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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
50/152

ー50-

車は山道を抜け、進むにつれ東都らしい高層ビルや交通量も増えてきた。

都内のほうへ進んでいるのがわかった。

時間はもうすぐ10時になるところだ。


ぐぅぅ~…


「あ」


突如前触れなく私のお腹が車内を響かせた。


「えでか、お腹すいた?」

「う、うん…急にお腹すいてきちゃった…」


私は恥ずかしさを感じる余裕もないほど、電池切れかのように元気がなくなった。

さっきまではあんなに元気だったのにお腹がさみしがっているようだ。


「あと少しで到着するからそれまで頑張れるか?」

「はい…」

「次の場所はスターツリーだから、終わったら早めのランチしようか」

「スターツリーの…ランチ!!」


修学旅行で得た知識が想像力を働かせる。

修学旅行1日目でスターツリーを観光したが、仲見世通りの食べ歩きをメインにしたので、スターツリーではあまり食事をすることができなかったのだ。

なので私のお腹はいっきにお祭りモードになった。


「よかったね、えでか。なに食べたい?」

「うん!この前はスターツリーでは何も食べれなかったんだよね~。でね!東都タワーとコラボメニューやってるお店もあって、記念にコースターがもらえるんだよ!昨日はたかちゃんと軽めにパスタとピザ食べて、コースターもらったの!だからコラボカフェもいいし、でもスター天丼もおいしそうだし、エスニック料理も…う~迷うなぁ~」

「あはは!ほんと食べるの大好きなんだね、えでかちゃん!」

「…パスタとピザが軽め…?」


それからは私のランチ情報で車内がいっぱいになった。

あのお店はスターツリーにしかないお店だとか、あのチェーン店にはスターツリー限定のセットがあるとか、委員長チームはあのお店のお土産クッキーを入手して、とか話しているうちにスターツリーに到着した。


車をおりるとさすが土曜日だけあって、駐車場はすぐに満車になり、大勢の人ですでににぎあわっていた。


「はい、えでか。はぐれないでね」

「うん!それにしてもすごい人だね…昨日よりいっぱい!」


昨日は昨日で他校の修学旅行も重なって、駐車場からすでに高校生でにぎわっていたのに比にならないくらいの人だ。

でもふうちゃんとお兄さんによると、いつもより少ないくらいだと言う。

改めて東都ってすごいなと思っていると、人混みよりも気になることに気づいた。


「すごく…目立ってる気がする…」


さすが人気の観光スポットということもあり、老若男女から海外の観光客まで集まっているなか、戦闘服をきたふうちゃんとお兄さん、スーツを気崩したりく先生、北都の制服を着た私たち。

