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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
52/151

ー52-

「ふたりとも、自由時間は楽しめたかい?」


後ろから肩をポンっと叩かれて、声の正体に気づきながら振り返ると、お兄さんとりく先生が立っていた。


「兄ちゃんたち、終わるのはやすぎ」


と、ふうちゃんは文句をいうので、そんなふうちゃんがかわいくて口元がゆるんだ。


「えでかちゃん何か食べれたな?」

「はい!ふうちゃんとカフェでケーキ食べました!ごちそうさまでした!」

「昼飯前にケーキかよ…」


満足そうなお兄さんと、本気で引いてるりく先生。

甘い物に時間関係あります?と聞き返すとなぜか謝られた。


「さ、さっそくランチにしよう。えでかちゃん、お腹に余裕はあるかな?」

「いっぱいあります!」

「あはは、元気でよろしい。食べたいものはあるかい?」

「ん~~~~~~」


私は頭を悩ませた。

なぜならとても一つに絞れそうにないからだ。

飲食店エリアを歩きつつ、鼻を頼りに選んでいると、ある匂いが脳天をつきぬけ胃袋を刺激した。


「えでか、ここにする??」


ふうちゃんは私と同時に足をとめた。

私が選んだのは、スターツリー限定店とかでも、東都の人気店でもなく、チェーン店の定食屋さん。

もちろん定食といっても、東都らしくおしゃれで栄養バランスもとれた定食だ。


「えでかちゃんがいいならここにしよう」

「そうですね。逆にデカ盛りパフェとかパンケーキの店じゃなくて安心ですし」

「…先生、私のこと食いしん坊だと思ってません?」

「あーちょうどすいててよかったな、立華!」


誤魔化すように私を無視してお店に入っていく先生には、いったい私がどう見えているんだろう…。




案内された4人掛けのテーブルに座ると、水を運んできてくれた店員さんが申し訳なさそうにこう言った。


「お客様、申し訳ございません~。本日ランチメニューがほとんど売り切れてしまって、こちらの夏野菜カレーかスパイシーチキン定食のみとなっております~」


待たずに入れたのはランチメニューがほとんどなくなってしまっていたからだった。

それでも私は構わない。



「あの…みんなで夏野菜カレーにしたいです」

「そう?じゃぁ夏野菜カレー4つお願いね」

「は~い、夏野菜カレー4つですね~。かしこまりました~」


私の提案にはてなマークを浮かべながらも、3人はとくにどちらでもよかったそうなので快く提案にのってくれた。

同じものを頼んだからか、夏野菜カレーはすぐにやってきて、4人掛けのテーブルが狭くなる感じだった。




「わぁ~!いただきまぁす!」


チェーン店とはいえ、さすが東都のお店。

トマトの酸味とカレーのスパイスが絡み合って、茄子もトロトロ。オクラもシャキシャキで触感がよくて、大きく盛り付けされたピーマンも絶妙に焼かれた香ばしさが食欲をそそる。

