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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
48/152

ー48-

「さ、えでかちゃん。着いたよ」

「ここは…?」


りく先生が運転する車はどんどん山奥に進んでいき、やがて無人駅のあるところまで進んできた。

北都と変わらない風景をながめること1時間半。

2、3台しか止められない駐車場でおりると空が見えなくなるほどの、立派なたくさんの樹が私たちを圧倒していた。


「えでか、こっちだよ」


樹を仰ぎみて、ちっぽけになっているとふうちゃんが手をつないでくれた。

そして砂利道を道なりに進んでいくと、緑の中に白と金色が美しく映える、小さいながらも堂々たる神社があらわれた。


「神社・・・?」

「そう。ここはね、東都の結界のひとつ白尾山神社。西を守ってる場所なんだよ。いいところでしょ?」


お兄さんの言葉通り、ここには自然しかないと思うくらい人の気配が全くなく、土の匂いと木の匂い、青々しい葉の匂いで清々しい場所だった。

だいぶ山の上なのか、初夏にしては肌寒いくらいで太陽の日差しがさえぎられているようだ。

それが少し、私をおびえさせる。


「でも…ちょっと怖いです」


まだ近くの範囲ならば自然豊かな素敵な場所なのに、その奥に目を凝らそうとすると真っ暗闇が広がっていて、3人から離れたらこの森から一歩も出られなくなりそうな気持になる。

思わずつないでいるふうちゃんの手を、離さないように強く握りしめる。

すると優しく握りかえしてくれて、私の恐怖も和らいだ。


するとふうちゃんは私の目をつないでないほうの手で覆い、目隠しをした。


「わ!ふ、ふうちゃん!?」

「えでか、あんまりあっちのほう見ちゃだめだよ」

「え、ど、どうして??」

「えでかの直感が正しいから」

「え…」


ゆっくりと目隠ししていた手を離すと、さっきまで気になっていた奥の暗闇が気にならなくなり、ふうちゃんの顔から目が離せなくなっていた。


「この辺り一帯はね、この封印を解こうとする鬼と蟲が集まってきてるんだ。メンテナンス中は結界が無防備になりやすいから、そのすきを狙ってくるんだよ。だから僕らから離れないでね、えでかちゃん」


『鬼』ときいて心臓がひゅっとした。

練習山で出会った鬼を思い出し、捕まえられた腕が冷たくなる。

でもそれも一瞬で、ふうちゃんしか見えないおかげで鬼神を倒すのに、こんなところで怯んでちゃいけないと心が強くなった。


「でも安心するといい。この辺の鬼はお前が出会ったやつより格下だ」

「うん、鬼になれた気でいるような蟲ばかりだからね。それにおかしな気配もないしいつも通りだよ」


お兄さんとりく先生も怖気づいてる私を、お兄さんとりく先生らしく安心させてくれる。


「じゃぁ僕と大雅は本殿に入るね」

「え!!」


と、安心したのもつかの間、ふうちゃんもお兄さんも離れてしまうことで動揺してしまった。

これからふうちゃんとお兄さんは神社の本殿にある結界がきちんと作動してるか、攻撃されていないか、力が弱まっていないか、などの確認に入ると教えてくれた。

そして本殿には結界を保有し、作った二人しか入ることができないので、私とりく先生はここでお留守番なんだと。


「ふふ。えでかちゃん、かわいいなぁ」


怖がったかと思えば安心して、安心と思えば同様する私を見て、お兄さんは笑って私を和ませてくれた。


「大丈夫だよ、えでか。すぐに終わって戻ってくるから」

「…ほんと?」


ふうちゃんを見つめていると、強くもった心もほだされて、つい甘えた言葉がこぼれてしまう。

でもきっと今までだったら「大丈夫だよ!」「怖くないよ!」って心配をかけないように見栄をはって自分の気持ちに蓋をしていたけれど、今は甘えることが心が気持ちよさを感じている。

