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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
51/151

ー51-

「ふぁ~おいしかったぁー!ふうちゃん、ごちそうさま!」

「えでかに元気がもどってよかった」


通常ならランチ帯は1時間は待つといわれるスターツリーカフェ。

ちょうどオープン直後だったので運よく並ばずにお目当ての季節限定メロンショートにありつけた。

それにどちらにしようか悩んだ人気メニューのオペラをふうちゃんが頼んでくれたので、どちらも味わうことができた。

セットの紅茶も香り高くて、香りだけでケーキが進んじゃうくらいとても美味しかった。

そして東都タワーとのコラボした記念コースターも2枚手に入れることができた。

とうとりんは猫のキャラクターなので、猫好きな私を誘惑するのだ。


「えでか、つぎ行きたいところある?」

「ん~そうだなぁ…」


お腹が満たされた私は修学旅行のために調べた情報を思い出してみたが、どれも食べ物の情報しかないことに気が付いた。

私ってもしかして食いしん坊なのかもしれない。


「じゃぁ歩きながら見てみようか?気になるお店があったら入ってみよう?」

「うん!」


スターツリーの展望フロアは外側に展望エリアが広がっており、内側には人気のカフェやお土産屋さんがたくさん集まっているので、ここだけで半日は過ごせそうである。

目立ってしまうのではと気になっていた戦闘服と制服も、お兄さんの術で流行りのファッションに映るようになっているようで、気にせず楽しむことができそう。


「さすがにすごい人だね。お祭りなのかと思っちゃう」


土曜日の人気観光スポットということもあり、展望エリアはどこも人であふれていた。

うっかりするとはぐれてしまいそうだけど、つないでいるふうちゃんの手がそんなちっぽけな不安も消してしまう。


「えでか、あのお店みてみる?」


と、ふうちゃんが指さすお店は


「とうとりんショップ!!!」


私の好みを掴んで離さない、とうとりんのぬいぐるみがたくさん並び、北都では手に入らないとうとりんグッズが宝石箱のように私を呼んでいた。


「行く!行こう!ふうちゃん!」

「ははは!慌てなくてもとうとりんは逃げないよ!」


私に強引に引っ張られるようにとうとりんショップに入るふうちゃんは、私の目にはとうとりんよりもかわいく映った。




とうとりん成分をたっぷりあびて満足した私たちは、展望エリアに座り、東都タワーが見える景色を楽しんでいた。

ちょうどランチタイムもはじまったことでさっきよりも少し人の流れが落ち着いていた。


「えでか、とうとりんのぬいぐるみ買わなくてよかったの?」

「うん、見れただけで満足だよ!それに買っても置くところないから…」

「えでかのベッド、ぬいぐるみでいっぱいだもんね」


小さいころからの名残というか、癖なのだ。

ぬいぐるみとか、ぬいぐるみのようにふかふかの枕とか、そういったものに囲まれて眠りたいんだ。


「ねぇ、ふうちゃんのお部屋はどんなお部屋なの?みんな模様替えとかしてるんでしょ?」

「ん~俺はとくに模様替えしてないから普通だけど、綺麗か綺麗じゃないかって問われると、綺麗じゃないかも」

「ふふ、なんとなく想像できた」

「うっ…だいたい合ってる」


なんとなく想像したふうちゃんの部屋は、模様替え前の寮の部屋に教科書やプリントが山積みで、お兄さんとの特訓が終わったら寝るためだけの部屋なんだろうなって浮かんできた。

