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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
49/151

ー49-

りく先生が刀身を抜いてからは圧巻だった。

りく先生の足元に植物たちが集まり、大きな蛇のようにりく先生を鬼のもとへあっという間に運んでいく。

あまりの速さに鬼も一歩も動けず、攻撃すらできずにいる。


「す…すごい」


昨夜、私があんなに怖がった高さも一振りの威力を高めるために利用しているように見えるし、そもそもあの高さから、あのスピードで落ちてこられたらそれだけでも押しつぶされてしまう。

お兄さんが「草花での戦いにこの高さは非常に有効なんだよ」と言った理由がはっきりとわかった。


それにりく先生と、植物たちの信頼関係の強さもりく先生の強さに深く関係するだろう。

だって言わば手すりのないジェットコースターに立っているようなものだし、さらに刀を振るなんて、私ならあっという間に振り落とされてしまう。


りく先生のあまりの強さに呆然としていると、手出しができずにいた鬼の中から何匹か果敢に攻撃を仕掛けてきた。

近くにあった仲間の死骸に火を放ち、りく先生めがけて投げ飛ばした。


「あ!!」


思わず声をあげた私。

火だるまになった死骸はりく先生の足場になっていた頭にあたり、一気に燃え広がった。

灰となって崩れ落ちていく中、翻りながら後続に控えていた新たな足場に乗り換えた。

そしてりく先生が想像で具現化させた戦闘用の植物が後ろから鬼をとらえ、パクリと頭を食べてしまった。

毒性のある植物だったようで、鬼の身体はドロドロに溶けて消えていった。


あんなに怖がっていた鬼が、りく先生たった一人で…いや違う。

りく先生は一人じゃない。りく先生と植物たちで簡単に消されていく光景は、草花の可能性でとても満ち溢れていた。


りく先生と植物たちの戦いに夢中になっていると、すぐ近くまで鬼がせまっていた。

私が気づくよりもはやく、たくさんの蔓が伸び私を守るように盾となり、鬼の首を締めあげた。

苦しくて暴れる鬼に切られたり、傷ついた蔓は枯れるよりもはやく新しい蔓が芽をのばし、より鬼の首を締めあげた。

必死に抵抗していた鬼だったが、蔓の生命力には勝てなかったようで塵となって消えていった。


「ありがとう、みんな強いんだね」


私は私を守ってくれた蔓たちにふれ、お礼をいうとうれしそうにくねらせた。



するとりく先生と植物のあまりの強さに怖気づいた鬼たちはいっせいに撤退をしはじめ、闇の中に消えていった。


「なんだ、もう終わりかよ」


そう言って刀身を鞘に戻し、持ってきてくれた蔓にあずけ、戦闘用植物は地面の中に潜っていった。

りく先生は足場にしていた植物で私の近くに戻り、そのまましゃがみ込み煙草をとりだした。


「で、なにかつかめたか?」

「すごかったです…」


まだ驚きで胸がドキンドキンしているのが落ち着かず、言葉にできないでいるとりく先生は煙をふかしながら笑った。

でも先生のバニラの香をかいだら少し落ち着いたので、私の目を奪った刀について聞いてみた。


「先生は刀、弱点じゃないんですか?」

「弱点だよ、お前と同じなんだから」

「じゃぁどうして刀使えるんです??」


りく先生は煙草をくわえたまま私の質問に丁寧に答えてくれた。


「どの属性にも天敵属性、弱点はあるだろ?」

「はい、火属性は水属性が弱点で、水属性は土属性、土属性は私たちの木属性、木属性は金属性、木属性は火属性…ですよね」

「あぁ、いわゆる五行がもとになってるからな。大雅さんの雪は水属性の派生、波多野の雷は火属性って言われてる。必ずどの属性にも弱点はあるもんだ。でも弱点だからって使えないわけではないだろ?」

