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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
はじまり
5/151

ー5ー

あれからというもの…波多野に会うたびに「赤でこ」「でこ赤」とからかわれるようになった。

修学旅行のグループ打ち合わせ中はもちろん、廊下ですれ違う時も、合同授業で重なる時も、倶楽部中でも…。

波多野と鉢合わせるときは絶対に。

それは二人きりの時のみならず、他のクラスメイトがいるような人前でも。




「おい、赤でこ。でこ出せ」

「やだよ!」

「うるさい。いいから出せ」


修学旅行2日目に東都高等学校との合同練習があるのだが、その話し合いだというのにも関わらず波多野は私に詰め寄ってくる。


「近い近い近い!!あっちいって!!」

私は至近距離まで詰め寄ってくる波多野を押し返すが、あっさりと力負けしてしまう。


もう慣れた風景になってしまったのか、隣にいるりさちんもゆうた君も誰も止めようとしない。

むしろ「昔から仲良いからしょうがないよね」ってありえない事実が作られる始末。



「はやくでこ出せよ」

「おでこならもう出てるの!前髪みてわからない!?」


そう、私の前髪は頬まで長くセンターで分かているので出せと言われても、もうすでに出ているのだから出しようがないのだ。



「目つぶれ」

「はいぃ?」

「目つぶれって言ってんの」

「…なんで?」

「いいから」


真顔なのかわからない表情で怪しみながらも、言われた通りで目をつぶる。


(…なに?変な写真でも撮る気…?それとも)

と、様々な嫌な想像が頭の中を一瞬でよぎる。


やっぱり怖いから目あけようと思った瞬間、バチチッ!と額に強い静電気が落ちた。

「いっっっっった!!!!!!……くない!?!?!?けど!?!?」


衝撃で額をおさえながら目を開けると、ゲラゲラとお腹を抱え、私に指をさしながら笑いころげる波多野がうつった。


「音だけで痛くはしてねーよ。あははははは!!!!!」

「痛くはなくても痛いよ!!!!」


教室中に音が鳴り響いたようで、全員が手をとめ、私たちに注目していた。



「…びっくりしたぁ。楓ちゃん、おでこどうしたの?」

「雷うたれたぁぁ!」

波多野は雷系の異能をもっているため、非常に攻撃的な戦闘が得意で、独特な技を開発したりすることもできるのだが、まさかこんな教室のど真ん中で、自分が攻撃されるとは思ってなかった。

痛くしていない、と言ったように全く痛みはないのだが、自分の真上に雷でも落ちたかのようで本当にびっくりした。

まるでびっくり箱のような、ガムかと思ってもらったらドッキリだったような、ある意味だまされた気分。


「あの二人、またじゃれあってるよー」

「仲良かったんだねー」

と、クラスメイトは小学生の喧嘩を見ているような、当たり前の景色をみているようで

(私のこと嫌いなはずなのに、なんでこんなことするの?!)

っていう私の気持ちは周りについていけなかった。





~ お昼休み ~



「楓ちゃん、最近波多野によくいじられるようになったね…」

「あいつ…私のこと嫌いだから人前で恥かく私みて楽しんでるんだよ…」

「でも…ごめん、さっきのはちょっとおもしろかった」

「りさちん~~~~~!!!」


思い出し笑いをするりさちんとふざけあいながら、私はオムライス、りさちんは生姜焼き定食を学食で味味わっていた。



「でも楓ちゃんも本気で嫌がってるようには見えないよ?本当はどうなの?」

「うっ…」


正直なところ、本気で嫌なわけではない。

あんなに避けていたのに、1年生から3年生まで集まっているこの広い食堂で、食券を買うために長蛇の列にいる波多野をすぐに見つけることができてしまう。

波多野の中でどんな心境の変化があったのかわからないが、以前みたいに舌打ちをされたり悪口を言われる間柄よりは断然うれしい。



「前より仲良くなれてたらうれしいけど、それよりも戸惑ってるよ…」

「あれからね、ゆうた君に楓ちゃんの話するようになったんだって」

「え!!やっぱり裏で馬鹿にしてるの!?」

「ううん、あいつからかうとおもしろいって話してるみたいだよ。このまま仲良くなれるといいね?」


ついこの間まで、嫌いあってると思っていたわけだから、そんなにすぐ仲良くなれるか自信はない。

仲が良くなれると思っているのは私だけかもしれないし、波多野の気まぐれでからかわれているのかもしれないし。

いつまた悪口言われるかって不安もある。



「うん…せっかくなら仲良くなれるといいな」


舌打ちされたとき、悪口が聞こえたとき、胸が痛かったこと傷ついたことは変わらないけれど、卒業まで波多野から逃げ続けるより仲良くなれるチャンスがきたのなら仲良くなりたい。