その想像がどうやら間違っていなかったようで「帰ったら掃除しよう…」と恥ずかしそうにふうちゃんが照れた。


「でも毎日朝早くから結界整備してるんでしょう?たしか4つあるんだよね?授業は間に合うの?」

「うん、平日は1か所だけだから間に合うよ。何もない土日は全部まわるけど、模擬戦とか外せない用事がある日は今日みたいに周れるところだけまわってるからね」

「そっか…じゃぁ私も早起きして朝練しようかな!」

「えでか、朝弱いのに?」

「だって、そしたら朝からふうちゃんに魔法送れるでしょ?」


続けて私が、朝からふうちゃんとお喋りしたいもん、と言うと嬉しそうに微笑みながら顔が近づいてきた。

幸いあたりに人がいないので、ちょっと恥ずかしいけれど目を閉じようとする私。



「ここめっちゃきれいじゃない!?」

「ほんとだ!東都タワー見えるし写真とろー!!」



と、大学生くらいのお姉さんたちがやってきて、慌てて顔を離した。

お姉さんたちは私たちのことなんて眼中にはいっていないようで、写真を撮り続けていたが、誰かに見られてたかもしれないと思うと胸がバクバクした。


「…びっくりしたね」


小声でふうちゃんに話しかけると、ちょっと口をとがらせて拗ねたように「ちぇっ。せっかく今なら兄ちゃんに見られてなかったのに」とぼやいた。

けど、ちょうど大学生のお姉さんたちの大きな「はい、チーズ!!」でよく聞き取れなかった。


「続きは特訓の後だね」

「ふふ、そうだね」


写真に満足したお姉さんグループは、今度はカフェに向かっていくのを尻目に、ふうちゃんと目を合わせながら私は特訓の後に期待に胸を膨らませた。


少しすると混雑の波が再びやってきたので、今から見て回るよりも、ここでお兄さんとりく先生を待とう、ということになった。

それにここなら椅子も離れていて、二人の会話を邪魔されることなさそうだから。


「そういえばふうちゃん、お兄さんとりく先生はどこにいってるの?違うレイヤーにいるのはわかったけど、結界ってどうなってるの?」

「兄ちゃんとりくさんはいま、スターツリーの中心にいるよ。この上の展望の中心に俺と兄ちゃんが異能力を流した器があるんだ」

「器?」

「うん、白尾山神社にはえでかの3倍くらいの水晶があって、濁り具合で異常ないか確認してるんだ」


ふうちゃんは両手をいっぱいに広げて「もっと大きいかも?」と言いながら教えてくれた。


「ここはスターツリー自体が器になってるんだ」

「そうなの!?じゃぁ私たちも、お客さんもみんな結界の中に入ってるってこと?」

「そうだよ。まぁレイヤーが違うから誰も気づかないけどね。ここにはいろんな人が集まるでしょ?だから混ざりやすいんだよ」

「あ…」


お兄さんの言葉を思い出し、魔法で答え合わせをする。


《鬼みたいな人間?》

《半分正解かな》

《違うの?》

《鬼みたいな人間が多いから、人間みたいな鬼が混ざりやすいんだ》


白尾山神社のようにあからさまな鬼や蟲ではなく、鬼みたいな人間にまぎれて結界を目指す狡猾な鬼がスターツリーには集まりやすいそう。


《さっきの女子大学生のグループにもまぎれてたよ》

《え!?!?》


驚きすぎて息をのんだ。

だってこんな目の前に鬼がいて、しかも気が付かなったなんて。


《正確には操られてるって感じかな。一人だけピースしてなかった人いたでしょ?》


ふうちゃんに言われて思い出してみると、確かに5人グループの中で一人だけ声が大きくてはしゃいでいたのに、写真に写る時は声に反して大人しかった人がいた。


《楽しそうにピース!って口では言ってたのにピースしてなかった…》

《まだあの人に慣れてなかったんだろうね、だから行動がちぐはぐだったんだ》

《でも時期に兄ちゃんとりくさんがなんとかするから、えでかは安心して?》


私に何ができるかわからないけどお姉さんをなんとかしなくちゃと立ち上がりかけた私を、ふうちゃんは優しい瞳で見つめてゆっくり頷いた。


「…ありがとう、ふうちゃん。お兄さんとりく先生なら安心だね」


すると安心した瞬間、嬉しそうにカフェ限定の焼き菓子セットを抱えたお姉さんが見えた。


「でしょ?」


と、ふうちゃんが微笑むので、お兄さんとりく先生に心から感謝をした。

ふうちゃんと二人の時間が邪魔されずにすんだことに。

そんな身勝手な私の気持ちもふうちゃんに伝わって、でもふうちゃんの満更でもない顔をみて、あぁこれでいいんだとふうちゃんが好きな自分がもっと好きになった。



続く

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