「え??」


私は面をくらった。

だって弱点属性だから、相性がよくない属性だからって理由でまず対策を考えることが普通だったから『使う』という発想がなかった。


「刀は金属性の武器だから、もちろん使いこなすには草花属性以上に訓練は必要だ。でも弱点が弱点じゃなくなるんだ、力強い味方が増えるぞ」

「そっか…弱点だからって避けてたけど、私次第で味方にできるんだ…」

「そういうことだ」

「でも先生、私刀なんて持ったことないし、剣術なんてやったことないですよ?」

「それならもう考えてあるから大丈夫だ。それに剣術も北都に帰ったらみっちり仕込んでやるさ」


俺は剣術には厳しいぞ?と楽し気に煙草をふかしている。

その顔は意地悪そうだけど、私のやる気を触発する顔だった。



「えでか~!終わったよー!」

「ふうちゃん!」


扉が開く音で振り返るとふうちゃんが本殿から戻ってきた。

その瞬間、本殿に入ったときとは逆に太陽の陽がゆっくりと差し込み、奥に広がっていた闇のほうまで光が届いた。

なので太陽に近い樹々の葉が、私たちに太陽のあたたかさを届けてくれるようだった。


「えでかちゃん、りくの戦い勉強になったかい?」


扉を静かに閉めながらお兄さんも本殿から戻ってきた。


「はい!勉強になることばっかりでした!」

「それならよかった。それじゃもう一か所向かいながら、りくにいろいろ聞いてみるといいよ」

「ありがとうございます!」


するとりく先生は加えていた煙草を携帯灰皿に入れ、足場から飛び降りた。

りく先生が降りるのに合わせ、足場になっていた植物が地面にずずず…と潜るように消えていった。


「そしたら車のってください。土曜日なんで混む前に向かいましょう」

「はーい!」


ポッケから車の鍵を取り出し、来た道を戻るりく先生。

お兄さんもりく先生に続いて歩き出し「僕にも一本ちょうだいよ」と言って断られていた。


「えでか、行こう!」


約束通り、すぐに戻ってきてくれたふうちゃん。

今日は少しでも長く一緒にいたいから、差し出された手をすぐにとった。

清々しさしかないこの参道を、ふうちゃんと一緒に歩けるだけで寿命がのびた気持ちになった。




「それで、りくの戦いはどうだった?えでかちゃん」


くねくねした山道をくだっていて、普通なら身体も左右にゆれて車酔いしそうなのに、りく先生の運転はぐっすり眠れそうなほどスムーズだ。


「昨日お兄さんが言ってたことがすごくわかりました…!私も高いところ克服しなくちゃって思いましたけど…想像した植物を具現化したり、操作したり…どうやってるんだろうって思いました…」


私の知識にはないものばかりだったので、そもそも私にもできるものなのか?って疑問すらわいてくる。

そんな私を見かねて、お兄さんはりく先生に「教えてあげなよ、先生」と茶化すように促した。


「…俺たち草花にとって想像力は栄養なんだ」

「栄養?」

「花を育てるには太陽の光、水、土、それぞれ適した環境が必要だろ?その適した環境の中でどうやって咲こうか、どんな花を咲かそうか花は想像する。環境が良ければいいほど良い花を咲かすだろう」

「…それと同じ…ってことですか?」

「あぁ。お前はいま最高の環境の中にいる。こんな花を咲かせたい、こんな風に動きたいって想像力を働かせることができれば、お前のために生命力は力をくれる」


私は昨夜のことを思い出してふうちゃんを振り返った。

『草花属性は見たもの、触れたもの、影響を強くうけたものが操作しやすいって言われてるんだ』

だから私がいまいる環境が大事ななんだと理解できた。

だってもし毎日辛くて悲しくて、不安で絶望していたら、どんな風に咲こうかなんて想像できないだろうから。


「りくはもともと意思疎通できる力があるからこういう形になったけれど、必ずしも全て真似しなくていいんだよ。えでかちゃんはえでかちゃんのやり方で、えでかちゃんの想像するお花と信頼関係を築いていけばいいからね」

「…花のほうから力を貸してくれることもある。だからいろんな花をみて、いろんな花と触れ合うといい」

「私のやり方で…いろんなお花と…」


お腹の奥がふるえる。

胸の奥があつくなる。

視界が晴れていくようで、目に光が集まってくる。

決まったやり方じゃないこと、型に収まらなくていいこと、私らしくていいんだってことに、私の生命力が喜んでいるのがわかる。

自分の生命力を実感してから、なんだか私が本当に求めていることや、嬉しいこと、幸せなこと、不安なこと、さみしいことが素直にあふれるようになった。

どれだけ感情にふたをしてきたんだろうなって思うくらいに。


「…はい!!私、頑張ります!!」


私らしいやり方でみ見つけよう。

いろんなお花と出会って、いろんなお花とお花と仲良くなろう。

そして私の好きを守れるくらい、強くなろう。

ふうちゃんとの未来のためにー。



《ふうちゃん》

《なぁに、えでか?》

《大好きだよ》

《俺も大好きだよ、えでか》


これからも「好き」と感じた時にすぐに伝えたい。


「ん??大雅~顔赤いぞ~」

「…兄ちゃん、うるさい」

「立華はニコニコしすぎててこわい」

「先生、うるさいです♪」


愛おしい人の愛おしい顔が見られるから。



続く

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