな~って考えてるところ~」


ふうちゃんも意外そうに聞きつつも、立ち姿に隙がない。

もしかしたら考えているところだというのは、ふうちゃんの隙をつくる作戦なのかもしれない。


「よし、決めた!!」


博貴の声が声高らかにすると、博貴の手足が樹齢何千年もするような幹に変化し、身長も10メートルくらいに成長した。

そして博貴自身の跳躍力をいかし、三つ巴で向かい合っていた中心に向かい高くジャンプした。


「まずはゆうたからいくよ~!!」

「俺もそう思ってたところ」


ふうちゃんはゆうた君の弱点である水属性で博貴をアシストするように、博貴の周りを螺旋に廻る水の結界をはり、ふうちゃんの背後からどこからろもなく水があふれだした。

そして一瞬で天井まで届き、その光景はまるでふうちゃんが海を割ったときのようだ。


「ゆうた~~覚悟~~!!」


二人からターゲットになったのに、ゆうた君は静かにじっと動かずにいた。

そして勢いよくゆうた君の真上に着地した博貴。


「佐藤君、飛んで」


ふうちゃんの合図で博貴はさっきよりも高く飛び、ふうちゃんが創った海の中にゆうた君は飲み込まれていった。



「わ…!ゆうた君…大丈夫かな…」

「火野君なら大丈夫でしょ。大雅のタイミングがちょっと遅かったからね」

「えぇ、博貴が油断していなければタイミングばっちりできたんでしょうけど」


私を挟んで解説がはじまった。

私は心配することしかできなかったから、尊敬する二人の冷静な解説が戦闘の観方の勉強になりそうで役満だった。


「おっとっと…!」


博貴が床に着地までの滞空時間に合わせて波が引いていく。


「博貴は豪快なのはいいんですけど、着地のこと考えずに飛ぶのがなぁ」

「たかちゃん、計算苦手ですもんね。だから合同演習の模擬戦でも着地が速すぎて火の海に落ちてましたよね」

「たまたま貯水してたからなんとか勝てたけど、貯水にも限度があるだろうに」

「佐藤君のいいところは周りを味方につけるところだね」


お兄さんの言う通り、博貴は万人に好かれる魅力を持っている。

それは人柄や外見だけが理由ではなく、博貴が樹属性であることが関係しているのだと言う。

「人間は自然の力なしでは生きていけないからね」と教えてくれた。


博貴は合同演習での反省を活かし、大きく成長させた自身の身体を解除し、もとの大きさに戻すことで滞空時間を伸ばした。

波が完全にひいたことで、ゆうた君がいた位置が大きく凹んでいるのがわかった。


「あれ…ゆうた君は…?」

「あそこにいるよ♪」

「りさちん!ダイヤちゃん!」


躍った声に振り返ると、走り込みを終えたりさちんとダイヤちゃんが見学スペースにやってきていた。


「あれ、楓ちゃん、前髪どうしたの?」

「えへへ、イメチェン♪」

「かわいい~!でもなんか懐かしいねー!」

「それ、ふうちゃんにもお兄さんにも言われた」


前髪が短くなった私に会う人は、やっぱり開口一番、前髪のこと聞くんだなと思ったし、小学生のころから知ってる人は「懐かしい」が感想なのがおもしろかった。


「ふふ、でも本当に楓に似合ってるよ」

「ダイヤちゃんもありがとう!ところでりさちん、ゆうた君はどこにいるの?」

「あそこ、よく見てみて」


りさちんが指さす方向を見つめても、ただなにもない空間で、首を傾けて角度を変えてみても変化はなかった。


「あぁ、なるほど」

「えぇ、ダイヤちゃんも見えるの!?」

「うん、よーく目をこらしてみて?」

「んーーーー」


ダイヤちゃんにも見えるのに、私にはなにも見えなくて、目を細める。

すると私には姿が見えないのにゆうた君の声が聞こえてきて、疑問がわくばかり。


「博貴はそうくると思ってたよ。水樹君の技は初見だったけど、ある程度予想できた方かな」

「あっれぇ!?ゆうたの声がするぅ~!!」

「火野君ならあの程度なんとかするだろうなって思ってたよ」」


ふうちゃんもゆうた君の姿を捉えているようで、いまこの練習場でゆうた君が見えていないのは私と博貴だけみたい。

キョロキョロのゆうた君の姿を探していると、死角から特大の火の玉が博貴の右側面にクリーンヒットし壁に激突した。


「あちちち!!!!!もぉ!!ゆうた!!ずる~~い!!」


激突する瞬間、また体を樹に変化させ防御した博貴だったが、成長が間に合わなかった細枝部分に火がうつり、ふーふーしながら火消ししている。

私にはあの炎が息だけで消せちゃうのだけでも十分すごいことだなと思った。


「楓ちゃん、あのへん、よく見てみて?」


りさちんんがゆっくりと指を動かすスピードにあわせて、目を凝らしてみると、かすかに空間が揺れているのがみえた。