自分に嘘をつかなくていい、という気持ちよさを。


「うん。それにりくさんがいるから安心してえでかのこと任せられるよ」

「りくの強さみたらびっくりしちゃうよ~えでかちゃん♪」

「…まぁそれが仕事なんで」


少し照れ臭そうに顔をそむけるりく先生。

それがおかしくて、ちょっとの間のさみしさが吹き飛んだ。


「楽しみにしてますね、先生♪」

「~~!!お前なぁ…」

「あはは!じゃぁ、いってくるから頼んだよ」

「えでか、またあとでね!」


笑いながら本殿に入っていくふうちゃんとお兄さんを手をふりながら見送ると、扉がしまったとたん、視界にうつる本殿と周りの空気が揺れたように見えた。


「!!」


するとここだけ太陽の陽が降り注いでいたのに、一気に真っ暗になってしまった。

空を見上げると樹の葉すら見えないほど闇が落ちてきていた。

まだこの暗闇に目がなれずにいると、バニラのような甘い香りがふっと鼻がとらえた。

匂いをたどると、バニラの奥にスモーキーさが待っていて、りく先生が煙草に火をつけた。


「…この辺りはな、レベルは低い三下以下の鬼と蟲どもばっかりで、大したことなんだが」

「は、はい…」

「数が多くてめんどくせぇんだよなぁ…」


と、だるそうになにかを挑発するように煙をふかすりく先生。

その瞬間、ふうちゃんに見ちゃだめと言われた奥に広がる闇が蜃気楼のようにゆらゆら揺れはじめた。


「とりあえずお前は見学な」

「わっ!ととっ…!!」


りく先生が煙をふいたのと同時に、細いのにちぎれそうにない蔓たちが私を本殿前の階段に引っ張っり、階段に座らせた。

やっと暗闇に目がなれてくると、りく先生のまわりが非現実的な世界が広がっていた。


「せ、先生…?」

「ん?」

「昨日みたのと違う気がするんですけど…」


昨日と特訓でみたりく先生のジャングルは全ての植物たちが生き生きとしていて、この辺りの樹々よりも太い幹をもった子たちばかりだった。

でも雰囲気が全く異なり、むしろ触れてはいけないような色で、どうやったらそんな色になるのかわからないくらいで。

見た目もすごくとげとげしくて、異臭を放つ植物もあるようで、私は鼻をおさえた。


「…俺の異能はな、すべての植物と意思疎通する力なんだ」


意思疎通ー。そう言われてすごく腑に落ちた。

りく先生が操る植物たちは、まるでりく先生に操られていることが嬉しそうで、りく先生のために咲いては枯れているように感じていたから。


「それはな、どんな植物でも可能で」


りく先生の言葉と挑発に刺激された闇の中から、鬼になれきれていない蟲たちがうぞうぞと荒い息を吐きながら近づいてくる。


「この世界にある植物はもちろん、空想上の植物もな」

「空想上?」

「あぁ。俺が想像したもは具現化される。どんな草花でも」

「じゃぁこれらも…?」

「…こいつらは戦闘用にイメージして創造した植物たちだ」


同じ草花属性でも、私とは違いすぎると思っていると、りく先生にむかって一斉に蟲が襲いかかった。

りく先生はその場から一歩も動かず、おどろおどろしい植物たちがいとも簡単にすべてなぎ倒していく。


「草花の核は生命力だって話をしたが、同じ草花属性でも特性は違う。同じ人間でも俺とお前の性格が違うように、どういう力になるかは変わってくる。お前はこれから自分の生命力を、どう自分の異能として形にするか考えていくといい」

「お花を元気にすることだけが形じゃないってことですか?」

「あぁ。…昔、まだ異能を使いこなせていなかったころ、ある人に言われたんだ。世界をぎゃふんと言わせてやろうぜって」

「ぎゃふん?」


りく先生は相変わらず煙草の煙を楽しんでいる。


「草花にとって都合の悪い世界に洗脳した狸どもをぎゃふんと言わせることが、俺の生命力なんだよ。そのために意思疎通の力を使って、こいつらは俺に利用されてるってわけ」


かわいそうだろ?と自虐気味に笑いながらこちらを振り返ったけれど、私にはりく先生に操られているようには見えなくて、むしろりく先生のために戦えることがうれしそうに見えた。