「ふふ。まぁ楓ちゃんっていじるとおもしろいからねぇ~!」

「そんなことないよ!」

「知らなかったの~?」

「も~~~~!!」



最後の一口を食べ終わった時、あんなに行きたくなかった修学旅行が楽しみになって、いつもよりオムライスが美味しく感じた。




~ 異能戦闘俱楽部 練習中 ~



「楓~怪我しちゃった!」

「たかちゃん!大丈夫?!はい、ここ座って!」


先輩と模擬戦闘中、博貴はよそ見していて先輩の攻撃に気づかず逃げ遅れた後輩をかばったようで、左腕が真っ赤に腫れあがっていた。


「博貴先輩、すみませんでした!!!楓先輩~博貴治りますか!?!?!?僕なにしたらいいですか!?!?!?」

後輩は泣きながらバタバタと動きまわり、てんぱっているのがわかる。


「楓の治療術ならすぐ治るから心配しないで~!先に練習に戻っていいよぉ」

「で、でも…」

「終わったら一緒に寮帰ろ~」

「は、はい!楓先輩、よろしくお願いします!」


さっきまで椅子を倒す勢いで慌てていた後輩も落ち着きを取り戻し、練習場へと戻っていった。


「…ふぅ」

後輩の前だからか心配かけないように平気な顔をしていた博貴だが、とても平気ではいられないような怪我だった。

博貴のやせ我慢の冷や汗をぬぐいながら、私は急いで治療にとりかかった。


「あ、だいぶ痛みひいてきた~」

「よかった。まだ先輩の異能残ってるから大人しくしててね」


博貴は大木や大樹の異能をもっているため、草花系の私とは異能の相性が良い。


「鉱石系は苦手だよ~」

「うちらの天敵だもんね。あともう少しで取り除けるからね~」


ダイヤモンドのような鉱石系や異能を剣に変えて戦う異能タイプは、私たちのような木や草花を刈り取る相性のため、他の属性より受けるダメージが炎属性と同様に大きい。

また私たちだけでなく、戦闘において相手の異能力による攻撃があたると、腫れたり、破裂して流血したり、体内に侵入したりと異常がおきてしまう。

相手の異能属性をいち早く判断し、どこに、どのように、異常をおこしているか特定し、それに応じた治療を施すことが治療隊にいる私の役割だ。


「あと俺、治療術みたいに細かい術もにがて~」

「たかちゃんは戦うの好きだもんね」

「うん~楓はどうやって治療してんの~?」


私の異能力は草花を元気にする力。

戦闘向けでも、治療に特化した異能でもない。


「ひたすら勉強したんだよ~異能属性のこととか、身体のこととか。あとは相手の技とか術がどうやってるのかも研究してるよー。そしたら特定しやすいからね」

「うえぇ~俺には無理!」

「ふふふ!はい、終わったよー!」

「ありがとー!ぜんぜん痛くなぁい!俺の腕だ~~!」


やせ我慢していたさっきまでと打って変わり、いつもの人懐っこい博貴に戻ってきた。


「やせ我慢もほどほどにね」

「あ、気づいてた?後輩の前ではかっこよくいたいの!」


ぶんぶんと腕を振り回す博貴を見ながら笑っていると、治療室の扉が開いた。


「おい、赤でこ。俺も治せ」

「あれ~波多野、どしたの~?」


右手を怪我したのかタオルで隠した波多野がやってきた。


「じゃ、俺戻るね~波多野もまた寮でね~!楓ありがとね~!」

「おー」


博貴に手を振り返していると、波多野はいつの間にか目の前の椅子に座り込んでいた。


「え、治療するの私でいいの?」

波多野の雷属性の異能は、鉱石の先輩同様、草花の私とは相性が悪い。

なので博貴とは違い十分な治療効果をもたらすには時間と能力を多く必要とする。

もちろんどんな属性の人がきてもいいように訓練はしているが、相性の良い治療師にお願いするのが当たり前なので、私は思わず確認してしまった。



「お前に頼んでんだよ」

なおも椅子から動く気配のない波多野を見て、不思議に思いながらも治療にとりかかった。


波多野の怪我は博貴ほどではなく、手のひらに軽く火傷がみられた。


(これなら私でも大丈夫そう…)

もっと大きい怪我だったら波多野の相性に合わせた先輩治療師を慌てて呼びにいくところだった。


「………」

「………」


私は変に緊張して、手汗をかきはじめていた。

いつもは私をからかうために波多野のほうから近づいて来ていたので、治療のためとはいえ私から波多野に近づいて手に触れている状況を意識すればするほど心臓がうるさくなった。


(あんなに近づくのも嫌だったのに…!!!)

(嫌いだったやつの手に触れてるなんて…!!!)


「…お前なんで戦闘俱楽部はいったの」

「へ?」


沈黙に耐え切れなくなったのか波多野が口を開いてくれたおかげで少しほっとした。


「…私の異能ってお花を元気にするくらいしかできないけど、頑張ればみんなみたいに戦えるようになるかなって思ったの」


幼いころから憧れていた。

生まれ持った自分の力を活かしながら、命をかけて世界のために戦う攻撃隊を。

私もこんな風に誰かのために、世界のために生を全うして死にたいって。


「すぐに戦闘向きじゃないって気づいて治療の勉強はじめたんだー。戦えなくても誰かの役に立ちたいって思って」


話終わってから気づいたが、波多野に自分のことをこんなに話すとは思ってなかったので自分で自分にびっくりした。

黙って大人しく聞いている波多野の姿がなんだか気まずくて、ついおしゃべりになったのか、それとも波多野だから話してしまったのかわからない。


「あ!!はっはい!治療終わったよ!」

本当は少し前に治療は終わっていたのに、いつまでも手に触れていたことに気づき、恥ずかしくて慌てて波多野から離れた。


「おい、赤でこ」

「また赤でこ呼び…」

「俺が戦えるようにしてやるよ」

「…へ???????」


波多野の言っている意味がわからず、治療記録の日誌を思わず落とした。

波多野の方に転がっていく猫のぬいぐるみボールペンを波多野は完治した右手で拾い、鍵返したら練習場裏に顔貸せと言い残し治療室を出ていった。



まだ頭の中で整理ができていない私。

唯一わかることは

「あ!ボールペン!!!!!」

お気に入りのボールペンを波多野が持って行ったことだけ。



続く

お読みいただきありがとうございました。

後日、細かくところ訂正するかもしれません。

次回もよろしくお願いします!

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