付け合わせのお味噌汁とお漬物もお口直しにはもってこいで、何度もカレーの辛すぎないけれども奥深いスパイスを新鮮に感じられる。


「ほんと、えでかちゃんはおいしそうに食べるねぇ」と、お兄さんはニコニコしながらカレーを綺麗に食べる。

一方りく先生は「で、なんでみんなでカレーにしたかったんだ?これか?」と、一番大きな茄子をとって私のお皿にわけてくれた。

ふうちゃんはお肉を増量してもらい、具沢山のカレーをご機嫌で頬張っている。



私はこの光景が見たかった。

私の鼻がとらえたのは、美味しいカレーの匂いじゃなくて、この光景の匂い。



「こうすると、みんなで給食食べてるみたいだなって思って…」



4人掛けのテーブルで向かい合って、みんなで同じものを、ワイワイしながら食べる時間。

懐かしくも二度と戻れない時間。

年の違うお兄さんとりく先生と一緒に給食を囲むなんて当時はありえなかった。


「えでかちゃん…」

「…お前…」


私の提案が子供っぽすぎたのか、二人の手がとまっていた。

ふうちゃんも手をとめて、ニコニコ私の顔を見つめている。


「えでか、またみんなでご飯食べよう」

「うん!」

「これからもいっぱい一緒食べようね」

「うん、そうだね♪今夜もみんなで食べようね!」

「う、うん…」


お兄さんとりく先生が、ふうちゃんをいじる時の顔をしてる。


「大雅にはこのカレー辛かったのかな~?」

「大雅さんは舌もおこちゃまなんですね~」

「うるさい!」

「え、ふうちゃん辛かった?牛乳飲む?」

「えでかまで~!」


二人がどうしてふうちゃんをからかってるのかわからないけど、顔が真っ赤のふうちゃんがかわいくて、もっと赤くしたくなったよ。




「ごちそうさまでした~!」

「えでかちゃん、満足したかな?」

「はい!とっても美味しかったです!」

「その顔みりゃわかるよ」


空になった綺麗なお皿は店員さんが片付けてくれ、食後のお茶を飲みながっらまったりしはじめた私たち。

給食を食べ終わったあとも、こんな風に時間までだらだらお喋りしていたなと思い出すと、小学生の時から変わってないんだなと思う。


「じゃぁ落ち着いたし、デザートの時間にしよう」

「え!!」


「デザート」という言葉には異能でもあるのだろうか。

夏野菜カレーでいっぱいになったお腹に隙間ができるんだもん。


すると店員さんがやってきて、メニュー表を渡すわけでもなく、私の目の前にだけあるものがやってきた。



「…とうとりんの生クリーム大福だぁ…!!」


白くてやわらかいお餅は繊細に猫型に耳までつけられ、チョコレートでかわいい顔がかかれている。


「えでかちゃんが食べれなくて落ち込んでたってきいて、残ってもらうようにりくにお願いしたの僕だから、罪滅ぼしだよ」

「で、でもこれ期間限定で昨日までだったはずじゃ…」


そう…東都タワーや東都駅など主要駅など、東都の数か所でしか販売されておらず、期間も昨日で終了したはず。

そのとうとりんの生クリーム大福が、なぜか私の目の前にある…。


「ふふ、ちょっと伝手があってね。頼んでみたら快く作ってくれたんだよ」

「そ、そんな…」

「よかったね、えでか」


あんなに食べたくて仕方がなかった生クリーム大福なのに、今はもったいなくて手をつけることすらできない。

大げさかもしれないけど「私なんか」が長くて「私なんて平凡なのに」がしみついた体には、染み入るような幸せだ。

私のことを思って、これだけのことをしてくれる人が身近にたくさんいるんだから。


これも全部、ふうちゃんのおかげ。

ふうちゃんが「私なんか」の世界を変えてくれた。




「…ふうちゃん、半分こしよ?」


私は2つならんだ生クリーム大福を、ひとつはお兄さんとりく先生に。

もうひとつはふうちゃんと、みんなと一緒に食べたくなった。


「じゃぁえでかちゃんのご厚意に甘えて」

「俺は甘い物苦手なんですけど、せっかくなんでいただきますか」


パクリと分けて小さくなった大福を一口したりく先生は「あ、そんなに甘くなくてうまいじゃん」と目をまるくした。


私とふうちゃんの分に半分こした生クリーム大福は、生クリームが入ってるだけあってやわらかくて、あっという間にとうとりんの顔が崩れちゃった。


「はい、ふうちゃん。あーん」

「え!!え、えでか!?」

「あ…つい…」


ふうちゃんの分をもったら生クリームがこぼれそうだったので、ふうちゃんの口に運ぼうとしたけど、お兄さんとりく先生に見られていたことを忘れていて、ゆっくりとお皿にもどした。

するとさすが大人な二人は、両手で目を隠して「見てないよ」と無言でアピールしてくれた。



「えへへ。じゃぁ気を取り直して…はい、ふうちゃん」

「…ほんとにやると思わなかったよ」


もう一度ふうちゃんの口に生クリーム大福を運ぶと、ちょっと照れながらあーんと食べてくれた。


「うん、おいしい。生クリームと大福って合うんだね」

「そうでしょ!?賞味期限も本日中だから通販もやってないんだよ~」

「じゃぁ、次はえでかの番」

「ん?」


と言ってふうちゃんは私が持っていたお皿とフォークをとって、生クリーム大福を持ち上げた。


確かにこれは恥ずかしいと思ってチラッとお兄さんとりく先生を横目でみると、まだしっかり目隠しをしているようだった。

幸い席も死角になっていて、一目の心配はないけれど、こんな恥ずかしいことを私はなにも考えずにやっていたのかと追い打ちをかける。


ふうちゃんはさっきの仕返しとばかりにぐいぐい生クリーム大福を運んでくる。

ちょっと意地悪な顔したふうちゃんもたまらなく私の胸を苦しくさせる。


「はい、あーん」

「…ん!」


思い切って生クリーム大福にかぶりつく。

するとお餅のやわらかい触感がとろけるようにやさしくて、生クリームとつぶあんのバランスの最高で、しっかり甘味はあるのにしつこくない職人技が口の中で光った。


「…おいひい…!!」

「えでか、よかったね。みんなで分けて食べれて」

「うん!!」


私、りく先生に思われてるように食いしん坊なのかもしれないけど、食欲よりもふうちゃんとまたこうやってご飯を食べたり、みんなでワイワイしてる時間のほうが美味しくて幸せなんだ。

強くなって、この時間を守りたいと思うくらいに。



「ある意味ごちそうさま♪」

「さ、熱くなってきたし、そろそろ寮に戻りますよ~」

「あ!!二人ともみてたな!?」

「え!!」


私が確認したときはしっかり目隠ししてたはずなのに、いつの間にか隙間から見られていたらしい。


「でも立華は筒抜けでも平気なんだろ~?」

と意地悪をいう先生にはこう言い返すんだ。



「ふうちゃんだからいいんです!先生はだめ!」



冗談半分、本気半分で言ったことが、実は意外と傷ついてたみたいだよ、とふうちゃんに教えてもらうとはもうちょっと後のことだった。



続く

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