「あれ?なんか、ゆらゆらしてる…?」

「そう、そこにゆうた君がいるんだよ」

「え!?ど、どういうこと!?」


私が困惑していると、りさちんが指さしたところから本当にゆうた君の姿がゆっくりと現れた。


「火野君、それって蜃気楼で隠れてたの?」

「そうだよ、水樹君のアドバイスを応用してみたんだ。どうかな?」

「応用されるとは思ってなかったな。ましてやその中に自分を隠すなんて。演算処理どうなってるの?」


ふうちゃんがわくわくしてる。

表情は変わっていないけど、私にはふうちゃんの目をみればわかる。

自分のアドバイスを、自分が想定していなかった形で技にしてくれて、とても嬉しそう。

そしてそれを超えることが、ふうちゃんにとってわくわくなんだ。




「水樹先生、私たちも女子コート使ってもいいですか?」

「あぁ、もちろんだよ」

「ありがとうございます!やったね、ダイヤちゃん!」

「ふふ、やっぱり二人も模擬戦すると思ったよ♪上から見てるね!」

「じゃぁ楓ちゃん、合図お願いできる~?」

「もちろん!」


こうしてふうちゃんたちの反対側のコートでは、りさちんとダイヤちゃんの模擬戦もはじまり、見逃せない時間が増えた。

でも二人からは「私たちは私たちで楽しむから、楓ちゃんは水樹君のこと応援してていいからね」と言ってもらえたので、今夜の女子会で録画をデザートにしたいと思う。



席に戻るとゆうた君が博貴にお返しとして攻撃をしかけたところだった。

ふうちゃんは引き続きゆうた君に狙いを定めていた。

博貴はふうちゃんの標的が自分のように見せかけてゆうた君なことに気づいたようで、わざとゆうた君の網にかかった。

すると一瞬で燃え広がり、目を覆いたくなるような光景にかわった。


「火野君はさ、遠慮がないよね。だから北都支部から声かかったんだろうね」

「でも博貴も広報課からスカウトきてるんですよ。だからもうひと策ありますよ」


と、りく先生が予想した通り、全身に燃え広がった炎は突如ザッパン!!と爆発したかのような水で消化された。


「佐藤君、いまのって…」

「水樹君のアドバイスの応用だよ~!!応用できるのはゆうだけじゃないんだから♪」


樹皮をパラパラと落としながらけろっとしている博貴。

そういえば交流会のとき、ふうちゃんから「水を貯えるんじゃなくて循環させるといいよ」とアドバイスをもらったと博貴がいっていた。

でも私の目にはどこで循環が行われていたのか全く見当がつかなかった。

なにせ巨大な水風船が爆発したかのように、ダムの放流のように水が落ちてきたのだから。


「佐藤君は樹冠に蓄えてたんだね」

「樹冠…ですか?」

「ほら、よくあるだろ?雨がふった翌日、蹴ると葉にたまってた滴がいっきに落ちてくるやつ。いまのはそれだろう」

「…よくあります?」

「…言葉の綾だ。今のは忘れろ」


ゆうた君の隙をつこうと背後から狙っていたふうちゃんも、博貴の応用に見入ったのか攻撃の手がとまってしまった。

その様子をお兄さんは「僕だったらいまので7回は降参させてたな」と呟いた。

お兄さんもりく先生もふうちゃんの戦闘に対して甘くないところが、二人の優しさだなと感じた。


「水樹君、一緒に博貴狙ってると見せかけて俺に冷気おくってたよね」

「残念、ばれてたか~。こればれたの兄ちゃんとりくさん以外で初めてだよ」

「いつも体温あげるようにしたから、今まで気づかなかったことにも敏感に反応できるようになったんだ。水樹君のおかげで」

「アドバイスする相手間違えちゃったかな」

「それに水樹君の性格的に、標的は変えない気がしたんだ」


私はゆうた君がそこまでふうちゃんの戦略を読んでいたことに驚いたし、ふうちゃんも不意を突かれて模擬戦がはじまって初めて目を丸くした。


「あはは!火野君はおもしろいところに目をつけるなぁ!」


声をあげて笑うお兄さんにびっくりして、私は理由を聞いてみた。


「理由はえでかちゃん、君だよ」

「私が理由ですか?」

「見ろ、大雅さん顔赤くなっての隠してる」


ニヤニヤ笑うりく先生に言われてふうちゃんを見ると、確かに赤くなった顔を腕で隠しているが、隠しきれていなくてより赤くなってる。


「火野君はね、大雅の一途さが戦いにもでるだろうって予想してたんだよ」

「だからお前が理由ってわけ」

「あ…」


両隣が声高らかに笑っているなか、私まで熱くなってきて、鏡をみなくても真っ赤になってるのがわかる。


《ふうちゃん、私たちいま、おそろいだね》

と、魔法を送るとふうちゃんと目があい、お互い笑いあった。




続く

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