「だからお前の生命力、負けくない、好きなやつらを守りたいって気持ちのために異能を使え。俺は身の守り方は教えてやるから、使い方教えてやれない。こればっかりは自分で見つけるもんだからな」


お花を元気にすることが、生命力につながるのならそれでもいい。

でもそれだけではない、もっと生命力につながること、生命力のために利用できる形があると教えてくれた。


「…見つかりますかね…」

「すぐには見つからんさ。一生かけても見つからないやつもいるし、生き方で変わるやつもいる。でもそこであきらめるんじゃなくて、探し続けることが大事なんだよ」

「探しつづけること…」

「ま、お前なら見つかるさ。だってお前諦めないこと得意だろ?」


そう言ってりく先生は本殿のほうに目線をチラッとうつした。


「…そっか。私、ふうちゃんのこと死んじゃったと思ってたけど…好きを諦めたわけじゃなかったんだ…」

「そういうこった」


もしあの時、ふうちゃんが死んじゃったと思ったとき。

ふうちゃんへの気持ちまで諦めていたら術の効果でふうちゃんは本当に死んでいた。

でも今もふうちゃんは生きている。

ということは、私の好きは、ずっと続いてたんだ。

ずっとあきらめずに。諦められなかったのかもしれないけれど、もう二度と会えないと思っていても好きでい続けてたんだ。


「うん…見つかる気がしてきました。私の形!」

「あぁ、見つかるさ」


私の生命力が「見つけたい!」と楽しそうに歌っているような気がした。

きっと表情にもあらわれていたのだろう、りく先生もうれしそうに頷いた。


「…ふー、さてと、第二ラウンド開始だな」

「え??」


ジャケットの胸ポケットから携帯灰皿を取り出し、吸殻を捨てたりく先生。

周りを見渡すと、さっきまで襲ってきていた蟲は一匹も残っておらず、代わりに人の形になりきれていない鬼のようなものが集まってきていた。

はじめてみるこの鬼のようなものは、半分は人の形だけど半分は腕が多かったり、足が蟲のままだったり、人の形が保てず靄が不安定だったりと、一目で人間ではないことがわかる。


「~~!!ーーー!!!!」

「ー!!ー!!!ーー!!!」


うなるような声があちこちから聞こえてくる。

鬼になれたと思い込んでいるので、きっと人の言葉を話して私たちを挑発やら攻撃しようとしているんだろうが、何を話しているのか聞き取れないので気持ち悪さだけが耳に入ってくる。


「そうだ、あいつらの声は聞かなくていい」


耐えられず耳をふさいだ私。

最初は頑張って耐えようとしたけれど、身体が反射的に動いてしまった。


「…さて、課外授業の続きだ。草花属性の天敵は何属性だ?」


耳をふさいでいても不思議とりく先生の声が耳元できこえる。

手元をよくみると、私をここに座らせたりく先生の蔓が手元に絡みついて、蔓越しに声が伝わっていた。


「えっと…鉱石属性です…」

「正解だ。でも使い方仕方次第で俺たちの味方になる」


りく先生の足元から1本の蔓が伸び、りく先生にあるものを手渡した。

それは私にとっても天敵で、私の一番の弱点。


「…刀?」


りく先生が鞘から刀を抜くと、手渡した蔓が鞘を受け取った。

闇に覆われて太陽の日差しなんて届いていないのに、りく先生の刀身が美しく光った。


「身を守るためには諸刃の剣を持て。弱点すら覆いつくすんだ」


私はりく先生の植物だらけの中、小さな一振りの刀に息をのんだ。



続く

このあたりの設定を思うように説明できなくて難しい。

直したい気持ちでいっぱいだけど、そうすると全部書き直したくなるので先に進めます。

引き続き頑張ります。

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