目立つというよりも、とても観光にきたとは見えず、浮いているようだった。


「それなら大丈夫だよ、兄ちゃんの術で一般人に見えないようになってるから」

「そうなの?」

「うん、終わったら解呪するから安心してランチ食べれるよ。それに結界もここにあるようで、ここではないところにあるからね」

「???」


私は首をかしげていると、みんなが見てるレイヤーとは違うレイヤーにあるんだと、りく先生が説明してくれた。


「いま俺たちは特殊結界の中に入ってるんだ」

「え!?全然気が付かなかった…」

「この特殊結界に入ってる者じゃないと、ここの結界は受け入れてくれないんだよ」

「なるほど…だからレイヤーが違うと…」

「お前もだいぶ賢くなったな」


ふっと柔らかく笑うりく先生は、ポンポンっと私の頭をなで「あ、やば」と、慌ててふうちゃんの方をみた。


「…別に大丈夫ですけど?」

「…目が笑ってないんですよ、大雅さん…」


こんな話をしながら歩いていると、観光客が少ないほうに進んでいることに気づいた。


「職員専用入口?」

「俺らが入るのは別の入口だけどね」


ふうちゃんがそう言いながら一緒に足を踏み入れると、視界の色が反転した。

カメラのフィルターがかかってるみたいで、目がチカチカしてしまう。


「うぅ~~目がぁ~」

「えでか、目つらい?」

「うん…平衡感覚がおかしくなりそう~…」


見慣れたはずの制服も、ふうちゃんの戦闘服も動くたびにチカチカ色が変わって、頭での処理に時間がかかる。


「えでか、目つぶって?」

「うん…?」


白尾山神社のときみたいにふうちゃんは私の目元に手をあてた。

するとあたたかい熱がじんわりと目の奥に広がっていき、チカチカした光が頭の後ろに抜けていく。


「あったかい…」

「目、あけてもいいよ」


ふうちゃんに言われてゆっくりと目をあけるとさっきまでの反転世界とは変わり、もとの世界になった。

いつもよりも視界がクリアだ。


「ありがとう、ふうちゃん」

「うん、さ、いこう♪」


ふうちゃんの顔がいつもより大人っぽくみえるし、見守ってくれていたお兄さんとりく先生も優しくみえた。



人が一人もいない、レイヤーの違うスターツリーを進む私たち。

展望デッキ行のエレベーターに向かっていることに、少し違和感を感じていたことに気づいた。


「ねぇ、ふうちゃん。ここにも鬼がでるの?」


そう、その違和感とは白尾山神社のようにそもそも人の気配がない山奥と違い、観光スポットだということ。

こんなところに結界があるようには思えないし、もしここに結界を解こうと鬼が集まったらパニックになるだろう。


「うん、いるよ」

「でも白尾山神社みたいになったらパニックになっちゃうんじゃない?」

「それなら大丈夫だよ。さっき言ったけど、鬼も結界が目的だからね。観光よりも結界のレイヤーに向かってくるからパニックにはならないよ」

「まぁ中には鬼のような人間もいるけどね」


お兄さんの声は少し悲しみと、苛立ちを含んでいるように聞こえた。


「…でもそれはここに限った話じゃない。鬼に傾倒している人間だっているし、自分の都合のいいように他者を陥れたり利用する人間も多いんだよ。大人の世界はとくにね」

「そっか…」


世の中善人ばかりではないことは頭ではわかってはいる。

SNSでの誹謗中傷も急増しているし、生き苦しさを感じている人が多いのは嫌でも実感していた。

その事実が無関係な私の胸を痛める。

誰もが幸せに暮らせる世界ではないのだから。

もちろん、私の子供っぽい理想論だけど。


「大丈夫だよ、えでかちゃん。君たちが大人になるころにはもっと優しい世界になってるはずだよ」


俯いているとお兄さんがなぐさめるように頭をなでてくれた。


「ほんとですか?」

「うん、約束するよ。僕らがお仕事頑張れるのは、えでかちゃんたちの未来のためなんだから」

「…そうですね。だからお前ももっと勉強頑張ってくれよ?」


りく先生も私を元気づけるように「夏休みは補講増やそうかな~」なんて冗談を言う。

…本当に冗談だよね??


「もちろん大雅もだからね?お前は苦手分野と得意分野の差が大きいんだから~」

「うっ…わかってるよ…」


私は小学生のころのふうちゃんを思い出してくすっと笑った。

だって昔から変わってないから。

同じ理科でも興味がある分野と興味がない分野では授業態度が全然違ってて、好きなものがわかりやすかった。


「…えでか、なに思い出してるの?」

「ふふ。3年生の時の授業でモンシロチョウの観察があったじゃない?あの時のふうちゃん、楽しそうだったなって思い出してたの。学年で優秀賞もらってたよね?」

「…あれは…えでかが虫苦手だから…頑張ったらかっこいいかなって思ったの」


赤くなった顔を右腕で隠すふうちゃん。

そんなふうちゃんを大人の2人はからかうチャンスと、ここぞとばかりに攻め始める。


「あらら~大雅、顔真っ赤じゃな~い」

「ずいぶんと理由が子供っぽいんですね~」

「!!しょ、しょうがないでしょ!!子供だったんだから!!」


私の笑い声がエレベーター内に響き渡り、笑い収まるころ、展望フロアにエレベーターが到着した。

でも前に立っていたお兄さんとりく先生がは降りる気配がない。


「大雅、えでかちゃん、はいこれ」

「ん?なぁに兄ちゃん?」

「ランチまで二人には自由時間をあげるから、せっかくの時間を楽しんでおいで」

「「!!!!」」


お兄さんはふうちゃんに小さなお財布を手渡した。


「い、いいんですか!?結界のメンテナンスは…??」

「いつも大雅と整備と見張り交代でやってるからね、大雅がいなくても大丈夫だよ。今日はりくもいるからね、短い自由時間だけどいっておいで?」

「ありがとう兄ちゃん!」


うれしくてつい、小さくジャンプした私。

なにがうれしいって、ふうちゃんと一緒に過ごせることももちろんだけど、お兄さんとりく先生の心遣いがより一層うれしい。


「お兄さん!りく先生!ありがとうございます!!」

「いこう、えでか!」

「うん!」


りく先生が「いってらっしゃい」とエレベーターのドアを開けてくれた。

ふうちゃんと一緒にエレベーターをおりると、私の知ってる観光客でにぎわっているスターツリーだった。

振り返るとお兄さんが「ランチはみんなで食べようね~」と手をふりながらさらに上にのぼっていった。


「えでか、なにしたい?」


ふうちゃんと一緒ならしたいこと、いっぱいある。

ここスターツリーでもみたいものがいっぱいある。

でもまずは…


「スターツリーカフェでケーキ食べたい!!」


と、私のお腹が喋ったのを、ふうちゃんは「ランチ前にケーキね!」と笑いながらカフェまで案内してくれた。




続く

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